オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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21 死を撒く剣団

 

 朝一番に集まった冒険者は三十人以上。これだけの人数がたかだかゴロツキ崩れの傭兵団相手に、それも殲滅戦でもなく調査だけのために集められたのだと思うと微妙な気分になった。

 ぶっちゃけ調査だけならモモンガとパンドラの二人だけで事足りる。というか、昨日の時点である程度アタリをつけて調査済みだ。女性を複数拉致監禁して、財宝などを貯め込んでいるのを確認している。アウト確定。

 

 殲滅戦ならまだしも、もう二人がわかりきっていることにこの大人数。しかも一日かけて。駆け出しだから少しは依頼を受けないと怪しいと思って二つ返事した結果がこれだ。やるならモンスター退治にしておけばよかった。

 向こうのアジトにいるレベル三十台の男には興味があるが、ぶっちゃけそれ以外は興味がない。何でそんな周辺最強クラスの男が犯罪集団にいるのか気になるくらいだ。

 その男に勝てそうな冒険者はこの場にいなかった。その男と遭遇したらそれまでな気がする。そう思いながら冒険者たちの自己紹介と役割分担が発表される。

 

「昨日冒険者になった、モモンとパンドラです。荷物運びと緊急時の伝言による連絡係を務めます。私は魔法詠唱者、パンドラは剣士ですがあまり期待しないでください」

 

 駆け出しだからか、二人を見る目線はモモンガの言葉通り、期待されていない物だった。精々が二人の身に着けている装備や服装の数々。周りの目線からしたら一生お目に掛かれないような高級な装備に身を固めていたからだ。

 モモンガは少しでもランクを下げようといつもの装備は変えて、もしもの際にも一応対応できる程度のレベルの装備を。パンドラはたっちの姿で固定されているので、武器もそのまま。

 パンドラの装備は全てユグドラシルでもトップの物ばかり。この世界の基準からしたら国宝級を超える品々を新人が装備していることになる。それが気に喰わず、嫉妬の目線を向けるものも少なくない。

 

「よし。これで全員だな。奴らのアジトに着くまで本隊が消耗したら意味がないから道中のモンスターは本隊以外の面々で対峙してもらう。目的ポイントまで着いたら本隊と待機組で別れる。調査の時間はだいたい三時間が目安だ。質問はあるか?」

 

 指揮を執る男の確認に誰も手を上げない。依頼書に書いてあったので今さら聞くことはないのだろう。

 二人は適当にくっついていって、適当にモンスターを狩って、あとは待機するだけのお仕事。暇な時間はネムあたりと話していればいいかと考えている死の支配者。

 冒険者たちとも情報交換をしながら行きはとてものんびりと行軍は進んだ。出てきたモンスターも二度だけ。しかも群れからはぐれた少数だったために二人は何もせずに周りの冒険者が倒してくれた。

 そしてアジトがレンジャーの目で確認できる第一目的地に着いたことで、そこで休憩を挟んだ後に本隊は突入していった。

 モモンガはアンデッド作成を用いてシモベを作りだしてアジトで監視をさせていたが、そこからこちらがすでに捕捉されていて、この待機地点に向かって三十人近くの傭兵団が包囲を始めていることに気付いている。

 本隊の突入もバレている。冒険者か組合の方に内通者がいるのではないかと思うほど迅速な動きだ。冒険者たちは数を半々に分けているので、人数的にも不利だ。

 

「パンドラ。準備を」

「はっ」

 

 依頼は失敗だ。本隊は全滅するだろう。待機組も何人生き残れるか。そういう状況だろう。本隊の方にはすでにレベル三十台の男と接触。数の暴力もあって負け戦だろう。

 そしてようやく、こちらのレンジャーが包囲されていることに気付く。

 

「マズイ!この場所がバレた!」

「数は!?本隊は!?」

「目に見えるだけで十人ほど……。本隊はすでにアジトの洞窟の中に入った!クソ、いくらここが丘の上だからって周りは木々で囲まれてる!どこから来るかわからないぞ!」

 

 この休憩地点は小さな丘の上。正直アジトを遠目から確認するにはこの場所しかない。エ・ランテルに数人送っておけばわかることか。早馬か何かで情報を伝えればいいことだ。

 この待機組、レンジャーが数人いるがそれでもすでに包囲が完了していることに気付いていない。モモンガは待機組のリーダーへ指示を請う。

 

「どうしますか?」

「どう、とは?」

「本隊を見捨てての撤退か、本隊のためにここで迎え撃つか。それぐらいしかないでしょう。この場所がバレている時点で本隊も捕捉されているでしょう。そんな中で調査もへったくれもないのでは?」

「もう完全に包囲されている!」

 

 レンジャーの言葉に全員が武器を構える。相手の方が上手だった。その場合どうするかの判断こそが大事だと、即決する決断力こそがリーダーには必要だとモモンガはぷにっと萌えに教わっていたので、ギルマスだった時には精一杯の思考をしたのちに判断をすぐ下していた。

 ギルメンには様々なことを教えてもらったなあと今さらながら思っていたモモンガ。正直パッシブスキルのせいでダメージが通らないことを知っていたので、慌てることは何もなかった。

 

「私なら逃げの一手ですけどね。彼らの脅威度を甘く見ていたこと、この人数ではどうにもできないほどの規模の相手だったこと。そして相手が上手だった。これで本隊を信じて待つというのは愚策ですし、犬死にです。アジトこそに防衛の力を注いでいるでしょうから」

 

 冒険者最高峰と呼ばれるアダマンタイト級で編成されたチームなら多勢に無勢でもどうにかなったかもしれないが、今回いるのは銀級ばかり。ミスリルもいないで数の差をひっくり返せる道理はなかった。

 相手も戦争に行って傭兵としても活躍したことがある集団。実力は人間の中ではそれなりのはずだ。そして野盗まがいのことをしているために罠に嵌めることにも慣れている連中が開いていた口の中に警戒もせずに飛び込んでしまった。

 調査は確実に失敗。全滅する気もないし、負ける気もないが他の冒険者がどれだけ生き残ったかは大事だ。自分たちだけが生き残ったのでは評判が悪くなる。

 

「そういえばモモン様。この依頼を断るという選択はなかったのですか?」

「……一度受けてしまったからな。組合からの勧めでもあったし、二つ返事は今後やめよう」

 

 この依頼の失敗はカルネ村で調査し始めて気付いた。だが受理してしまった依頼を断る、しかも冒険者になりたての駆け出しが。それは本当にダメだろうと思って依頼についてきた。

 ここに来た時点で囲まれていることや、アジトの守りが固いから不可能だと判断してくれるのを待っていたが、レベル10に届く程度の冒険者では危険の察知もできなかった。さっさと気付いて帰ろうとしていたのに。

 さすがに駆け出しが口を出すのは憚られると思って口をつぐんでいたが、こうなるなら口に出しておけば良かったと今さら後悔していた。

 

「で、どうしますか?」

「……撤退だ!本隊もうまくやれば逃げられるだろう!っていうか、自分たちがアジトに攻め込むからって荷物やらなにやら俺たちに押し付けてきた連中だ!エ・ランテルに告げて増援を送れば辛うじて生きてるかもしれないだろ!」

 

 鬱憤も少し溜まっていたようだ。それに自分たちが生き残ることを最優先するのは人間としての本能だ。

 本隊がどうなるかは彼ら次第。モモンガも生き残るための手助けをする。

 

「《閃光》!」

 

 上空に閃光を出すだけの魔法を用いる。目をやられた冒険者を二人で掴んで走り出す。こっそり無詠唱化させた魔法の矢で近くにいた五人くらいを屠る。その空いた包囲網からモモンガがハンドサインを送って全員を包囲網から脱出させる。

 目が回復した冒険者たちは自力で走らせて、パンドラが殿を、一番前をモモンガが走る。追手がないことを確認しても、十五分ほど走り続けた。

 森を抜けて街道に出てようやく走るのをやめる。アンデッドに確認を取ったが、追手はなく、本隊は全滅とのこと。

 

「ここまで来れば大丈夫でしょう。パンドラ、追手は?」

「ありません。我々を潰すより、本隊を確実に屠ろうとしたのでしょう。ですが、顔を覚えられていると面倒ですし、拠点を移されると討伐ができなくなります。早くエ・ランテルに戻るべきかと」

「そうだな。これは銀級や駆け出しがやるような依頼じゃなかったということだ。帰りましょう。死を撒く剣団を過小評価していた組合側にも問題はあります」

「あ、ああ。……モモンくん、ありがとう。君のアドバイスがなかったら、俺たちは全滅していた」

「決断したのはあなたです。それに私も死にたくありません。友人を残したまま死ぬのはごめんです」

(アンデッドだけど)

 

 待機組リーダーの男性にお礼を言われても、危険を知らせなかったのはモモンガだ。事前に言えば本隊も助かった。

 本隊を助けなかった理由は、正直に言えばない。というより、もっと事前の状況で撤退するとモモンガは高をくくっていたからだ。エ・ランテル最高峰の冒険者であるミスリル級のチームでもなかったために、アジト周辺を見て異変に気付いて帰ってくると思っていた。調査とは入り口に危険がないかなど調べるためのものなのに。

 堂々と正面からアジトへ入り込んだ本隊には同情もできない。繋がっているシモベから流れてきた音声を聞くと、敵を壊滅させて昇級を望んでいたらしい。欲を追いすぎた末路だ。そこまでモモンガたちは手を伸ばせない。自業自得まで助けようとは思えなかった。

 

「敵の脅威度も分かりましたし、依頼は半々、というところでしょう。銀級では無理。白金級以上でそれなりの数を揃えないといけない。ただこちらも離脱者を出してしまった。調査はしていますし、この報告でも問題ないと思いますよ。依頼はあくまで調査。我々が解決する義務はありません」

「それはそうだが……。いや、そうだな。敵わない相手に、数で劣っていて挑むのは勇気じゃなく無謀だ。そこを履き違えてはいけない」

「ええ。命あっての物種です」

 

 強引な解決手段ならある。大規模な魔法をぶち込むなり、シモベを送り込めばいい。そうすれば冒険者たちが手こずる傭兵団如き、簡単に滅ぼせる。

 だが、今回の問題はそう簡単に解決しない。冒険者組合の事態の楽観視に、エ・ランテルに忍び込んでいる内通者。それを放置していても第二・第三の同じような悪の集団を産み出すだけ。

 一度エ・ランテルも冒険者も意識を変えなくてはならない。大きな失敗なら余計に記憶に残り、二度と同じような過ちを犯さないはず。

 エ・ランテルがまともな都市じゃないと、カルネ村に被害が及ぶ可能性がある。今回は未来を見据えた投資。そう考えることにする。それでもカルネ村に被害が出るようならこっそり片付けに行こうとも決めるモモンガ。

 

 


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