現代のファラオになろうとでもいうのだろうか。
エジプトで国民投票があり、票数の89%の賛成で憲法が改正されることになった。大統領の任期と権限が大幅に拡大する。
かねて国連の専門家や人権団体が批判してきた強権的な手法に拍車がかかるだろう。自由で民主的な社会づくりの道は、さらに遠のいた。
軍総司令官として2013年に当時の政権を倒し、翌年に大統領となったシーシ氏は22年に退任するはずだった。改憲により、30年まで大統領の座につく道筋ができた。
また、大統領が各司法機関の長を任命し、軍は国土防衛に加え「憲法と民主主義の擁護」の役割も担うことになる。司法が大統領に従属し、軍による政治介入も正当化されかねない。
政治活動や言論の自由が制限されるなか、投票結果は最初から予想できた。ただ、投票率は45%を切り、賛成したのは有権者総数の4割に満たない。「歴史に刻まれる」と国民の支持を自賛するシーシ氏は、この現実をきちんと見るべきだ。
中東では、「アラブの春」と呼ばれた民主化運動により政権が崩壊して内戦が続く国々がある一方、自由より安定を優先する強権的な指導者が目につく。
トルコでは2年前、エルドアン大統領が改憲で強大な権力を手にした。03年から国政を率いるエルドアン氏は最長で28年までとどまる道を開いた。
議会のない王政のサウジアラビアでは、高齢の国王にかわり30代のムハンマド皇太子が事実上国政を動かす。国内の改革を訴えて若者の支持は高いが、イエメン内戦への介入やイランとの断交など強硬路線をとる。
エジプトは11年に30年に及ぶムバラク政権が民主化デモで倒れたあと、社会の混乱が続き、軍の政治介入を生んだ。かつてアラブの盟主とよばれた姿には陰りがみえ、対外的な影響力が低下している。国民の間に安定と強い指導者を求める気持ちがあるのも事実だろう。
確かにシーシ氏のもとで治安は回復し、経済も上向きつつある。だが物価上昇など庶民生活は苦しく格差が広がっている。批判を封じ込めるだけでは不満がいつか噴き出すだろう。
周りを見れば、いま「アラブの春第2幕」とも称される新たな民主化の動きが現れている。
民衆の抗議デモにより、アルジェリアでは20年君臨したブーテフリカ大統領が辞任した。スーダンでも、30年間も圧政を敷いてきたバシル大統領が、デモを受けて軍に解任された。
個人に権力が集中する体制は長期安定をもたらさない。エジプトも他山の石とすべきだ。
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