オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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「それではモモンさんとパンドラさんの冒険者登録はこれで終わりです。お疲れ様でした」
「いえいえ、こちらこそ。丁寧な説明ありがとうございました。とてもわかりやすかったです」
エ・ランテルにある冒険者組合の一室。そこでモモンガとパンドラは受付嬢による講習会を終えて一息ついていた。
冒険者のことはツアーに聞いていたために重複した内容だったが、講習を受けるということ自体が大事だったためにしっかりと話を聞いていた。登録に必要なお金は陽光聖典の人質が持っていた金銭から差っ引いている。
渡された銅のプレートを首から下げる。これが戸籍の代わりになるのだから、大切に保管しなければならない。
「それで、活動拠点はどこにいたしますか?特にないのであれば組合の方から紹介いたしますが」
「カルネ村でお願いします。あそこに家がありますので」
「えっと……。往復が大変ではありませんか?エ・ランテル内の宿にすれば往復の時間を省略できますが……」
「ご心配なく。昔南方の方で旅をしていた際に《飛行》が使えるマジックアイテムを見つけまして。馬車よりも速いので問題ありません。パンドラの鎧も同じ場所で見付けたんですよ」
「えっ、《飛行》をっ!?」
受付嬢が驚きのあまり椅子から飛び上がる。エリートレベルの魔法を使えるマジックアイテムなら存在するだろうと思っていたが、ここまで驚かれるとは思わなかった。
ツアーにもう一度確認しようかと思ったほどだ。マジックアイテムなどの価値観が分からなかった。この前の話し合いは十三英雄の冒険譚ばかり聞き入ってしまい、お金の相場とかは聞いていなかったことを思い出す。
「たまたま古い遺跡の中で見つけまして。これがあれば冒険者として食べていけるかなと」
「むしろそれを売れば一財産築けますよ!?」
ユグドラシル最序盤のアイテムでここまで驚かれてしまうとは。ゴミアイテムを売りまくれば簡単に大金持ちになれるのではないかと思ってしまう。
だが、一番の目的は戸籍の確保。それができればあとは小遣い稼ぎの遊びのようなものだ。
「お金が欲しいわけではありませんので」
「ではなぜ?名声ですか?」
「名声も別に……。色々な場所に行くには冒険者という肩書きがあると便利だと聞きましたので。商人になれるわけでもなく、そこそこ腕には自信があるので適しているかと」
「……はあ。ちなみにお二人でチームを組まれますか?その場合チーム名などはどうされます?もし他の方々と一緒に活動されたりするのでしたら、他のチームの方々を紹介いたしますが」
「チーム名、ですか」
特に何も考えてなかった。考える必要もないと思っていた。駆け出しが大仰な名前を名乗るわけにはいかないし、そこまで目立つつもりもなかった。
「名前は保留させてください。それで、どのような依頼があるのですか?まずは依頼に慣れるために他の方々と回ってみたいのですが」
「そうですね……。明日の朝になりますが、ゴロツキの調査と言いますか、野党の傭兵団が暴徒化しているという情報を掴みまして。そのねぐらの調査を数々のチームに依頼しております。街道などに出ては商人などを襲っているので脅威と感じて都市長から依頼されています」
「街道は民が往来する場所ですからね。それを駆け出しの我々が受けていいのでしょうか?」
冒険者とはぶっちゃけ最初の契約金さえ払えれば誰でもなれる。実力を見られることもない。実力なんてなくてもなれてしまうのだ。
だからこそ、冒険者になったばかりのモモンガたちが危険の伴う依頼を受けていいのかという疑問が浮かんだが、職員はなんてことのないように答えてくれた。
「調査ですので、目が多く必要なんです。ねぐらの調査をする中心メンバーを無事にエ・ランテルまで帰還させる手伝いとしての荷物運びだったり、モンスターの退治だったり。新人でもできることは多いですよ」
「なるほど。わかりました。その依頼を受けます。街道の危険は他人事でもありませんし。明日の朝何時にどこへ集合すればいいのですか?」
「北門に六時過ぎへ。依頼は私の方で受理しておきます。明日は早いですし、宿屋の手配をしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。村の皆にも明日のことを報告しないといけないので」
「そうですか。では依頼書をお持ちしますね」
一度部屋から出ていき、依頼書を持ってくる。内容をその場で確認して、報酬などを確認して受諾の記名をする。簡単な行程や目的地なども地図付きで載っていたので、あとはこれを詰めればいいだろう。
「これで依頼の受諾は完了となります。その他に質問などはありますか?」
「いえ、大丈夫です。では失礼します」
二人は礼をしたあと立ち上がって冒険者組合を後にする。あそこまで宿屋を推してくるとは思わなかったが、善意と提携しているからこそだろう。
ぶっちゃけ転移があるために宿屋に泊まるだけ金の無駄である。北門を確認した後、モモンガたちはカルネ村へさっさと帰還する。
冒険者になったことをエンリとネムには報告したが、ネムにエ・ランテルへ行ったお土産を買ってくるのを忘れてちょっと不機嫌にさせてしまった。ダグサの大釜を用いてお菓子を出すことによってその場での解決はした。
毎日のように行くのだから毎日お土産を買ってくるわけにもいかず、そこら辺はエンリと相談して買ってくることにする。
パンテオンがカルネ村とエ・ランテルの間の街道、それもだいぶカルネ村に近い辺りに冒険者らしき一団と馬車を見つけたようだが、おそらくモンスターの狩りをしているだけだろうと思って放置させた。
もしカルネ村に危害を加えようとするなら全力で排除することを命令して、あとは放置。パンテオンにしてもアンデッドたちにしても周りのモンスター退治はさせていないので、他の冒険者の邪魔をすることはない。
モモンガのシモベたちが積極的に森のモンスターを狩って森の賢王の不興を買う必要もない。彼の者が自然の防衛網を築いてくれているなら、それを崩壊させる理由もない。その内森の賢王にも顔を出すことを計画し、モモンガたちは次の日に備えた。