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「世界で一番美しいものって、数学だと思っています」桑原聖仁(株式会社ゆめみ)~Forkwellエンジニア成分研究所

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実はフロントって、全然煌びやかではないんです

――まずは、ゆめみ社さんの業務内容を伺えますでしょうか。

桑原 受託開発メインの会社です。元々はモバイル系が強く、今もスマホアプリを作っています。私がいるのはフロントエンドのチームで、案件はウェブアプリケーション開発が主ですね。ECだったりお客様用の業務用アプリだったりと、いろいろです。ホームページにもいくつか載せているんですけど、クライアントは大手のアパレルさんだったり、ある研究所さんだったり。マクドナルドさんを手がけたことは、結構有名かもしれません。

――実績ページを拝見していますが、マクドナルドさんだけでなく大手企業の実績が目立ちます。

桑原 あまり営業でアタックはしていなくて、積み重ねだったり口コミだったりが多いです。もちろん新規開拓をしていないわけではないんですけど、「信頼で取れた案件が多い」と聞いています。品質には、こだわっています。

――品質にこだわるとは、例えばどんなところなんですか?

桑原 スピードと満足度ですね。お客様が本当に求めているものは何か?実は特定の機能はなくてもよかったりするとか、ウチが金にならなくてもいいのでお客様の満足度を求める。もちろん100パーセントがお客様満足度のためと言われると、そうではないですけど。そこにはこだわっています。

――その中で、桑原さん自身の業務はフロントエンドなのですね。

桑原 はい。うちの会社って「案件があって、チームが作られる」のではなく、「フロントエンド、バックエンド、iOSなどのチームが作られいて、各チームで案件を受け持つ」という形にシフトしているところです。現在フロントエンドチームは、まだ東京と京都に1チームずつしかありません。私は、そこの東京のチームリーダー(Rep と言います)をしています。フロントエンドエンジニアを名乗ってますが、書いているのはDockerの設定ファイルだったり、Node.jsだったりと思い切りバックエンドなんですけどね(笑)

――使用言語はNode.jsのほかVue.jsも使われているとのことですが、バックエンドがメインなんですね。

桑原 そうですね。入社して、最初はバックエンドチームに入ったんです。Node.js製のAPIの保守をしたり、追加開発をしたり。今は「フロントをやりたい」と希望を出してフロントエンドのチームに入りました。実は、業務外や副業だと、ほとんどフロントエンドのコードしか書いていなかったんですよね。だから「そのままフロントが仕事にできたら」という思いはずっとあって。ちゃんと業務経験を得たいなと。

――フロントエンドをやりたい人と、バックエンドをやりたい人ってどの辺が違うんでしょう?

桑原 僕の肌感だと、好みだと思いますね。僕は、見えるものが好きなんです。子どもの頃も絵に興味があり、絵の教室に通ったりしましたし、アニメーションも好きですし。でも、綺麗な世界で作りたいなら、バックエンドだと思っています。実はフロントって、全然煌びやかではないんですよ。作ってできたものが綺麗に見えるだけで、作っていく工程はすごくドロ沼(苦笑)。

APIとかバックエンドの方が、綺麗にやらないとバグったらシャレにならないし、機会損失にもなりえます。そっちの方が、よっぽど「美しい世界」だと思います。カッチリした人の方が、バックエンドには向いているんじゃないかなと思います。

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今も「美ってなんだろう」と考えています

――大学・大学院では情報系を勉強されてたんですね。

桑原 そうです。ただ、研究は全然違うことをやってまして、ずっと数学の勉強をしてました。そのまま数学の大学博士にもなりたかったんですが、なぜかこうなったという感じで。人生わからんなと(笑)。

――その後、エスキュービズムさんという会社に就職されました。こちらでは、どのようなことを?

桑原 「EC-CUBE」というPHPのECサイト構築用のパッケージソフトがあるんですが、それを独自にカスタマイズして、「EC-Orange」という同じようなECサイト構築のパッケージソフトを作っていました。そこから受託でお客様の要望に沿ったカスタマイズをして、ECサイトの構築まで手がける事業をやってました。担当領域は、私は受託のECサイト構築側で、ずっとバックエンドです。

――2015年11月に転職されたレプラホーンさんでは、どんなことをやられてたんですか?

桑原 ほぼ一緒ですね。会社の業務体系としては、受託開発が3割で、残りがSESです。私は本社にいたので、受託のウェブアプリケーション開発がほとんど。PHPがメインだったのでバックエンドの仕事をしていました。

――綺麗なバックエンドからドロ沼の(笑)フロントエンドに行きたいと思った理由は、どのあたりなんですか?

桑原 自分がやっていたECサイトの構築って、なんだかんだガワも(PHPで)やるんです。作るところはドロドロしてますけど、見えるところは美しいじゃないですか。僕、美しいものが結構好きで。今も「美ってなんだろう?」とずっと考えています。

「人は、何を美と感じるか」というのが人生の課題だなと思ってて。フロントエンドは、その延長にあるなという感じですね。私はプログラミングはほぼ未経験でしたので、「手に職つけたい」と思ってエンジニアになったのですが、なんだかんだ技術もアートも両方好きなので、両者がマッチするのはフロントエンドかなと。

――美に対して考え始めたのって、いつ頃からですか?

桑原 意識し出したのは大学生からですね。数学が、美しい世界だったんですよ。世界で一番美しいものって、数学だと思っているんです。大体こういうことを言うと「変態だ」と言われるんですけど(笑)。

――綺麗な式じゃないと、だいたい間違ってるって言いますよね。

桑原 そうですね。抽象化と式の簡潔さを求めていくと、本当にきっちり収まるんですよ。「博士の愛した数式」という書籍があるじゃないですか。オイラーの等式を扱ったもの。あの等式がこの世で一番美しいものだと思っていて。まるで5つの別世界が、1つの世界に収まって見える。あの等式について語ると一晩は語れます。

――美というのは数学のことなんですね。

桑原 その当時はそうでしたね。プログラマーになって、美の拡張が始まってきたんですけど。

――「綺麗なコードじゃないと気持ち悪い」みたいな?

桑原 コードの美しさもありますけど、綺麗なコードは短くなりますし読みやすいですよね。

――なるほど。数学以外にも、アートに興味はおありだったんですか?

桑原 小学校の時に、絵の教室に通っていました。ただの興味本位で絵を描いたら楽しかったので、親にお金を出してもらって。僕はデッサンの方が素質があったようですが、絵の具を使うと全部台無しにするタイプだったんです(笑)結局それは直らなかったんですけど、その代わりデッサンのレベルは少し上がって、「ただの黒の濃淡だけで、美しい絵が描ける」というのを経験してやはり芸術って素晴らしいなと思ったんです。

中高では、楽器に手をつけました。最初にやったのがマンドリン。弦楽器(アコギ)もちょっとやって、そこからサックスを高校で。音楽の世界って割と数式が出てくるんです。人間の耳が認識できる波長は442Hzなんですが、それ同士で音階を綺麗に割り振ると、一音だけ若干あげないと実は美しく聞こえないんです。つまり、数値通りにやると美しく聞こえないんです。数式だけど、そこで表せないものがある。その中でカチッと収まって、一瞬美しい音を出す。その世界に感動していました。

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新規ECサイト構築を「あとは全部よろしく」と言われました(笑)

――今まで経験された中で最も印象的な仕事って何ですか?

桑原 僕が「しがないラジオ」で喋った、1人プロジェクトですね。営業がとってきた新規のECサイト構築の案件が約800万円ぐらいだったんですが、「あとは全部よろしく」と言われて(苦笑)。

――ええええ。

桑原 本当に全部やりましたよ。キックオフして、要件定義して、設計書を書いて、実装して、テストして、納品して、検収書を書いて、検収完了したので請求書を発行して、受領して、着金の確認して、保守の契約を結んで、保守チームに引き渡すまでを1人でやったんですよね。かなり大変でしたけど、すごく成長できたと思います。ビジネスマンとして本当にてっぺんからやったので、割と見えるものが見えたなという感じですね。

利益率でいうと、7割超えてるはずです(笑)。唯一デザインだけできなかったので、デザイン会社さんに発注したんですけど、本当にすごい経験でしたね。運が良かったことに、お客様がそれほどITに詳しくなかったので、すべてこちらに任せてくれたんです。テクニカルな内容だけどお金がかかるところは相談して。残念なことに、そのサイトはもう潰れちゃったんですが(笑)。拡張性に乏しいパッケージだったので、致し方なかったなと。

――大変な経験でしたね。1人で完成させた時、周囲の反応はどんな感じでした?

桑原 直属の上司は「成長したな」と見てくれて嬉しかったですけど、同期には同じようなことをやっている人が何人かいたので「いっぱしにはなれたかな」という感じですね。その経験があるから、転職しても良いと思ったのかもしれません。「他の会社でもやれるわ」と。

――これが大学卒業してすぐとのことで、かなりの修羅場をくぐって来られたんですね。

桑原 そうですね。最初の会社では未経験でプログラマー志望だったので、厳しい環境に飛び込みたかったんです。理想は、5人の会社に入りたかった。経験者じゃないと5人の会社って難しいと思うんですけど、なんでも自分でやらないといけない環境なら「圧倒的に成長するだろう」と思っていたので。

――ご自身の成長のために日々行なっていることを教えてください。

桑原 最近あまりできてないんですけど、学ぶことは絶対にやめたくないと思っています。新しいことも今までやったことの振り返りも毎日やろうとしてます。あとは「自分は何も知らない」って常に心がけています。下のメンバーの方が知っていることが多かったり、質問されると実は知らなかったということはいっぱいあって。「僕は何も知らない、まだ勉強中です」という姿勢は欠かさないようにしています。

――「自分は何でも知ってる」と思った時から、チカラは落ちていきますもんね。

桑原 最近、先輩にそれを指摘されたんですよ。ある程度やってきた経歴も経験もあるので、外部には「なんでも知ってる」ように見えていたようです。先輩にそれを指摘されまして。「なんで自分を良く見せようとするの」と。無意識にやっていたので、それは反省しました。

――それを言ってくれるのは良い先輩ですね。

桑原 本当に良かったですし、ありがたいなと思います。

――あとは、Findyさんで副業をしているそうですが、どんなことをやられているんですか?

桑原 マーケティングを勉強したかったんです。そしたら、FindyのCTOの佐藤さんがTwitterで募集をされていたので速攻でリプライしました。最初は「engineer-lab」というFindyさんのブログを書いたり、別の外部委託の方のヘルプに入ったり。どんなところから宣伝や広告を打っているのか、またターゲットに対しどういうアプローチなら刺さるのかなど、裏事情を学べるのはありがたいなと思います。あとはブログですね。いつリリースするか、書く題材は何か、どうやったら刺さるかというバズらせ方を学びました。

――エンジニアさん向けにバズらせるポイントって、どういうものがありますか?

桑原 やはりタイトルは絶対的に重要ですよね。ちょっと煽るでも良いですけど、あと文字数は割と見ますね。短すぎると薄っぺらく見えて、あまりバズらないです。3~4,000字ぐらいはみんな書いてますね。

ところどころ絵やイラストを入れるのも効果的です、長い文章を見辛いまま書くのはよくないですね。あとは、具体的な体験、いわゆる「エモさ」です。自分が思ってる意見も抽象化したままでなく、具体的なものを書いた方が実は刺さったりします。(ちょっとバズった記事の例)そういうポイントは意識していますね。

自由かどうかより、満足度を上げる方が正しいのでは?

――ここからは、桑原さんが働く上で大切にしていることについて、「事業内容」「仲間」「会社愛」「お金」「専門性向上」「働き方自由度」の6つの項目から合計20点になるよう、点数を振り分けていただきます。

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・専門性向上 4

エンジニアですので、専門性はないとダメだと思っています。エンジニアは技術で問題を解決する職業ですしね。ただ、時代によって専門性は変わるので、幅を広げるのと向上が必要です。勉強しないエンジニアは衰退すると思っています。

・仲間 6

結局、仲間が一番でかいと思いますね。品質も上がるし、パフォーマンスも上がる。1人で作るものってたかが知れてます。それでお金になることって、ほぼないんですよ。もちろんそれができる人は素晴らしいんですけど、でもやっぱり規模は知れていて、そこに人がついてきて拡大できるから発展するし流行っていく。一過性だけで作って終わるものは、1人でしか作っていないのではないかなと思いますね。

・お金 6

日本のお金の稼ぎ方って、終身雇用と年功序列で決まっていますよね。この二大巨頭の制度によって若者は苦しめられている。日本でお金を稼ぐのは難しいので、海外に出るべきだと思っています。国が変えてくれればいいですけど、現状では絶対変えないですから。だから若者は国に期待をしない、選挙に行かない、投票するのは年配ばかり、だから国は年配向けの制度を作る。悪循環ですね。

そういう意味で、お金を大事に思っています。そうじゃないと搾取されたまま高い税金も払って、もらえない年金も払い続けて、みんな苦しむよと。言ったところでみんな変えないし、国も変えてくれないので早く海外に行きたいです。

・事業内容 1

仲間がいれば楽しく働けると考えるタイプなので。仲間と楽しい事業をやる方が大事で、あまり事業内容そのものには重きを置いてないですね。それに自分がやりたいと思ってなかった事業をやってみると、意外と面白かったケースは結構あるんですよ。そこにこだわらない方が幅は広がると思ってます。

・働き方自由度 2

これも仲間に集約されますね。自由かどうかというよりも満足度を上げる方が正しいと思っていて。本当に苦しい制度しか作らない会社って仲間じゃないし、仲間じゃない人たちと働くんだったら苦しいよねと思うので、自由度ではなくて仲間が大事。一緒にいる人たちが場の雰囲気やルールを作っていくので、自由度を先に求めるのは違うかなと思いますね。

・会社愛 1

これも一緒ですね。ほぼ仲間が集約すると思っています。人は人と仕事をするので、エンジニアも人と仕事をしますから。やはり人が大事です。

――仲間がすごく大事だなと思ったきっかけってどのあたりなんですか?

桑原 新卒の会社が結構大きかったのと、僕は転勤族だったのが大きいかなと思います。新しい街の新しい学校に入ることが多くて。久しぶりに会った友達に会うと「誰、お前?」って言われることも結構あって。そういう辛い経験って残るんですよ。誰かと一緒にいることの方が幸せの度合いは大きいなと思うし、そうでないと自分は生きていけないなと思います。新卒の会社は1人でプロジェクトを回すことが多かったので、仲間になってませんでした。集めただけで戦力はあるけど、チームではなくて。一緒の案件をただやっているだけで仲間とは言えないので、あまり楽しくなかったですし、責任のなすりつけ合いも酷かったです。

――キャリアに迷っているエンジニアの人にメッセージをお願いします。

桑原 転職を迷っている人は、すでに「転職する」と心に決めていると思います。決めたことに従った方が後で後悔しないので、したいならしてみればどうぞ、思ったより生きていけますよ、ということですね。特にWebエンジニアは食い扶持はありますから、勇気出して踏み込むかどうかが全てだと思います。その代わり、踏み込んだら自分でしっかり歩けよ、とも思います。

――結局迷うってどちらにもメリットを感じているということだから、それなら苦しまない方に行けば良いだけですよね。

桑原 転職を迷ってる時、「同じような業界に入ったら同じような苦しみをするよ」とか言われますけど、でも同じ場にいたら何も変わらないと思ってますし、移動することで変わるものは絶対あるはずなので。転職をネガティブに評価する人もいるかもしれないですけど、気にしなければ良いと思います。実際、アメリカだと何十社も転職している人もいますからね。変化して行けば良いと思います。

<了>

ライター:澤山大輔


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