イランが核の軍事転用を防ぐための合意履行の一部停止を表明した。故なく合意をほごにし、イランを追い詰めた米トランプ政権の責任は大きい。合意を守るため、国際社会は全力を挙げるべきだ。
イランのロウハニ大統領は、濃縮ウラン貯蔵量の制限は順守せず、今後六十日間の交渉で進展がなければ、濃縮度の高いウランを製造すると表明した。
イランは、米英仏独ロ中の六カ国と二〇一五年七月、核開発の制限に合意し、核兵器に利用可能な開発の脅威はなくなったはずだった。
先に合意を破ったのはトランプ大統領だ。一年前、合意離脱を表明し制裁を再発動、今月二日にはイラン産原油を全面禁輸にした。
イランを敵視するイスラエルやサウジアラビアに肩入れするバランスを欠いた外交だ。
穏健派のロウハニ政権は核合意の見返りの制裁解除で投資を呼び込み、経済成長を図ろうとした。しかし、制裁で外国企業は撤退、経済は悪化し、国内の不満は高まっている。反米強硬派の勢いは強まり、対抗策に踏み切った。
核合意を守りたい英独仏は、イランとの貿易継続のための決済組織を設立したが、米国の圧力を恐れる企業の尻込みもあり、活用は進んでいない。
仮に、核合意が崩壊すれば、もはやブレーキはなくなり、米国と軍事衝突する恐れもある。
サウジアラビアなどにも「核のドミノ」が広がって、中東はいっそう不安定になりかねない。イランの体制が覆り、強硬派政権になれば、火種はさらに大きくなる。
対立を深める米イランの間で、もう一方の合意当事者である欧州の役割はますます重要になってきた。まずは、イランを合意にとどめるため、粘り強く説得してほしい。そのためには制裁による打撃を和らげるよう、米国に働き掛けていくことは不可欠だ。やはり合意当事者である中ロの協力も必要だろう。
危機をもてあそんではならない。制裁でイランを追い詰めるのは得策ではない、とトランプ氏も悟るべきだ。
イランは、核合意からの離脱までは考えていないと表明している。どちらが理性的かは明らかだろう。そうならば、弾道ミサイル開発やシリア、レバノンへの介入など、米国だけでなく欧州も懸念する問題にも配慮し、交渉に臨んでほしい。
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