秘められた言の葉   作:澪加 江
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旅の演者はかく語りき内の魔導国の終わり3の続きとして書いていました。
ただどうやっても冗長になってしまうのですっぱりと切った部分です。ナザリックNPCの直接的な敗北描写があります。


失われた光・前

 

 

「ギルド”常緑の国”サブマスターのマルコ・フランシスだ。お目にかかれて嬉しいよ」

 

案内されたのは地下にある独房だった。驚くほどの強固な守りの内側に、その男は居た。しかしそれは中のものを守るというよりは中のものを閉じ込める為のもの。そのように感じられた。実際デミウルゴスには独房の中から芳しい血と苦痛の残滓が感じられる。

そんな仲間に与えるには相応しくない檻の中に居たのはこれといって特徴の薄い男だった。服装も装備も、何もかもがみすぼらしい。正直、デミウルゴスであっても単騎で勝てるだろう。

 

「ナザリック地下大墳墓第七階層守護者、デミウルゴスと申します」

 

強さだけが全てではない。自らが強いと傲れば足元を掬われるという事は、こちらに来てからの長い年月で心に刻んでいる。しかしそれでも、と考えてしまう。

 

「ああ、うちのギルドは一枚岩じゃないんだ。気づかずに身の振り方を間違ってしまってね。それで僕は最高権力者に睨まれたって訳さ」

 

微妙な空気を読んだのかマルコはそう言う。

そうですかとデミウルゴスは軽く流す。本題に早く入り、ナザリックへと早く帰りたい。勿論、任された仕事を全て完璧にやり終えてだ。

 

「単刀直入に言いましょう。ギルド武器を探しています。何処にありますか?」

「……ある条件さえ飲んで貰えれば全て教えるよ。知ってる限りの仲間の装備の情報も、ギルドが持ってるワールドアイテムの情報も、全部話す。ただ、あの子の無事を、命を、幸福を! 約束してくれ!」

 

突然荒げられた声。それに悪魔は微笑む。

人間の強い感情ほど愉快なものは無い。しかし、とデミウルゴスは表情を引き締めた。これは偉大なる主人に任された重要な任務。それをあまりにも楽しみ過ぎるのはいただけない。至高の御方に忠義を尽くすために自分たちはいるのだから。

 

「ええ、ええ、勿論。そんな事でしたらお安い御用ですよ。それで? あなたの想うその子とは?」

 

デミウルゴスは悪魔的にわらう。

普通だったら何処か違和感のある笑顔に疑問を持つところなのだが、マルコはその笑顔を見てとても安心した。ここに入れられてから日々摩耗していった精神。それでも彼は生きるしか無かった。

彼の、唯一の心残り。

死ぬわけにはいかない理由が驚く程簡単に無くなった。

 

「良かった。光って言います。ここのNPCで、そして、あ」

 

とても安心した表情でマルコは言葉を吐き出す。

しかし続く言葉にデミウルゴスの顔は凍りついた。

それは迷子になった少年が母の後ろ姿を見つけた時のように無垢なものだった。

 

「明美さんの! アインズ・ウール・ゴウンに居たやまいこさんの妹の! 子供なんだ! そうか、良かった。良かった……」

 

ああ安心したと、そう言って崩れ落ちるマルコにデミウルゴスは詰め寄る。この1000年で初めての、至高の御方につながる情報だ。それに食いついた所で一体誰が彼を咎められるだろうか。

 

「やまいこ様が!? いいえ、やまいこ様の妹であらせられる明美様がここにいらっしゃるのですか!?」

 

血の気が引いた顔。もしも本当にいるのならば僕達に作戦の変更を伝えなければいけないだろう。至高の存在の、その妹君を傷つけたとあっては叱責ではすむまい。

それに何よりも己を許す事は出来ないだろう。

 

「──いや、明美さんはこっちには来てないよ。残念ではないよね、幸いな事にね。あの人が今のこの風景を見たらとても悲しむだろうから、本当に来なくて良かったと思う」

 

遠い目をするマルコ。彼が語った言葉はデミウルゴスにひとまずの安心と、そして疑問を残す。その疑問はむくむくと膨らみ、彼の優秀な頭脳は一つの結論を導き出す。

 

「明美様の作られたNPCとは何処にいるのですか?」

「わからない。僕に対する弱みとしてギルドマスターが何処かへ連れて行ったんだ。最後に会ったのは3日前。多分まだ何処かにいるはずだ。彼女を探して連れてきてくれたら何でも話すよ。見た目は黒髪の幼いエルフの女の子だ。確かお姉さんの作ったNPCから見た目を貸してもらったって聞いたから、君だったら見分けがつくんじゃないかな?」

「やまいこ様の作られたNPC……女の子という事はユリ・アルファの事、でしょうか?」

「詳しくは知らないよ。酷い目にあってなければ良いけれど……」

「……」

 

デミウルゴスはその煌めく瞳で男を見つめる。

男が明美の作ったNPCに向ける眼差しがよく見るものだったからだ。

 

(アインズ様が私達ナザリックのNPCに向けるものと同じものを向けている。明美様のNPCは幸せものですね)

 

男を下等な生物と見ている事に変わりはない。弄んで絶望させて苦しませて。思いつく限りの悲惨な目にあわせたいという欲求も未だある。

しかし。

しかしこの眼差しは嫌いではない。

最初は助けると約束した者と血で血を洗う闘いをしてもらおうかと思っていたが、どうやら彼も、彼の言うNPCも、貴重な情報源でもあるようだ。

眼鏡を指で押し上げて思考する。

この地にいる悪魔の、その誰もが未だに彼の言ったようなNPCは見つけてはいない。そして、ギルド武器も見つけてはいない。

既にこの拠点はデミウルゴスの制圧下である。ここにいたプレイヤーも、NPCも、その全てを無力化している。にもかかわらず発見できていないのだ。

だとすると答えは一つだろう。

 

「<悪魔の諸相:豪魔の巨腕>」

 

デミウルゴスの腕が通常の倍以上に膨れ上がる。そして拳を握り、叩きつけるように牢の鉄格子を殴りつける。

 

「ふむ。見た目以上に頑丈ですね。<悪魔の諸相:鋭利な断爪>」

 

次に変化が起きたのはデミウルゴスの指の先、爪だった。瞬きする間に伸びたそれを巨大な腕の腕力にものを言わせて切りつける。

キィィンという澄んだ音が響く。鉄格子に傷はついていない。代わりにデミウルゴスの爪が半ばから折れていた。

 

「戦闘に特化して作られていないとはいえ、流石にこれは……いや、ウルベルト様に不満など欠片も無いのですがね」

 

不敬になりかねない発言を改めながらぶつぶつと呟く。視線は短くなった爪に固定されていた。一方マルコはデミウルゴスが何をやろうとしているのかを察して、できるだけ鉄格子から離れた所に移動した。間違って攻撃を受けても即死は無いだろうが、近寄りたいものでも無かった。

 

「ここの牢屋の堅牢さは並の100レベルプレイヤーじゃあ歯が立たない作りになっているからな。……僕を連れて行こうとしてるって事は光の居場所の目星がついたのかい?」

「勿論です。おそらくギルド武器と同じ空間にいるものと思われます。私達が立ち入る事は可能ですか?」

「それだったら僕がいれば簡単に入れるさ! 誰か他を呼んだ方が良いんじゃないかい? 君や僕じゃあとてもじゃないけれど壊せないよ」

 

デミウルゴスはマルコとの会話の途中もその巨大な腕で格子を殴り続ける。相当な衝撃を受けているにも関わらず、格子には罅どころか歪みすらない。

しかしデミウルゴスの表情には焦りは無かった。

唯の暇つぶしのように叩きつけられていた腕は急にその動きを止める。

静かになった空間に別の音が聞こえ始めた。

それは氷でできた鎧が擦れるような、涼やかに澄んだ音だった。

 

「呼ンダカ、デミウルゴス」

 

現れたのは身の丈3メートルに迫るかという巨大な虫だった。白銀の鎧は暗闇でキラキラと光り、その巨大な顎の間の、口と思われる所からは冷気が噴き出す。

現れたのはナザリック地下大墳墓の階層守護者の一人、コキュートスだった。

正に異形の者といった出で立ちの者にマルコは先程より一層身を縮める。外装からいってかなりのパワーファイターの様だ。きっとこの格子も破壊できるだろう。

 

「待っていたよ、コキュートス。仕事が終わったのにすまないね。私ではとても歯が立たなくてね」

「ウム。気ニスルナ、全テハ偉大ナル御方とナザリックノ為ダ。使イ魔カラ話ハ聞イテイル……カナリ頑丈ニデキテイルヨウダ。少シ下ガッテオイテクレ」

 

デミウルゴスを下がらせるとコキュートスはインベントリから取り出した巨大な太刀を振り上げる。それはコキュートスの持つ武器の中でも耐久力に大ダメージを与えれる毛並みの変わったものだ。創造主である武人建御雷が最後にコキュートスの元へ現れた時に下賜された武器の一つであり、性能を特化させた伝説級の業物であった。「世界級の防具には歯が立たなかったけどな」と、こぼしていた事をコキュートスは覚えている。

 

「<マカブル・スマイト・フロストバーン>!」

 

スキルの発動とともに一撃一撃に渾身の力を込めた連撃が繰り出される。

一撃で格子が歪み、二撃でその歪みがひどくなる。

正確に同じ所に繰り出される技に、十を数えずボキンという低い悲鳴をあげて檻は壊れた。更にコキュートスはダメ押しの一撃としてもう一撃叩き込む。

後に残ったのは人一人が楽に潜って外に出られるだろう穴。そしてフシュゥゥゥと大きく噴きでたコキュートスの白い息だった。

 

 

 

牢屋からマルコを出した後、デミウルゴスがまずやろうとしたのはパンドラズ・アクターとの連絡だった。

先程の定時連絡から時間は経っていないが大きく事態は動いた。中でもやまいこの妹、明美が残したNPCは大きくアインズの心を動かすだろう。そんな思いで起動した<伝言>はかかる気配すらもなく切れた。

マルコに聞くと、どうやらこの地下は敵味方の区別無く監視や<伝言>などの情報を得たりやりとりしたりする魔法が使えないようになっているらしい。仕方がないのでデミウルゴスは僕の一体に情報を届けて置くように指示をだした。

 

直接自分が報告してアインズ様に褒めてもらいたかった。

 

そんな少しの不機嫌さを出しながらデミウルゴスはマルコの後を行く。

 

「ここを抜ければ目的の場所だよ。”死の国”って言ってね、最高レベルのNPCを配置した最後の砦の筈だったんだ」

「だった、とは?」

「今のギルマスの事だからきっと“謁見”に連れて行ってるんじゃないかな? 今は拠点からNPC出れるでしょ? ギルマスだったらやりそうだなぁって思ってね」

「随分ト他人事ダナ」

「そうかな? ……ここを、この拠点を手に入れた時にギルドに居たのは今じゃあ僕だけだからかな。他のメンバーも来ていれば違ったのかもだけど。正直、最近の加入者なんて殆ど分からないんだよね。まだ拠点NPCの方が良く知ってるよ」

「……」

「ギルドをやめていったみんなにもそれぞれ生活あるから、まあ、仕方ないとは思うんだけどね。僕もサービス終了間近まであんまり来て無かったよ。君達のギルドマスターはどうなんだい? ……モモンガさん、だったよね?」

「今ではアインズ・ウール・ゴウンと名乗っておいでです。偉大なる主人は常に私どもの上に君臨されていました、それに、長くナザリックをあけられる事はありませんでした」

「そうか……。モモンガさんは良いギルドマスターなんだね」

 

静かな会話。

足音のみが響く空間は広い様で狭く、しかしコキュートスでも不自由無く動ける程度には広さがある。

マルコは徐に立ち止まる。それは今まで通り抜けてきた扉の中でも一際質素な扉であった。

 

「ここが僕らの宝物庫だよ。ギルド武器はこの奥にある」

「本当にここが宝物庫ですか?」

 

デミウルゴスはナザリックの宝物殿を思い浮かべる。アインズが作った唯一のNPCが守護するそこへは厳重に厳重を重ねた罠や仕掛けを解いて行かなければ辿り着けない。そもそもその空間へはギルドメンバーの証である指輪まで必要なのだ。

それと比較してなんとみすぼらしい事だろうか。

 

「あ、騙す気なんて全く無いからね。言っとくけど、よっぽどのギルド以外の宝物庫なんてこんなものだから。よっぽど信用できるギルマスじゃ無い限り自分の時間と労力をかけて手に入れたアイテムなんてギルドに預ける訳ないでしょ?」

 

そう言いながらマルコはゆっくりと開かれた扉の中には山積みの金貨。そして整理されたレアアイテムが軒を連ねていた。

 

「まあ精々が個人所有する迄もない下級のレアアイテムと、カンストして持ち歩けなくなった金貨位だよ」

 

そこでマルコは振り返ると、自分の後をついてきたデミウルゴスとコキュートスに真剣な表情で語りかける。

 

「ただ、ギルド武器は違う。この奥にあるギルド武器を置いている部屋にはギルドメンバー相手にすらも避けれない仕掛けがあるんだ。正直いって、今の僕じゃあ無理だね。仕掛け自体は色んなギルドの守りを参考にしてるらしいけど、正解のギルド武器を手に入れるのは気が遠くなると思うよ」

「……コキュートス、任せてもよろしいですか?」

「問題ナイ」

 

前衛であるコキュートスが緊張した面持ちでゆっくりと扉が開く。

眩いほどの光の中、最初に見えたのはその光についた黒い染みの様な存在だった。

 

その染みは動いていた。

どろりどろりとその黒いものを溢れさせていた。

溢れた黒い淀みは、壁や床に触れると途端に姿を変える。それは金。金色に輝く林檎だった。部屋一面に転がる林檎は全て同じ形の同じ色。異様な光景に流石のデミウルゴスも驚きに目を見開く。

 

「これは一体?」

「木を隠すなら森の中。ギルド武器を、まあ量産可能な品物に変えて偽物の中に隠してるんだよ。ここにギルド武器があるって知らなかったらただのへんな部屋だし、知ってたとしてもこれ全部持ち帰って鑑定するのは面倒だろう? 生産系の純ビルド組んで貰える魔法が無いと鑑定すらも出来ない。壊すだけだったら簡単だと思うけど」

「それが目的ではありませんから。……これは運ぶのがとても面倒ですね。僕を何体か呼びましょう。しかし、貴方の言うNPCは見当たりませんね。ここに居ると思っていたのですが」

「心当たりがここって安直すぎないか?」

「そうですか? 見張る場所は少ない方が戦力の減っている今は何かと都合がよろしいでしょう?」

「シカシ、コノ量ノ荷ヲ運ビ出ダスノハ面倒ダ」

「そうだねコキュートス。君の指揮していた第一陣は既に帰還済みだろうし、ここはこれの出番かな」

 

デミウルゴスが取り出したのは何体もの悪魔の彫刻が彫られた像。見るものに底知れぬ力を持っていると思わせるそれに、横で見ていたマルコが驚く。

 

「それって……!」

「貴方の想像通りの物とだけ言いましょう。さて悪魔たちよ。ここの物を全て運び出し──」

 

デミウルゴスの言葉は途中で途切れる。彼は訝しげに眉をひそめると鋭い声を上げる。

 

「コキュートス! 迎撃用意を!!」

 

その言葉とともに部屋を鋭い光が包む。

コキュートスは二人を守る様に光に立ちはだかり、デミウルゴスはコキュートスへ支援魔法をかけた。光が止んだ後、そこには林檎のひとかけらも残っていなかった。

 

「なっ」

 

驚愕の声を上げるマルコの体にいくつもの文字が浮かび上がる。もしユグドラシルプレイヤーが見たらすぐにそれがギルド武器を破壊されたギルドメンバーに課されるペナルティだと気づいただろう。

 

「寝返って敵につくなんてやっぱり裏切ってたのねサブマス!! 正直言って見損ないました!」

 

部屋の奥の方、林檎が湧き出ていた黒い穴の向こうから凛とした声とともに七人の男女が出てくる。その真ん中に守られる様にいる人物にマルコは声を上げる。

 

「光!」

「ししょーー!!」

 

盗賊らしい女に押さえつけられて居るのは場違いな程幼い女の子だった。まっすぐな黒髪から飛び出す長い耳が彼女が森妖精なのだと見て取れる。その顔を見たデミウルゴスからは納得の吐息が、事情を知らされていないコキュートスからは派手な冷気があがった。

 

「デミウルゴス、コレハ……?」

「やまいこ様の妹君である明美様のNPCだそうです」

「ソウカ。ソレハ……アインズ様二良イ手土産ガデキタナ」

 

取り敢えずはここから離れ、ナザリックへ戻る事が先決だとお互いに目配せし合うと敵対者へと向き直る。マルコ達の方も話に区切りがついたのか、ヒステリックな声が上がる。

 

「もう終わりね! ギルド武器も壊れちゃったし! ギルドを台無しにするなんてもう最低よ! この最低な模様も! 全部全部あんたのせい!!」

「アリス……それは本当に僕じゃな」

「アリス様。敵が戦闘準備に入っております。お戯れもほどほどに」

 

敵NPCが警告を発したのを皮切りに戦闘が始まる。既にかけていたバフに追加でいくつか。なし崩しでマルコからも支援が飛ぶ。人質になる前にと光の奪還にコキュートスが向かう。三本の手に武器を手にしたコキュートスは相手が驚愕するスピードで迫った。

 

迎撃に攻撃魔法がいくつもコキュートスに飛ぶ。しかしそのどれも彼を止めるには至っていない。まるでレベル差が開いているかのようにダメージが通っていないのだ。後衛の魔法を物ともせず、前衛を抜け、未だ信じられないという表情の盗賊から光を奪還する。急いで下がるコキュートスと入れ替わりでデミウルゴスの召喚した悪魔が追撃を阻止する。

敵が高レベルの悪魔に時間をくっている間にきた道を戻る。マルコが光と手を繋いで先導するなかで足止め用の悪魔を更に召喚しつつデミウルゴスとコキュートスは後に続く。外に出れば〈伝言〉が通じる様になるはずだ。そうすればナザリックに連絡ができる。シャルティアにつながれば〈異界門〉ですぐに迎えに来てくれるはずだ。

 

「コキュートス、外に出たら〈伝言〉をお願いしても良いかね? 人数差から言ってここで無理をするのは良くないと思います」

「ソウダナ準備ヲシテオコウ」

 

羊皮紙を手に持ったコキュートス。しかしその手に持った羊皮紙を素早く掠め取る影があった。一足先に追いついた盗賊がスキルでコキュートスの羊皮紙を盗んだのだ。仲間の元へ逃げる背中を袈裟斬りに切りつけると、悲鳴が上がる。

 

「追イツカレタ様ダナ」

「簡単には逃してはくれませんか……。マルコさん、よろしければ向こうの戦力を教えていただいても?」

「あ、ああ。えーと、前衛がらんすとオットーで──」

「……役割とスキル構成を中心にお願いします」

「あ、すみません。支援一人、特殊一人、中衛一人、後衛一人、前衛二人。前衛は完全な壁役大したダメージは出せないと思います。後衛が火力重視の魔力系魔術詠唱者。特殊がさっきの盗賊。支援の子がアリスで回復は盗賊のポーションとアリスの魔法だけのはずです」

「なるほど。魔術詠唱者さえ押さえれば後は簡単にいきそうですね」

「多分。でもひょっとしたらまだ伏兵がいるかも。人数で不利なうちは油断は禁物だと思いますよ」

「勿論です。外にも伏兵がいるようですからね。情報伝達用の使い魔が殺されました。それに外に配置していた配下も繋がりを感じません」

「挟ミ撃チトイウ事カ」

 

腹立たしげにコキュートスは冷気を吐き出す。

それに苦笑しながら、デミウルゴスは言葉を続ける。

 

「流石はプレイヤーと言った所ですね。チームでの連携で挑まれては私たちでは経験不足で足を引っ張ってしまっています。コキュートス」

「ナンダ」

「“指輪”を持った貴方がこの中で最も生還率が高いでしょう。いざとなったら彼女を連れて逃げてください」

 

異形の二人から一番遠い位置に居た光の目が揺れ、不安そうにマルコを見上げる。マルコは安心させる様に笑うと、光を抱きかかえる。これが最後の抱擁になるかもしれない。時間をかけて抱きしめて、ゆっくりとした口調で想いを伝えて、そしてコキュートスへと渡す。

 

「光を頼みます」

「し、ししょぉ」

 

悲痛な顔で情けない声を出す光に改めてマルコは笑顔を返す。

 

「明美さんのお姉さんがいるギルドの人だから大丈夫だよ。今戦っているのは勘違いが原因なんだ。光は先に向こうの、アインズ・ウール・ゴウンのモモンガさんに会ってお母さんとお姉さんの話をしてあげて。僕もきっと行くから」

 

小指と小指を絡めた約束を交わし、マルコは手を離す。

地上への出口はすぐそこに見えていた。

 

 


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