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「水攻めにしてやる」と森繁さんは言った

2009年11月16日

  • 筆者 小原篤

写真拡大1955年の森繁久弥さん写真拡大DVD「白蛇伝」(東映ビデオ)写真拡大「もののけ姫」が公開された97年の森繁久弥さん写真拡大DVD「もののけ姫」」(ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント)

 俳優の森繁久弥さんが亡くなりました。享年96歳。森繁さんとアニメといえば、「もののけ姫」(97年)でイノシシの長老、乙事主を演じたことを思い出す人も多いでしょうが、私にとっては「白蛇伝」。奇しくも亡くなる前々日、「白蛇伝」のDVDを見返していたのです。

 東映動画(現・東映アニメーション)による日本初のカラー長編アニメ映画「白蛇伝」の公開は58年。「社長シリーズ」に続いて「駅前シリーズ」が始まったばかりの乗りに乗ってる森繁さんは、宮城まり子さんと2人で、すべてのキャラの声を担当しています。「まんが日本昔ばなし」方式ですね。白蛇の精・白娘が恋する青年・許仙のちょっと澄ました声も、2人の恋を邪魔する(本人は妖怪退治のつもり)法海和尚の太い声も、愚連隊のブタや体が超頑丈なパンダの声も、森繁さんが得意の声色で演じ分けています。

 クライマックス、死んでしまった許仙を生き返らせようと、白娘は竜王から授かった「命の花」を持って湖のほとりの寺に小舟で向かいますが、法海がそうはさせじと法力で妨害します。白娘に付き従うかわいい女の子の姿をした魚の精・少青が、湖の底に住むナマズのおじさんに助けを求めます。「わかっておる、わかっておる。よし、水攻めにしてやる」(森繁さんの声)。少青を背に乗せ、魚の大群を引き連れて大波を起こして猛突進。ザブーン!ザバーン!! あれれ、これはどっかで見たシーン。

 08年3月の本欄「母をたずねて宅急便 じゃりン子チエの神隠し」で、宮崎駿監督の新作「崖の上のポニョ」(08年8月公開)はもしかしたら「白蛇伝」に似ているのかも、と予測しましたが、当たっていたみたいです。魚の女の子と魚の群れと大波襲来スペクタクル。オケの勇壮な音楽がつくのもそっくり。高校生の時「白蛇伝」を見て涙したのがアニメを志すきっかけとなった宮崎監督ですが、50年の時を経て、その「原点」をこんな形で甦らせるとは! たぶん意識せずに作ったのでしょうけれど、人間、若い時に深く心に刻まれたものから終生逃れられないのかもしれません。

 余談ですが、パンダたちが届けた「命の花」によって甦った許仙は、湖に落ちた白娘を助けに飛び込みます。助けに来た者が逆に助けられ…というフシギ展開は宮崎アニメの得意技の一つ(ホラ、「千と千尋の神隠し」でハクを助けるために銭婆の家に行った千尋をハクが迎えに来るとか)。まあ、これがルーツとは言いませんが。

 さて「大ナマズと少青」「巨大魚とポニョ」から話を広げますと、「でっかい動物と女の子」というのは宮崎監督の好きなモチーフで、さらにその動物が猛スピードで動いたりして女の子がそれにしがみつく、というシチュエーションになればなおさら「萌える」(燃える?)ようです。パパンダとミミ、王蟲の子とナウシカ、トトロとサツキ&メイ、ポルコとフィオ、竜型ハクと千尋、怪鳥ハウルとソフィー、そしてもちろん乙事主とサンも。大波のように突進するイノシシたちを率いる乙事主が、「白蛇伝」の大ナマズと同じ声であることは、一種の必然と言えるでしょう。

 このナマズは、日本が誇る名アニメーター大塚康生さんが新人時代に原画を描いています。スタジオでナマズを飼ってその動きを研究したそうです。つい先日、お話を聞く機会がありました。「あのナマズ、すぐ死んじゃったけど役に立ちましたよ。自分の画をいま見るとプロポーションが本物そのままで、もう少しアニメーションのキャラクターらしくした方がよかったな、と思いますけど」

 その大塚さんに「あそこにそっくりなシーンが『ポニョ』にありますね」と言ったら「いやー、違いますよ」。あれれ。森繁さん追悼の思いを込めて皆さんもぜひ「白蛇伝」を見て確かめて下さい。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99~03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から編集局文化グループ記者。

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