東京証券取引所などを傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)と東京商品取引所が総合取引所に向けた協議入りで合意した。JPXと対照的に東商取は売買高が10年で半減し、3年連続で連結最終赤字となるなど業績も厳しい。取引を仲介する商品先物会社も減少した。先物業界の苦境の背景を解説する。
国内にある商品取引所は東商取とコメ先物などを上場する大阪堂島商品取引所。全売買高の98%を東商取が占める。
東商取の売買高(前身の東京工業品取引所を含む)は2003年度をピークに減少傾向をたどる。17年度は2537万枚(枚は最小取引単位)と14年間で7割減った。国内の全商取合計でも03年度の1.5億枚から8割縮小した。市場に流入する資金量の目安である預かり証拠金の委託総額も7割減った。
急減の主因は取引の勧誘規制の強化だ。商品先物は払い込んだ証拠金以上の金額で取引ができる。予想が外れると想定以上に損失が発生するなどハイリスクハイリターンの投資商品だ。
日本の市場は長年、個人投資家が主体だ。仲介業者による積極的な電話勧誘の結果、投資経験の乏しい個人が損失を被るといったトラブルが絶えず社会問題になっていた。これを受け05年に、一度断った人への再勧誘が禁じられた。
11年には投資を望んでいない人への勧誘自体ができなくなった。顧客の知識や経験、財産状況に見合った勧誘ができる株式に比べ規制は厳しい。
商取各社が力を入れていた電話や訪問による営業が大きく制限され、投資マネーの流入が細った。投資コストがかかるインターネット取引への移行も遅れた。手数料収入が減った商取会社や取引所の経営は悪化した。
競合商品が増えたことも売買低迷に拍車をかけた。レバレッジが効く投資先はかつて商品先物と株式の信用取引くらいだったが、「今は外国為替証拠金(FX)取引も仮想通貨もある」と商品会社首脳はこぼす。
先物業界も投資リスクを抑えた商品開発に取り組んだ。商品先物で運用する商品ファンドは株式の投資信託同様、初心者向けとして2000年代前半に注目を集めた。
ただ大手金融機関などが組成する原油や金の上場投資信託(ETF)が東証などに相次ぎ上場された。株式と同じ感覚で手軽に商品投資ができ投資家を集めた。商品ファンドは流動性の高さなどで劣勢となり、次第に姿を消した。
離散した個人マネーを取り返せていない先物市場は流動性が落ち、原材料の価格変動リスクをヘッジ(保険つなぎ)したい企業にとっても魅力があせる。金額の大きな売買を市場が吸収できず、乱高下につながるためだ。個人が関心を持たず、実需家も投機筋も参入しにくくなる「負のスパイラル」(業界関係者)からの脱却は見込めていない。