提督の憂鬱   作:sognathus
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なんか戦艦武蔵の当時の船体が海底で見つかったようです。
その事を知った海軍本部の少将こと彼女は、面白半分で早速武蔵に教えました。


第×35話 「発見」

「武蔵、あなたの船体が見つかったってニュースになってるわよ」

 

「なに?」

 

「フィリピンの方で見つかったんだって。ほら今丁度ニュースでやってるわよ」

 

「ほえぇ、頼みもしないのによく見つけるもんじゃのぉ」

 

「あ、中将殿」

 

「武蔵が見つかったって?」

 

「はい。それを今丁度テレビで放送しているようなので……あ、武蔵、出たわよ」

 

「ほう、傷だらけの私の体を見てさぞや当時の私の勇士に驚いているだろうな。どれ……」

 

武蔵はまんざらでもない顔でその事を放映中と思われるテレビの音に耳を傾け、映像を覗き込んだ。

 

 

『このバルブは何ですか?』

 

女性リポーターが一緒に出演してる専門家に、海底の船体の一部の画像を見ながら質問した。

 

『船内にあったと思われる物ですね。これが外に出てるという事は受けた攻撃の凄まじい衝撃がよく解りますね』

 

武蔵はテレビに映った無残に放り出されたかつての自分の一部を見て言葉を失った。

 

「 」

 

『なるほどぉ。あ、この大きな穴は……?』

 

『それは第一主砲があったと思われる個所だと思われます。これはその跡ですね』

 

『あ、これは船首ですね。菊花紋は……』

 

『外れてますね』

 

「……」ヒクヒク

 

立て続けに流れる残骸の映像とそのリポートに武蔵は顔を引きつらせて黙って眺めていた。

 

 

「あ、何処に行くの?」

 

放送が終わって間もなく、踵を返して部屋を出て行こうとした武蔵に彼女が気付いた。

 

「……ちょっと元帥殿の所に」ムスッ

 

「あなたが? 珍しいわね」

 

「……ちょっとな。すぐ戻る」

 

 

コンコン

 

「ん? 誰だね?」

 

『武蔵です。元帥殿、今宜しいでしょうか?』

 

「武蔵? ああ、構わないよ。入りなさい」

 

ガチャ

 

「失礼します」

 

「おや? 君一人なのか、珍しいね。何か用かな?」

 

珍しそうにしながらも柔らかい笑顔で自分を迎えた元帥に、武蔵は真面目な顔で切り出した。

 

「単刀直入に申し上げます。一つ元帥殿にお願いしたい儀があって参りました」

 

「ふむ? 何かな?」

 

「総帥殿に会わせてください」

 

「……」スッ

 

武蔵の申し出を不躾だと判断した紀伊が厳しい顔をして武蔵の前に出ようとしたが、元帥がそれをやんわりと止めた。

 

「紀伊、いい、大丈夫だ。こほん、悪いね。それで、総帥に? それはまた急だね。理由は何かな?」

 

「元帥殿は最近、海外で私の当時の船体が見つかったという情報をご存知ですか?」

 

「ああ、知ってるよ。いやぁ、今になって見つかるとはね。それも戦後70年の節目に……。何か感じ入るものがあるね」

 

「確かにそれは私も思います。ですが私は、その事で少し気になった事がありまして」

 

「ふむ?」

 

「先程私はテレビでその様を見たのですが」

 

「うん」

 

「発見者が公開した動画に悪意を感じました」

 

「えっ」

 

「……」

 

予想もしない武蔵の言葉に元帥は目を丸くして彼女を見つめる。

対する武蔵は真面目な表情のままだ。

あくまで本気らしい。

そして先程元帥に止められた紀伊は一層武蔵を見る視線を厳しくした。

 

「何なのですかあの動画は。艦の全体像を移さずにあんな局所的な損傷個所ばかり映しては、帝国海軍の威信を傷つけているのと同じです。映すなら傷だらけの雄々しい艦全体にすべきです」

 

「え、いや。君は当時相当な規模の攻撃を受けて沈没したのだろう? なら艦だってまともな状態でないのは仕方ないんじゃないかな」

 

武蔵のそんな持論に元帥は少し動揺しながらも律儀に応対する。

 

「だとしたら文字だけでそれを伝えて、当時の映像資料を使うなりして感動的な演出を図れば良かったではありませんか」

 

「いや、それは流石にねつ造になりかねないから無理だろう……。大体発見したのは我々ではないし、軍事国家ではないのだからその発見に君の様な観点から口を出すわけにもいかんだろう」

 

「それは承知しています。ですから今回は、その……こ、個人的なレベルで総帥殿には、発見した国に対して苦情とか……」

 

自分の最終的な願いの無謀さに気付いたのだろう。

話が核心に近づくにつれて言葉がどんどん尻すぼみになる。

 

「それはアメリカ政府に直接、という事かね」

 

「武蔵、貴女いい加減にしてください。自分が何を言っているのか解っているのですか? 子供じゃないのだから身をちゃんと弁えてください」

 

武蔵の無謀な訴えについに我慢できなくなった紀伊が、珍しく怒りの感情を顔に出して彼女を注意する。

 

「き、紀伊! と、年上に対してその言い方はなんだ!」

 

「紀伊、いい。私から言うから」

 

「閣下……」

 

「紀伊」

 

「……はい」

 

優しくもはっきりとした元帥の窘める言葉に、紀伊は不詳不詳といった態度で大人しく引き下がる。

彼はそれを確認すると佇まいを正して改めて武蔵の方を見ながら口を開いた。

 

「君の気持ちは解るよ? でもね、先ず君が総帥に面会したいと願い出た事だが、それが容易ではない事くらい判るだろう?」

 

「そ、それは……ですから元帥殿にお願いを……」

 

「うん、それは間違ってはないね。でもね、そういう重要なお願いなら君の司令官である少将に先ず願い出るのが筋というものじゃないのかね?」

 

「う……」

 

「例え本部の司令官直属の部下とはいえ、艦娘である君の一存で総帥に会おうなどという願いは先ず叶わない。それは解っているね?」

 

「はい……」

 

「まぁそこは、元帥である私にまでは君を含めて一部の専属艦にのみ、直接意見する権利を認められているという優遇で我慢してもらうとして」

 

「はい……」

 

「だけどね、あんまり感情だけで動いては君の上司である少将に迷惑が掛かってしまうぞ? 彼女に迷惑は掛けたくはないだろう?」

 

「う……は、はい……」

 

「うん、分かってくれたかな。では、今回の件については」

 

「はい、すいませんでした」

 

武蔵は元帥に諭されて反省したようで、シュンとした顔ですごすごとその場を立ち去ろうとした。

元帥はまだ話の続きがあるのか、後ろを向き始めた彼女を慌てた様子で止めた。

 

「ああいや、まぁ総帥に会わせることは無理だが、その願い、一部だけだが叶えてあげよう」

 

「え!?」

 

「閣下……?」

 

武蔵と紀伊は揃って目を丸くして驚いた顔をする。

しかしその心境は二人とも違うので紀伊は元帥の言葉に不安そうな顔をする。

対して武蔵は目を輝かせて元帥の前に進み出る。

 

「そ、それは本当ですか!?」

 

「うん、まぁ。取り敢えず君は発見者か、その彼の国であるアメリカに文句が言いたいのだろう?」

 

「は、はい!」

 

「ならその点だけ私になりに叶えてあげよう。幸いあっちの軍関係者に私の親しい知り合いがいてね。彼にちょっと連絡を取ってみよう」

 

「ぜ、是非お願いします!」

 

「あの……本当に大丈夫ですか?」ヒソ

 

「なに、心配はいらんよ。まぁその結果が彼女の満足いくものになるものかは分からないがね」ヒソ

 

「え……?」

 

 

「あー、君かな? あ、 sorry. eng...... え? 日本語で? ああ、ありがとう。実は君にちょっと頼みが……」

 

元帥は武蔵に提案してから直ぐにその知り合いに電話を掛け、軽く挨拶を済ませると早速本題に入り始めた。

 

 

「……武蔵、待たせたね。電話に出てくれるかな?」

 

「あ、はい! あの、電話の相手は? 私英語はあまり……」

 

「それは大丈夫だよ。彼女は一時期ここに研修に来てた事があってね。その事もあって日本語はそれなりに堪能だよ」

 

「彼女?」

 

「まぁ出てみれば分かるよ」

 

「は、はぁ……。ああ、もしも――」

 

『faaaaaaaaaaaack!!』

 

「!?」

 

武蔵が電話に出た瞬間、電話口からいきなり英語の暴言が響く。

彼女はわけがわからずその大声から耳を咄嗟に守る事しか出来なかった。

だが、電話口の相手はそんな事をお構いなしに立て続けに喋ってきた。

 

『てめぇがムサシか!? 今日はまぁ随分図々しい話があるみたいだな!』

 

「な、なんだ貴様は!? 初対面から失礼な!」

 

『顔なんて見えてねーじゃねーか! まぁどんな顔してるかは簡単に想像付くけどよ。きっとキャンキャン吠えてやかましい犬っころみたいな面してるんだろーな』

 

「い、犬だと!? 貴様今私の事を犬だと言ったか!?」

 

『どう聞いたって犬っころじゃねーか。キャンキャン喚いてうるせーんだよチワワが!』

 

「ち、チワ……」プルプル

 

どっちかというと大型犬が好きな武蔵は、自分の事を室内犬で可愛らしい外見のチワワと形容する相手に怒り、受話器を持つ手を震わせる。

 

『お? 傷ついたか? 泣くか?』ニヤニヤ

 

「大人しく聞いていれば貴様……お前は何者だ!? 先ず名を名乗らないか!」

 

『ああ? そういえば名前言ってなかったな。俺は戦艦ニュージャージーだ』

 

「なっ……なに?」

 

聞き覚えのある名前に武蔵はハッとした顔をする。

 

『アメリカの艦娘だよ。戦艦ニュージャージー、分かるか? 分かるよな? だってあんとき俺もお前もいたんだからな』

 

「き、貴様……よくもぬけぬけと」

 

『もう戦争してねぇのにいちいちちっせぇ事言うんじゃねーよ。だからチワワなんだよおめーは』

 

「ああ! ま、またチワワと言ったな!?」

 

『うっせーなぁ、えーとなんだっけ。ああ、うちがお前をボコボコにした事に文句があるんだっけ?』

 

「な、なんだと! 私はお前なんかに負けていない!」

 

『はぁ? 負けただろうが、俺たちに』

 

「私は認めん!」

 

『まぁその気持ちも解るけどよ。つーか、その事についてはこっちも文句あるんだぜ?』

 

「何……? 勝ったお前たちが私に何の文句があるんと言うんだ。寄ってたかって私に集中攻撃したくせに」

 

『それだよ。あの時な、おめー沈めるのに俺たちがどれだけ苦労したと思ってんだ。あれだけボコボコにしてやったのにちんたら沈みやがってよ。おまけにその状態で反撃までしてきやがって化物かよ」

 

「はぁ!? 攻撃に対して反撃するのは当然だろう! 大体沈むのが遅かったと言うが、あれはお前たちの攻撃が稚拙だっただけだろう!」

 

『何言ってんだよ、普通あれだけ蜂の巣にされりゃ機関部が爆発するか、浸水で直ぐに沈むっつーの。なのに浸水してもなんか沈むのがおせーし、装甲は馬鹿の一つ覚えみたいに厚いしよ。全くこっちの苦労も考えやがれ!』

 

「それは我が国の技術が優れていた証拠だろうが! 大体あの時に大和型がもっと揃っていればお前たちになぞ負けなかったわ!」

 

『資源貧国がナマ言ってんじゃねーよ! 大体航空火力も重視されていたあの時にまだ大艦巨砲とか時代遅れだっつーの』

 

「それは輸出を止めたお前の所為だろうが!」

 

『敵国に資源輸出する馬鹿がいるかよ! 馬鹿だろおめー、馬鹿だろ!』

 

ギャーギャー!

 

 

「……」

 

電話で喧嘩を始めた武蔵の様子を元帥は苦笑して見ていた。

部屋にその大音声に紀伊は溜息を付きながら、同じく苦笑しながら元帥を見て言った。

 

「閣下、お見事です」

 

「ん? はは、まぁこれで武蔵も少しは気が晴れるんじゃないかな」

 

元帥は時を超えてかつての敵と闘いを始めた武蔵を面白そうに見つめながら言った。




アメリカの艦娘って出るんですかね。
暫くはドイツ勢が続くのでしょうが何れもしかしたら? なんて思ってます。

武蔵のニュースを見た時は驚きました。
何故ならとっくに見つかっていたと思っていたのでw
しかし大和と違って武蔵は更に深いところに沈んでるみたいですね。
これは今の艦の状態がどうなっているのか調べるのは難しいかな。


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