「ティッシュのティーに…」
ふと聞こえてきた、隣席の某記者の謎の会話。どうやら電話の相手にメールアドレスを伝えている様子だ。余計なお世話かもしれないが、アルファベットの「T」を伝えるにはそもそもティッシュでいいのだろうか。東京(TOKYO)の方がしっくり来るのでは? 電話を終えた記者に突っ込むと「実はティッシュと東京でいつも迷ってる」との告白。その悩み、解決してあげましょう!(ネクスト編集部 金井かおる)
■電話は「相手との探り合い」
「ティッシュでも間違いではないですよ」
明るくハキハキとした口調で教えてくれたのは、日本電信電話ユーザー協会技能検定(もしもし検定)部長の吉川理恵子さん。電話対応のプロだ。
ー「T」は東京の方が分かりやすいのでは。
「ティッシュでも相手に伝わっていれば大丈夫ですよ」
ティッシュと東京どっち問題は、ものの数秒で解決…どっちでもいいんかい!
■言い換えルールは
このままでは記事にならない。質問を続ける。
ー言い換える単語にルールはないんでしょうか。
「昔、電話交換手がいた時代には『交換用語集』がありましたが、今はありませんね」
平成生まれの方には信じてもらえないかもしれないが、その昔、1890(明治23)年に電話をしたい相手に交換手を経由してつないでもらう電話交換システムが始まった。その後、全国各地の様々な方言やイントネーションの依頼主の言葉を聞き間違えないよう『交換用語集』が作られたそうだ。電話交換業務は1984(昭和59)年に廃止されたが、当時の用語集の名残は、無線の運用ルールが掲載された総務省「令無線局運用規則別表第5号」(1961、昭和36年)の「和文通話表」に残っている。
「和文通話表」には、「朝日のア」、「いろはのイ」、「上野のウ」など、誰もが思い浮かべることのできる代表的な単語で50音が言い換えられている。また、ビジネス会話のノウハウ本「図解まるわかり会話術の基本」(新星出版社)には、アルファベットの便利な伝え方として「Tは東京のT」と紹介されている。
■「乃」、なんて説明する?
そういえば、筆者も以前、漢字の「乃」を20代女性に説明した際、「乃木将軍の乃」と伝えたところ、「ああ、乃木坂46の乃ですね」と軽くいなされ、世代間ギャップに傷ついたことがある。
苦い記憶を吉川さんに明かすと、「それはいいことです。電話は復唱が大切です。『相手に否定された』ではなく、確認を重ねることがコミュニケーションにつながっているんです。電話は相手との探り合いです。『この言葉で相手に伝わったかな?』と相手の反応を聞き分けながら、電話口の2人がお互い理解し合うことが大切です」
ほとんどの用件はインターネット上で済む現代。電話をかけること自体が減ったにもかかわらず、社会に出ると電話応対スキルを求められる。
ー見えない相手とのコミュニケーション、どうすれば。
「電話応対はトレーニングをすれば誰でも上手になるんです。コツやマニュアルではなく、数をこなすのが一番。相手が何を言っているか聞きとり、相手に合わせて応対するという意識が大切です。新入社員の人は、先輩たちが使う言い回しをまねすると言葉がふくらみますよ」
◇
筆者自身、名字の一部「金」の漢字を電話で伝えるときは「金曜日の金です」が定番でした。しかし、人気アニメ「けものフレンズ」の関係者に定番通りの説明をしたところ、返された言葉は「金脈の金ですね」。思いがけない返しに「おもしろい例えですね」と会話がさらに弾みました。
氏名の漢字やメールアドレス、皆さんはどうやって説明してますか。