第二十一話:暗殺者は開戦する
身内の不幸でバタバタしておりましたが、今日から連載再開です。おまたせして申し訳ございません
準備をしながら、魔族が現れるのを待つ。
日が落ち始め、夕日の色に街が染められていた。
蛇魔族ミーナの指定した日は昨日であり空振りに終わった可能性はある。
しかし、警戒は解かない。
一日、二日のズレなんてものは往々にしてある。
前向きに考えれば、一日猶予が増えたおかげで入念な準備ができている。
そして、空振りになっても構わないとも思っていた。
ミーナの話を信じず、襲撃を見逃すことよりずっといい。
もっとも、現時点でミーナはすでに裏切っており、俺を本当の襲撃地点から遠ざけるために偽情報を流したという可能性はあるのだが。
しかし、それを疑っていては何もできないし、現時点ではまだ互いに利用できる関係だと判断している。
宿で拳銃の手入れをしていたディアがあくびをした。
「緊張感がないな」
「仕方ないじゃん。ずっと昨日は気を張ってたんだもん」
「その可能性はあるが、警戒は解くべきじゃない」
「だよね、ごめん。気を引き締めないとね」
ディアがぱんと両手で頬を叩く。
同じように拳銃の手入れをしていたタルトが頬をつねっていた。
昨日一日中、警戒しっぱなしでろくに眠っていなかったせいだろう。
むしろ夜こそ危ないと交代で起きていた。
俺は慣れたものだし、【超回復】があるため睡眠時間はごく短時間で済む。
タルトやディアはあまりこういうことは得意じゃない。
体作りと技術の習得を優先していたが、そろそろこういうことも慣れさせていかないといけないかもしれない。
「……おかしいですの」
ネヴァンがぼそっと声を漏らす。
「何かあったのか」
「何もないからこそおかしいのです。四方をローマルングの精鋭たちに監視させていますが、西からの定時連絡がなくて」
「宿を出て西に行く」
「まだ魔族が現れたと決まったわけじゃありませんの。それに、定時連絡がない場合、別拠点のものが確認に向かっているはずなので、もう少し待ったほうが」
「ローマルングの精鋭だぞ? 彼らが多少のトラブル程度で定時連絡を怠るなんてありえない。すぐに現地に向かうべきだ」
【鶴革の袋】を腰に吊るす。
それ以外の装備はすでに身に着けている。
タルトとディアは整備をし終えたそれぞれの専用拳銃を身に着け、頷いた。
「ルーグ様のおっしゃる通り。私ったら平和ぼけしておりましたの」
「なにもないかもしれないが、そのことを確認できるだけで意味がある」
そうして、速やかに俺たちは走り出した。
◇
全員、固まって俺たちは西へ向かう。
もしも、ローマルングの精鋭たちが助けを呼ぶことすらできずに命を絶たれたのなら、想定以上にやっかいだということ。
分散するのはリスクが高すぎる。
「正解だったようだな」
外壁を越えるまでもなく、精鋭たちが魔族に殺されたことを確信できた。
なにせ、そこには地獄が展開されていたからだ。
百獣の王、その群れが民を蹂躙している。
見えている魔物はすべて、たてがみがない。つまり、魔族ではなく眷属。
だが、眷属だからと言って油断はできない。
その牙はまるで砂糖細工のように頭蓋骨をかみ砕き、その爪はバターのように肉を切り裂く。
人々は泣き叫びながら、逃げまどう。
その体高は二メートル弱、体長は三メートル強と、普通のライオンよりも一回り大きい。
風の範囲監視魔法で周囲一体を調べるが、効率よく人間を虐殺するために魔物たちは散らばっている。
こうも散られると厄介だな。
作戦を考えていると、子供を抱いて逃げる女性の背後に雌ライオンの魔物が現れた。
「たっ、助けてください!」
今にもその爪が母親の背中を捉えそうだ。
「【銃撃】」
余波で周囲の人間を傷つけないよう、【砲撃】ではなく、ピンポイント射撃が可能な【銃撃】を選ぶ。
吐き出されたタングステンの弾丸は狙い通り、雌ライオンの額に叩き込まれる。
しかし、硬質な音が響き、弾丸が弾かれた。
雌ライオンは親子から興味を失い、その場で立ち止まり俺を睨みつける。
「早くいけ!」
「はっ、はい」
どうやら、人助けは成功したようだ。
そして、奴についてもわかった。
「あの体毛は鋼以上の強度があるというわけか」
でなければこんな音は響かない。
そして、もう一つ厄介な点がある。
俺の【銃撃】は鉄板ぐらいなら軽く貫くし、貫けないほど硬い相手の場合、その圧倒的な運動エネルギーで打撃ダメージは与えられる。
だが、この雌ライオンは銃撃を受け止めるのではなく流した。
体毛が衝撃で倒れ、その上を弾丸が滑ったのだ。
おそらくは、あの体毛は鋼の硬さに、毛皮のしなやかさがあり、さらには油脂でコーティングされて滑りがいい。
弾丸の効果は薄い上、斬撃、打撃もほぼ通じない。
非常に厄介な性質を持っている。
「来るぞ!」
警告を放つ。
さきほどの【銃撃】はダメージにはならなかったが、それでも苛立たしいと思ったらしい。
単身で突っ込んでくる。
「ガアアアアアアアアアアアアアア」
速いな。
ネコ科の瞬発力ある筋肉は、一歩目からトップスピードを稼ぐ。
その速度は時速300キロほど。
彼我の距離は四十メートル。おおよそ、0.5秒で距離を詰められる。
【銃撃】の詠唱など間に合うはずもない。
しかも、硬質で滑る体毛の防御付き。
なるほど、この理不尽な速さと硬さ、ローマルングの精鋭でもどうしようもないはずだ。
だが、残念なことに、この獣は俺を舐めすぎている。
圧倒的な速さと鉄壁の体毛を持っているからと言って、あまりにも動きが直線的だ。
上着の内ポケットに隠している拳銃を引き抜く。
それは、もともとはタルトとディアのために作りあげたもの。
詠唱で生み出せないほど、複雑な機構を持ち、携帯が必須。
しかし、その代わり詠唱なしに使え、威力・精度に優れ連射可能になっている。
ディアのものは護身具として反動を抑え、精密さと連射能力を優先した。
タルトの場合は射撃センスがないため、超至近距離でしか使えないと割り切り、精度を捨て威力を優先。
そして、俺のものはバランス型。精密射撃が可能な範囲でぎりぎりの威力を求めた。
相手の到達まで、0.5秒しかないが、早撃ちであればお釣りがくる。なにせ、前世から何万回と繰り返した動き。
クイックドロウ、神速の二連射。
むろん、【銃撃】に比べて威力に優れるとはいえ、奴の硬く滑る体毛を貫く威力を拳銃サイズで実現は不可能。
だがそれは俺が倒せない理屈にはならない。
そう、あの体毛が厄介であれば体毛がない箇所を狙う。
すべての生物において急所になり得る箇所、それは眼。
吐き出された弾丸が眼球を貫き、その奥にある柔らかく重要な器官をぐしゃぐしゃにして即死。
とはいえ、とびかかって来た勢いは殺しきれてない。
金属を仕込んだブーツの底で頭を受け止める。
……それで正解だったようだ。鋼鉄の体毛は針のよう、手で受け止めていれば串刺しだ。
「ここでできるだけ数を減らしつつ、散った魔物を呼び寄せる!」
多くの人間を虐殺するために魔族ライオネルの群れは散っている。
つまり、雄が触れることで発動する雌の蘇生ができない状況だ。
今のうちに可能な限り数を減らしたい。
「それがいいね」
ディアが頷いて、雌ライオンの死体を燃やす。
触れることで蘇生をするのであれば、灰にしてしまえばいい。
そうすれば回復できない。
新たな雌ライオンが現れ、臭いから仲間の死を悟ったのか町の人々の虐殺をやめて、こちらを睨みつけ、鳴き声で仲間を呼び、さらに二体の魔物が現れる。
さきほど仲間が殺されたからこそ、憎悪を込めて、そして同時に俺を警戒している。でなければすぐに襲いかかり仲間を呼ぶなんてことはしなかっただろう。
……さすがは群れなだけある。学習能力が高く、統率力がある。
三体で十分と考えたのか、ついに動き出した。
散開しての突進、俺のほうに来る奴は、ジグザグに狙いをつけられないようにしながら走り、残り二体はタルトとディアを狙う。
こうも高速かつ複雑に動かれてしまうと当てるだけならともかく、目を狙う精密射撃は不可能。
とはいえ、やつを殺す手札はいくらでもあるが。
ジグサグに狙いをつけさせないということは、動きに無駄があること、つまりは到達時間が伸びる……魔法を詠唱する時間があるということだ。
あと一歩というところで詠唱が完成する。
「【風檻】」
俺とディアで作った、風属性のオリジナル魔法。
それは前方半径数メートルの空間を二酸化炭素で満たす魔法。
この空間に足を踏み入れた生物は、一瞬で肺の中にある酸素を奪われ、脳に重大なダメージを受け、昏睡して死に至る。
いくら体毛が硬かろうが生き物である限り逃げられない。
使い勝手がいい、お気に入りだ。
こっちは片付いた。二人はどうなっただろう?
タルトとディアの方を見て、頬を吊り上げる。頼もしく育ったものだ。
「【風弾】。えいっ、ルーグ様、やりました!」
タルトはトウアハーデの瞳に魔力を込め、紙一重で爪を躱すと同時に、地面すれすれから風の塊を生み出し顎を撃ち抜いた。
風であるがゆえに体毛に受け流されず、強烈に脳天を揺らし失神させられたのだ。そして抜かり無く、動きが止まった次の瞬間にはナイフで目を貫く。
立派に育ったものだ。きっちりトドメを刺すあたり、暗殺者として大成しつつある。
【風弾】はディアの開発した、超短時間で詠唱可能な魔術。
超短時間とはいえ、詠唱中は魔力による身体能力強化ができない。素の身体能力かつ守りを捨てた状況で魔法によるカウンターを狙うなんて、並外れた度胸と集中力が必要だ。
これができる騎士なんて、この国に何人もいない。
そして、ディアはもっと単純な勝ち方を選んだようだ。
「【炎濁流】……それからは逃げられないよ」
さきほどの火葬で炎が効くとわかっている。
だからその膨大な魔力任せに、避ける空間がないほどの炎の奔流を放った。
あれだけの魔法、かなりの詠唱時間が必要だ。おそらく、奴らが警戒していたころからすでに詠唱を初めていた。
先を予測し、詠唱の完了時間を調整するという高等技術があったからこそ、あれだけ高速で動く魔物を魔法で捉えることができた。
拍手の音が聞こえる。俺たちから一歩引いた位置で、あえて観戦していたネヴァンのものだ。
「ルーグ様が強いのは存じていたのですが、まさか従者のお二方までとは驚きですの」
「足手まといなら連れてこない、タルトとディアは俺の大事な助手で戦力だ」
少し前までの二人なら、俺はここには連れてこないで、一人で仕事をした。
彼女達は成長を続け、いよいよ安心して背中を任せられるようになったのだ。
「ふふっ、素敵ですわね。その関係。それにそっちのメイドちゃん。その程度の才能でそこまで強くなるなんて。私、俄然あなたに興味が湧いてきましたの」
「才能は重要だが、それがすべてじゃない。それより、いよいよ本命がくるぞ」
こうして派手に殺したのはわけがある。
敵は散開して、住民たちを虐殺していた。
散り散りになった魔物を一体一体倒していても埒があかないし、敵のほうが圧倒的に速く、追いかけて倒すのは現実的じゃない。
そんなことをしている間に人間が殺し尽くされてしまう。
だから、追いかけるのはでなく呼び寄せる。
ネコ科の特性をもつなら、鼻が利く。そう、仲間の肉が焼ける臭いに気付くはず。そして、群れ、家族だからこそ俺たちを許しはしない。
その目論見が当たった。
風の監視魔法に反応がある。いくつもの気配がこちらに向かっている。そして、その中心には一際大きい気配がある。
「命がけの追い駆けっこだ。走るぞ!」
「はいっ!」
「近くに罠のポイントがあったよね」
だからこそ、ここで仕掛けた。
ここで、このタイミングなら追いつかれるまでに罠のあるポイントにたどり着ける。
「ネヴァン、そろそろ観客モードは止めてくれ。おまえも戦力なんだろう?」
「あら、そうまで言われたら働くしかないですね。残念です、もっと皆様のことを知りたかったのに」
敵はすでに俺たちの匂いを覚えた。
まだ、目視はされてないがしっかりとついてきてくれるだろう。
この数、まともにぶつかっては厳しい。だから、しっかりと罠に嵌めてやる。
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