消える内航船、静かに進む「海の物流危機」

船員の過半数が50歳超でも「外国人はノー」

船員が辞める理由として、もっとも多いのは人間関係と内航海運関係者は口をそろえる。小規模事業者は若手の船員に来て欲しいが、せいぜい5~6人乗りで年齢が高い船員ばかりの小型船は敬遠されがち。一杯船主だと人間関係がこじれた際にほかの船に移ることもできず、待遇も見劣りがする。一方、オーナー側も“促成栽培”で経験不足の若手船員を雇うことに不安を覚えるうえ、少人数運航では育成する余裕もない。

内航海運オーナーの営業利益率は1.3%と全産業平均の約3分の1にすぎない。1隻数億円以上する船の建造費も借り入れで賄っている状況だ。後継者難、船員不足となれば事業継続は難しくなり、実際、一杯船主は2005年から10年間で39%減少した。

国交省もようやく本腰に

業界からは「一杯船主が安く請け負っているから成り立っている業界。いなくなったらどうするのか」(中堅オーナー)と先行きを危惧する声があがる。小規模事業者が主に所有する499総トン以下の小型船は内航船全体の隻数の8割弱を占める。統合や集約を進めようにも「赤字の事業者を集めてどういう経営をするのか」「長らく地縁血縁でやってきた世界なので難しい」との見方が大勢だ。

内航船員養成の海洋技術学校では、練習船で3カ月の乗船実習を受ける(写真:海技教育機構)

船員や海運関連の従業員らでつくる全日本海員組合の森田保己組合長は「そもそも運賃や用船料が削られてきたことが、内航海運が直面している問題の要因。用船料の適正化が不可欠だ。小型船が動かなくなればその分を外国籍船に頼むことになりかねず、事故も多発するおそれがある」と、現場の声を代弁する。

国交省でも小規模事業者の船員不足を含め、内航海運の課題解決に向けて各種検討会を設置するなど本腰を入れ始めた。荷主、オペレーター、オーナーいずれもが“三方良し”とならなければ、経済安全保障を掲げたオールジャパン体制の維持は難しくなるだろう。

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  • NO NAME19340de8364b
    給料が割に合わないと辞めてしまう→給料が割に合う様に払う。その為に売値を上げる。

    これで良い気がする。
    売値が高ければ、人的コスト下げられるし。
    up71
    down11
    2018/10/28 09:02
  • NO NAMEc855583b58b5
    内航船員は良いぞ〜
    内航船に職員(機関士)で乗っていた。3ヶ月乗って1ヶ月休み、年収は同年代平均の2倍超。船は職員(指揮監督者)と部員(作業員)の仕事がキッチリ区別されていて職員が力仕事などをやることはまず無い。部員の仕事を見て船員が3K職と思われている。ま事故があったときは職員が全責任を負い部員は免責されるけどね。
    嫁と付き合って居た頃は嫁を入港先に呼び寄せてデートしていたよ。旅費は俺持ち。子供が小学校に上がった頃に嫁が「家に居てほしい」と言うので陸の仕事に就いた。機関士はエンジンとか電機の技術を持っているからツブシがきくんだよね。給料は下がったが、それまでの蓄えを嫁がうまく運用して利益を出しているのでいままでとトントンの年収。子供が大きくなったらまた内航船に乗る予定。船員不足だから海技士免許を持っていると職にあぶれる事がない。
    up64
    down8
    2018/10/28 12:10
  • 世知辛ぇ。da0414c72b53
    運搬業だけじゃない。職人業も、みんなが嫌っている汚れ仕事や力仕事はどれも危機的状況だと思います。お値段以上メイドインジャパンを作るために職人達は人件費の削減と時間にいつも悩まされている。人が嫌がる仕事でただでさえ高給料が取り柄の仕事が給料下げられたらせっかく大金はたいて勉強して資格取ったのに辞めていく人もいるし。若手は入っても5年に2、3人。入っても給料と割に合わないと辞めていく。日本はオワコンだと思う今日この頃。
    up59
    down4
    2018/10/28 08:31
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