古層の神を訪ねて  

~柳田國男『石神問答』および石神の研究~  


●目次


 ●はじめに――「古層の神」の存在

 ●アラハバキ(2016.2.16)
 ●桜に宿る神「サ神」(2016.2.16)
 ●大戸のお聖(ひじり)さま(2016.2.20)
 ●古層の神の名について(2016.2.21)
 ●【参考資料】『石神問答』現在小祠表(2016.2.22)
 ●「現在小祠表」の見方――「習合」について(2016.3.17)
 ●ミシャグジ(2016.3.18)
 ●ミシャグジについて知りたい方へ(2017.10.21)
 ●見沼の水神(2018.2.6) 〈NEW〉

●はじめに――「古層の神」の存在


さいたま市で暮らすうちに、かつてこの地に存在した巨大な沼「見沼」に魅せられるようになりました
縄文時代~弥生時代に形成された見沼は、現在は水田地帯「見沼田んぼ」となっています。この地域は、首都近郊の貴重な食糧庫および憩いの場となっていると同時に、縄文時代から続く独自の文化が遺されているタイムカプセルでもあります。
この地で趣味の神社・石仏巡りなどをしているうちに、日本でよく知られている神道・仏教・キリスト教などの神仏とは違う、「(日本の)古層の神」の存在を知るに至りました。
しかし、わかったのはその存在だけ。その実体は依然としてわかりません。
そんな折、以下の本を知りました。

 ・『石神問答』(柳田國男)
 ・『精霊の王』(中沢新一)
 ・『なぜ、日本人は桜の下で酒を飲みたくなるのか?』(西岡秀雄)
 ・『農と祭』(早川孝太郎)
 ・『蛇』(吉野裕子)

これらの本のおかげで、わたしが漠然と感じていた古層の神の姿が、徐々にクッキリと浮かび上がってきました。ここで知ったことを足掛かりにして、この神のこと、さらには日本人の魂の源流にまで、深く踏み込んでいけそうです。

そこで、この神について調べたことを記録する場として、このサイトを立ち上げました。

※管理人の別サイト(「魂の源泉への旅」および「魂の源泉への旅」別館)の記事の中からも、古層の神に関係する記事を転載しています。

◇管理人(saenokami)について
  フリーライター(♀)。
  主な趣味は歴史・考古学・民俗学・地球科学など。
  休日は博物館や遺跡、文化財などを巡り、資料集めや写真撮影などしています。
  これまでの数年間、趣味のブログを運営してきましたが、古い記事が流れてしまうことや不快なコメントなどに辟易し、今回はあえて、ブログと比べると更新が面倒でSEO的にも弱い(笑)、シングルページでの再スタートです。

  ご意見・ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。

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●アラハバキ(2016.2.16)


武蔵国一宮・氷川神社(別名「大宮氷川神社」)の摂社のひとつ、「門客人神社」についての考察です。


(1)大宮氷川神社について

氷川神社と呼ばれる神社は、旧武蔵国(東京・埼玉および神奈川の一部)に広く分布していますが、これらの総本社が大宮氷川神社です。
大宮駅(JR東日本・東武野田線・埼玉新都市交通)から徒歩20分ほど、大宮公園駅(東武野田線)からだと徒歩10分ほどでしょうか。
大宮氷川神社入り口の巨大な赤い鳥居は「三の鳥居」と呼ばれ、その前に「一の鳥居」「二の鳥居」があります。一の鳥居から三の鳥居までの2kmほどの参道は「氷川参道」と呼ばれ、市民はもちろん観光客にとっても良い散歩道となっています(一の鳥居の最寄り駅は、JRさいたま新都心駅)。

大宮氷川神社の歴史は古く、神社の看板などによれば2400年ほどの歴史を誇るとのこと。
ちなみに大宮の地名も、この大宮氷川神社が「大きなお宮」であったことから来ているということです。

大宮氷川神社の主祭神は須佐之男命(スサノオ)・奇稲田姫命(クシナダヒメ)・大己貴命(オオクニヌシ)。出雲系の神々ですね。
この三柱の神は、この神社でも最も目立つ、緑と朱が美しい楼門のさらに奥にある社殿に祀られています。

 
氷川神社の楼門(左)と拝殿(右)

しかし大宮氷川神社には、これらの主祭神以外にも、多くの神々が祀られています。
もっとも彼らは、それぞれ主祭神の社殿と比べると、ずいぶん小さな社に祭られているのですが。


(2)アラハバキ

そんな社の一つが、「門客人神社」。
これは前述の楼門の向かって右脇にある二社のうちのひとつです。

門客人神社

この門客人神社に祀られているのは、「足摩乳命(あしなづちのみこと)・手摩乳命(てなづちのみこと)」という神様。
記紀の神話では、スサノオのヤマタノオロチ退治の話に登場するクシナダヒメの両親・「アシナヅチ・テナヅチ」として知られています。

なお、この門客人神社、元は「荒脛巾(あらはばき)神社」と呼ばれていたとのこと。
この「アラハバキ」は日本の古層の神の一柱のようで、その正体については諸説あります

ここで大宮氷川神社の歴史について考えてみましょう。
大宮氷川神社を中心とする氷川神社群の、出雲系の神と他の神々との合祀の状況から、この「氷川信仰圏」には、先住民(縄文系)に対する、出雲系の人々による侵入・征服という過去があったと見てよさそうです。かなり大きな干渉があったようです。

(20190304補足 : 氷川神社「二の鳥居」にある案内板に、次の記述がありました。
「成務天皇のとき、武蔵国造となった兄多毛比命(えたもひのみこと)が出雲族を引きつれてこの地に移住し、氷川神社を奉崇したと伝えられる」
 → 出雲族の移住・影響はたしかなようですが、その実情は「侵入・征服」とは言い切れないかもしれません。)

こうしたことから、個人的には「アラハバキ=縄文神かつ蛇神(縄文時代はアニミズムで、特に蛇信仰が盛んだった。同様に出雲系の人々の侵入を受けた歴史を持つ信州・諏訪でも、縄文の蛇信仰の痕跡が見られる)」との見解を支持したいところです(柳田國男の『石神問答』でも、アラハバキと諏訪の古層の神である「ミシャグジ神(こちらも一説では蛇神)」との関連が示唆されています)。
日本の蛇信仰の歴史については、吉野裕子氏の代表作『』などに詳しいです。

なお、「アラハバキ社」「門客人神社」なる社は、他のいくつかの氷川神社にも見られました。
また、水神・竜神(こちらも蛇神)を祀る社を有する氷川神社もあります(旧武蔵野国では、氷川神社以外でも、水神・竜神を祀る社は珍しくありません)。
氷川信仰圏には、かつて「見沼」なる巨大な沼がありましたが(現在もその痕跡は残っています)、「この沼の水神が、この土地の古層の神」という話もあり、このことからも「アラハバキ=蛇神(=見沼の神)」といえそうです。

一方、門客人神社に祀られている、出雲系のアシナヅチ・テナヅチ。こちらも何と、蛇神という説があります
クシナダヒメにしても、吉野裕子氏によれば「蛇神」とのこと(アシナヅチ・テナヅチが蛇神なら、当然その娘も蛇ですから)。
さらに興味深いことには、主祭神の一柱であるオオクニヌシの「和魂(にきみたま)」である「大物主(オオモノヌシ)」も蛇神なのです。

そして――主祭神の中心・スサノオまでも、ヤマタノオロチ(これまた蛇神)を退治したという、蛇に関わるエピソードを持っているのです!

以上のことから、氷川神社群は、どんな形であれ、蛇および縄文時代の信仰が隠されていると見て間違いなさそうです。

ここで付け加えておくと――出雲は製鉄と密接な関係があるともいわれています。
蛇神・ヤマタノオロチの尾から出た「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ/別名:草薙剣(くさなぎのつるぎ))」もまた、製鉄技術の象徴でしょう。
またアラハバキについても、製鉄の神であるとする説があります。
氷川神社の歴史には、人間と自然、そして資源や技術を巡る、人類の歴史の縮図までも収められているのかもしれませんね。


(3)客人神(まろうどがみ)

「門客人神社」については、平凡社の『世界大百科事典』に、以下のような興味深い記述があります。

客神/客人神(まろうどがみ)
神社の主神に対して,ほぼ対等か,やや低い地位にあり,しかしまだ完全に従属はしていないという,あいまいな関係にある神格で,その土地に定着してから,比較的時間の浅い段階の状況を示している。ふつう神社の境内にまつられている境内社には,摂社(せつしや)と末社(まつしや)とがある。摂社には,主神と縁故関係が深い神がまつられており,末社は,主神に従属する小祠である場合が多い。客神の場合は,この両者とも異なり,主神のまつられている拝殿の一隅にまつられたり,〈門(かど)客神〉と称され随神のような所にまつられ,まだ独立の祠をもっていないことが特徴である。東北・関東の〈荒脛巾(あらはばき)神〉,南九州の〈門守(かどもり)神〉などはその一例だが,なかには普通の境内社より大きな一社を別個にたててまつる例もある。客神はちょうど人間社会における客人の扱いと同じで,外界からきた来訪神(らいほうしん)を,土地の神が招き入れて,丁重にもてなしている形である。客神が,けっして排除されることがないのは,外から来た神が霊力をもち,土地の氏神の力をいっそう強化してくれるという信仰があったためと考えられている。氷川神社の門客神神社,気比神宮の角鹿(つぬが)社,厳島神社の客神社,美保神社の客人神社などは,有名な大社にまつられた客神の代表例である。

氷川神社や諏訪大社の場合、前述のように、実は「客」は後から来た出雲系の神々(スサノオやタケミナカタなど)の方なのですが、このように主客が入れ替わることは、特に珍しいことではないようです。
もっとも日本神話なんて、こんなことの繰り返しで、その最たるものが「国譲り」なわけですが。

ただし――ここでのポイントは、単純に「出雲系の神々=征服者」「アラハバキ=被征服者」といったことではなく、出雲系の神々が主祭神となった後も、アラハバキが完全に葬り去られることがなかったということです。
こうした現象は、氷川信仰圏に限らず、全国各地の寺社や集落などで、今も確認することができます(ここまでで何度も触れた、諏訪信仰圏の例は特にわかりやすいでしょう。表向きの主祭神は出雲系の神ですが、本当に力を持っているのは、現在に至るまで、縄文神であるミシャグジです。この諏訪信仰については、神長官守矢資料館の展示および、そこで販売されている『神長官守矢資料館のしおり』に詳しい)。
この辺が、キリスト教のような一神教を掲げる民族に征服された国との違いと言えるでしょう。

日本の場合、「征服者」たちの宗教も多神教だったので(記紀神話および『出雲国風土記』からそれがわかる)、異教の神を徹底的に抹殺することはせず、「客人神」として取り込んだのでした。
本来ならばとうに滅びていてもおかしくない縄文時代の信仰が、現代まで細々と受け継がれてきたのには、こうした背景があるのです。
『逆説の日本史』で有名な井沢元彦氏に言わせれば、「日本人(縄文系・渡来系双方)特有の“和”“怨霊”の概念の結果」ということになるのでしょうか。

そして現代。
昨年は、皇族の女性(典子女王)が出雲大社の神職の方とご結婚されるいう出来事がありました。
この記事では、氷川信仰圏の立場から、出雲を「征服者」として論じましたが、逆に出雲にとっては、アマテラスの子孫である皇族が征服者(「国譲り神話」)。
伊勢と出雲は、本来なら敵同士のはずですが、現代に至ってこういうことが起こるのも、「アニミズムの国ならでは」といったところでしょうか。

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●桜に宿る神「サ神」(2016.2.16)


日本を象徴する花である、桜。
法で制定されたわけではありませんが、桜は事実上の国花と言えるでしょう。
桜について詠んだ歌は万葉集にもいくつも見られ、さらに平安時代になると、「花」といえば桜のことを指すようになります。
桜はまた、その散り方も見所。その美しさと儚さ、潔さは、見る人に様々な思いを抱かせたのでした。特に「潔さ」は武士道の象徴となり、武士、さらには軍人にも愛好されたのです。

ちなみにこの桜、現在では江戸時代に登場した「ソメイヨシノ」が主流になっていますが(「桜前線」もソメイヨシノが基準)、奈良・平安時代の歌に詠まれた桜は「ヤマザクラ」とのこと。もちろん、いずれも美しさという点では甲乙つけがたいものです。

現代の日本では、桜よりも華やかで長持ちする花はいくらでもあります。
しかし日本人は、桜以外の花を楽しむことはを「お花見」とは言いません。
この桜に対する特別な感情は、一体どこから来ているのでしょうか?

こうした謎を解く鍵が、「サクラ」という名前。
これは日本の古層の神・「サ神」から来ているようです。

この説を唱えたのは、歴史学者・民俗学者の和歌森太郎氏。
彼の論考を、人文地理学者の西岡秀雄氏が『なぜ、日本人は桜の下で酒を飲みたくなるのか?』の中で紹介していますが(この本は現在絶版のようですが、旧版の『酒と桜の民族』については、概要がまとめられたサイトを見つけましたので、興味がおありの方はこちらへどうぞ)、それによると、「サクラ」とは、すなわち「サ」+「クラ」。
「サ」はサ神を指し、「クラ」は古語で「神霊が依り鎮まる座」を指す――つまりサクラとは、「サ神のヨリシロ(依代)」という意味。

同書が書かれたきっかけは、著者が民俗学者の早川孝太郎氏の論考(『早川孝太郎全集第8巻』(未来社)の「農と祭」に収録)を読んだことだそうです。
そしてこちらの論考によれば、サ神というのは、元々はわたしたちの祖先が見出した「さ」「さつ」といった威力優れた霊魂だったとのこと。
それが後に狩猟の神・山の神となり、さらに農耕の神にもなり、もっと時代が下ると、土地の鎮めや害敵排撃の神などにもなったとのことでした。
つまりサ神は、アニミズムの神なのです。

この早川氏の論考や、『なぜ、日本人は桜の下で酒を飲みたくなるのか?』でのサ神信仰のルーツの考察、さらに中沢新一氏の「サッ」という音についての説明(前述の「さ」「さつ」と同じものと思われる)などから、わたし個人は「桜を愛でる思いというのは、農耕以前に日本列島に移動してきた人々の文化(つまり旧石器時代~縄文時代)にまで行き着くのではないか(当時桜があったかどうかは別として)」と考えています。

なお、サ神は、「サンバイ」「サイノカミ」「サケ」「サチ」「サナエ」「サツキ」「サオトメ」「サナブリ」などの言葉の中で、今もひっそりと生き続けています。
これらの語群も、わたしたちの祖先にとって特別な意味を持っていました。現代でも、古い風習が残っている地域においては重要な言葉です。

そんなサ神が宿るという桜――皆さんも次のお花見では、今はほとんど忘れ去られた日本の古層の神、さらにはその神を信奉していた古代の人々に思いを馳せながら、桜を眺めてみてはいかがでしょうか。

 
ソメイヨシノ(左)とヤマザクラ(右)

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●大戸のお聖(ひじり)さま(2016.2.20)


石仏に代表される古い宗教的モニュメントは、現代の日本の都市部でも(数は減ったものの)まだあちこちで見ることができます。
その多くは江戸時代のものといわれていますが、信仰のルーツについては、江戸時代以前に遡るものも珍しくありません。

今回ご紹介するのは、「大戸のお聖さま」。
さいたま市中央区大戸にある、小さな神社のご神体です。

お聖さまのご神体

上の写真を見ていただけばおわかりのように、男性の性器の形をした石造物なんですね。
造られたのは江戸末期ですが、信仰のルーツは縄文時代だそうです。

ここでお聖さまの由来について、さらに詳しく。
まずは下の看板をご覧ください。

お聖さまの祠の脇にある看板(クリックで拡大)

この看板内には、次の記述があります。

周辺の地からは縄文時代の石棒、石剣、土偶などの呪術具(じゅじゅつぐ)が出土し、お聖さまの生まれた理由もこの土地がらにあります。現在の御身体は江戸時代末期のものと伝えられます。

この記述のとおり、お聖さまが祀られている大戸には、「大戸貝塚」(お聖さまのすぐそば)をはじめとする縄文遺跡がいくつかあります。
「現在の御身体は」ってことは、以前のご神体もあったのでしょうね。
縄文時代でいったら、お聖さまに近い形状のものは、やっぱり石棒でしょう。

石棒

石棒には、こんな素晴らしいものも。上記のお聖さまの祠の看板には、「お聖さまの御身体は、男性の生殖器を形どった石棒です」とありますが、縄文時代の石棒も、同じく男性の性器を形どったものです。
お聖さまとの関連は明らかでしょう。つまりお聖さまは、縄文神なのです。

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●古層の神の名について(2016.2.21)


これまでに、「アラハバキ」「サ神」「お聖さま」についての記事を書きました。
次の記事をアップする前に、ここで「古層の神」の名について触れておきたいと思います。

「古層の神」には様々な名前があります。
柳田國男の『石神問答』巻末の「現在小祠表」には、様々な神の名前が記されていますが(これらについては追々記事にしていく予定)、これらはすべて同一の存在を指すようです。
ちなみにこの表には、「アラハバキ」「サ神」もあり。「お聖さま」は見当たりませんが、早川孝太郎の『農と祭』(「さんばいとさの神」「道祖神のこと」の項)や、その他道祖神関連の本などを読む限り、縄文時代の信仰との関連性から、「サ神」と同一の存在と考えられます。

吾々の祖先がかつて、「さ」又は「さつ」と称する威力すぐれた霊魂を想像したことから、之が狩猟の神となり一方農耕を護る神にも発展し、更にその威力は、土地の鎮めとして或は害敵排撃の神として村の境や道の果にも祀られるに至つた。その威力はそれぞれの解釈に依って、前云ふ如く婚姻の媒介子供の誕生や将来の運命をも支配すると信じられるに至つた。(早川孝太郎『農と祭』 「道祖神のこと」より抜粋。)

この記述もまた、『石神問答』に登場する様々な神が、名前は違えど、すべて同じ存在を指していることを裏付けています。
よって、以降の記事については、すべてこのことを前提としてお読みいただければいいかと思います。

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●【参考資料】『石神問答』現在小祠表(2016.2.22)


現在小祠表

一 左宮司 社宮司 社宮神 左久神 作神 左口 社口大明神 社子ノ社 佐護神 石護神 石神(シャクジン) 釈護子 遮愚※(にんべんに爾) 遮軍神 三宮神 三狐神 山護神 山護氏明神 射軍神 釈天神 杓子 オシヤモジ等 東海道武蔵以西、飛騨、信濃
二 守公神 守宮神 相模、薩摩 四宮神 上総 守ノ宮明神 甲斐 宿ノ神 大和 守宮塚明神 陸前 魄(スクジ)神 壱岐 守瞽神
三 奏神 陸前 左右(サウ)御前 壱岐 生神 上総
四 石神(イシガミ) 石上神 諸国 石権現 志摩 石山神 磐城
五 立石明神
六 道祖神 道陸神 幸ノ神 塞ノ神 齋ノ神 諸国
七 通神 相馬
八 船戸神 大和、阿波、伊予
九 注連神 伯耆、備中 七五三神 陸前
一〇 御崎(ミサキ) 三崎 御前(ミサキ) 御前(ゴゼン) 東海道、中国 神ノ御前 大和 岬神 阿波
一一 玉崎神上線 玉御前神
一二 尾崎明神 御崎(オサキ)神 陸前
一三 四御前大明神 備中 四所神社 上総
一四 四天王 遠江
一五 荒神 三宝荒神 八大荒神 八代荒神 八面荒神 東海道、近畿、中国 八荒神 播磨 八面(ヤオモテ)大明神
一六 山神 諸国
一七 葉山権現 八山権現 羽山神 奧羽
一八 眞山権現 同上
一九 新山権現 同上
二〇 地神 堅牢地神 奧羽、伊勢等 地ノ神 遠江 五霊地神 地主紳
二一 土ノ宮 土ノ御前 伊勢等 土ノ神 相馬
二二 中山神 上総
二三 野神 阿波、近江
二四 沼神 陸前
二五 姥神 諸国 姥御前 姥神権現 婆神 老姥神 奧羽 乳母神 姥権現 姥儀 祖母山明神 相模
二六 天白 大天白 天博 天縛 東海道 大天獏 大電八公 武蔵 天貘魔王 相模 天白天王 遠江 手白 尾張 天魄 志摩 大天博 大天魔狗 大天馬 大天場 奧羽
二七 水神 諸国
二八 龍神 諸国 龍王神 大和 青龍権現 雨宮龍神
二九 田ノ神
三〇 市神 中国、近畿 市守宮 伊賀
三一 恵比須 夷神 戎神 関西
三二 門神岩代 門権現 御門明神 伊勢 番神 備前
三三 御霊 大和、相模、信濃、薩摩等 五良権現 相馬 五霊 五郎宮 御領権現
三四 荒人神 現人社 陸前、磐城、壱岐、筑前
三五 疫神 行疫神 中国 疱瘡神
三六 鷺大明神 周防、伯耆 天三祇 因幡
三七 天王 牛頭天王 東海道、奧羽
三八 八王子 同上 八柱神 天八王神 大和 八大童子 相模
三九 八龍神 八龍権現 奧羽、上総
四〇 八所権現 諸国 八番大明神 伊勢
四一 十二所権現 十二相権現 諸国 十二御前白河 十二神 十二神将 十二天
四二 五社権現 伊予 五柱神 上総 五行神 周防
四三 六所権現 六社権現
四四 七社樺現 諸国 七面明神 常陸
四五 十五所権現 遠江 十五相
四六 十六所権現 陸前
四七 十七所権現
四八 十九所 遠江 十九社権現 伊勢
四九 三十八所権現 三十八社 大和、伊勢、丹波、備前等
五〇 三十六所権現 陸前
五一 三十番神
五二 大歳神 中国一円、大和等 三宝大歳 志摩 大歳天神
五三 大将軍 近江、中国、阿波、陸前、相馬 将軍神 伊勢 大上宮 播磨 大政大神 上総 大将軍権現
五四 黄幡神 大番神 安芸、周防
五五 金神 奧羽
五六 大元明神 大元神 周防、伊予、岩代
五七 天道神 尾張
五八 日月神 奧羽 日月大明神 遠江、上総 日天月天 相馬 昼著 播磨
五九 日精神 日ノ宮神 上総
六〇 島神
六一 鷄鳥権現 鷄足権現 二渡権現 新渡権現 荷渡権現 庭渡権現 似当権現 鬼渡権現 三渡権現 御渡明神 見当明神 宮当権現 海渡権現 奥羽 見渡荒神 備前
六二 星ノ社 屋宮権現 奧羽、阿波、山城 北辰権現 備前 七星明神
六三 妙見 明現 明現七社大明神 中国
六四 天刑星宮 備前
六五 天一神 大和、伯耆、阿波
六六 聖神 諸国 日知神 大和 聖天
六七 象王権現 伯耆
六八 早水(サウヅ)神
六九 仙人権現 奧羽
七〇 堰神 陸前
七一 境明神 奧羽
七二 丑寅御崎 備前
七三 艮大明神 備中
七四 卵子酉(ウネドリ) 陸中
七五 方違(カタタガヒ) 伊予
七六 河内神 周防
七七 河裾神 阿波、播磨 川濯明神 陸前
七八 近津権現 千勝権現 智勝権現 遠江、武蔵等 近戸神 相模
七九 遠津権現 唐津権現 遠頭権現 十頭権現 遠江 登宇頭姥神 駿河 唐津明神 相模 唐土権現 遠々権現 磐城
八〇 伊豆権現 伊豆、大和、伊勢、陸前等 伊豆野権現 伊都那権現 伊綱権現 奧羽
八一 天狗 武蔵、相模、信濃、陸前
八二 雷電 雷公明神 雷神 東海道、奧羽
八三 子ノ神 子ノ権現 子ノ聖 東海道、陸前
八四 子安神 大和、東海道
八五 子守神 籠神
八六 客神 客人 客大明神 伊勢、伯耆、周防、武蔵
八七 阿良波々岐明神 荒※(金に祖/ハバキ)権現 陸前 荒脛(アラハゞキ) 門客人権現 武蔵
八八 葛明神 九頭明神 大和、伊勢等 楠大明神 樟明神 久住神
八九 国司大明神 国王大明神 国津明神 中国、伊勢等
九〇 志幾神 志自岐神 筑前、肥前、壱岐
九一 塔神 阿波 石堂(シヤクタウ)神
九二 飯盛 飯森権現 壱岐 飯森明神 磐城
九三 銚子権現 陸前
九四 大行事 諸国 大行事大明神 遠江
九五 九玉神 薩摩等 倶多摩大明神 遠江
九六 大頭籠権現 高根大頭龍権現 遠江 大棟梁権現 大塔宮 駿河
九七 宝量権現 法量権現 宝龍権現 宝領 法了権現 保量権現 奧羽
九八 保呂羽権現 同上
九九 若王子 若一王子 若一権現
一〇〇 御子(ミコ)神 若御子
一〇一 十禅師 山城、近江、伊勢等
一〇二 小神子大明神 陸前
一〇三 小善 勝善 宗善 想善 奧羽
一〇四 和合明神 奧州
一〇五 雲南権現 宇南権現 運南神 海波権現 同上
一〇六 藍婆 乱婆 乱魔王 鸞婆明王 十二藍婆神 同上
一〇七 伽羅神 伯耆 火乱神 伽藍神
一〇八 辛神 上総
一〇九 白髪大明神 因幡
一一〇 白髭神
一一一 矢保佐 壱岐 箭武佐神 薩摩 天台藪佐 筑前
一一二 与宇母神 壱岐 養母神
一一三 養父神 藪田神
一一四 竈神
一一五 福大明神  福権現 伊勢 福德天神 伊賀 福神 備前 福天権現 遠江
一一六 蚕神
一一七 馬神
一一八 駒形神
一一九 庚申
一二〇 宇賀神

 本表の調査は甚しく一地方に偏せり 此が為に渉猟したるは左の数書に過ぎず 而も此等の書は 編述の年代前後百数十年に亙れば 或は現在と称する能はざらんか 他日の補正を期するのみ
   武蔵  新編武蔵風土記稿
   相模  新編相模国風土記
   常陸  新編常陸国志
   上総  上総町村誌
   甲斐  甲斐国志
   駿河  駿河国新風土記 駿河志料
   遠江  遠江国風土記傳 掛川志
   三河  三河聡視録
   尾張  尾張志
   伊勢  三国地誌
   近江  近江輿地誌略
   美濃  百莖根
   飛騨  飛州志
   信濃  信濃売鑑 信府統記
   磐城  奧相志
   岩代  白川風土記 相生集
   陸前  封内風土記
   羽後  久保田領郡村記
   越後  越後雜記 北魚沼郡誌
   山城  山城名勝志
   大和  大和国町村誌集
   丹波  丹波志
   播磨  播磨鑑
   美作  東作志
   因播  因幡志
   伯耆  伯耆志
   備前  吉備温故
   備中  備中志
   安芸  芸藩通志
   周防  周防風土記
   阿波  阿波志
   伊予  小松邑志 伊予国巡村記
   筑前  筑前国続風土記
   薩摩  地理纂考 三国名勝図会
   壱岐  壱岐続風土記抄 壱岐名勝図誌

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●「現在小祠表」の見方――「習合」について(2016.3.17)


宗教において、しばしば「習合」という現象が見られます。
これは異なる教義や神仏が混合されたり同一視されたりすることで、日本の場合は「神仏習合」がわかりやすいでしょう。また、ギリシアの神々とローマの神々の融合もわかりやすい例かと思います。
つまり、「同じ役割を持つ神仏」 → 同一視(習合)という仕組みです。(この仕組みについては、このページが詳しいので、参考にしてください。)

『石神問答』の「現在小祠表」の神名についても同じことが言えるでしょう。
たとえば「天狗」と「恵比須」などは、一見何の関係もなさそうですが、ともに守護神的な側面を持っており、その点で同一視される要素があると考えられます。

また、この表には見えませんが、「猿田彦」も同じ神です。
というのも、表中の「道祖神」は「猿田彦」と同一視されていますし、「天狗」もまた「猿田彦」と同一視されていますから。

もっともこの表も、柳田自身が
「本表の調査は甚しく一地方に偏せり 此が為に渉猟したるは左の数書に過ぎず 而も此等の書は 編述の年代前後百数十年に亙れば 或は現在と称する能はざらんか 他日の補正を期するのみ」
と記しているので、これがすべてと考えない方がいいでしょう。

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●ミシャグジ(2016.3.18)


今年(2016年)は、長野県・諏訪地方の「御柱祭」が行われる年です(4月から)。
この祭は「日本三大奇祭」として有名で、この記事を書いている時点でも、様々なガイドブックやサイト、旅行会社などで観光案内がなされていますから、祭の詳細はそちらに譲るとして、ここでは祭の要となる精霊「ミシャグジ」について書くことにしましょう。

ミシャグジはすなわち「ミ」+「シャグジ」で、石神問答の「現在小祠表」においては「石神(シャクジ、サクジ))」「左口(サクチ、サグチ)」などと記載されています。
ちなみに頭に付く「ミ」は尊敬・丁寧の意を示す語の「御(み)」です(「御心」「御手」などの「御」)。

諏訪大社を中心とする諏訪地方の信仰は、独特で複雑です。
元々は土着の神である縄文神・ミシャグジ(同じく土着のモレヤ神・ソソウ神と同一視されている)を信仰していたところに、出雲系の人々と神(建御名方神/タケミナカタ)が入ってきた(古事記の「国譲り」での、オオクニヌシの子タケミナカタが諏訪に封じられた話に相当。中沢新一氏による解説はこちら)。
そこで先住民およびその神と、出雲系の人々およびその神が何とか折り合いをつけて共存するようになり、縄文+出雲の独自の宗教文化が展開されたようです。

諏訪大社の主な祭神は、前述の出雲系のタケミナカタですが、実情はミシャグジなど土着の神々と習合された存在(「諏訪大明神」とも)です。
そして神長官の家系である守矢氏によれば、御柱祭の御柱は、ミシャグジの依り代だとのことです。

なおミシャグジは「御室社(諏訪大社上社前宮周辺の末社のひとつ)」の案内版によれば、蛇の姿の神とのこと。

御室社
 中世までは諏訪郡内の諸郷の奉仕によって半地下式の土室が造られ、現人神の大祝や神長官以下の神官が参篭し、蛇形の御体と称する大小のミシヤグジ神とともに「宍巣始(あなすはじめ)」といって、冬ごもりをした遺跡地である。
 旧暦十二月二二日に「御室入り」をして、翌年三月中旬寅日に御室が撤去されるまて、土室の中で神秘な祭祀が続行されたという。
 諏訪信仰の中では特殊神事として重要視されていたが、中世以降は惜しくも廃絶した。
   安国寺史友会

このミシャグジ、「現在小祠表」では、前述のように「石神」などと記されており、つまりは「諏訪では『ミシャグジ』と呼ばれていた」くらいの意味でしかありません。この神は諏訪だけの特別な神ではないのです。
それでも諏訪での祀られ方は非常に特徴的で(何しろ「日本三大奇祭」ですから)、タケミナカタと習合されたとはいえ、「石神がとても派手に祀られた事例」と言えるでしょう。
何しろ多くの地域では、民間信仰の神・路傍の神などとして、地味に祀られているのですから。
「アラハバキ」の記事で触れた氷川信仰圏も、古層の神が出雲系の神に圧倒されるという、諏訪と似た歴史を持っていますが、「客人神」となったアラハバキとミシャグジとでは、ずいぶん扱いが違うように感じます。

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●ミシャグジについて知りたい方へ(2017.10.21)


ほぼ1年半ぶりの更新です。

ミシャグジおよび諏訪の古代信仰について書かれた本やサイトの多くで、参考文献として挙げられている本があります。
この本は絶版になって久しく、置いている図書館もあまりないような、レアな本だったのですが、この度めでたく復刊となりました。

 『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究(日本原初考)』(古部族研究会)

文庫での復刊ですので、安価に入手できます。

復刊されたのは先月で、わたしも復刊を知ってすぐに入手して読みましたが、今の日本でこれほどミシャグジについて詳しく書かれた本はほかにないのではないでしょうか。
特に今井野菊氏による調査記録は、とても貴重な資料といえます。

また、この本と同時に刊行された、続編の『古諏訪の祭祀と氏族(日本原初考)』も、同様に諏訪の古代信仰を知る上で必携です。
この「日本原初考」シリーズは3部作で、3冊目の『諏訪信仰の発生と展開』も、近々刊行されるとのこと。
ミシャグジについてより深く知りたい方は、3冊すべて入手されるといいでしょう(わたしも3冊目の刊行が待ち遠しいです)。

(2017年12月20日追記)『諏訪信仰の発生と展開』、本日Amazonで発売となりました。

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●見沼の水神(2018.2.6)


以前、「アラハバキ」の記事にて、大宮氷川神社の地主神(現在は「客神」として祭られている)について書きました。

わたしはさいたま市に住むようになって今年で13年、見沼の歴史を調べ始めて5年ほど経ちますが、見沼屈指の聖地(スピリチュアル的な意味ではなく、あくまでも見沼の歴史上の意味で)のひとつ、大宮氷川神社のことは、これまでずいぶん通ったわりには、あまりよく知りませんでした。
しかし昨年は、大宮氷川神社にとって「明治天皇行幸150周年」という節目の年だったことから、地元では大宮氷川神社や博物館を中心に、様々な行事や展示、イベント等が行なわれたため、わたしもいろいろと学ぶことができました。
そして昨年末、この神社のルーツである「蛇の池」の存在を知ったのです。

「蛇の池」は、長らく立ち入り禁止でしたが、2015年に立ち入ることができるようになったようです。蛇の池の入り口は、本殿と比べるとあまり目立たないため、わたしが気づいたのは最近のことでした(気づくのが遅すぎですが……)。実際今も、本殿が参拝客で込み合っている日でさえ、蛇の池を訪れる人はまばらです。
しかし、蛇の池入口の看板によれば、ここが「大宮氷川神社発祥の地」のようですね。

「蛇の池」入口の看板(クリックで拡大)

わたしも早速蛇の池に参拝しました。

蛇の池

蛇の池正面

湧水が池に注いでいる

「水神のまします池」というのも頷けるような、清々しい場所です。

見沼の古層の神は水神・竜神・蛇神ですが、出雲の神・スサノオもヤマタノオロチという蛇神と関わりがあるので、蛇神を祭る行為は、後から来た出雲系の人にとっても、不自然なことではなかったのでしょう。

記紀においてはヤマタノオロチは悪者扱いで、特に子供向けの絵本などでは「単なる蛇の化け物」といった表現がなされていますが、本来はアニミズムの神(山神・水神)で、善悪とは離れた存在です。
そもそも記紀の神話は、出雲神話とは大分違うようなので、出雲族が蛇神を悪者とみなしていたとは断言できません。
また、「日本大百科全書(ニッポニカ)」の解説によれば、出雲でもたしかに蛇信仰があったようなのです。
このことを考えると、武蔵に移り住んだ出雲族が、アラハバキや蛇の池をないがしろにしなかったのも納得です。

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