“大:大佐(AI)
雷:雷電(ジャック)
ロ:ローズ(AI)
大「雷電、聞こえるか? 我々だ。」
雷「なぜだ!? G.Wは崩壊したはず!?」
大「「G.W」は、な………。」
雷「お前達は一体!?」
大「そもそも我々は正確には………人ではない。この200年の間に………様々な念がホワイトハウスという重力場で産み落とされた。40億年前地球の海中で突然、生命が生まれたように、ホワイトハウスの中で芽生え、進化してきた……。我々に実体はない。我々は君達が頼る「秩序」や「規範」そのものなのだ。誰も我々を抹殺することはできない。この国が消滅しない限り、我々は存在し続ける………。」
雷「ふざけるな!お前達が不滅なら、なぜ支配を続けるために個人の自由を奪い、デジタル情報を検閲する?」
ロ「ははは、ジャックって、ほんと馬鹿ね。」
大「いいか、我々の計画は我々のためにあるのではない。君達のためにあるのだよ。」
雷「何?」
ロ「ジャック、耳をかっぽじって、よく聞きなさい!」
大「今世紀初頭にヒトゲノム情報の読みとりが完了した。その結果、地球生命の48億年に渡る、我々人類の進化過程があきらかになった。」
ロ「遺伝子操作を始めとして、生命のデジタル化に成功したのよ。」
大「しかし一方で遺伝上に載ってないものがある。」
雷「遺伝情報に載ってないもの?」
大「そう、人の記憶や思想、文化や歴史だ。」
ロ「遺伝子には人類の歴史は刻まれてない。」
大「果たして、それは伝えるべきなのか?これまで同様、自然界で淘汰されるべきなのか?」
ロ「私達の先祖はそれらを語り伝えて来た。言葉や絵、文字を使って………石版や書物に記録しながら………。」
大「しかし、全ての情報が後世に伝えられて来た訳ではない。選択され、加工されて継承されて来たのだ。………。まるで遺伝子のように。」
ロ「それが人の歴史よ、ジャック。」
大「しかし、現代のデジタル社会では、日々のあらゆる情報が蓄積され、
些細な情報がそのままの形で保存されている。永久に、劣化することはない。」
大「誰が言ったかもわからない、ゴミのような噂、間違った解釈、他人の中傷………。」
大「あらゆる情報がろ過されず、保存されて、後世に伝えられる。」
ロ「それは進化を止める。」
大「雷電、君は我々が行おうとしていることを単なる検閲だと思ってないか?」
雷「違うとでも言うのか!」
ロ「ええ、勿論。私達がしようとしてるのは、コンテンツの制御ではなく、コンテクストの生成。」
雷「コンテクストの生成?」
大「世界のデジタル化は、人の弱さを助長し、それぞれだけに都合の良い「真実」の生成を加速している。社会に満ちる「真実」の山を見てみるがいい………。」
ロ「高価な兵器が人道的に人を殺し――」
大「犯罪者の人権は被害者のプライバシーより丁重に扱われ――」
ロ「稀少動物保護の寄付金が集まる傍らで、貧困に苦しむ人達がいる………。誰もがこういわれて育つわ。」
大「他人には優しくしよう。」
ロ「でも競争相手は叩きのめせ!」
大「「お前は特別だ」「信じていれば夢はかなう」
ロ「だけど成功できる人間が一部だけなのは、初めから明らかよね………。」
大「君達が「自由」を「行使」した、これが結果だ。争いをさけ、傷つかないようにお互いをかばいあうための詭弁――「政治的正しさ」や「価値相対比」というキレイゴトの名の下に、それぞれの「真実」がただ蓄積されていく。」
ロ「衝突を恐れてそれぞれのコミュニティにひきこもり――ぬるま湯の中で適当に甘やかしあいながら、好みの「真実」を垂れ流す。」
大「かみ合わないのにぶつからない「真実」の数々。誰も否定されないが故に誰も正しくない。」
ロ「ここでは淘汰も起こらない。世界は「真実」で飽和する。」
大「それが世界を終わらせるのだ。緩やかに。」
ロ「私達はそれを食い止めてあげようって言うの。」
大「我々には支配者としての責任があるからな。遺伝子と同じく、必要のない情報、記憶は淘汰されてこそ、種の進化を促進するのだ。」
雷「何が必要か、お前達が決めるっていうのか!?」
大「その通りだ。君達がひり出す糞の山から、我々が価値ある真実を選び取り、残すべき意味を紡いでやる。」
ロ「それがコンテクストの生成。」
雷「次の世代に伝えるものは自分で決める!」
大「それは君自身の言葉か?」
ロ「スネークさんが言ったことじゃないの?」
雷「………。」
大「ふふん。それが君の無能を表している。君に選択の自由を行使する資格はない。」
雷「違う!俺は自分で――」
ロ「「自分」なんてものが、あなたにあるの!?」
大「君が思ってる「自分」なぞ、せいぜい身を守るための言い訳に過ぎんのではないか?」
ロ「世間にあふれる出来合いの「真実」の中から、その時々に気持ち良く思えることをツギハギしただけ。」
大「あるいは、もっともらしい権威の下に身を寄せて手に入れたつもりになっている借り物か………。」
雷「違う!!」
大「うん?誰かにそう言ってもらいたいのか?良かろう。言ってやれ。」
ロ「あなたは立派よ、ジャック!自分を確立してるもの!!」
雷「くそっ………。」
大「どうした?迷ったのか?では「自分探し」でもしてみるか?」
ロ「何も見つからないと思うけど。」
大「だが、そうやって自分で作った「自分」にも関わらず、何か都合が悪いことが起きると、それを他の何かのせいにする。」
ロ「俺のせいじゃない。君のせいじゃない。」
大「そしてまた別の口当たりの良い「真実」を探して、そこに「癒し」を求める。」
ロ「今まで利用してきた「真実」をあっさり使い捨ててね。」
大「そんな君に真実が選べるのか?」
ロ「その自由を使う資格があるの?」
大「君は自由を食いつぶしている。」
ロ「あなたは自由に値しない。」
大「世界を逼塞させようとしているのは我々ではない。君達なのだよ。」
ロ「本来、個は弱いけど無力じゃない。むしろ世界を壊すほどに危険な存在なの。」
大「そしてデジタルのテクノロジーがさらに個を強くした。それは今の君達には過ぎた力だ。」
ロ「何を残すかは、何をしたいか、そのために何をするか、ということ。あなた達がする全てのことを私達が代わりに考えてあげる。」
大「我々は君達の保護者だからな。」
雷「人の思いと行動を管理しようと言うのか?」
大「そうだ。現代ではどんなものでも数値化できる。それを実証するための演習だった。」
ロ「だってジャックは作られた私を愛していたのよ。そうでしょ?」
大「オセロットにも全てを教えていた訳ではない。」
ロ「この国を支配する私達にとって、どんなに優秀でも1人の兵士なんて問題にはならない。」
大「S3計画とはSolid Snake Simulationの略ではないのだ。正しくはSelection for Societal Sanity………。君が経験したのはその有効性を実証するための最終試験だった。」
雷「そんな馬鹿な?」
大「ジョンソン大統領が言っていただろう?「G.W」 とアーセナルの完成はすなわち新しい支配の完成を意味する。この演習の目的はそのメソッドの確立だ。雷電、君を選んだのにも理由がある。ソリダスの育てたチャイルドソルジャーなら他にもいる。だが我々はあえて君を選んだ。なぜだかわかるか?」
雷「?」
大「君だけが自分の過去から目をそらしていたからだ。他の者は皆、それぞれ自分の過去に苦しんでいるというのに………。」
ロ「そう。あなたは見たくないもの全てに背を向けていた。自分のためだけに自分の見たいものだけを見て、したいことだけをしていた。」
大「そのあたりはローズ君が詳しいな。」
ロ「あなたは本当の私を見ようとしなかった。確かに私はウソをついてたわ。でも本当は気づいてほしかった。………だけどあなたは理解のある振りをして、物わかりが良い風を装って――自分から私に踏み込もうとしてはくれなかった………。私に踏み込むのは、私に追いつめられて、やむを得ずそうするときだけ………。」
雷「それは君を――」
ロ「傷つけたくなかったから?嘘!!あなたは自分が傷つきたくなかったのよ。「優しさ」をアリバイにしてにげてただけ………!………あなたはいつも自分を守ることしか頭になかった………。私のためとか言ってみても、本当に何かをしてくれる訳じゃない。結局、全部自分のため………私のことなんか………考えもしない………!」
大「はっはっは………そういうことだ。つまり君は、我々が保護すべき大衆のモデルケースとして、うってつけだったのだよ。だから君を選んだ。
事実、これまで君は我々の提供するフィクションを進んで受け入れ、指示を乞い、言われた通りに動いてくれた。演習は成功だ。」”

メタルギアソリッド2における作中の対話

文章はhttp://www.geocities.jp/triwingslc20/m_mgs.html から引用しました。