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乙女ゲーム六周目、オートモードが切れました。 作者:空谷玲奈

第二章

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第四十一話 戦場へ赴く

 同級生枠で登場するサーシアは身分だけ見れば貴族ではなくただの『平民』だが、実は世界一の火炎魔法士を祖父に持つ三世である。

 身分ではなく財力に重きを置くアヴァントール学園において、彼は平民ながら貴族とそう変わらない立ち位置にいた。

 しかし貴族と言うのはどいつもこいつも身分にうるさい。子息令嬢ばかりの学舎であっても、子供は親を見て育つのだから、親が身分に拘っていれば自ずと子供もそう言う考えになってしまう。

 いくら世界一の魔法士の血を継ぐとは言え、平民は平民。分別のない者ならばあからさまにサーシアを嘲っても可笑しくないが……過去五回を見ても、そう言ったことは無かった。私が知る範囲では、表立って彼を貶めた者はいない。


 燃えるような赤い髪。炎を思わせるオレンジがかった赤い瞳。笑顔が爽やかな、イケテる男子略してイケメン。

 そしてその笑顔通り、明るく爽やかな人気者。

 人好きのする容姿と性格が揃った人間を陥れるのはリスクが高い。明確で、誰もが納得する理由がなければ醜い嫉妬と見なされる。サーシアみたくモテる人間ならば尚更。

 そして何より、身分では貴族よりも下と言えど彼の祖父は世界一の魔法使い。これから魔法を学ぶ者達にとって侮れる訳がない。


 そんな彼との恋愛は青春そのものだ。

 転校生が人気者のクラスメイトと恋に落ちる、うん王道。

 その王道ストーリーに色を添えるのが、彼の『祖父』と『マリアベル』だ。

 私の見てきたサーシアは明るく爽やか活発な人気者だが、彼は初めからそうだった訳ではない。

 偉大な祖父を持つプレッシャー。中途半端に持ってしまった魔法の素質が災いし、それは歳を重ねるごとに増していった。

 増える期待に反して減っていく自信。

 少しネリエルに似ているが、大きく違うのはネリエルが引きこもる事を選んだのとは逆に、サーシアは外に出て交遊関係を増やしていった事だろう。

 自信がないから人目を避ける。自信がないから人目を集める。

 十人十色とはよく言ったものだが、こうも真逆とは。


 あ、因みに彼のルートでの私は物凄く純粋にサーシアが好きだから伝を使って彼と婚約しました。感情は純粋なのに行動が不純とは、真性の悪役だと思う。

 ハッピーエンドでは家ごと没落、バッドエンドでも消息不明の明記のみ。

 うん、平和的ですねー。どっかの病んでる人に比べたら、殺されないだけまだマシだ。


 勿論、マシなだけで良い訳ではない。断じて無いので同じクラスになりたくない。

 そのため、私は今日と言う日を待ち望むのと同じくらい逃げ出したかった。

 そしてもしサーシアと同じクラスでなかったら、少なくとも一年は比較的平和に過ごせるだろう。

 逆にサーシアと同じクラスになったなら、私は戦場へ向かう兵士の心持ちで挑まねばならない。


 そしてその結果だが──



「俺、サーシア・ドロシー。隣よろしく!」


「……マリアベル・テンペスト、です」


 隣から聞こえた声に、絶望感にうちひしがれながらも返事をしただけ誉めていただきたい。

 夢だ幻だも必死に現実逃避を試みたがどれも失敗に終わった。

 ニコニコと穢れなき笑顔を向けてくるサーシアに八つ当たりしてやりたい気分だが、彼は何も悪くない。分かってます、分かってますとも。クラス分けなんてどうにもならない、天の采配と言う名の先生の気紛れです多分。

 だとしても、私の一番嫌な想定のそのまた下である現状をサラッと受け入れるとか無理だから!


 現在の私の気持ちは戦場へ向かう兵士ではなく、敵国に捕虜として捕らえられた兵士、と言ったところだろうか。

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