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【社会】<人質司法を考える>(下)3日で釈放「解雇免れた」 示談男性の弁護人「むやみな長期勾留家族壊す」「まさかすぐ釈放してもらえるとは…。逮捕されたときは本当に『人生終わった』と思いましたもん」 一昨年夏、泥酔した大阪市の三十代男性は、目を覚ますと留置場にいた。酔った状態で路上に止まっていた他人の車に乗り込み、強盗容疑で逮捕されていた。 留置場では「会社はクビやな」「妻と娘三人どう養っていこう」と絶望ばかり。だが、弁護人が「酔っていて被害者を覚えていない。働きかけの心配はなく、身柄拘束の必要はない」と勾留の取り消しを求め大阪地裁に準抗告。地裁は「証拠隠滅の可能性も逃亡の恐れも具体的にあるとは言えない」と請求を認め、逮捕から三日目に釈放された。 被害弁償で示談が成立し、起訴も見送られた。男性は「被害者には申し訳ないことをしたが、解雇されずに済んだ。元の生活に戻れてよかった」と話す。 「むやみな長期勾留は本人だけでなく、家族の人生も壊してしまう。早期に釈放されるべき事案は山ほどある」。こう強調するのは、男性の弁護人を務めた赤嶺雄大弁護士だ。 大阪弁護士会は昨年六~八月、勾留決定に対する準抗告を集中的に実施。少なくとも容疑者三十六人のうち二十四人の勾留が取り消された。赤嶺弁護士は「裁判所は常に、より慎重に判断してほしい」と求める。 とはいえ裁判所は近年、勾留に慎重な姿勢に傾いている。最高裁によると、勾留請求の却下率は二〇〇九年は1・2%だったが、一八年は5・9%と約五倍に。一審判決前に保釈された被告の割合も一八年、十年前の約二倍の33・3%に増えた。だが、認めている被告が初公判前に保釈された割合が一六年は22・6%だったのに対し、否認の被告は8・9%でしかない。 カルロス・ゴーン被告(65)が会長を務めたルノーのあるフランスでは、最長で四年八カ月間の身柄拘束が可能な「予審」という手続きがある。ただ、予審で拘束されるのは半数にとどまり、残りは一定の監視下で在宅のまま捜査を受ける。 南山大の末道康之教授(フランス法)は「容疑者をGPS付きの足輪で監視できるなど日本と制度は違うが、勾留はどうしても必要な場合に限られる。否認しているから勾留するというのは聞いたことがない」と話す。 日本の特捜事件では、所得税法違反罪で一〇年に起訴された弁護士は否認を続け、二年三カ月にわたり勾留された。一方、今年三月に法人税法違反罪で起訴された青汁販売会社社長は、税務調査での否認から一転、逮捕後に容疑を認め、起訴翌日に保釈された。 元東京高検検事の高井康行弁護士は「否認していると証拠隠滅の動機があるとして保釈が認められにくい。まさに人質司法で、『認めねば』と追い込まれる可能性がある」と指摘する。 元裁判官の木谷明弁護士は人質司法を「自白を取るための検察の武器」と批判した上で警告した。 「容疑者らにとって身柄拘束の制約は重く、解放してもらおうと虚偽の自白をしかねない。冤罪(えんざい)を防ぐためにも、拘束は最低限にとどめるべきだ」 (小野沢健太、山田雄之)
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