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【社説】

ふるさと納税 税の原点考える機会に

 ふるさと納税の新制度が六月から始まる。応援したい自治体を寄付で支えるという当初の趣旨を逸脱して返礼品競争は過熱し、都市部では税収減も深刻になった。税の原点を考える機会にもしたい。

 果物や牛肉、伊勢エビ…。インターネット上のふるさと納税のサイトには地方の特産品が並ぶ。制度を利用して地方自治体に寄付をすれば、それらの返礼品が受け取れるとともに、一定の枠内で所得税や住民税が軽減される。

 寄付額は年々増加。より多くの寄付金を獲得するため、ギフト券など現金に近い特典を用意する自治体も現れた。

 新制度では返礼品は寄付額の三割以下の地場産品などに限られる。税優遇を受けられるのも総務省が指定した自治体への寄付だけになった。過度な返礼品を贈っていたとされた四自治体は外れた。その一つ、大阪府泉佐野市は納得できないとして、除外の理由や根拠を示すよう国に求めている。東京都は参加しない。

 ひずみが大きくなったのは、二〇一五年度に税が軽減される寄付の上限を二倍に引き上げてからだ。統一地方選をにらみ地方重視を打ち出す政権の意向があった。制度設計の責任は国にあり、自治体に一方的に罰を科すような形での再出発には疑問が残る。寄付できる上限が大きい富裕層は享受できる特典も多いという、格差が生じる問題点もそのままだ。

 制度による明暗が、都市と地方の対立構図になりかねないことも気掛かりだ。住民が他の自治体に寄付をして税の還付を受けることで住んでいる自治体の収入は減る。都市部では減収分が自らに寄せられる寄付額を大幅に上回る。東京都世田谷区は本年度、過去最大の五十三億円の減を見込む。

 ふるさと納税によって、自分の意思で希望する自治体の行政に参加できるようになった意義は大きい。東日本大震災や熊本地震では返礼品目的ではない寄付が被災地を大いに元気づけた。

 一方で、自分が住む自治体の行政サービスは自らが払う税によって支えられているという原点についてもあらためて考えたい。自治体も税の使途について住民と意識を共有する努力が求められる。

 地方の財政事情の厳しさは切実だ。支えていくにはどういう方法が望ましいのか議論を深める必要がある。税や寄付という形で自治体の財政基盤を支える私たちも、その役割を担っている。

 

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