超党派の国会議員によるいじめ防止対策推進法の改正作業が難航している。学校の負担増に配慮し、当初の対策強化案が後退。遺族らは反発している。悲劇をなくすため一歩でも前進できないか。
十連休の後にも、埼玉県では電車にはねられ亡くなった高校生がいる。目撃情報から自殺とみられている。原因は分からないが、学校に行くのがつらかったのかもしれないと思うと胸が痛む。子どもたちをどうやったら救えるか。そこを原点に考えたい。
法は、二〇一一年に大津市の中学二年男子がいじめ自殺した事件をきっかけに制定された。国や地方自治体、学校はいじめ防止の方針を定める。自殺や長期の不登校は「重大事態」と位置付け、第三者委員会をつくって原因究明にあたり、再発防止につなげる。
しかしその後も全国で子どもが命を絶つ事態は続いている。第三者委員会の調査結果に遺族が納得せず、再調査になるなど、法は必ずしもうまく機能していない。
昨年公表された改正案のたたき台には、いじめ対策委員会の設置や学校で作るいじめ防止基本計画に盛り込むべき項目などがきめ細かく盛り込まれていた。しかし四月の案ではそれらが削られた。
いじめの定義が広すぎるなど、現行法でも学校は疲弊しているとの指摘もある。一方でいじめ自殺の遺族らには、学校でいじめ問題の深刻さが共有されていないという、もどかしい思いがある。
両者の溝を埋めていくためには、余裕をもっていじめに向き合える体制づくりが必要なのではないか。スクールカウンセラーなどの配置は進んでいるが、それに加え大津市はいじめ対策主任を学校に置けるよう、国が財政支援することを提案している。
市は事件後の一三年度から、いじめ対策に専念する教員をほぼ全校に配置した。増員分の人件費は市が負担している。担当教員は子どもたちの様子を見守るとともに、靴箱や教室の細部まで日々、目をこらすのだという。靴に画びょうや虫が入れられていたり、窓枠や机に「死ね」などの落書きがされていたりの危険な兆候が見つかることもあるからだ。いじめの早期発見につながっているという。
子どもの死があって国や地方自治体が重い腰を上げる。これまでのいじめ対策はその繰り返しだった。その情けないありようを克服するため、法改正にも知恵を絞りたい。
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