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【社会】

野田虐待死 あす母親初公判 「ひとごとと思えない」DV被害の母ら「加担」悔い

「絶望と孤独、無力感で暴力を止めることなんてできなかった」と語る千葉県内の女性

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 千葉県野田市で小学四年の栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=が一月、自宅で死亡した虐待事件で、父親の暴行を黙認したとして、傷害ほう助罪に問われた母親なぎさ被告(32)の初公判が十六日、千葉地裁で開かれる。夫にドメスティックバイオレンス(DV)を受けていたとみられる被告。同様にDV被害を受けて子どもへの虐待への加担を経験した女性らは自身の姿を重ね、「ひとごとと思えない」と、審理の行方に注目している。 (太田理英子)

 「子どもをかばおうとすると火に油を注ぐだけ。暴力を止められなかった」。結婚後、夫(54)から言葉の暴力を受けてきた千葉県内の女性(51)は、今も三人の子どもへ罪悪感を抱く。

 夫は自分の意に沿わないことに腹を立てては、女性らを執拗(しつよう)になじり、次第に殴る蹴るの暴行も始まった。常に夫の顔色をうかがい、怒らせないよう従うことに必死だったという。

 夫が主に標的にしたのは、当時幼かった長女(28)。「目つきが気に入らない」などと馬乗りになって殴り、女性が間に入ると、暴力は激化。女性は自分のせいでさらに悪化すると思い、制止できなくなった。「助けを求めても信じてもらえないと思い、夫が怖くて警察にも行けなかった」。泣き叫ぶ長女の口を手でふさいだこともあった。

 五年前、書店で手にした本をきっかけに、自分はDVを受けているのでは、と気付いた。支援団体に相談し、自身も子どもたちへの虐待に加担していたことが分かった。夫婦で支援団体の面談を受け、暴行は止まったが、「子どもたちにつらい思いをさせてしまった」との思いは消えない。

 「普通の母親はできるのに、おまえはだめだ」。夫の言葉の暴力に苦しみ、育児放棄になりかけた神奈川県内の四十代女性は「精神的に追い詰められて何も考えられず、子どもと向き合う気力もなくなった」と振り返る。「自分の闇に触れるよう。あのままだったら(なぎさ被告と)同じ事態になったかもしれない」と事件を直視するのが怖い。

 常磐大の宇治和子准教授(ジェンダー心理学)は「DV被害者が置かれている状況が社会的に理解されない中、母親が逃げられなかった過程を自ら法廷で語ることで、心の動きを知ることができるはず。逃げ出せないDV被害者や虐待を受ける子どもの支援を考えるきっかけになってほしい」と話している。

<千葉県小4女児虐待死事件> 千葉県野田市の栗原心愛さんが自宅浴室で死亡し、父勇一郎被告(41)が傷害致死罪などで、母なぎさ被告が傷害ほう助罪で起訴された。心愛さんは2017年11月に小学校のアンケートで父の暴力を訴え、県柏児童相談所が一時保護。柏児相はわいせつ被害の疑いを把握しながら、2カ月後に保護を解除した。野田市教育委員会が父にアンケートのコピーを渡したことや、児相が父の要求に応じて帰宅を認めたことなどが問題視され、国や自治体が対応の検証を続けている。父は裁判員裁判で審理される予定で、期日未定。

 

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