星獣殿 NOVELページ >その他の獣化作品 > 獣化作品 No.25

獣化作品 No.25

聖騎士の憂鬱 前編

作者 DarkStar

今日は、国を挙げての大イベント。

その主役である、青年を一目見ようと国中から、
人々が集まり今か今かとその時を待っている。

そんな人垣のなかを颯爽と白馬に乗って登場した一人の騎士。

そう今日は彼のために皆集まり、彼の勇姿に声援を送っている。

聖騎士・・・・。この国でもっとも名誉ある騎士に与えられる称号。

それを与えれる騎士は、国の誰もが認める英雄でなくてはならない。

この若者にはそれを与えられるだけの偉業を成し遂げての凱旋パレート。

手を振る彼の姿に国民が歓喜の声を上げる。

国中が揺れんばかりの歓声に包まれた祭典も、終わり

地方のものは、帰路につき、王都に住む者たちも、自分たちの家へ

帰っているそんな中・・・・。

「聖騎士様・・・かっこよかったな~。」

神に祈りをささげる時と同じように両手を組み、

虚空を見つめてため息をつくように少女はつぶやいた。

長い赤毛の髪を首の後ろ辺りで二つに分け、根元の所でおさげにした
まだ年幼い女の子。

髪と同じ色の瞳を宝石のように輝かせているはしゃいでいる
彼女の隣でまるでそれとは対照的に仏頂面で歩く幼馴染の男の子は、

「そ、・・・そんなにかっこいいかなぁ・・・・。」

といかにも気が弱そうな小さな声でそういったのを少女は聞き逃さなかった。

「す・・・少なくとも、ルシアンとは、比べ物にならないくらいかっこいいわよ!!」

眉をひそめ、少しだけ自分よりも背の低い彼を下から覗き込むようにした少女は、
機嫌を悪くしてそういった後、つーんと明後日の方向に顔を背けてしまった。

引き合いに出された少年は口ごもってしまう。
少年も数年して成長すれば、間違いなく美形となるであろう整った顔立ちをしているが、
今は、かっこよさよりも、かわいさの方が強調されている。

遠くからみたら、女の子に間違われる事も、しばしばでそれをネタに近所の悪がき
連中からいじめられ、そのたびに女の子である少女に助けてもらっているのだ。
そんな彼には、到底国の英雄になれるようにはとても見えない。

「あーあ、あたしも・・・・あんなすてきな騎士様と走れたら、どんなに幸せかな~。
 ま、女の子みたいあんたには絶対無理でしょうけどね・・・。」

少女は、少年の最も気にしている事をいってしまう。

「そ、そんな事絶対無いよ・・・セ・・・セリスみたいな・・・
 おとこ女と、誰が一緒になって・・・・・」

そういいかけて、少年は口を紡ぐも、それは後の祭りだった。

「ちょ、ちょっとそ、それどういう意味よ!!!」

怒り心頭の少女。それもそのはず、ルシアンをかばって、いじめっ子達から
浴びせられる罵声の中でも、セリスが最も嫌う言葉。

それをあろうことか、少年は自ら口を開いてそういってしまった。

「ル~シ~ア~ン!!!」

「ひゃぁ、ごめん!!!」

怒る少女と逃げる少年。

少女が追おうとすると、少年は両手を地面に着きながら、四つんばいで走る。

「ヒヒーーン!!!!」

少年の口から、馬の嘶きが聞こえた時には、かわいらしい男の子の姿は、

小さな仔馬になって少女から離れるように遠くへ向かって走っていく。

「ひ、卑怯者・・・・男なら、逃げないで戦いなさいよ!!!ブルル・・・・」

鼻息の荒い少女の鼻筋が伸びて、顔かたちが変化すると彼女も、

仔馬になって少年だった仔馬を追いかけていく。

この世界に住む人々は、人の姿に変わる獣・・・・獣人族と呼ばれる種族があり、
様々な獣がそれぞれの種族ごとに国を形成している。

なかでもこの国、サジタリアは馬の種族、人馬族の国である。

「ヒヒーーーン」
(まちなさーーーい、ルシアン!!!)

セリスの声が、ルシアンを呼ぶが、彼はひたすら逃げるばかり、

そんな彼らの追いかけっこは日が暮れるまで続いた・・・・。


それから十年後。

国の中央に位置する大聖堂で、神への祈りをささげる一人の青年。

片ひざを着き、この国の神である上半身が人間で下半身が馬である像に
目を閉じていた彼の瞳が開き、組まれていた両手が離され、

その場を去ろうとすると、

「あ、あの・・・・ルシアン様・・・・せ、聖騎士の叙勲、おめでとうございます。」

そういいながら、頭を下げる少女。

白い装束に身を包み、豊満な体を最低限だけ包むこの国の伝統的な衣装に身を包んだ
少女。

長い黄金色の髪と透き通るように白い肌。
瞳は大らかな性格を映し出すようにやさしげで、
その美しさをいっそう引き立てている。

年は確かルシアンと同じだったが、
大人びた雰囲気ともあいあって、彼よりも年上に見える。

「いえ、シルビア様・・・・大司祭様である貴女様にそういっていただけるなんて
 わたしも、光栄です。」

王族に連なる高貴な『馬』のであるシルビアの気品ある姿に
少し戸惑いながらも青年も同じように頭を下げる。

「そ、そんな、わたくしなんて、
 その国の英雄であらせられるルシアン様に比べたら・・・・」
 と少女は、熟れた果実のように顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。

「あ・・・あの・・・・ルシアン様・・・・わたくし・・・・その・・・・
 式典の・・その・・・あの・・・パートナーは・・・・。」

うつむいたシルビアが何とか声を絞り出しながら、
必死にルシアンに何かを伝えようとシクハクしている。

そんな様子とは対照的に、やさしい瞳で待ち続ける青年

と・・・・。

ゴーーーン!!!

時を知らせる大聖堂の鐘楼が鳴り響く。

間近でならされる鐘の音にルシアンは・・・。

「あ、しまったもう、こんな時間か!!、すみませんシルビア様。
 お話は、またあとで、」

と足早にその場を去っていってしまう。

「ああ、ルシアン様!!!」

そう彼に呼びかけるも、奥手な少女は、それ以上青年を呼び戻すようなこともできず、
そのまま、小さなため息をつく。

「あーあ、すっかり遅くなったな・・・・、怒っていないといいけど・・・・。」

そういっても、待ち合わせの時間にはまだ少し余裕がある。
とはいえ、相手を少しでも待たせるような事になれば、何を言われるか分からない。
今日相手は、そんな『馬』であるのだ、決して油断はできない。

「あら、英雄さんがそんなに急いでどこ行くの?」

いやな予感に、内心顔色を変えつつ、それを表に出さないように、
ルシアンが振り向いた先には、予想通り彼の苦手な『馬』が立っていた。

「なんだい・・・・エイミー・・・・・?俺・・・急いでいるんだけど」

美しい黒髪をストレートに伸ばし褐色の肌に抜群のスタイルを余すところなくさらした
ルシアンの副官エイミー

彼女は『サジタリアの神槍』と呼ばれる槍の使い手であり、

今回のルシアンの叙勲の理由となった、魔物討伐の立役者の一人だ。

「ホント・・・連れないわね・・・、英雄さん」

なんとなく、わざとらしい言い方に

「悪かったね・・。どうせ、俺だけ叙勲を受けて・・・ひがんでいるんじゃないか?」

ついついルシアンもそんな悪口を聞いてしまった。

とは言え、数多く送り込まれた討伐隊の中で彼の指揮する部隊だけが、
魔物討伐を成し遂げた事。

また、彼の優秀な判断力と、力量については、部隊の内部でも、
騎士団の上層部も異論を唱えるものは一人もいない。

無論、エイミーもだ。

そんなことはルシアンも重々わかっている。
しかし、どうも彼女は苦手だ。
自分の副官ながら、いつも自分のペースを乱される。

「あら、わたし、そんなに心の狭い女に見える?、
 それに、結局あの魔物に、止めを刺したのは貴方でしょ、
 自信を持ちなさいよ」

いたずらに成功した子供のような笑みを浮かべる、エイミー

普通では喧嘩とも取れるやり取りも二人の間では日常茶飯事。

才色兼備で誰にでも面倒見のいい女騎士がなぜか、
ルシアンにだけは、意地が悪いというか、おもちゃにしているようだ。

思わず、ため息をついてしまうルシアンに今までの事一切気にしていないように
エイミーが言葉を続けた。

「ところで・・・・。貴方、式典のパートナーはもう決まったの?」

「え・・・あ、・・・・いや・・・・・」

聖騎士の式典では、騎士は『馬』に乗ることが通例となっているのだが。
しかし、国の英雄の乗るそれが、ただの『馬』であるはずはない。

結婚した騎士であるならその妻。
未婚であれば、当然その花嫁ということになる。

そう、ルシアンには、「まだ」決まった相手がいるわけではない。

「気をつけなさいよ、貴方、自分が思っている以上にモテるんだから・・・・。
 厩舎が女の子達でいっぱいになるわよ。」

特定の相手がいないのであれば、国の英雄の花嫁になろうと、
城の厩舎に『牝馬』が殺到する事も珍しいことではない。

あきれたようにエイミーが言うと

「俺、女の子からモテた事なんて一度もないよ。」

ルシアンは滅相もないといった様子だ。

「ホント・・・もう鈍感ね・・・。」

どこか疲れたように遠い目をして、ため息をつくエイミー、
その頬はほんのりと赤みが差していることに
ルシアンは気がつかなかった。

エイミーと別れ、約束の地に向かうルシアン。

だいぶ、時間をとられてしまった。
そんな思いからか、彼の足の運びはいっそう速くなるばかり。

「た、たいちょうさん!!!!」

控えめながらも、本人は精一杯声を張り上げたのだろう
その声はなんとかルシアンの耳に入った。
聞き覚えのあるその声に振り向くと、

自分よりも、頭2つ分ほど背の低い少女が、
息を切らせながら走ってくる・・・・・。

銀色の髪を頭の上で両結びにした、まだ幼さが残る少女が、
ハァハァと深く息づきしながら、ルシアンを見上げる。

「よかった・・・たいちょうさん・・・、会えました。」

「り、リーナちゃん。どうしたの急に・・・・・・。」

少女は、よほど急いでいるのか、頬が真っ赤になっており、
両肩が大きく揺れている。
小柄な体系には似合わない、二つの膨らみが肩に合わせて
プルプルと震えている。

「あ、・・・・あの隊長さんに、その・・・・せ、聖騎士おめでとうございますって、
 お祝い言いたくて、ずっと探していたんです。」

「そうだったんだ。」

リーナは、まだ彼女が見習い魔法使いであった頃、
少しだけ、ルシアンの部隊に配属された事がきっかけで知り合うようになった。

まだ、右も左も分からない彼女にやさしく接してくれたルシアンを
リーナはまるで兄のように慕っていたのだ。

以来彼女はルシアンのことを「隊長さん」と呼んでいる。

それは、見習い期間終了後の転属でメキメキと才能を発揮し、
今では史上最年少の宮廷魔導師となるまでに成長した今でも決して変わることはない。

仕事柄、書庫に篭って調べ物をしたり、魔法研究のための実験に明け暮れる彼女と、

国中を飛び回って、魔物などの脅威から国を守るルシアンとは、
会う機会こそ、減ってしまったが、それでも王都に戻った時リーナは、必ずと言っていいほど
ルシアンの前に駆けつけ、顔を合わせるようにしている。

「いやあ、天才宮廷魔導師のリーナちゃんにそういわれると照れるよ。
 俺なんかよりもリーナちゃんの方がすごいよ。
 なんでも、難しい論文でまた、・・・・・・なんかすごいんだってね。」

さしものルシアンも、魔法に関しては疎い、リーナがなにやら、すごい事をしたそうなのだが、
なんど話を聞いても理解できなかった。

「ああ、別次元の位相軸をずらして、自分の居る次元とを繋げる論文ですね。
 あれは、そんなたいしたことじゃなくて・・・・・。」

なにやらルシアンには、意味不明な単語が並び、それほど賢くない彼の頭からは、
白い煙が出てきているようだ。

聡い少女はそれをいち早く悟ったのか。

「す、すみません。わたしったら、隊長さんにへんな話をしてしまって・・・。」

「そんなことないよ。リーナちゃんの元気そうな顔がみれてよかった。」

にっこりと笑うルシアンに、リーナは顔をこれ以上ないほど真っ赤にしてうつむいてしまう。

そんな姿もかわいいなとルシアンが思っていると、ふと頭を影が頭をよぎる。

「ご、ごめん、リーナちゃん。俺、約束あったんだ。じゃあ!!!」

「あ、隊長さん!!・・・・いっちゃった。」

ルシアンが居る間は終始、息を切らしていたリーナ。
いくら、インドア派とは言え、彼女も『馬』だ。
多少走ったくらいでは息など切れるわけがない。
この少女の小さな心臓を大きく揺らしながら、勇気を出してルシアンに話しかけたことなど、
当の本人にだけは、まったく伝わる事などなかった。


約束の場所にひた走るルシアン。
そんな彼の目線の先に女性らしいシルエットが長く伸びてくる。

ああしまったと心の中で思った時には、もう相手からの、第一声が始まっていたのだった。

「遅い!! いつまで待たせるつもりよ!!!!」

幼かったあの時から髪型も性格も変えていないの彼女に向かって心底申し訳なさそうに
ルシアンは謝った。

「悪かったよ。・・・・セリス。」

	
おわり
Page TOP
後編へ続く