@chablis777  
シャブリ

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頑張れ~!もう少しだ あと一歩だ!
(歓声)
(志ん生)日光・東京間130kmを20時間ぶっ通しで駆け抜けた韋駄天。
「もう日本に走る道はない」。ヘヘッ すごいこと言いますね。
伊能忠敬じゃあるめえしよ。(笑い声)
…で 韋駄天 金栗が次に何を考えたかってえと。
(野口)うわっ… どうしたんですか?
♪~
(四三)太平洋ば渡ってサンフランシスコからロッキー山脈ば走って越えて中部農村地帯ば横切りニューヨークまで4,000km。
ちょっと待って下さい 金栗さん。落ち着きましょう。
うん 野口君 俺は冷静ばい。
日本が終わったからアメリカって危険ですよ。
そんな短絡的な考えは。 ねえ 美川さん?
(美川)いいよね~ アメリカ。行ってみたいと思ってたよ~。
俺もたい。広大なトウモロコシ畑で分厚いビフテキ食べたいね。
ああ 俺もたい!(野口)たきつけないで 美川さん もう!
総距離4,000km1日40km走っても 100日か。
く~ これは おる一人じゃ無理ばい。
野口君 駅伝方式でいくばい。
人数が増えれば 一日に進める距離も伸ばせるもんね。 うん。 ねっ?
駅伝がよかね。 うん。 ねっ ねっ ねっ?
はい そう思いますよ。そげんすっと重要なのはランナーたい。 誰ば連れてくか…。
(沢田英一)予選会を開いてはどうでしょう?ばばっ!
明治の沢田と申します。
お~ 君が沢田君かね!
(辛作)参ったよ。ゴム底の足袋 買いに来たんだってよ。
あれ?広まっちゃってるよ うわさが!
入りたまえ 入りたまえ 入りたまえ!失礼します。
沢田君はね 東京・札幌間ば22日間で走ったそうだ。
アメリカ横断と聞けば黙っちゃおれん元気者が全国の大学に大勢いるでしょう。
ましてや 金栗さんと一緒に走れるとなれば なおさらです。
いかがですか? 予選会。
ああ 予選会ね よかよか! 是非やろう!
コース どうします? どこ走ります?
(野口)ロッキー山脈を越える予選を平地でやっても しかたないしな。
そうだ…。
富士…。箱根か!おお おお おお…!
だがな なめてかかるとえらい目に遭うぞ。
何てったって 箱根は天下の険だ。
えっ あれ 富士山ですよね?
(辛作)富士山があんなに近えわけねえだろうが。
俺が箱根だっつったら箱根なんだよ!
…うん 箱根でやりまっしょう!
そうだろう?うん。 よかよか。
アメリカ横断の予選会だけんそぎゃ~ん金も かけられんし。
何 何? 富士山で走るの~?
どこが富士山なんだよ この野郎。
(孝蔵)<今では すっかりお正月の風物詩となった箱根駅伝。もとは アメリカ横断大駅伝レースの予選だったのです>
やろう やろう! 箱根駅伝ばい。
(知恵)おじいちゃ~ん。
すっかり ごちそうになりましてありがとうございます。(りん)いえいえ。
じゃあ そろそろ鈴本の出番ざんすからね。
(りん)行ってらっしゃいませ。師匠 行ってきます。
ごちそうさまでした!どうも~ 行ってらっしゃい。
ちーちゃん おめでとう。おめでとうございます。
わ~ きれいね。エヘヘ。は~い。
わ~ ありがとうございます。あがんな。は~い。
おっ ねえちゃんお年玉もらいに来たのか? えっ?
今 一段落したからよ。お正月はねほかの一門のお弟子さんたちもみんな挨拶に来るのよ。
(今松)いい加減 覚えろよ。(五りん)古典って いっぱい人が出てくるから…。
何してんの~?
駅伝落語。駅伝落語?
うん。 稽古してんだ。(今松)正月と言やあ 箱根駅伝だろ?
それにあやかって一つの噺を3つに区切って駅伝形式でやろうって趣向なんだが。
(五りん)第一走者が ちっとも前に進まねえ。
(美津子)自分で言ってりゃ世話ないよ。はい 続けて。
黒豆ないの?今年は お豆なし。 人気ないからね。
この辛口の酒には あれが一番合うんだよ。
「おや? そこにいるのは久兵衛さん」。久蔵!
すし屋じゃないんだからさ。
「どうも」。 「最近 お前」…。
首の角度 真横向いてどうすんだよ。目線だけ動かすんだよ。
上手は この柱。 下手は掛け軸。
豆 煮てくんねえか?ですから ないんです。
「お前さんは」。 「酒さえ飲まなきゃ」。
「いいたいこもちだが」。「飲んじゃ」。 「いけない」。
こらこら 大家さん増えちゃった。何人いるんだい?
大家さんって誰ですか?(今松)「富久」だろ!?
大家から富の札を買うくだりやってんだろ!
うう~…。
ああ ああ 泣いちゃったよ。
泣いてませんよ!泣いてるじゃないの。
もう… かわいそうに。あんたたちね 厳しすぎんのよ。
だから 言ったのよ。いきなり「富久」なんて無理だって。
「寿限無」にしとくか。あんな難しいやつ覚えられませんよ!
だったら てめえが作ってやってみたら どうだよ。 えっ?
うちの一門はな みんな古典ばかりやってるわけじゃないんだぞ。
自分がネタ作ってやってみろ。
え~?「寿限無」覚えらんないのに無理でしょう。
ネタか?あるんだ。
(五りん)創作落語「箱根駅伝」。
(治五郎)箱根か~。風光明媚にして起伏に富んだコースで面白いね。
(可児)想像しただけで興奮してくるね。はい。
(岸)金は? 誰が出すんだね?
あっ 報知新聞の寺田さんという人に相談したら是非 協賛させてほしかて。
おいおい 聞いたか? 岸君!
金栗君自らスポンサーを見つけてきたぞ。ハハハハ!
実に頼もしい!いや~ そぎゃん大層なものじゃ。
あっ そうだ。金栗君 箱根駅伝の運営 やってみるか?
(可児)おっ!おっ…。
時期的に オリンピックの予選といっても過言じゃないからな。
はい! …はい?
えっ? ちょっ…今… 何と おっしゃいました?
(可児)校長からもいい知らせがあるんだよ! ハハハハ!
えっ? えっ?
♪~
ばっ!(笑い声)
(治五郎)クーベルタン男爵からの親書だ。
「来年 1920年 夏オリンピックを開催する」とある。
ストックホルム以来 8年ぶりのオリンピックだよ! ハハハハ!
やった~!ハハハハハ!
いや… いや でも どこで?ヨーロッパは どこも戦争で…。
ベルギーのIOC委員のラトゥールという人物が自国での開催を直訴したらしい。
なんと立派じゃないか。
規模は縮小されるだろうが重要なのは大きさじゃない。
今 オリンピックをやる。 戦地で!
この気概だよ。 なあ 金栗君?どうした?(可児)フフッ 大丈夫か? 息してるか?
はっ! あっ…。(せきこみ)
すいません。 しとりませんでした。ハハハハ!
あ~ 長かった~。
ストックホルムから8年ですか。
待っとってよかった。 諦めんでよかった。
嘉納先生 今度こそやります!必ず やってみせます!
駅伝に オリンピックか。 こりゃあ正月返上で大いに頑張らんといかんな!
はい!
(治五郎)岸君 楽しみだね。
(孝蔵)<「正月返上」 その言葉が四三の頭を一気に冷やしました>
ひゃあ~!
(スヤ)お正月は必ず帰るて言うとりましたよね? 四三さん。
(幾江)あんた 正月は帰ってくっとだろね?
あああ…。
ひゃあ~!
(実次)四三よ正月こそ帰らんと俺の立場のなか。
(シエ)四三 うちはよかけん 池部ん家に…。
スヤが寂しがっとるばい。
正明も大きゅうなりましたよ。
(正明の泣き声)(実次)四三!
四三!四三さん!
ああ~!
あっ… ひゃあっ!
ひゃあ… ひゃあ~!
(シマ)わっ! 金栗さん あの…もう いくら何でも風邪ひきますよ。
ご近所にも迷惑ですし。
池部ん家からいくら出しとって思っとっとや!?
来年 オリンピックを開催する。
<前回の渡航費1,800円は国や体協からの援助はなく高師生の寄付と実次が田んぼを売った金で工面した>
そぎゃんたい…。
オリンピックには… 金が要る。
<今回も どうせ自腹だ。池部家の財産を当てにするほかない>
♪~
「よ~うっ!」(太鼓の音)
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
「よ~うっ!」(拍子木の音)
「母上様 スヤ殿。大變 心苦しいのですがこの正月も帰れそうになかです」。
スヤ。
はい。
スヤ。
あれ? ば… ばばっ!
な… 何ね? 今 帰れんって…。
アハハ…。何ね もう! アハハ。
ばっ! お前が正明か。
正明 お父ちゃんの帰ってきたばい。
おう 正明 お父ちゃんばい。 アハハ!
スヤ。四三さん。
だ… 旦那んさん?あっ…。
旦那んさん 帰ってきたば~い!何ね!?
旦那んさん!お帰りなさいまし!
あ~ ただいま。お帰りなさいまし!
フンッ ご活躍で。
あっ…。
(談笑する声)
それでは 池部ば代表して長男の四三から 新年のご挨拶ば。
ばっ! いや 俺は そぎゃん…。
よっ 旦那んさんだ!旦那んさん!
(スヤ)四三さん。(泣き声)
え~… 皆様旧年中は大変お世話になりました。
あっ 第1子も生まれ…。
あっ! それから… 驚かんで下さい。
8年ぶりにオリンピックの開催さるるとが決まったとです!
お~! ハハハハ!
(ざわめき)
…で どこでやるとですか?
はい ベルギーのアントワープ。
今度こそ ストックホルム大会の雪辱ば果たすため 粉骨砕身して…。
明けましておめでとうございます!
乾杯!(一同)乾杯!
<そのころ 体協本部で緊急の理事会が開かれました>
どういうことだよ!?何かの間違いじゃないのか?
そう思って 何度も確かめたんですが…ありません。
(治五郎)ないな… ない…。
ないな…。
(ドアが開く音)(治五郎)ないな…。
明けましておめでとう…。遅い!
すいません!(永井)飲んどるのかね?
正月なんで。 …で どうしました?
オリンピックの種目からマラソンが外されたそうだ。
えっ!? そ… それ 金栗さんは?
熊本に帰ってるそうだ。えっ!?
(武田)酒臭いのう~。すいません。
信じられん。 日本がメダルを狙える数少ない競技なのに。
確か 前回 死者が出たんでしたよね?
日射病でね ポルトガルの選手が命を…。
それでもやると誓ったんだよ クーベルタンが!
なぜだ… なぜだ クーベルタン!
(トクヨ)これをご覧下さい。現在のベルギーの市街地です。ここをマラソンのランナーが走り沿道を観衆が埋め尽くす。こんな光景を想像できますか?
とても無理だな。この惨状を見て それでも日本人が勝てる見込みがあるからマラソンを競技に加えろなどとは厚かましくて とても言えん。
(ため息)
酒臭いんだよ!すいません!
酒なんか飲んでのんきにやっとる場合か!?
すいまっせん。(スヤ)♪「□いたかばってん」
♪「□われんたい」お~ よか飲みっぷりだね!
欧州ではね 村長さん大人から子どもまでが旗ば振って マラソンば応援すっとです。村長さん あれには勇気づけられました。
さあさあ 1杯どぎゃんですか?四三さん。
「さん」!? 「四三さん」て…。
「さん」でよかたい。玉名一の庄屋の若旦那さんだけん。
なあ 実次?アハハハ…。
これはこれは 忙しかですか? 四三さん。
ちっとは ゆっくりできるとですか?
はい…あっ いや 学校は9日からばってんそん前に箱根駅伝のコースの下見ばせんといかんけん。
それは四三さんも走りなさるとですか?
学生の大会だけん 教員は運営たい。
玉名には いつ戻られますかねえ?
それは…。
うちは どぎゃんでん構わんばってんスヤが不憫でなあ。結婚ばして6年ま~だ 一緒に暮らさんて…。
なあ? こぎゃん田舎だけんよからん うわさも立つばい。
あっ… オリンピックば立派にやり遂げたら帰ってきます。
兄上!(小声で)「はい」て言わんかい こら ぬしゃ。
金ば もらうとだろが こら!
はい。はい!
はあ~ きつか~。
幾江さん… 悪か人じゃなかばってんあん威圧感 じと~っとした目…。(正明の泣き声)
あっ…。
(小声で)あれは 前世はヘビばい。
(泣き声)よしよし…。
まだ起きとっとね?
今 ちゃんと寝かさんと夜泣きばしますけん。
そぎゃんね。
お義母さんと交代で明け方まで寝られんこつもあっとです。
♪~
スヤ。
苦労ばかけて すまんかった。
どぎゃんしました?
約束ばする。 今度のオリンピックに勝って俺は引退するつもりたい。
そん先は指導者として後輩ば育てながらスヤと正明とお義母さんと一つ屋根の下で暮らすつもりたい。
勝てんかったら?
熊本には お戻りにならんとですか?
勝ちますけん 考えんでよか。
四三さんは勝ちます。
うん。
8年もかかったばってん ようやくお国んために戦う時の来たったい。
よう辛抱されましたね。
♪~
スヤ…。
(泣き声)
あっ… いや…。(泣き声)
(スヤ)よしよしよし…。(泣き声)
♪~
ああ…。
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ。
<そしていよいよ近づいてきた箱根駅伝。四三は有力選手たちと共に練習に励みます。そのころ 体協では…>
さて 今回は何人連れていきますかな?
選手7 監督1予算的に それが限界かな。
ちょっと待て。 何? 予算?今回は金が出るのか?
出しますよ。 体協の名誉理事から義援金を募っております。
やるじゃないか 会計監督!早く 金栗君に知らせないと。
ですから マラソンはございません。
もういい。 クーベルタンに直談判する!
(武田)会長 何をですか?
決まってるだろう マラソン復活だよ。
その行為はオリンピックの精神に反しませんかね?
確かに マラソンは日本が唯一 メダルを狙える競技です。
しかし 前回死者を出した医学的に問題のある競技でもあるのです。
その是非を見直すという意味で適切な判断だと思いますが。
永井… 貴様は正論しか言わんな!
それが役割と考えております。
じゃあ 言えるか!?8年間 誰よりも努力した金栗君に…彼の背中を追いかけて走り始めた学生諸君に もう走らんでいいと!
失礼します!
(トクヨ)ちょうどよかった。 私 言いましょうか?
待て。 何だね?
マラソンの枠ば6人に増やしてもらえんでしょうか?
おっ ちょうど選手選考の途中でしたか!
あっ あ~… 話を聞こうか。
現在 箱根駅伝の練習ばしとりますがもう好記録の 次から次に出ております。
特に ここにおる高師の茂木!(茂木善作)はい!
大浦!(大浦留市)はい!早稲田 三浦!(三浦弥平)はい!
河野!(河野一郎)はい!明治ん沢田!はい!
こん5人と私が出れば金銀銅 全てのメダルば持ち帰ることも夢ではありまっせん!(トクヨ)あのね 金栗さん…。
分かった! 検討しよう。
おお~!
箱根 楽しみにしとるぞ!(6人)はい!
ありがとうございます!(5人)ありがとうございます!
よ~し もう20km行くばい!(5人)はい!
行け~!(ドアを閉める音)
んっ!
待ってました!(拍手)
(ざわめき)
♪~(出囃子)
よっ!待ってました!
(拍手)
え~ 「箱根駅伝落語」…。
ねっ まさかね 1番に走らされるとは思いませんでしたが。
運営を任された四三君 まずはですね足の速そうなやつを探さなきゃいけないってんで…。
みんな よう来てくれた!
(一同)オ~!ありがとう!
もう うれしか。
(志ん生)<結局 集まったのは4校だけ。高等師範 明治早稲田>早稲田魂です!
<慶応。 え~ 足に覚えのある野郎からただ目立ちたいだけってやつまでね>
期待しとるばい。はい!
野口! みんな よか成績ば出したらオリンピック行けるて聞いたらたまがるだろうな!…そうですね!ああ!
<お~ いるいる。バカみてえな顔しやがって ええ?オリンピックに出られるって聞いたらお前 びっくりして座り小便してバカになっちゃうな 本当に>
オリンピック!? オリンピック!? ああ…。(笑い声)
師匠 ちょっと勝手に変な くすぐり入れないで下さいよ。
でも ウケてるよ。 次 いけるか?えっ?
早速 コースを決めるぞってんで選手たちが集まって夜な夜な作戦会議でございますね。
おい… おい…。
えっ!?え~ どうしよう… 交代しよう。(笑い声)
(拍手)
往路… 5区間。
箱根山で折り返し復路5区間 全10区間 217km!
ということは 2日がかりですね。
箱根に1泊だな…。 こりゃ早朝に スタートせんといかんばい!
というわけで 2月14日 土曜日午前8時スタートと決まったのですがこれが 頭の固いお偉いさんの逆鱗に触れたんです。
冗談じゃない! 学生の本分は勉強だ!
授業を休んで駅伝など 言語道断!
ほんなら 10時スタート!まだ授業中!
12時!12時には飯を食え!
え~ そんなわけで午前中は おのおの授業を受けて午後1時からのスタートとなったのです。
タッチ タッチ… タッチ タッチ…。
まだ早いだろ。 もうちょっと やんな。
え~?(観客たち)頑張れ!
え~ 有楽町 報知新聞本社前には黒山の人だかりが!
…と言いたいところですが。
よ~し 集まれ~!
(寺田)もう集まってます。
(五りん)<何しろ 1回目なんでねえ~ まあ こんなもんです。えび茶 早稲田。 黄色 東京高師。紫 明治。 青 慶応。それぞれのたすきを掛けて 足元には…。出た! 大塚 播磨屋のマラソン足袋!審判長 兼 スターターは箱根駅伝の考案者我らが韋駄天 金栗四三>
支度して よ~い…。
(号砲)
<1920年2月14日 午後1時。記念すべき第1回 箱根駅伝がスタート。アントワープオリンピックマラソン選手の候補を探すべく金栗さんは車に乗り込んで伴走します>
ワーワー言いながら有楽町のガード下を数寄屋橋へ抜け尾張町交差点を右に曲がって銀座通りを品川へ。
旧東海道をまっつぐに最初の中継点 鶴見に向かいますが…。
「面白くねえぞ 山下!」。
「そりゃあ 困りましたね~」。
「お~ 試しに 寄り目で走ってみな」。
(笑い声)
「こうですか?」。「あ~ 何だい えっ?じゃあ 犬みてえに前足も使ってみな」。
(笑い声)「えっ こう… こうですか?」。
あ~ あにさんそんなこと書いてないでしょ。
目先の笑いに走らないで!
師匠 どうしましょう?
お前がなさっさと引っ込んじゃうからだよ。
3人じゃ ゴールまで行けねえぞ お前。
じゃあ 師匠 もう一回 出て下さいよ。
俺は 1本つけてるもん。 やなこったい。え~ じゃあ どうするんですか?
おめでとうございます。
何やってんの?うん? 「箱根駅伝落語」。
こいつが作ったんだ。ほう~。
誰ですか?あのな 長男の清だ。
どうも。あっ… あっ あっ 失礼しました。
ちょうどいいやこいつに次やってもらおう。
(五りん)そんな急に?
高師に遅れること約3分明治の第2走者は 闘将 下村選手です。
えっ 誰? あのおじさん 誰?
金原亭馬生 真打ちよ。 私の弟。
太平洋を左に見ながら横浜を抜ける頃には首位の高師に こうピタリと追いつき権太坂 不動坂と難所を越えてへばってきたところを こうタッタッ タッタッ タッタッと一気に追い抜いた。
「あっ チクショー。 足袋の底が剥がれちまった。 お~い 足袋屋!」。
「へえへえ へえへえ。お呼びでございましょうか?」。
うまい! 何かちゃんとしてる。落語っぽ~い。
「お~い 下村これに勝てばオリンピックだぞ!」。
下村 オリンピック!下村 走れ!
この道はオリンピックに つながっとるばい!
いけ~ 下村~! オリンピ~ック!
第2区より電報です!1位 明治 2位 高師。
高師が明治に抜かれた!?はい 3区の戸塚を通過した時点で2分の差がついたと。(治五郎)2分なら まだ巻き返せる。
やっぱり 気になるようですな ハハハハ。見に行かれたら いかがですか?
オリンピックにマラソンがないのに合わせる顔がないだろう。
続けます。 選手7人の…。
電報 4区から! 首位との差が…。
8分に開いてるじゃないか!
(馬生)<首位が明治 2位 高師3位が早稲田で 慶応が4位>
順位不動のまま次の中継点 小田原を目指します。
え~ この辺りからこう 日が西に傾き始めた。
何せ スタートが1時ですからね。
はあ~ うまいな~。
当たり前だよ。
師匠 本年もどうぞよろしくお願いいたします。
うん。今松にいさんも 明けましておめでとう。
おめでとうございます。誰が出てんの?
馬生師匠だよ。ふ~ん あっそう。
(馬生)「え~? 何だか辺りが暗くなってきたぞ。何か出そうだ 怖いね。えっ 誰か いねえかい?ううっ 丑三つ時みてえだ」。
何だい 怪談噺かい?やだねえ 新年早々。
「箱根駅伝落語」です。こちらは?
次男の強次。えっ!?
これかい?次 出るか?
これ やりゃいいの?第5走者ね。
(小声で練習する声)
「おいおい 聞いたかい? えっ?見張りがいねえんだとよ」。
「えっ だったら ズルし放題じゃねえか!こいつはいいや」。
…ってんで 学生たちは箱根の山へ 下見へ参りましてあっ こっちも行けるあっ こっちの方が近えぞと方々に 片っ端から目印をつけていく。
やだ~ うまい上に ちょっと色男。
あれも 私の弟。 古今亭朝太。二ツ目だけど 華があるでしょ?
役者もやっててテレビのドラマにも出てんのよ。へえ~。
「ヘッヘッヘッヘ…これで5区は明治がもらったぜ!」。
(朝太)<トップを走る明治の沢田。実は この男箱根の山に下見に行き あちこちに近道の目印をつけてたんですがその目印が見つからねえ>
真っ暗じゃねえか…。
こっちか?
(銃声)「あっ! だ… 誰だい?鉄砲をぶっ放した野郎は」。「あ~ どうも地元の青年団でございます。ここいらは猪が出るってんで人が通る時には こう空砲を鳴らせって言われてるんです」。
それだけじゃあない 中学生ランナーがたいまつを持って案内してくれる。
「沢田さ~ん こっちで~す!」。
「でけえ声出すな バカ!恥ずかしいじゃねえか」。
<「えっほ えっほ」と結局 抜け道は役に立たねえまま午後8時。明治の沢田が1位で芦ノ湖にゴール。記録は7時間30分36秒。8分遅れで 東京高師 大浦が2位。早稲田 三浦が16分遅れで3位>
来たか?
<箱根の山で道に迷った慶応はなんと1時間22分の遅れで4位>
よう諦めんで走った!
記録 8時間42分51秒!
遅か… ばってん よう頑張った!
<往路の結果は こんなんでしたが…>
まだやるの?あっ やって下さい。
あっ そう。
2日目の朝 審判長の金栗さんが目にした光景ってえのは…。
<一面の銀世界。 昨日から降りだした雪で箱根の山は積雪6cm。気温はマイナス4度>
(渋谷寿光)金栗さん 本部の野口君から中止を検討してはどうかと。
見たまえ 渋谷君。
<昨晩の青年団 たいまつの学生更には湯治客まで加わって総出で雪かきをしてくれている>
こん人たちが こんだけしよるとに中止になんかできんばい!
(渋谷)えっ… でもこれじゃ滑って走れませんよ。
分かっとる!
諸君!(一同)はい!
足袋ば 脱がんね。
金栗君 これは何をしとるのかね?
はい。 ゴム底に溝ば彫って滑り止めにすっとです。
(一同)ああ…。なるほど~。
ぬしたちも やらんか。(一同)はい!
<そんなわけで 金栗さんの執念によって箱根駅伝は続行されました>
続行だと?(野口)はい。
予定どおり 7時にスタートしたそうです。
金栗は?それが…車のエンジンが凍って動かず学生たちの後を追いかけて走りだしたと。
(号砲)ば~ もう!
(渋谷)あっ 金栗さん!
ハハハハハ…! 金栗らしいな。
信じられん。本当 しょうがないやつだな~。
とにかく 私は有楽町のゴール地点へ向かいます。
頼むぞ!
小田原の順位です。 1位が明治。
10分遅れて 2位が高師。早稲田が18分遅れ。 慶応 56分遅れ。
金栗は!?はい。 それが…選手たちと一緒に走ってるそうです。
走れ! 走らんか! こら~!
早稲田ん河野!都の西北の意地ば見せんか!
そぎゃんこっちゃ 立派に成功せんぞ~!はい!
こら~!
さすが韋駄天!
こうしてはおれん。 私も向かうぞ!
待って下さい!うん?
待って下さい。
そして 第8区 平塚では再び降りだした雪のせいでペースが落ちるってえと沿道の人々が傘のトンネルを作ってくれたそうですな。
「おい 学生さん 学生さんおなか減ったろ?ほら 握り飯作ったから食べな」。「すいません…」。
わあ~ 2人とも すごいな~。
ノートをちらっと見ただけなのに。
当たり前だ天才の遺伝子 受け継いでんだもん。
天才?黒豆ねえな…。
あっ 師匠か。正月なんだから黒豆 お前 どうにか…。
それでは お先に失礼いたします。
あっ 勉強させて頂きました。
うん。 それにしたって何だって箱根駅伝なの?
はい。 うちの親父が若いころ 出たらしいんです。
箱根駅伝に?はい。 戦争で死んじゃいましたけど。
ふ~ん。
おい 黒豆買ってきてくれないか?
やだよ。 俺 これから収録だよ。 お先!
恩知らず。
順位変わらず いよいよ最終区間… あれ?
みんな 行ったよ。
明治の西岡選手が今 トップで蒲田を通過!
(歓声)
明治か~。
(今松)<いよいよ 最終10区。トップを走る明治 西岡ってえと足が痛みだして 思うように動かない。後ろからは高師のアンカー茂木が迫ってくる>
高師の意地ば見せんか!はい!
明治のアンカー 速かぞ おらぁ!はい!走れ!
「走れ 茂木!明治のアンカーも速いぞ~!」。
11分遅れで鶴見を出た高師の茂木君。品川辺りで5分の差まで縮めます。
そして 新橋辺りで ついに並んだ!お~!
へい へい へい!な… な… 何だ?
タッチ タッチ。何?
タッチ。(今松)…んだよ 乗ってきたのに。
どっちが勝つか分からねえんでたすき2本掛けてきちゃいました。
「やい 明治 最後ぐらい勝たせろ」。
「冗談じゃねえ ここで抜かれたら何言われっか分かんねえ」。
やだ~ ちょっと うまくなってる~。そうねえ。
雪を蹴り上げて デッドヒート!
西岡~ 茂木~!ここで勝ったらオリンピックたい!
すいません… オリンピックは結構です。何?
自分は… 金栗さんには なれません!はあ!?
おい 諦めるな 茂木~! 諦めるな!
新橋から銀座を抜けると数寄屋橋!ガードをくぐれば 有楽町 報知新聞社!
集まった観衆の誰もが この紫のたすきを掛けた 明治の学生が来ると信じていた!
来た… 来たか!?あ~ 来た 来たぞ!
どっちだ!? 明治か 高師か。
いや… あれ 金栗君?えっ!?
もうすぐ来るぞ~!
それ来た~!
来た来た…。
明治か? …あっ 明治だ!
高師だ~!
茂木! 茂木君 茂木君!
(五りん)<ゴール直前 最終コーナー!お~っとここで明治 西岡がまさかの転倒!高師 茂木が渾身のラストスパートでゴール!第1回 箱根駅伝優勝は東京高師!記録 15時間5分16秒!>
(岸)頑張れ! 頑張れ! 頑張れ~!
頑張れ 頑張れ! ほら もう少しだ!頑張れ 頑張れ! 頑張れ!頑張れ もう少しだ! 頑張れ 頑張れ!
♪~
(治五郎)「世界に通用するランナーの育成に全力を注いでおり韋駄天を筆頭にメダルを狙える選手が育っておる」。
♪~
(歓声)
嘉納さん! マラソン やれませんかね!?
何?やれんのかな… やるべきでしょう!
こんな感動的なレースなら絶対やるべきです。
日本が勝つとか負けるとかそういう問題じゃない。
アントワープでやるべきだ これを!
直訴しましょう 嘉納さん!
岸さん… ど… どうしたんですか!?
別に何でもない… ああっ!
岸君!すいません! 初めて見たもんで。
マラソンのない… オリンピックなんて。
私が 必ず 君をアントワープに行かせてやるからな!
はっ…?岸先生 ど… どぎゃんしました?
アハハ…マラソンのないオリンピックなんて…マラソンのないオリンピックなんて…!
「オリンピックなんて…」。
(ざわめき)
ちょ… ちょっと?えっ? どうしたの?
あれ? あいつ サゲ考えてねえや。ど… どうしましょう?
サゲ~? しょうがないな…。
おお… どけどけどけ。(拍手)
え~ そういうわけでマラソンのないオリンピックなんて黒豆のない おせち料理みたいなもんです。(笑い声)
♪~(拍手)
うまいね!えっ? 「うまいね」じゃ…。
(笑い声)
行け! 走れ! 韋駄天ども!
(弥彦)元気の権化! ジャ パ ン~!
<韋駄天 2度目のオリンピック>
金メダルたい!金栗四三は金メダルったい!
<やだ これ~ 絶対泣いちゃう>
日本の正月の風物詩東京箱根間往復 大学駅伝競走。
この大会では あの羽田の国内予選会のトロフィーを再現した金栗四三杯が最優秀選手に贈られています。
その賞を3年連続受賞し元祖 山の神の愛称で知られた今井正人選手。
自分は大学時代ですね箱根駅伝でしか結果を残せてないというふうに思ってますのでそれがなかったら 本当に実業団にも進めてないでしょうし。
東京五輪出場を目指す今井選手は今も 箱根駅伝の走りを忘れていません。
自分たちがどういう走りをすることによって次の走者が 走りやすいかとか逆に 自分の結果によって後ろの走者に すごく迷惑をかける。
まあ… 足し算ではなくてやはり掛け算になるのも駅伝かなっていうのもありますので。
富士登山をはじめ金栗は 駅伝を日本中に広めました。
(今井)金栗さんの思いっていうものその賞を頂いて走ってる一人として自分は責任も感じてますし それをやり遂げた時の達成感というのはすごく大きいんじゃないかなと思っています。
金栗が掲げた駅伝への思いは現代に受け継がれています。


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