
Vol.02
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酒は人を饒舌(じょうぜつ)にする。それが、旨(うま)いウイスキーであるならなおのこと。
重なり合う言葉と言葉の間に、黄金の雫(しずく)と透明な氷が、カラカラと合の手を入れる。
今宵(こよい)、語るのは狂言界の革命児である。
Interview
現代劇の仕事で気づく
狂言の意外な常識
山本そもそも、狂言って何か。対談の第1回目で、それがなんとなくわかってきました。古いけど、新しい。それが狂言の魅力ですね。
大藏何百年も変わっていない話の内容なのに、いま見ても楽しめる。初めて狂言を見た人のなかには、「コントのようだ」と思う人もいるという話をしましたね。
山本大藏さんは、現代劇の舞台や映画など、さまざまな新しいことにもどんどんチャレンジされていますよね?
大藏あくまでも軸は狂言にありますが、舞台や映画にも出演しています。そこで僕を見てくださった方が、「この人は何をやっている人なんだろう?」と思って、狂言を見るきっかけに結びついたらいいなというのが理由です。
山本大藏さんへの興味が、狂言への興味につながると。
大藏ほかのジャンルのお仕事をすると、狂言のすごいところに気づくこともあります。
山本例えばどういったところ?
大藏狂言方は、楽屋に入ると、みんな紋付を着ているんですよ。
山本家を背負って来ているということでしょうか。
大藏楽屋入りするときはスーツでも、楽屋入りしたら紋付に着替えています。それが、いいなと思ったひとつです。
山本それはある意味、楽屋の中で既に舞台はスタートしているってことですね。
大藏そうです。いつなんどき、何が起きるかわからないと学んできました。舞台袖に控えていて、誰かが倒れるかもしれない。そうしたときにぱっと替わって演じられるように準備しなきゃいけない、とか。だからみんな楽屋で紋付をきて、舞台に耳を傾ける。
映画の共演で聞いた、
予想外な息子のセリフ
山本狂言とは異なるジャンルのお仕事として、この春公開された映画「よあけの焚き火」で、息子の康誠(やすなり)くんと共演しましたね。
大藏蓼科(たてしな)の山奥の雪に囲まれた稽古場で息子に狂言を教えるという、ドキュメンタリーとフィクションを行き来するような作品でした。撮影している最中は、「あれ、自分はこんな感じだっけ?」と感じながら芝居をしていました。
山本普段、康誠くんに稽古をつけるときにも、映画のなかのように厳しいんですか?
大藏はい。僕、不器用なので曲げられない。
山本稽古をしていて、何かを乗り越えたときに、逆に厳しくなるのでしょうか。
大藏厳しくなるのは、根本的なところです。こちらが演じているのを見てないとか、人の話を聞いていないとか、そこは厳しく言いますね。芸は、見て盗むものだと思うので。
山本映画のなかで、稽古場にある炉端で康誠くんとみそ汁を飲んでいて、やり取りが狂言のセリフのようになっていく場面がありましたね。
大藏あれは、ちょっと誇張されてはいます。ただ、普段から何につけても狂言をしているのは間違いないです。たとえば息子と遊んでいる最中でも、楽屋でも狂言の言葉で遊びはじめたりする。染みついているんですよね。
山本もうひとつ、とても印象的な場面があって。息子の康誠さんが蓼科で知り合った少女に、「狂言って楽しいよ」と言う場面。あれは、アドリブだったんですってね?
大藏そう、僕もびっくりしましたね。どうしましょう。ハグしてやりますか(笑)。息子も生意気になってきましたけど、ちょっと芽生えているところはありますよ。
山本父親として息子の康誠くんを見ると、演じることの面白さに気づいてきていると。
大藏人前に立つことに快感を覚えきている。ただ、こいつ調子に乗るなよと、釘の刺し方をどうしたらいいかといった段階になってきています。僕たちがこうやってお仕事させてもらっているのは、ご先祖さまのおかげなので。自分たちもそう思われるご先祖さまになろうな、という話はしていますね。
山本へぇ、息子さんと?
大藏そうです。墓参りをするときにも言いますよ。
山本お父さまから基誠さん、基誠さんから康誠さん、そしてその先まで考えているんですね。
大藏僕は中間地点でしかない。狂言が生まれて700年近く。これから同じ700年、やっていけたらいいなと思っています。
山本それだけの歴史と背景があるわけですもんね。
大藏オールドパーも、そういう意味で歴史がある。いろいろな人が飲んできた思いがつながっている。飲みながら、たまに考えますね。昔の人はどんな思いで飲んでいたんだろう、とか。
After Interview取材を終えて
狂言とはなんぞや? そんな大きなお題を持ってインタビューに臨んだ私だったが、大藏基誠さんの優しい語り口にすっかり引き込まれた。基誠さんからさかのぼること、約700年。「流祖の玄恵法印は、戦の続く武士の時代に、人格の養成と人としての生きる道を説くために狂言を創始した」というのだ。言い換えれば、人生を楽しむための知恵。そこには、いまを生きるビジネスパーソンにも学べる、いや、楽しめる何かが詰まっている。
オールドパーを飲みながら、インタビューはどこまでも続いた。大藏基誠さんから感じられる余裕、話を進めていくときの楽しい間合い。それは、まるで狂言の舞台を見ているように感じられた。狂言界の革命児。彼が挑んでいる新しい取り組みは、本物だけが持っている懐の深さなのかもしれない。
王道だけど、ユーモアがある。古いけれど、新しさもある。思えば、オールドパーも同じだろう。150歳を越えるまで生きた、ウエストミンスター寺院に眠るというトーマス・パー爺(じい)さんの名を由来に持つお酒。いまもボトルのラベルには、パー爺さんの肖像画が描かれている。この酒を飲むたびに、それを見て、クスリと笑って楽しくなる。
大藏さんは、その時間が愛(いと)おしくて、毎夜オールドパーと向き合っている。
Profile
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Motonari Okura
1979年、東京生まれ。狂言方の2大流派のひとつ「大藏流」宗家25世大藏彌右衛門の次男。700年余続く伝統を重んじながら、狂言とパーティーを融合させた「KYOGEN LOUNGE」を企画するなど、柔軟な姿勢で普及活動を展開。さまざまなジャンルとのコラボレーションで、伝統文化の新境地を開拓している。親子初共演の映画「よあけの焚き火」も絶賛公開中。
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Teruhiro Yamamoto
1963年、岡山生まれ。「AERA STYLE MAGAZINE」のエグゼクティブエディター兼WEB編集長。「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などを手掛けたのち、2008年に編集長として「AERA STYLE MAGAZINE」(朝日新聞出版)を創刊。ビジネスパーソンのリアルな声に応えるコンテンツを作りつづけている。
時代を超えて愛され続ける
スコッチウイスキー、オールドパー
152歳9ヶ月の長寿を全うしたという伝説の人物トーマス・パー。彼の叡智になぞらえて名づけられたスコッチウイスキー「オールドパー」は、20世紀初頭の最先端技術と文化教養を象徴するブランドとして渡来。日本の近代化に邁進する偉人たちの社交の場から現代に至るまで100年以上、変わらぬ味わいと風格で愛され続けています。また、斜めに立つことができるユニークなボトルは、「決して倒れない」「右肩上がり」と、縁起が良いと親しまれています。
オールドパー 12年
調和のとれた柔らかな味わいが魅力。奥行きのある香りと長い余韻は、和食とも好相性。時代を超えて日本人に愛され続けている スコッチウイスキーです。ブラッドオレンジや金柑のすっきりした甘さと、ほのかな蜂蜜の香り。柔らかな舌触りの先に、暖かみのある余韻が続きます。ストレートやロックの他に、ウイスキー1:水2の水割りや、ウイスキー1:ソーダ2~3のハイボールスタイルがおすすめです。
オールドパー ウェブサイト