提督の憂鬱   作:sognathus
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本部の武蔵があの反応なら、提督の所の武蔵はどうでしょう?

提督の基地でも武蔵の船体が見つかった事はニュースで流れており、それを知った提督は武蔵に教えます。
さて彼女の反応は……。


第×36話 「発見2(大佐のとこの武蔵の場合)」

「武蔵、お前の当時の船体が見つかったらしいぞ」

 

「んむ?」

 

「米国の資産家がフィリピン沖で見つけたらしい」

 

「へぇ……」

 

自分の船体が見つかったという割には武蔵は気のない返事をした。

その顔もどこか他人事のように真顔だ。

提督はその反応を意外に思い彼女に訊いた。

 

「意外に反応が薄いんだな。特に感じ入る事はないか?」

 

「んー……確かに半世紀以上の時を経てまた世に知られる事は感慨深いとは思うんだが」

 

「どうした?」

 

「いや、何分昔の事だからな。それに当時私に乗艦していた幾千もの将兵たちの事を思うと、その船体は墓標の様なものだろう? 彼らの鎮魂の為にもそのまま触れずに置いてくれていた方がいいかな、とな」

 

「……なるほどな、至極理解できる」

 

「今はどういう状況なんだ?」

 

「発見後の動向についてか? フィリピンと日本の政府が協議するかもしれないな」

 

「まさか引き上げ……いや、それは流石にないか」

 

「艦にまだ無傷の重油が残っていないとも言い切れないからな。環境や遺族の意向なども考えると引き上げはまずないだろう」

 

「そっか、ならいいんだ」

 

「……」

 

「ん? どうした?」

 

武蔵は自分事を見つめる提督の視線に気付いた。

 

「いや、さっき抱いた印象と重複するが、意外に大人しいんだな、とな」

 

「おいおい、私はそんなに感情的に見えるか?」

 

「そうは言わないが」

 

「ふふっ、まぁ或いは他の基地や鎮守府の私なら違った反応があったかもしれないが、ここでの私はこの通りだ。それにな、一応さっき言った事以外にも大人しい理由はあるんだぞ」

 

「なんだ?」

 

「私がこの基地の仲間と大佐の事を滅法好いているからだ。この心地良さ、当時の記憶を思い出して感傷に浸るに勝る」

 

「ん……」

 

「なぁ大佐」

 

自分の言葉に口をつぐんで納得した顔をする提督に、武蔵はそっと身を乗り出して甘えるような声で言った。

 

「うん?」

 

「撫でてくれ」

 

「どうした急に」

 

「いや、さっき自分で心地良いとか言ったら大佐に甘えて……構って欲しくなった」スリスリ

 

「……」

 

突然自分の胸に頬ずりを始めた武蔵を、提督は注意するでもなく何やら微妙な表情をして眺める。

その生暖かいとも言える視線に武蔵は悪戯っぽく笑いながら訊く。

 

「もしかして今ちょっと犬っぽいとか思ったか?」

 

「いや……」

 

「いいんだ。大佐の前では、私は従順で大人しい女であり、犬で構わない」

 

「……」(それってメス犬……)

 

「お? もしかして野生に還ってもいいのか?」

 

上着を抜いて上半身をさらしだけの格好になろうとする武蔵を提督は直ぐに止めた。

 

「人の思考を読むな。いいわけないだろう、仕事中だ」

 

「じゃ、撫でてくれ。まだしてもらってない」

 

「……ほら」ナデナデ

 

「んー……♪」

 

「もういいか?」

 

「いや、今度は頬とか顎を撫でて」

 

「おい、それもう犬みたいじゃなくて犬と同じ扱いだぞ」

 

「今はそういう気分なんだ。そう扱われても悪い気はしない。なぁ早く」

 

「いや、だから仕事……」

 

「私が見つかった記念日という事でひとつ」

 

「そうきたか。よく口が回る」

 

「……舌も回したいな」

 

武蔵はそう言って小さな舌をチロリと出した。

どうやら目の前の犬はスキンシップとして接吻を求めている様だった。

 

「駄目だ」

 

「むぅ、ケチ」

 

「だらしない顔してるぞ。自制できないならこれ以上はしてやらん」

 

「む、それは困る。分かったこれで最後でいいから早く頬とか顎も」ズイ

 

「……ちゃんと仕事しろよ」ナデナデ

 

「ふ……あぅ……んん……♪」ポー

 

「……これでいいか?」

 

「え? ああ、うん」

 

「後は昼まで我慢しろ」

 

「なにっ、昼になったら続きをしてくれるのか?」

 

「飯まで我慢しろって事だ。飯を食ったら眠くなるだろう? 特別にそこのソファーで寝る事を許可してやる」

 

「待て、食ったら寝るってそれ犬だぞ? 猫だぞ? 豚だぞ?」

 

「豚と言うほど太ってもいないし、猫と言うほど小さくもないじゃないか。ならやっぱり……」

 

「私はシェパードかハスキーがいいな」

 

犬として扱われるなら自分好みの犬種で、という事なのだろう。

武蔵は自分から希望の犬種を提案した。

だが提督は、そこで敢えて彼女のその希望を逆手に取り、心理戦に持ち込むことによって仕事を進める計画に出た。

 

「……ここは間を取ってチワワだな」

 

「なんでそうなる!? それ、間を取るどころか完全に通り過ぎて小型じゃないか!?」

 

「仕事中にこんなに甘える犬が軍用犬や狼犬なわけないだろう。明らかに室内犬だ」

 

「なぁ!?」

 

「勘に障ったか? ならそうじゃない事を今から証明してもらおうか」

 

「む……上手く誘導するものだ。ふふ、いいだろう、武蔵の力とくと見せてやろうじゃないか」

 

「何海の方を見ながら言っているんだ。お前が力を見せるのは白い海だ。ほら、早くこの紙の波を何とかしろ」

 

「はぁ、書類仕事は苦手だ……」

 

「なら大和に代わるか?」

 

「やる!」

 

「その意気だ。頼むぞ」

 

提督は犬の様に態度をコロコロ変える武蔵を内心面白く思いながら、仕事に集中し始めた彼女に期待の言葉を掛けた。




何故本部と提督のところの武蔵は反応が違うのか?
多分本部の方の武蔵は他の武蔵の元となっているオリジナルなので、戦艦武蔵としての自覚と自負心が複製された武蔵と比べて強い所為かもしれません。
まぁ、一番の原因はやっぱり上司の影響でしょうが。
彼女も真面目な性格ですが、やっぱり女性同士という事もあって少しじゃれ癖が強いのだと思います。
一方提督の方の武蔵も甘えん坊ですが、提督の性格が真面目だという事も併せて異性同士という事もあってその辺のメリハリがしっかりしているのかも。


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