失言や暴言という生やさしい話ではない。「無知」に「無恥」を上塗りしたような前代未聞の発言だ。影響の大きさは計り知れない。

 北方4島ビザなし交流に参加した丸山穂高衆院議員が、国後島の宿舎で酒に酔い、元島民で交流訪問団長の大塚小弥太さんに、驚くような質問をぶつけた。少し長くなるが、主なやりとりを紹介する。

 丸山氏「団長は戦争でこの島を取り返すことは賛成ですか、反対ですか」

 団長「戦争で?」

 丸山氏「ロシアが混乱しているときに取り返すのはオッケーですか」

 団長「いや、戦争なんて言葉は使いたくないです。使いたくない」

 丸山氏「でも取り返せないですよね」

 団長「いや、戦争はすべきではない」

 丸山氏「戦争しないとどうしようもなくないですか」

 団長「いや、戦争は必要ないです」

 領土返還の手段として戦争を持ち出しているのは35歳の丸山氏である。ソ連軍の侵攻で島を脱出した89歳の大塚氏は「戦争はすべきではない」と繰り返していたという。

 ビザなし交流は、元島民の墓参やロシア人住民宅への訪問などを通して両国の信頼関係を築くのが目的だ。

 そのような場で戦争による解決を持ち出すこと自体、非常識極まりない。

 丸山氏は「顧問」という立場で同行しながら、大声で騒いで事務局から注意を受けるなど行動にも問題があった。

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 丸山氏は、所属する日本維新の会に離党届を提出したが、同党はこれを受理せず、除名処分とした。維新の会を含め与野党に議員辞職を求める声が広がっている。

 議員辞職は当然である。だが、1人の議員が責任を取って辞めれば済むような軽い話ではない。

 領土交渉に悪影響を与えるかもしれない。日本が掲げてきた「平和主義」に対し、国際社会から空洞化を懸念する声が上がることも予想される。

 実際、集団的自衛権の行使容認に象徴されるように、空洞化の動きは急速に進んでいる。国際社会に向かって、日本の「平和主義」をあらためてアピールするような取り組みが必要だ。

 憲法は戦争放棄を明文化し、国連憲章は自衛などの場合を除き、武力行使を禁じている。国際的な戦争違法化の流れや戦争による犠牲と破壊が背景にあることを思い起こしたい。

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 俳優の故菅原文太さんは2014年11月、那覇市で開かれた集会であいさつした。

 「政治の役割は二つあります。一つは国民を飢えさせないこと、安全な食べ物を食べさせること。もう一つは、これが最も大事です。絶対に戦争をしないこと」

 戦争体験者が引退するか世を去った時に、戦争に対する心理的な障壁が急速に薄らいでいくといわれる。

 体験の裏づけを持たない勇ましい言葉がかっ歩し始めるのは危険な兆候だ。退廃的な暴言の根は深い。