国会議員の口から許し難い暴言が飛び出した。北方領土へのビザなし交流訪問団に同行し国後島を訪れた日本維新の会(その後除名処分)の丸山穂高衆院議員(35)=大阪19区=が「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」と元島民の団長に質問していたのである。
丸山氏は「ロシアが混乱しているときに取り返すのはオッケーですか」「戦争しないとどうしようもなくないですか」と畳み掛けるように尋ねている。戦慄(せんりつ)を禁じ得ない。憲法の基本原理である平和主義を真っ向から否定する発言だからだ。
言うまでもなく、戦争の放棄を定めた憲法9条は、筆舌に尽くし難い惨禍をもたらした、去る大戦の反省から生まれたものだ。さらに、憲法99条は国会議員などが憲法を尊重し擁護する義務を負うと定めている。
戦争のない平和な社会を築くことは国会議員の最大の使命であるはずだ。丸山氏には、選良としての自覚と見識が欠けている。このまま議員にとどまれば、ロシアに対しても誤ったメッセージを与えかねない。暴言の責任を取って、直ちに辞職すべきである。
日中戦争から敗戦までの日本人の戦没者は310万人に達する。沖縄ではおびただしい数の一般住民を巻き込んだ地上戦が繰り広げられ12万2千人余の県出身者が亡くなった。戦争がもたらすものは地獄以外の何物でもない。一度でも、犠牲者の身になって考えたことがあるのだろうか。
丸山氏は酒に酔っていた。訪問団事務局が禁止しているのに外出しようとしたり、大声で騒いだりしたという。国会議員である以前に、社会人として失格だ。
帰任後、自身の発言について「団員それぞれにタブーなく考えを聞く中で、団長にも聞いた。それが最善とは全く思っていない。交渉の中でわが国の国益を勝ち取るのが当然の話だと思う」と釈明した。
問題化した13日の夜には「多くの方に不快な思いをさせ、おわびする。不適切な発言を撤回したい」と語った。だが翌日、自身のツイッターに「無所属にて活動する中で、残りの政策の実現に向けて一つ一つ前に進める」と投稿し、議員を続ける意向を示した。反省しているのだろうか。
北方領土のロシア人住民と日本人の元島民らが相互に往来する「ビザなし交流」は1992年に始まったものだ。丸山氏の言動は、互いの理解を深めるという交流の趣旨に反する。「信頼関係が壊された」「足を引っ張る人は来ないでほしい」と元島民が憤るのは当然だ。
丸山氏は衆院沖縄北方特別委員を務めている。国会議員が物見遊山的に訪問している実態がないか、この機会に検証する必要がある。
日本維新の会は丸山氏を除名処分にしたが、それだけで済む話だろうか。同氏を公認してきた責任は重い。