提督の憂鬱 作:sognathus
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そんなわけもあって提督は久しぶりに、自分の事を先輩と慕う階級が上の提督に連絡を取り、資材のトレードを本部の許可の下にする事にしました。
もちろん相手側の提督は快く受け入れ、早速取引の為に派遣した彼の部下が提督の基地を訪ねてきました。
「少将殿の部下の方ですね。此の度はこちらから取引をお願いしたというのに、わざわざお越し頂き恐縮です。あなたは……」
提督は基地を訪ねてきた艦娘が初めて見る姿だったので、にその名前が分らなかった。
「雲龍型航空母艦二番艦、天城でございます。准将殿、そのように畏まらないで下さい。こちらの提督の命令で貴方をお訪ねたしたとはいえ、私は艦娘ですから。敬語などは不要ですよ」
「いえ、そうはいきませんよ。例え艦娘であったとしても貴方は私の部下ではありませんし、何よりこの基地の窮状を救って頂けるのですから。この程度の敬意、当然ですよ。少なくとも私はそう思います」(雲龍型……。雲龍の妹か)
「あ……そ、そうですか。その……そういうこと、でしたら。えと、きょ、恐縮です」
天城は、気を遣わない様に申し出たにも関わらず、それでも敬意を払い、自分の事を大切な客人としてもてなす提督に、戸惑いながらもその気持ちを有り難く思った。
(この人が提督が慕う准将……。階級はこちらの提督が上だけど、彼がこの人の事を先輩って呼ぶ理由が何となく解るな……)
「どうかされましたか?」
「あっ、い、いえ! なんでもありません。失礼しました!」
「はは、こちらの基地は僻地ですからね。少将殿の所と比べれば見劣りしてしまうのは否めません。いや、お恥ずかしい」
「そ、そんな事! 別にきにしてませんから。う、海が綺麗だし暖かくて良い所だと思いますよ!」アセアセ
「お気遣い感謝します。それでは早速ですが取引を始めましょうか。先ずは交換する資材の確認をしましょう」
「あ、はい。えっと……こちらからは弾薬2万でしたによね」コトッ
天城は懐からナノ資材化した弾薬が入った小瓶を出し目の前のテーブルに置いた。
「確かに。ではこちらからは……」スッ
提督は天城が出した資材を確認すると、元々机の上に置いてあった天城が出した物と同じ形をした瓶を彼女の前に差し出した。
「どうぞ、鋼材とボーキ、各2万です」
「……あの」
天城は、差し出された資材を直ぐに受け取ろうとはせずに、どこか窺いを立てるような様子で提督に訊いた。
「本当にいいんですか? こちらは弾薬2万だけなのにそれに対して2つも資材を交換して頂けるなんて。割に合わないのでは?」
「いえ、大丈夫です。本当に弾薬以外ではうちは困っていませんから。このくらいは余裕の内にも入らないくらいなんです。ですからどうぞ遠慮なく」
「そ、そうですか。では、その……ありがたく」(なんかこの基地、敵の襲撃があっても鋼材とボーキだけで艦娘の壁で凌げそうね……)
「もうお戻りになるんですか? お茶くらいご馳走したかったんですが」
取引が終わって間もなく自分の鎮守府に帰ろうとする天城に提督は港で声を掛けた。
「はい、慌ただしくてすいません。実は遠征の途中でこちらに寄ったものですから」
「ああ、なるほど」
「ご厚意は今回はお気持ちだけ頂きますね。ありがとうございます」
「いえ、お礼を言うのはこちらですよ。また機会がある時に都合が付けば、その時はゆっくりしていって下さい」
「あ、ありがとうございます」(本当に礼儀正しい人。うちの提督もそうじゃないわけじゃないけど、どちらかというとあの人は『優しい人』って感じよね)
「それでは准将殿、これで失礼しますね」
「はい。少将殿によろしくお伝えください」
「了解しました。それでは……」
「……」ジー
「ん? どうしたんだ雲龍?」
取引が済んで部屋で一息着いていた提督は、扉の隙間からこちらを見つめていた雲龍の視線に気付いた。
「……もう、行った?」
「ん? 行ったって、もしかしてさっきの天城か?」
「うん」コクッ
「ああ、さっき帰ったところだ。どうした?」
「……入っていい?」
「ん? ああ、いいぞ」
「ありがとう。失礼します」
ガチャッ、トト……ポス
雲龍は入室の許可を貰うとそそくさとした仕草で提督が座るソファーの隣に座った。
「どうした?」
「ちょっと、遊びに来たら彼女がいたから……」
「なんだ遠慮してたのか? 妹分なら話したい事もあっただろうに」
「うんまぁ……。でも彼女別の鎮守府の子でしょ? だからあまり親しくなるのもちょっと、って思ったの」
「そう気にする事か?」
「……何れうちにも天城が来たらちょっと気まずいじゃない?」
「それは……ふむ」
「ねぇ」クイ
「ん?」
「期待して、待っててもいい?」
「ん? ああ……そうだな。何れ、な。逢わせてみせる」
「そ……。ならいいの」ニコッ
ギュッ
「ん……」
提督はさり気なく自分の腕に抱き着いてきた雲龍に少し戸惑った顔を見せた。
雲龍はそんな彼を不思議そうな顔で見る。
「どうしたの?」
「いや、胸がな」
「抱き着きく過程で当たるのなら仕方ないじゃない。それとも大佐は嫌?」
「お前が気にならないならいいが。その、やっぱり寂しかったか?」
「ここで天城を見た時はちょっとね。でも周りを見れば皆がいるし。それに」
「それに?」
「貴方もいるし」ギュッ
「……身に余る光栄だ」
提督は幸せそうに抱き着く雲龍に苦笑しながら言った。
天城手に入れてませんが、何らかの形で出したいと思っていたので今回出しました。
天城ってキャラ的にどうなんでしょうね。
個人的に雲龍のキャラ結構好きなので、彼女を手に入れる事ができなくてもそんなに気にはなってませんが。
まぁ雲龍はもう慣れたけど、天城の胸がもう少し大人しかったら雰囲気に合うのになぁと、内心ちょっとそんな我儘な事を想ったりしてますw