ユリ以上

各記事は非常にしばしば更新されます。

ウラジーミル・ナボコフ「文学講義」 こいつも誤訳とまではいえないが……

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この和訳を買ったところでやはり原文を読む必要がある。野島秀勝訳は悪くないが、いい反面教師にもなる。

Lectures on Literature
文学講義

literatureには可算名詞も不可算名詞もあるが、これはあくまで「文学」の講義であって、個々の文学作品を講義するのではない。

My course, among other things, is a kind of detective investigation of the mystery of literary structures.
なによりもまず、わたしの講義は、文学の構造の謎を一種探偵推理的に探索するものである。

「わたしの講義」も気になるが(コースじゃないの?)、literary structuresには「文学的な構造」という意味もあり、lliterature=literary structuresと洒落ているから、このlecturesもすなわち「文学的な構造」=literatureだとわかるので

In reading, one should notice and fondle details.
本を読むとき、なによりも細部に注意して、それを大事にしなくてはならない。

この本を読むときも細部に「注目」してfondle愛撫しなければならない。ナボコフは絵画のたとえを使っているから、読者もそうする必要がある。念のためにつけくわえておくと、ナボコフのreadingは音読であり、舌と口の感覚を愉しむものだ。

If one begins with a ready-made generalization, one begins at the wrong end and travels away from the book before one has started to understand it.
だが、既製の一般論からはじめるようなことがあれば、それは見当ちがいも甚だしく、本の理解がはじまるより先に、とんでもなく遠くの方にそれていってしまうことになる。

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「おれは本をわかりだしたと思ったら、いつのまにか間違えおわっていた」

ネットのレビューを先に読むのは言語道断である。 itはthe bookだけでなく、one begins at the wrong endを指してもいる。な…何を言っているのわからねーと思うが。beginsとendと(has) startedはちゃんと対応させて訳してほしいんですけどね…… 三回も出てくる主語oneを訳さなかったから、何がtravel awayするのかわからないし、だいたい、それたんじゃなくて180度逆を向いてますよ。the book before, that one has, started by one to understand itという、目の前の、その人が持っている本を読みはじめたというニュアンスも出してくださいね。

one begins with a ready-made generalization

ready/lady, generalization/generationと洒落て「出産経験のある-貴婦人とはじめたなら」あとこのthe bookはいきなりでてくるので聖書の意味もある。経産婦で筆おろしするのは聖書の教えに反するというわけ。語学の単位を教務課にもらった美少女♡の中学二年生レベルの訳

人が既成の一般性ではじめたなら、人は本の前に間違えおわってしまい、人はそれをわかりだすことなくどこかに行ってしまう。

ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」 誤訳ではないが……

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「ロー・リー・ター!!」

違法少女アイの話ですが、ごらんの有様なので、一部を伏せ字にしています。

原文を読まないと意味がないが、この本はその役には立つ。語学の単位を教務課にもらったた中学二年生の美少女♡の口♡♡♡では歯を立てない文語英文の一文目

Lolita, light of my life, fire of my loins.
ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。

から、単語の頭の、発音の似ているlとfを入れ替えてみると、意味ありげな

  • fight of my life 人生の戦い
  • fight of my fife ♡♡♡♡♡♡ス
  • fire in my foins突き ♡♡♡♡の炎
  • lireイタリア・リラ in my loins 自分の腰のところにある価値あるもの
  • lire in my foins 自分の♡♡♡♡における、価値あるもの

という句ができる。

My sin, my soul.
我が罪、我が魂。

も同様で、sight光景やsire種馬という単語ができる。さらに続く

Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo. Lee. Ta.
ロ・リー・タ。舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩めにそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。

から、Lo-lee-taが舌によるmy waltzワルツだとわかる。こちらの駄洒落からはwight妖精、wife妻、wireワイヤーという単語ができる。この文は二通りの意味にとれ、拍子も異なる。まず

Lo-li-ta, light of my life, fire of my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of (three steps down) the palate to tap, at three, on the teeth. Lo. Lee. Ta.

若島訳は"three steps down"を「三歩下がって」としたので、こちらの意味だけになった。もうひとつは

Lo-li-ta,
light of my life, / fire of my loins. / My sin, / my soul. / Lo-lee-ta:
the tip of-the tongue-taking
a trip of three steps / down the palate / to tap, / at three, / on the teeth.
Lo. Lee Ta.

3-3-2-2-3でより拍子のきれいな本命。「舌のtipが、上顎の下で、三ステップの旅をし、三歩目に歯の上でtapする」 tipには「先、チップ、コンと打つ、技」などという意味がある。こちらのdownには「下がる」という意味はない。「そっとpiano」するより、ここはむしろ、fight of my fifeやfire in my foinsから連想されるforteのほうがいける。ちなみに、ここまでの文章はto tap以外はすべて名詞句で、to tap the tipを核にしている。複数形のteethはひっかけ。
切り取りすぎた描写だが、読者が♡ight of my ♡ifeと♡ire in my ♡oinsを観賞する、「ロリータ」の性♡を理解する上で、たいへんだいじなところ。町山智浩氏によるとチャップリンがモデルになったそうですが、せいはんたいです。♡めてなかったり、♡えてなかったりだと、この行為は難しいかもしれない。

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その階段(ステップ)に足をかけるんじゃあねぇーーーッ!

ノリノリの美少女♡訳

ロリータ、我がこのひかり、我が腰のほむら。 我が罪、我が魂。ロ・リー・タは舌のさき。うわあごの一二としたのステップで、歯で打ち弾むは三歩目のたま。ロー・リー・ター。

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見滝原市の中学二年生の美少女♡の口♡♡♡が、文語英文の三拍子を七五調にしたわ

解説の大江健三郎によると、ロ↓リー↑タ↓と読んでいるうちはなにもわからなくて、Lo-lee-taロー・リー・ター!!(見「ろ」、湿っぽい陰「り」、ありが「た」う)を1000回くらい声に出せば天啓がある。

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じつは私も~1935年生まれということで、自分がロリータとつながっている事実をひそかに楽しんできた者だ。
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世界的に死刑廃止論が高まる中で、日本では未だに死刑にこだわる者が多い

ジョン・ヴァーリイ「プッシャー」 John Varley "The Pusher"

Not everyone was cut out to be an astrogator.
And what of it? It was honest work. He had made his choices long ago. You spent your life either pulling gees or pushing c. And when you got tired, you grabbed some z’s. If there was a pushers’ code, that was it.

push-yと♡♡♡♡♡では発音が違うので、pushing 光速cとで洒落ている。宇宙船には女がいないので、地球で♡♡♡♡の相手を探す♡♡♡♡♡-erがさも♡♡♡♡のように振る舞わざるをえない姿と悲哀がおかしい小品で、作者の好むハインラインの、「夏への扉The Door into Summer」のパロディ。It was honest work. 訳?知るか。

ジョン・ヴァーリイ「ブルー・シャンペン」 John Varley "Blue Champagne" 世紀の大誤訳ッス

(工事中)

ヴァーリイは修辞を駆使し、(差別的な)読者を罠にはめようとしている。浅倉久志訳は見事にひっかかった世紀の大誤訳。これが「世界が♡♡♡を見るまなざし」まさにこの作品が描いているとおりだ。テレビドラマになったらしいが……

「ブルー・シャンペン」 (1981)

マンハッタン・トランスファーManhattan Transferの同名の曲そのままの話。歌詞に"To toast the dream that was you"という句があるが、toastには「乾杯する、体を温める、評判の(美)人、意のままに操るhave someone on toast、終わったbe toast」という意味があり、to toast (the dream that was you)とも、to (toast the dream) that was youともパースできる。

冒頭の誤訳

冒頭第一文からすべての文が誤訳されている。

Megan Galloway arrived in the Bubble with a camera crew of three. With her breather and her sidekick she was the least naked nude woman any of the lifeguards had ever seen.
“I bet she’s carrying more hardware than any of her crew,” Glen said.
“Yeah, but it hardly shows, you know?”
Q. M. Cooper was thinking back as he watched her accept the traditional bulb of champagne. “Isn’t that some kind of record? Three people in her crew?”
“The President of Brazil brought twenty-nine people in with her,” Anna-Louise observed. “The King of England had twenty-five.”
“Yeah, but only one network pool camera.”
“So that’s the Golden Gypsy,” Leah said.
Anna-Louise snorted. “More like the Brass Transistor.”
They had all heard that one before, but laughed anyway. None of the lifeguards had much respect for Trans-sisters. Yet Cooper had to admit that in a profession which sought to standardize emotion, Galloway was the only one who was uniquely herself. The others were interchangeable as News Anchors.

浅倉訳

メガン・ギャロウェイは、三人の撮影班をひきつれて<バブル>へやってきた。補助呼吸装置とボディーガイドをつけた彼女は、全裸とはいえ、ヌードからはほど遠かった。プールの救助員たちも、こんなものを見るのははじめてだった。
「彼女、撮影班よりもハードウェアをごっそりかかえているぜ」とグレンがいった。
「ああ。だけどそうは見えないところがミソだ、ちがうか?」
Q・M・クーパーは、彼女がここの伝統の球形カプセルに入ったシャンペンを受けとるのをながめながら、昔を思いかえした。「ちょっとした記録じゃないかな?お付きが三人もいるってのは」
「ブラジル大統領はどう?彼女、二十九人もお供がいたわよ」アンナ=ルイーゼが答えた。「イギリス国王は二十五人」
「うん。だけど、ネットワーク・プールのカメラはたった一台だった」
「あれなの。黄金のジプシーって」リアがいった。
アンナ=ルイーゼが鼻を鳴らした。「どっちかっていうと、ブリキのトランジスターに近いんじゃない」
このジョークは何度もむしかえされたものだったが、それでもみんなが笑った。プールの救助員たちは、トランス・シスターズと呼ばれる体験テープのスターたちに、あまり敬意をはらっていないのだ。それでもクーパーは、感情を規格化するその業界で、ギャロウェイだけが独自の個性をたもっていることを、認めずにはいられなかった。ほかの連中は、ニュース解説者のように、互換性のあるやつばかりだ。

いちばん最初の文から最悪に間違っている 。

Megan Galloway arrived in the Bubble with a camera crew of three.
メガン・ギャロウェイは、三人の撮影班をひきつれて<バブル>へやってきた。

これは♡♡の撮影であり、メガンは「ひきつれられる」側。

With her breather and her sidekick she was the least naked nude woman any of the lifeguards had ever seen.
補助呼吸装置とボディーガイドをつけた彼女は、全裸とはいえ、ヌードからはほど遠かった。プールの救助員たちも、こんなものを見るのははじめてだった。

ボディーガイドは原文ではsidekickだが、これはa person closely associated with another as a subordinate or partnerという意味で、メガンはクーパーではなく義肢を選んだという意味が訳からは完全に抜ける。さらに「全裸」と「ヌード」が逆。義肢をつけているからleast nakedで、♡♡いからnude。

“I bet she’s carrying more hardware than any of her crew,” Glen said.
“Yeah, but it hardly shows, you know?”
「彼女、撮影班よりもハードウェアをごっそりかかえているぜ」とグレンがいった。
「ああ。だけどそうは見えないところがミソだ、ちがうか?」

彼らはメガンを生で見るのは初めてなので驚いている。"hardware"は、硬くて、ハード♡♡いwearとの洒落。

Q. M. Cooper was thinking back as he watched her accept the traditional bulb of champagne. “Isn’t that some kind of record? Three people in her crew?”
Q・M・クーパーは、彼女がここの伝統の球形カプセルに入ったシャンペンを受けとるのをながめながら、昔を思いかえした。「ちょっとした記録じゃないかな?お付きが三人もいるってのは」

例のプールと比べて「伝統的なシャンパングラス」という意味。クーパーは他の♡♡の撮影を見たことがあり、それと比べている。

“The President of Brazil brought twenty-nine people in with her,” Anna-Louise observed. “The King of England had twenty-five.”
「ブラジル大統領はどう?彼女、二十九人もお供がいたわよ」アンナ=ルイーゼが答えた。「イギリス国王は二十五人」

警察官のアンナ=ルイーゼは、警護したVIPのことを思い出した。お供の人数をいちいち数えていたのがおかしい。彼女は♡♡には興味がない。

“Yeah, but only one network pool camera.”
「うん。だけど、ネットワーク・プールのカメラはたった一台だった」

大統領や英国王のときはプールの監視カメラ以外のカメラはなかった。例のプールにはお忍びで来ていた。

“So that’s the Golden Gypsy,” Leah said.
「あれなの。黄金のジプシーって」リアがいった。

「あれなの。~って」と聞いているのではなく、そっちがウワサのメガン、あっちがウワサの「黄金のジプシー」と指さしていっている。

Anna-Louise snorted. “More like the Brass Transistor.”
アンナ=ルイーゼが鼻を鳴らした。「どっちかっていうと、ブリキのトランジスターに近いんじゃない」

「黄金のジプシー」にひっかけたジョークなので、「ブラス(黄銅)のトランジスター」。うまいこといったつもりが……

They had all heard that one before, but laughed anyway.
このジョークは何度もむしかえされたものだったが、それでもみんなが笑った。

むしかえしたのではなく、アンナ=ルイーズは有名なジョークを初めて自分で口にする機会ができた。

None of the lifeguards had much respect for Trans-sisters.
プールの救助員たちは、トランス・シスターズと呼ばれる体験テープのスターたちに、あまり敬意をはらっていないのだ。

この世界においてもトランシスターはスターではない。クーパーたちは「あまり」ではなく全く敬意を払っていない。「トランシスター」は♡♡♡♡trans できるア 修道女sisterとかけてある。

Yet Cooper had to admit that in a profession which sought to standardize emotion, Galloway was the only one who was uniquely herself.
それでもクーパーは、感情を規格化するその業界で、ギャロウェイだけが独自の個性をたもっていることを、認めずにはいられなかった。

「職業」トランシスターでも彼女は唯一無二の存在だったという意味。emotionでないところでuniquely herself、つまり♡♡♡。ここで、冒頭の"With her breather and her sidekick" は「彼女の(楽器の)ブラスとバンド仲間」の洒落だとわかる。ジャズのスタンダードナンバーをトランジスター(ラジオ)で聴くように、standard(ized) emotionをトランスするというイメージ。浅倉氏またすべる。

The others were interchangeable as News Anchors.
ほかの連中は、ニュース解説者のように、互換性のあるやつばかりだ。

「規格化」ときて「互換性」といいたかったのだろうが、すべったもいいところ。

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艦隊これくしょん」戦果報告

「ブルー・シャンペン」はカメラで始まりカメラで終わる小説だ。冒頭は、例のプールに♡♡の撮影のため裸で来ているが、義肢が邪魔でガウンも着せてもらえず見世物になっている、♡裸艦♡みたいなメガンの姿を描いている。彼女は撮影班を引き連れてやってきたのではなく、♡奴♡みたいに引き連れられており、アンナ=ルイーゼにブラジル大統領や英国王と比べられ嘲笑されている、極めて屈辱的な、♡♡♡♡♡でおなじみの場面。これは最後から二つ目の段落の"Megan's triumphant walk"と対応しており、彼女が義肢に♡♡♡ているイメージと、それを見ている世界のまなざしを決定づける。

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エイリアン2」のパワーローダー

浅倉訳ではパワーローダーのようにしか読めない。

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ACE BOOKS版の表紙

こちらではキスもできない。

美少女♡訳

メガン・ギャロウェイが三人のカメラクルーと<バブル>に到着した。ブリーザーとサイドキックのせいで、救助員はみな、こんなに裸から遠いヌードは見たことがなかった。
「おい見ろよ。あの女、カメラクルーよりもたくさんハード-ウェアをかかえてるぞ」とグレンがいった。
「ああ。ぜんぜんそうは見えんよな」
Q・M・クーパーは、彼女が伝統的な形のシャンパングラスを受け取るのを見ながら思い出した。「あれ記録じゃないか?クルーが三人っての」
「ブラジルの女大統領は二十九人連れていたわ」アンナ=ルイーゼはよく見ていた。「イギリス国王は二十五人」
「ああ。でもカメラはプールのネットカメラ一台だけだ」
「で、あれが『黄金のジプシー』」リアがいった。
アンナ=ルイーゼがフンと鼻を鳴らした。「というよりブラス(黄銅)のトランジスターね」
みんなが聞いたことのあるジョークだったが、またみんな笑った。トランシスターに敬意を払う救助員などいなかった。それでもクーパーは、感情を定番にしようとする仕事のなかで、ギャロウェイが、彼女自身が唯一無二であるただひとりの存在だと受け入れざるをえなかった。ほかの連中はニュースキャスターのように換えのきくものだった。

ラストの誤訳

最後から二つ目の段落、ヒロインが残していったビデオテープ(感覚まで再現するトランステープではない)を主人公が見ている場面。ここは冒頭の場面と対応している。

The tape she had left behind continued to haunt him. He had kept it, and viewed it when he felt strong enough. Again and again the girl in the wheezing sidekick walked across the room, her face set in determination. He remembered her feeling of triumph to be walking, even so awkwardly.
Gradually, he came to focus on the last few meters of the tape. The camera panned away from Megan and came to rest on the face of one of the nurses. There was an odd expression there, as subtle and elusive as the face of the Mona Lisa. He knew this was what Megan had wanted him to see, this was her last statement to him, her final plea for understanding. He willed himself to supply a trans-track for the nurse, to see with her eyes and feel with her skin. He could let no nuance escape him as he watched Megan’s triumphant walk, the thing the girl had worked so long and hard to achieve. And at last he was sure that what the woman was feeling was an uglier thing than mere pity. That was the image Megan had chosen to leave him with: the world looking at Megan Galloway. It was an image to which she would never return, no matter what the price.
In a year he allowed himself to view the visual part of the love tape. They had used an actor to stand in for him, re-playing the scene in the Bubble and in the steam-boat bed. He had to admit it: she had never lied to him. The man did not even resemble Cooper. No one would be studying his lovemaking.
It was some time later before he actually transed the tape again. It was both calming and sobering. He wondered what they could sell using this new commodity, and the thought frightened him as much as it had Anna-Louise. But he was probably the only spurned lover in history who knew, beyond a doubt, that she actually had loved him.
Surely that counted for something.

浅倉訳

彼女があとに残していったテープは、クーパーの心にとりついて離れなかった。彼はそれを捨てずにおいて、そうする元気があるときにだけそれを見た。ぜいぜい音を立てるボディーガイドに包まれた少女は、堅い決意に顔をひきしめて、何度も何度も部屋のなかを横切った。たとえどれほどぎこちなくても自分で歩けるようになった彼女の勝利感は、いまも思いだすことができた。
じょじょに彼の注意は、そのテープの最後の数メートルに集中するようになった。カメラはメガンからパンして、ひとりの看護婦の顔を映しだす。その顔には奇妙な表情がやどっていた。モナリザの顔のように微妙でとらえにくい表情。クーパーは、それこそメガンが彼に見せたかったもの、それこそ彼女のお別れの言葉、理解を求める最後のせつない訴えなのをさとった。彼は自分をはげまして、その看護婦の体験テープがどんなものかを想像しよう、彼女の目で見、彼女の肌で感じようとした。メガンの誇らしげな歩行、あれほど長く苦しい努力のすえに少女がやっとかちとったもの--それをながめている看護婦の表情から、どんなわずかなニュアンスも見逃すまいとした。そして、とうとうその女がどんなことを感じているか、確信を持つことができた。それはたんなる哀れみよりも、もっと不愉快なものだった。それなのだ、メガンが彼に残していくことにしたイメージは--世界がメガン・ギャロウェイを見る目。それは彼女がどんな犠牲をはらっても、二度とそこへ帰りたくないイメージなのだ。
一年がたつころには、彼もあの愛のテープのビジュアルな部分だけを見てやろうという気になった。彼の代役には俳優が使われ、<バブル>のなかや、汽船をかたどったベッドでのシーンを再現していた。彼も認めないわけにはいかなかった--彼女けっして嘘をついたわけじゃない。その男はクーパーに似ても似つかなかった。だれも彼の愛技をのぞいているわけではなかった。
それからしばらくのち、彼はそのテープを実際に体験してみた。それは怒りを静めると同時に、酔いをさましもしてくれた。彼は業界がこの新商品を使ってどんなものを売るのだろうかと考え、アンナ=ルイーゼとおなじように背筋が寒くなった。だが、おそらく彼は歴史はじまって以来のユニークな失恋男だともいえた。女から真実愛されていたことを、疑問の余地なく知っているのだから。
それがいくらかの慰めになるのは、たしかだった。

この部分もすべて誤訳。上から順に、

The tape she had left behind continued to haunt him. He had kept it, and viewed it when he felt strong enough.
彼女があとに残していったテープは、クーパーの心にとりついて離れなかった。彼はそれを捨てずにおいて、そうする元気があるときにだけそれを見た。

tapeにはto bondのイメージがある。「元気があるとき」ってなんだ、♡♡じゃあるまいに。ここは「耐えられるとき」

Again and again the girl in the wheezing sidekick walked across the room, her face set in determination.
ぜいぜい音を立てるボディーガイドに包まれた少女は、堅い決意に顔をひきしめて、何度も何度も部屋のなかを横切った。

「ぜいぜい」ってなんだ。パワーローダーみたいな昔の不格好な義肢がガチャガチャいっている。「決意をいだいて歩く」と「歩くたびに新たな決意をいだく」の二通りの意味がある。

He remembered her feeling of triumph to be walking, even so awkwardly.
たとえどれほどぎこちなくても自分で歩けるようになった彼女の勝利感は、いまも思いだすことができた。

「いま」ってなんだ。ここは

  1. He remembered (her feeling of triumph to be walking).
    彼は、彼女の、歩いていることの勝利感、を思い出した。
  2. He remembered her (feeling of triumph to be walking).
    彼は、彼女が歩いていることの勝利を感じていたこと、を思い出した。
  3. He remembered her feeling of triumph to be walking.
    彼は、彼女の勝利感が、歩きはじめたこと、を覚えた。
  4. He remembered her feeling of triumph to be walking.
    彼は、彼女が、勝利を感じながら、歩きはじめたことを、覚えた。

と4通りにパースできる。feeling of triumphはfeeling of triumph to be walkingを含む、もっと大きなもの。浅倉訳は1。evenも「でさえ」「いっそう」と真逆の意味を兼ねている。awkwardlyもawk-ward-lyと分解され「aukウミガラス」「(メガンの)病棟・監獄」「(クーパーの)監督」という意味もある。

Gradually, he came to focus on the last few meters of the tape. The camera panned away from Megan and came to rest on the face of one of the nurses. There was an odd expression there, as subtle and elusive as the face of the Mona Lisa.
じょじょに彼の注意は、そのテープの最後の数メートルに集中するようになった。カメラはメガンからパンして、ひとりの看護婦の顔を映しだす。その顔には奇妙な表情がやどっていた。モナリザの顔のように微妙でとらえにくい表情。

elusiveには「たくみに逃げを打つ」と「つかみどころのない」という意味があるが、ここは前者。おぞましい感情をモナリザのような微笑みでごまかしている。"the last few meters of the tape"は、ビデオテープの最後の数メートルと、メガンの歩みの最後の数メートルをかけている。

He knew this was what Megan had wanted him to see, this was her last statement to him, her final plea for understanding.
クーパーは、それこそメガンが彼に見せたかったもの、それこそ彼女のお別れの言葉、理解を求める最後のせつない訴えなのをさとった。

ここは裁判になぞらえている。"this was her last statement to him, her final plea for understanding"はメガンの最終陳述と最後の抗弁で、被告メガンが判事クーパーに証拠ビデオを見てくれと訴えている。これが小説最後の文のforgivenessにつながる。少し前の"set in determination"が判決determinationを連想させる。lastからは彼女の訴えはずっとそこにあったというニュアンスが読み取れ、statementには「貸借表」という意味もある。

He willed himself to supply a trans-track for the nurse, to see with her eyes and feel with her skin.
彼は自分をはげまして、その看護婦の体験テープがどんなものかを想像しよう、彼女の目で見、彼女の肌で感じようとした。

a trans-track for the nurseはメガンの無罪の証明the proof of Megan's innocenceで、それを自らが提出しようと決意した。

He could let no nuance escape him as he watched Megan’s triumphant walk, the thing the girl had worked so long and hard to achieve.
メガンの誇らしげな歩行、あれほど長く苦しい努力のすえに少女がやっとかちとったもの--それをながめている看護婦の表情から、どんなわずかなニュアンスも見逃すまいとした。

原文を読めば明らかだが、クーパーがニュアンスを逃すまいとしたのは「メガンの歩み」からであって、「看護婦の表情」からではない。ここも「見as he watched逃すescapeまい」と「見ることによってas he watched逃すescapeまい」

And at last he was sure that 
そして、とうとうその女がどんなことを感じているか、確信を持つことができた。それはたんなる哀れみよりも、もっと不愉快なものだった。

ナースもクーパーもメガンを見て「♡♡♡♡♡♡」と思った。uglierは絶対比較級で、thanは「よりも」ではなく「ではない」。作者の罠。the nurseをthe womanと言い換えthe girlと対比させている。

That was the image Megan had chosen to leave him with: the world looking at Megan Galloway. It was an image to which she would never return, no matter what the price.
それなのだ、メガンが彼に残していくことにしたイメージは--世界がメガン・ギャロウェイを見る目。それは彼女がどんな犠牲をはらっても、二度とそこへ帰りたくないイメージなのだ。

そもそもwould neverは「したくない」ではなく「絶対にしない」。この二つの文はthat/it, the image/an image, Megan had chosen to leave/she would never return to, the world/no matter, what/at, Megan Galloway/the priceという対応がある。また、メガンやクーパーはファーストネームで書かれるときはherself/himselfを、ファミリーネームではthe worldの住人を意味しているようだ。

In a year he allowed himself to view the visual part of the love tape.
一年がたつころには、彼もあの愛のテープのビジュアルな部分だけを見てやろうという気になった。

the love tapeは市販されたテープ。自分を許せなかったクーパーが、ようやく映像だけは見られるようになった。

They had used an actor to stand in for him, re-playing the scene in the Bubble and in the steam-boat bed.
彼の代役には俳優が使われ、<バブル>のなかや、汽船をかたどったベッドでのシーンを再現していた。

「汽船をかたどったベッド」ではなく、"the Mississippi Suite, the best in the hotel"のこと。

He had to admit it: she had never lied to him.
彼も認めないわけにはいかなかった--彼女けっして嘘をついたわけじゃない。

He had to admit itのitは冒頭の"Galloway was the only one who was uniquely herself."と対応しており、メガンの♡技であることにウソはなかった。

The man did not even resemble Cooper. No one would be studying his lovemaking.
の男はクーパーに似ても似つかなかった。だれも彼の愛技をのぞいているわけではなかった。

男優はクーパーの♡技をまねなかった。彼の♡技で、そんなものは誰も知りたくはない。

It was some time later before he actually transed the tape again. It was both calming and sobering.
それからしばらくのち、彼はそのテープを実際に体験してみた。それは怒りを静めると同時に、酔いをさましもしてくれた。

"he actually transed the tape"は次の"she actually had loved him"と対応していて、トランスすることと実際にすることになんの違いもないことを示唆している。ここが分岐点で、後者のitが指すものが

  • the tapeの人 → calmingでsoberingな現実的で演技的な恋へようこそ(浅倉訳はこちらだけ)
  • some timeの人 → excitingでdrunkenな真実の恋へようこそ

美少女♡はどちらもイケます。

He wondered what they could sell using this new commodity, and the thought frightened him as much as it had Anna-Louise.
彼は業界がこの新商品を使ってどんなものを売るのだろうかと考え、アンナ=ルイーゼとおなじように背筋が寒くなった。

ラブテープを体験し、次のことを理解した。

But he was probably the only spurned lover in history who knew,beyond a doubt, that she actually had loved him.
だが、おそらく彼は歴史はじまって以来のユニークな失恋男だともいえた。女から真実愛されていたことを、疑問の余地なく知ってるのだから。

"she actually had loved him"はshe actually (had loved) himとも、she actually had (loved him)ともパースでき、actuallyは「真実に」「現実的に」「演技act的uallyに」、lovedは「愛した」「♡♡♡♡した」という意味があるから、ぜんぶで12通りの組み合わせがある。また、"who knew, beyond a doubt, that~"はwho (knew, beyond a doubt,) that~とも、who knew, beyond (a doubt, that~)ともパースでき、「~だと、疑いの余地なく知っている人」と「~への疑いを越えたところで、知っている人」の二通りの意味がある。たまたま現実におきたことと、懐疑できない真実。裁判になぞらえた前の段落と、doubtが対応しており、「(guiltyな)世界」のwinではない、innocentなプリキメガンのtriumphを描いている。美少女♡は恋も知らないイノセントプリフィケーションな中学二年生です。そういやどっちもやりましたねアレ "the only spurned lover"は冒頭の"the only one who was uniquely herself"と対応しており、「自分を振った女の気持ちを本当に考え、真実を知った失恋男はクーパーが史上でただひとり」という意味。

Surely that counted for something.
それがいくらかの慰めになるのは、たしかだった。

その史上ただひとりの存在であることは、クーパーの♡技や、現実しか知らせないテープや、ぞっとする考えとは違って、いくらか値打ちがあるだろう、ということ。

美少女♡訳

彼女が去りぎわに残していったテープは彼の心を縛り続けた。彼はそれをずっと持っていて、耐えられそうなときにだけそれを見た。何度も何度も、ギーギーガーガーいうサイドキックに抱かれたその少女は部屋を横切って歩き、彼女の顔には決意があらわれた。彼は、彼女が勝利とともに歩きだそうとしていたことを理解した, evenでさえ/いっそう so awkwardlyぎこちなく / awk(aukウミガラス)-ward(メガンの病棟・監獄・クーパーの監督)-ly.
だんだん、彼はテープの最後、その数メートルに集中するようになった。カメラがメガンから離れ、ナースのひとりを映した。そこには奇妙な表情があった。モナリザのような、名状しがたい薄ら笑みだった。彼はこれこそがメガンが見せたかったもの、わかってくれという、彼女の最後の表明、最後の訴えだとわかった。彼はナースのトランストラックを自らが補い出そうと、彼女の目で見、肌で感じようと決めた。彼は、その少女が長く辛い努力の末に手に入れたもの、メガンの意気揚々とした歩みから、どんなニュアンスも見て逃せなかった。そしてついに彼は、その女が感じていたものが、たんなる同情ではないひどくおぞましいものだと、確信した。それが、メガン・ギャロウェイを見ている世界、メガンが残していく彼のために選んだ映像だった。それは、どんなに高くついても、そんなものでは彼女は決して戻らないと誓ったところのイメージだった。
一年ほどたって、彼は'ラブテープ'の映像部分だけを見ることを許せる気になった。彼の代わりは男優がつとめ、<バブル>と'外輪式蒸気船'のベッドの場面を再現した。彼は、彼女は本当にウソをつかなかったと受け入れざるをえなかった。その男はクーパーをまねようともしなかった。だれも彼の性技など研究したくなかった。
さらにたって、今度は彼は本当にテープにトランスした。気が静まり、落ち着きを取り戻していた。彼はこの新しい必需品が売ることができるものを考えて、ぞっとした。アンナ=ルイーズがそうしたように。しかし彼は、彼女は本当に彼をものにしたことを疑念なく知り信じた。それは失恋男では史上ただひとりだっただろう。
それにはきっといくらか値打ちはあったのだ。

最後の段落。

His hate died quickly. His hurt lasted much longer, but a day came when he could forgive her.,
Much later, he knew she had done nothing that needed his forgiveness.

浅倉訳

彼の憎しみは急速に消えていった。心の傷が癒えるにはもっと長くかかったが、とうとうある日、彼女を許せる気持ちになった。
ずっとあとになって、彼はさとった。もともと、彼女のしたことは、おれが許すも許さないもなかったのだ、と。

前の段落の"who knew, beyond a doubt, that she actually had loved him"を受けており、メガンはクーパーを傷つけるようなことはなにもしなかった、ということ。ラブテープも代役だし。最後の文も誤訳でした。

美少女♡訳

彼の憎しみはすぐに消え失せた。傷はもっと長くあったが、そのうち彼女を赦せるようになった。
もっとたって、彼女は彼の赦しがいるようなことはしなかったと知った。

"an uglier thing than mere pity"と"Megan's triumphant walk, the thing the girl had worked so long and hard to achive"という対比があったが、メガンのボディーガイドが故障した場面

She was still frozen like a frame from a violent film. Her legs worked and so did her right arm, but from her hips all the way up her back and down her left arm the sidekick had shorted out. It looked awfully uncomfortable. He asked if there was anything he could do.

から、an uglier thingはviolenceのことだとわかり、メガンはそれにtriumphしたという、 ♡♡♡は本当に♡♡いですね、というお話でした。

解説もゴミ

大野万紀氏の解説

ヴァーリイは、未来と人間に対する悲観と楽観を、障害のある者、差別される者、現実の社会にとけ込むことのできない者、いわば聖なる傷を負ったフリークたちを中心に描くことによって、ややグロテスクに表現している。

「聖なる傷」?休み休み言え。

劇場版魔法少女まどか☆マギカ 始まりの物語/永遠の物語 佐倉杏子編

(工事中)

テレビシリーズから何もかもが変えられた劇場版まどかマギカだが、佐倉杏子

変わった。杏子が登場する場面は大半がそのまま、あるいは微修正だが、文脈が大きく変えられているため解釈がまったく違ってくる。最大の変更はさやかの魔女戦で、とくに以下の場面AとB。

場面A さやかの魔女に一方的に攻撃される杏子

杏子「はっ、いつぞやのお返しかい?」
杏子「そういえばあたしたち、最初は殺し合う仲だったっけね」
杏子「生ぬるいって」
杏子「あのとき、あたしがもっとぶちのめしても、あんたは立ち上がってきたじゃんかよ」

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TS.A1 【テレビシリーズ】
黒い背景に青いさやかの影が入り、さらに赤い杏子の影が入り混ざり合うが、さやかが消えてしまう

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MP.A1 【劇場版】
映画のフィルムのようなものに杏子とさやかの過去の場面が映し出される

テレビシリーズでは孤独なさやかを杏子が慈しむが、彼女が(魔女化して)消えてしまったことをイメージさせる。劇場版は杏子とさやかの場面のプレイバックであり、解釈は自由になった。 作品全体にわたり、テレビシリーズでは杏子がさやかの王子様であるという文脈が成立するが、劇場版の文脈はそれ以外のものになる。

杏子「怒ってんだろ、何もかも許せないんだろ」
杏子「わかるよ」
杏子「それで気が済んだら、目ぇ覚ましなよ」

さやかと出会った頃の杏子の14の夜の心境でもある。

場面B 杏子とほむらの最後の会話

セリフはテレビシリーズと劇場版で変わらないが、カットの追加と変更で杏子の一番大切な人はさやかではなくほむらであることが明らかにされている。杏子のシャッターが心情表現に大きな役割を果たしている。

まずテレビシリーズから。

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TS.B1 【テレビシリーズ】
杏子「その子を頼む」 「あたしのバカにつき合わしちまった」

モンキーダンスを踊るさやかの魔女に向かう杏子。

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TS.B2 【テレビシリーズ】
杏子「足手まといは連れたまま戦わない主義だろ」

杏子はほむらに向き直り、シャッターを一瞬で降ろしてからセリフに入る。画面奥から魔女、杏子、シャッター、ほむら(とまどか)であり、魔女と杏子、ほむらとまどかが同じ側におり、杏子とほむらが隔てられている。したがって「足手まとい」は手負いの杏子のことだと見て取れる。

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TS.B2.1 【テレビシリーズ】
杏子「いいんだよ。それが正解さ」

シャッター越しの会話。杏子、やや拗ねた感じで左を向く。淋しそうな印象で、本当は「それが正解ではないといいのに」と言いたげ。

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TS.B3 【テレビシリーズ】
杏子「ただ一つだけ」「ただ一つだけ、守りたいものを最後まで守り通せばいい」

杏子のセリフの前にほむらがうつむき、うなだれて聞いている。ほむらも「それが正解ではない」と思っている。

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TS.B4 【テレビシリーズ】
杏子「あはっ」「なんだかな……あたしだって今までずっとそうしてきたはずだったのに」

TS.B3と同じく、杏子は今度は右を向いて話している。顔の向きを変えるとき、すなわちTS.B3ではほむらの顔を見ており、彼女たちは目を反らしあっているいることが見て取れる。こちらも淋しそうな感じで、「~そうしてきたはずだったのに(、できなかった)」と言いたげ。杏子がさやかを守れなかったこと。

次は劇場版。

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MP.B1 【劇場版】
杏子「その子を頼む」「あたしのバカにつき合わしちまった」

テレビシリーズTS.B1に比べて劇場版では杏子が小さく、さやかとの距離が感じられる 。

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MP.B2 【劇場版】
杏子「足手まといは連れたまま戦わない主義だろ」

劇場版の追加カット。杏子の視線が下に寄っており、彼女はまどかを一瞥している。劇場版では「足手まとい」はまどかのこと

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MP.B3 【劇場版】
杏子「いいんだよ。それが正解さ」

劇場版では杏子とほむらは向き合って話しているから、「それが正解さ」はそのままの意味で、「ほむらは足手まといのまどかを連れて逃げるのが正解」という合意がある。

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MP.B4【劇場版】

杏子が魔女に向き直り、シャッターを降ろし始める。

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MP.B5 【劇場版】

画面手前から、(魔女、杏子)、シャッター、ほむらとまどか。

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MP.B6 【劇場版】
杏子「ただ一つだけ」

劇場版の追加カット。ここでは杏子の口元を映し、かつ目を隠しているが、頬は真っ赤。セリフを言い終わったタイミングでシャッターが降り切る。

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MP.B7 【劇場版】
杏子「ただ一つだけ、守りたいものを」

テレビシリーズTS.B3と違い、ほむらは始めは杏子の方を向いている。MP.B6とあわせて、杏子とほむらが見つめあっていることがわかる。前のカットで杏子の視線を隠したことで、彼女にとってほむらが特別に重要な存在であることを描いている。ほむらは杏子のことばを甘え気味のトロ目で神妙に聞いている。

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MP.B7.1 【劇場版】
杏子「最後まで守り通せばいい」

うなだれた表情のテレビシリーズTS.B3と違い、まどかの顔をのぞきこむようになった。MP.B3の合意「足手まといのまどかを連れて逃げるのが正解」とMP.B7のトロ顔から、ほむらの「守りたいもの」はまどかではなく、彼女を疎ましく思っていることが推察される。

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MP.B8 【劇場版】
杏子「あはっ」「なんだかな……あたしだって今までずっとそうしてきたはずだったのに」

テレビシリーズTS.B4と違い、杏子はほむらのほうを向いている。劇場版では「~そうしてきたはずだったのに(、今まで気がつかなかった)」という意味。杏子はこの場面ではじめてほむらへの想いを自覚した

以下、テレビシリーズと劇場版でほぼ同じだが、劇場版では杏子が跪くカットが3つ追加されている。

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TS.B9 【テレビシリーズ】
杏子「行きな」

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TS.B10 【テレビシリーズ】

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MP.B9 【劇場版】
杏子「行きな」

杏子とほむらを隔てる巨大な壁。

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MP.B10 【劇場版】

シャッターは大きいだけでなく、劇場版は密度も高い。

テッド・チャン「バビロンの塔」も誤訳ッス

円筒印章は古代バビロニアで使われていたハンコだが、神様もハンコを使っており、それを押して天地創造し、また人と契約した、という話。

And then it came to him: a seal cylinder. When rolled upon a tablet of soft clay, the carved cylinder left an imprint that formed a picture. Two figures might appear at opposite ends of the tablet, though they stood side by side on the surface of the cylinder.
少し後で
Centuries of their labor would not reveal to them any more of Creation than they already knew.

the carved cylinder left ~と定冠詞がついていて過去形だから、彼が思い出した円筒印章そのものが実際に印影を残している。そういや(この世界の)聖書の天地創造にそんなことが書いてあったな、というわけ。バビロンの人たちは不信心なので忘れていた。比喩と解釈すると、天と地がつながっていることが天地創造についての新発見になってしまう。

「理解」もそうだがテッド・チャンは宗教的ジョークを埋め込むトリックを好むようだ。
浅倉訳は「だが、そこである考えがうかんだ ─ ─ そうか、円筒印章 だ。軟らかな粘土板の上で彫刻された円筒をころがすと、円筒がそこに残した跡はひとつの絵になる。粘土板の上では、ふたりの人物がその両端にいるように見えても、円筒の表面では横にくっつい て並んでいる。」と冠詞も時制も保存できておらず、比喩としか読めないので残念ながら誤訳。ハンコの話なのにfigureをなぜか人物と訳したのは、アニメフィギュアのご趣味がおありですね?