「条件を付けない日朝首脳会談」に向けた戦略は、十分練られているのか。安倍晋三首相が従来の圧力路線を転換し、北朝鮮側との会談を模索しているが、意欲だけが先行し、実現性が見えない。
安倍首相の対北朝鮮政策は圧力一辺倒で、対話否定だった。それを示す発言は数多い。
二〇一七年の国連総会での演説では、「(北朝鮮との)対話は、われわれを欺き、時間を稼ぐための最良の手段だった」と批判、北朝鮮に核・弾道ミサイル計画を放棄させるために必要なこととして「対話ではない。圧力なのです」と持論を展開した。
昨年三月の参院予算委員会でも「あらゆる方法で圧力を最大限まで高める」と答弁、首脳会談については、「対話のための対話は意味がない」と強調していた。
外交交渉は、相手の出方を見極め柔軟に行うものだ。高圧的に出れば逆効果にもなる。
安倍首相も、そのことに気が付いたのだろう。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が各国と首脳会談に応じた昨年、「次は私自身が金委員長と向き合う」と述べ、ようやく対話に前向きになったが、北朝鮮側に応じる気配はない。
安倍首相が頼みとするトランプ米大統領は、二月末の米朝首脳会談が物別れに終わった後も、対話を継続する意向を表明している。
正恩氏は先月、ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行ったため、圧力路線の日本だけが首脳会談をできないまま取り残された。焦りが募って、無条件での会談実現に舵(かじ)を切ったのだろう。
問題なのは、この会談でどんな目標を持ち、どう実現していくかが、あいまいなことだ。
日本政府は、国交正常化をうたった〇二年の日朝平壌宣言を踏まえ、核、ミサイル、拉致問題の一括解決を目指すとしている。
ただ北朝鮮側は「拉致は解決済み」との姿勢だ。この食い違いをどう埋めるのか、説明が必要だ。
また北朝鮮側は、会談の前提として植民地支配の清算や、日本独自の制裁解除といった難しい条件を提示してくるはずだ。
これらの課題に、政府として準備している様子は感じられない。
北朝鮮は四日に複数の飛翔(ひしょう)体を発射した。専門家からは、短距離の弾道ミサイルが含まれていたとの指摘が相次いでいる。
その場合、国連安全保障理事会の決議に違反するが、それでも対話を求めていくのか。外交がふらつくわけにはいかない。
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