双方ともいいかげんに矛を収めてほしいと誰もが思っているはずだ。米国が中国からの一部輸入品に25%の追加関税を課す方針を打ち出した。両大国の不毛の争いは世界にとって有害でしかない。
米商務省の統計によると二〇一八年の米国の貿易赤字は約八千七百八十七億ドル(約九十七兆円)と過去最大を記録。このうち対中赤字は半分近くを占める。
トランプ米大統領の強硬姿勢の背景には、増え続ける巨額赤字が存在する。だが二千億ドル(約二十二兆円)の中国製品を対象に25%の追加関税を課すことは、表明段階とはいえあまりに乱暴過ぎる。
もちろん中国側にも問題はある。知的財産保護の遅れはいうまでもない。進出した海外企業に技術移転を強要し批判も浴びている。国有企業への補助金支給も自由貿易の原則を逸脱気味だ。
これまでの交渉で中国は、米国製品の輸入拡大に加え、指摘された課題の解決に向け法整備を約束してきた。しかし、中国が合意事項を実行するか米国は信用しておらず交渉を難しくしている。
AI(人工知能)などハイテク製品をめぐる両国の競争も激化し対立に拍車を掛けている。国有企業支援は中国の国是ともいえる。さらに背後には両国の安全保障をめぐるけん制が横たわる。
ただ、ここで強く指摘したいのは、無益な争いが各国経済に深刻な影響を及ぼしていることだ。日本では内閣府が「景気は後退局面の可能性」と指摘。国際通貨基金(IMF)は世界経済見通しで今年の成長率予測を0・2ポイント引き下げ3・3%とした。いずれも米中摩擦を要因としている。
中国自体も成長率目標を引き下げるなど経済の失速感が広がる。米国は衣料品など多くの消費財を中国からの輸入に頼っており、安易な追加関税は物価高となって生活を直撃しかねない。
景況感の悪化は経営者の姿勢を萎縮させ、賃金抑制につながり雇用問題に発展する。国内の不満は海外に向けられ、外交対立の連鎖も広がるだろう。
米中首脳は対立が結局、自国の国民を傷つける現実をよく理解すべきだ。今は、双方が歩み寄ることで複雑に絡まる不信の根をほぐすしか道はない。
自由貿易の推進は、お互いの平和と生活向上に向けた人類の叡智(えいち)だ。関税交渉はその核心部分であり、決して大国の意地の張り合いの道具であってはならない。
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