提督の憂鬱   作:sognathus
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提督が疲労で寝ている間に、艦娘たちは指示された遠征を行った。
しかしただ行っただけではなかった。
普段は長時間の遠征を行う事によって艦隊メンバーのローテーションに余裕を持って行うのが提督の基地のスタイルであったが、この時は弾薬のみを重点的に集める為に比較的短時間で実行可能なものを集中的に行ったのだ。

提督が短い眠りから覚めると、そこには先の作戦で消費した分に相当するだ弾薬が備蓄されていた。
提督は部下たちの意を汲み取り、作戦への復帰を決定した。
その結果……。


第×31話 「新人教師」

「練習巡洋艦香取です。提督、よろしくお願い致します」ペコリ

 

「練習巡洋艦……」

 

「はい、何分教練に重きを置いた艦なので、性能は残念ながら他の方々には劣ると思います。ですが、この香取、“導くこと”には殊の外自信があります。ですので、艦隊の指揮、作戦の補助の際にはどうぞご期待ください」

 

「成程、了解した。こちらこそ宜しく頼む。俺の事は大佐と、経緯や理由については他のやつらに訊いてくれ」

 

「准将殿でいらっしゃるのに大佐ですか……。成程、敬愛からくる親愛の標のようなものですね。了解いたしました、大佐殿」

 

「理解が早くて助かる。君に割り当てた部屋へは後ほど案内する。それまでは基地の中を見学でもしていてくれ」

 

「お心遣い感謝致します。あの、大佐殿。早速で恐縮なのですがおひとつお伺いしたい事が……」

 

「ん?」

 

「あちらの、窓に寄りかかっているお三方はどうされたのですか?」

 

「ああ……」

 

提督は香取が気にした方向を少しバツが悪そうな顔で見た。

提督と香取のその視線の先には、利根と龍驤とビスマルクが揃って窓枠にもたれて気だるげに外を眺めていた。

 

利根「……ふぁ」

 

龍驤「ふに……ぁぁ……」

 

Bis「……」プクー

 

 

「あまり気にしないでいい。あいつらはその、何というか君を見つけるきっかけとなった作戦の折にちょっと、な」

 

「え? それでは、あの方たちがあのように無気力な様子なのは私にも原因が?」

 

どうやら香取は提督の話を悪い様に受け取ったらしい。

先程落ち着いた態度で丁寧に挨拶した時と変わって、眼鏡ごしに悲しそうな目をした。

 

「いや、違うんだ。あいつらがああなのは……」

 

 

提督は香取に説明した。

利根達があの様な状態になった理由を。

 

提督は疲労の眠りから覚めた後、部下たちの気遣いによって一度断念した作戦への復帰を決定した。

その甲斐あって作戦は成功し、今目の前にいる香取の発見の成果まで挙げるという行幸を提督の基地にもたらした。

作戦の成功と新たな仲間を迎え入れた事によって喜びに沸く艦娘たちであったが、この時点である結末を完全に迎えた事を彼女たちはまだ知らなかった。

 

そう、この成功によって基地の弾薬を再び完全に消費し尽くし、その後に控えていた最後の作戦に完全に参加できなくなったのだ。

最後の作戦に参加できなかったのは、資材だけの問題ではなく時間の問題もあった。

先の作戦が成功した時点で実は最後の作戦はその進行が最終段階に既に入っており、提督の基地の資材に再び余裕ができる頃には終わってしまっていたのだ。

 

事実を知った利根達は先の作戦の成功によって戦意も高揚していただけあって、その落胆ぶりは目に余るものであった。

勿論、作戦に参加した皆が皆落胆したわけではなかったが、艦隊の中でもとりわけ“精神年齢が若干幼い”者たちがこの様な状態になったのである。

 

「……とういうわけだ」

 

「成程……。資材もそうですが、時間は本当にどうにもなりませんからね。仕方ない事だとは思います。ですが……」チラ

 

「……ふむ、早速“導いて”みるか?」

 

「お任せ頂けますか?では」ニコッ

 

香取は提督から下された初任務を笑顔で了解した。

 

 

「ぶぅ、納得いかないのじゃ。資材があれば吾輩達だって活躍して、作戦だってもーっと早く終わっていのじゃっ」

 

「せやけなぁ作戦に参加してた他の基地の人見たやろ? あの人らものごっつまたかぁ、みたいな顔しとったで? ちゅーことはぁ……」

 

「それだけ危険で攻略が難しい戦場だったって事でしょ? 解ってるわよでも、でもさぁ……」

 

「あの、少し宜しいですか?」

 

「おお、これは香取殿。もう大佐への挨拶はよいのか?」

 

「ええ、おかげさまで。ここの基地は良いところみたいですね。ていと……大佐殿の影響力がよく解ります」ニコッ

 

「なんや香取さん先生みたいやなぁ。うち香取さんの事先生って言いたくなるわ」カラカラ

 

「そんな、私のような若輩が貴女方のような古強者を前にしていきなり先生だなんて……恐縮してしまいます。どうかそれはご容赦ください」

 

龍驤の言葉に恐縮する香取だったが、その様子を眺めていたビスマルクが彼女を励ます様にフォローをしてきた。

 

「経験と人格は別よ。龍驤の言いたい事、私も少し解るわ。香取さん、そこは素直に褒め言葉として受け取っても問題はないと思うわよ」

 

「ビスマルクさんまで……ありがとうございます」

 

「気にしないで。あ、それと私の事はここではマリアって呼んでもらえるかしら。理由は後で話すわ」

 

「あらビスマ……いえ、マリアさんも? はい、ふふ、分かりました」

 

「ほう……香取さんには何やら底知れぬ包容力を感じるの。吾輩達の気だるさが幾分緩和された気がするぞ」

 

「あ、それなんか解るわー。なんかこう、ほわわーってなるー」

 

「ふむ、抽象的過ぎる表現なのに私も何となく理解できるわ。凄いわね香取さん」

 

「いえいえい、私なんて……。あ、これお近づきのしるしにどうぞ」

 

ドンッ

 

『清酒鬼○ろし』

 

「「「 」」」

 

突如出された思わぬ歓迎の贈り物に利根達は揃って言葉を失ってその場に固まった。

 

 

「あら? どうされました?」

 

「い、いや……そのぉ…。あ、あははぁ、香取さん先生みたいやのに結構パンチ効いた冗談言うんやねぇ」

 

「? 冗談?」

 

「ふふ、そうね。まさか昼間に、それも大佐の執務室でお酒を出すなんて、なかなか考え付かないジョークだわ」

 

「ふむ、そうじゃの。この、時に和ませ、時に意表を突いて相手のペースを崩し自分の流れにする行動力、流石じゃ」

 

「いえ、冗談ではありませんよ。大佐には許可を頂いてますし」

 

「えっ」

 

香取の言葉に龍驤は驚きの声をあげた。

それはビスマルクも同じようで、龍驤ほどではないが彼女もどこか疑いの眼差しで香取を見ながら言った。

 

「ほ、本当……? だって一応待機中って言っても非番じゃないし、真昼間よ?」

 

「大佐が取り敢えず貴方方は今の段階では出撃する余裕はないから大丈夫と仰っていました」ニコッ

 

「なんと……」

 

利根が意外な提督の判断に目を丸くして彼の方を見た。

それに対して提督は少し居心地が悪そうに軽く咳払いをしただけだった。

 

「……コホン」

 

 

「た、大佐も偶に思い切った事やりよるな」

 

「でもお酒はねぇ。私日本のお酒飲んだことないし」

 

「これは日本酒ですがドイツの方でも結構愛飲してる方はいるみたいですよ」

 

「え? そうなの? じゃぁちょっと飲んでみようかしら……」

 

「はい、どうぞ。あ、龍驤さん達も飲みます?」トクトク

 

「酒に逃げてる気がせんでもないけど、まぁ嫌いでもないなぁ。もらうわっ」

 

「はい♪」トクトク

 

「むぅ、じゃぁ吾輩も……」

 

「どうぞ。それじゃぁ私も……」トクトク

 

 

「杯は皆さんに行き渡りましたか? それでは僭越ながら私が、この場を借りて皆さんと私の出会いを祝して……」

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

「ん……あ、美味しい」

 

ビスマルクは初めて飲んだ日本酒の柔らかな味と喉越しに感心した顔をした。

龍驤は幾分飲みなれた様子で杯をあおりながらビスマルクが羽目を外さない様に注意をする。

 

「ん……ふぅ、まぁこれそんなに高い酒でもないしなぁ。飲みやすいかもしれへんけど、でもあんまり飲むと悪酔いするで」

 

「ふふ、ごめんなさい。これ、隼鷹さんから飲みかけの物を譲ってもらったものでして」

 

そんな感じで皆が和気藹々とする中、利根は何故か一人だけ杯を持ったまま黙り込んでいた。

 

「……」

 

「ん? 利根さんどうしたん?」

 

「利根にはこれ合わなかったのかしら?」

 

「……ない」

 

利根はぽつりと言った。

龍驤がそれを僅かに漏れ聞き、聞き返す。

 

「え?」

 

「……のじゃ」

 

「なに?」

 

「なんか甘いのじゃ!」

 

「「え?」」

 

龍驤とビスマルクは意外な利根の訴えに揃って驚いた。

 

「なんかこれ甘い、というかジュースっぽい気がするのだ」

 

「はぁ? 何言ってどれ……あ」チビ

 

「ん……あれ、これ」

 

「どうじゃ?」

 

「利根さんのこれ、なんかアレやろ。水に果物の果汁が入ったやつ」

 

「ああ、なんとかの天然水ってやつ? 確かに、それっぽいわね」

 

「……香取殿?」

 

龍驤質の推理に利根は疑問に満ちた顔で香取を見る。

それに対して香取は特に気にする風もなく、落ち着いた様子で答えた。

 

「え? あ、はい。それジュースですよ?」

 

「なんで吾輩だけ!?」

 

「ごめんなさい。何故か利根さんはお酒は飲んじゃいけないような気がして」

 

「何故じゃ!? 子供っぽいと言うなら龍驤の方がそうであろう!?」

 

「えと……龍驤さんは何と言うか……」

 

「んー?」グビ

 

「妙に様になってるわね……」

 

「ちょ、ちょっと待つのじゃ! な、なら胸はどうじゃ!? 胸なら吾輩の方が大きいし大人に見えるであろう!?」

 

予想外のところで自分と龍驤の間に看過できない差が作られそうなことに利根は焦った。

龍驤はそれを面白そうモノを見つけたとばかりにニヤつきながら利根に話し掛けてきた。

 

「ふっふっふー、と・ね・さぁん」

 

「な、なんじゃ?」

 

「大人の価値ってのは別に胸だけで決まるものじゃないんやでぇ?」

 

「な、なんと!?」

 

「確かにうちは胸では殆どの娘に負けとるかもしれない。せやけどその品格は少なくとも利根さんよりかは大人っちゅーことや!」

 

「そ、そんな!」ガーン

 

「なるほど。つまり利根は私よりも下なのね」

 

龍驤だけでもその事実は受け入れ難いというのに、ここで更にビスマルクが参戦してきた。

 

「何故そうなるのじゃ! 龍驤には負けておるかもしれぬがマリアは明らかに吾輩より下であろう!」

 

「なんですって!」

 

「なんじゃぁ!」

 

ギャーワー

 

 

「あー、エライことになってもーたな」

 

「そうですねぇ。これは気だるげにしているわけにはいけませんね」

 

「え? あ……香取さんもしかして……?」

 

「ふふ、なんですか?」

 

柔らかく笑い返す香取に龍驤は、笑いは笑いでも乾いた笑顔でしか返す事できなかった。

 

「あぁ……あはははぁ、なんでもないです!」

 

「そうですか? 何か気になりましたら遠慮なく仰って下さいね。……そういうわけで大佐殿、任務完了しました」

 

「……なかなかの力技だったな」

 

提督は笑顔で任務の完了を伝える香取に、若干気圧されながらその功績を称えた。




ということで冬イベは攻略は結局E4までとしました。
天城はまぁ特に欲しくはなかったので、またどこかでドロップでもしたらいいなと。

土日が仕事じゃなかったらE5なんとかなったかもしれないんですけどねぇ……。


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