香港立法会(議会)が、犯罪人の中国本土への引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正審議で紛糾している。改正されれば、香港で中国批判の言論は影を潜め、政治的自由は形骸化しかねない。
香港と犯罪者引き渡し協定のない台湾で香港人が殺人を犯し、香港に逃げ帰った事件をきっかけに四月に法案が提出された。住民による完全な普通選挙ではない立法会は親中派が多数を占め、改正案は可決される可能性がある。
香港では最近、数万人が改正反対の抗議デモを行った。台湾だけでなく中国本土にも犯罪者を移送できる改正のため、中国が反中勢力抑圧に恣意(しい)的な利用をしかねないとの懸念が強いからである。
五月中旬の立法会審議では、民主派と親中派の議員がもみ合いになり数人が負傷した。
香港政府は条例が改正されても、中国からの「政治犯」移送の要請は拒否するとしている。だが、中国本土では多くの民主、人権活動家が政治犯罪とは別件で勾留・逮捕されており、香港政府の説明は説得力を欠く。
さらに、外国人の香港への旅行者やビジネスマンらも中国本土への引き渡し対象となり、ことは中国と香港だけの問題にはとどまらない。
米国政府は五月、条例改正について「米国と国際企業にとって、安全なビジネス環境としての香港の優位性が失われる」とする報告書を発表した。中国に批判的な外国人にとっても、香港は安全な場所とはいえなくなる。
国際社会が、香港に対する中国の政治的干渉に疑心暗鬼になるのは、香港返還の際に国際公約したはずの「一国二制度」を骨抜きにする振る舞いをだんだんと露骨にしているからである。
二〇一七年の共産党大会の演説では、中国の習近平国家主席は「香港の全面的な管轄権を握り締める」とまで言い切った。
香港住民の動きに目を移せば、挫折はしたものの、香港住民は一四年、行政長官選挙の民主化を求める七十九日間の「雨傘運動」を闘い抜いた。
抗議デモに続き、立法会占拠の動きもある。暴力は避けねばならぬが、香港の民主的な自由を守ろうとする住民の気持ちが失われていないのは心強い。
条例改正は、香港自身が「高度な自治」を捨て去る自殺行為に近いように映る。立法会には丁寧で真剣な議論を望みたい。
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