2006年 基礎科学部門 数理科学(純粋数学を含む)
赤池 弘次(Hirotugu Akaike) 日本 / 1927年-2009年 統計数理学者 統計数理研究所名誉教授 情報量規準AICの提唱による統計科学・モデリングへの多大な貢献 情報数理の基礎概念に基づく、実用性と汎用性の両方を兼ね備えた、統計モデル選択のための規準 Akaike Information Criterion(AIC) の提唱により、データの世界とモデルの世界を結びつける新しいパラダイムを打ち立て、情報・統計科学への多大な貢献をした。 [受賞当時の対象分野: 数理科学]
プロフィール 略歴 1927年 静岡県富士宮市生まれ 1952年 東京大学理学部数学科卒業 1952年 統計数理研究所入所 1961年 理学博士(東京大学) 1962年 統計数理研究所第一研究部第二研究室長 1973年 統計数理研究所第五研究部長 1985年 統計数理研究所予測制御研究系研究主幹 1986年 統計数理研究所所長 日本学術会議会員(1988-1991年) 総合研究大学院大学数物科学研究科教授(1988-1994年) 1994年 統計数理研究所名誉教授 1994年 総合研究大学院大学名誉教授 主な受賞・栄誉 1972年 石川賞、(財)日本科学技術連盟 1980年 大河内記念技術賞、大河内記念会 1989年 1988年度朝日賞、朝日新聞 1989年 紫綬褒章(日本) 1996年 第一回日本統計学会賞、日本統計学会 主な論文 1969年 Fitting autoregressive models for prediction, Ann.Inst.Statist.Math . 21 : 243-247, 1969.
1970年 Statistical prediction identification, Ann.Inst.Statist.Math . 22 : 203-217, 1970.
1973年 Information theory and an extension of the maximum likelihood principle, Proc.2nd International Symposium on Information Theory , Petrov, B. N and Csaki, F. eds., Akademiai Kiado, Budapest, 267-281, 1973.
1974年 A new look at the statistical model identification, IEEE Trans. Automat. Control . 19 : 716 – 723, 1974.
1977年 On entropy maximization principle, in Applications of Statistics , Krishnaiah, P. R. ed., North-Holland Publishing Company, 27-41, 1977.
贈賞理由 情報量規準AICの提唱による統計科学・モデリングへの多大な貢献 赤池弘次博士は、1970年代初頭、情報数理の基礎概念に基づく、実用性と汎用性の両方を兼ね備えた、統計モデル選択のための規準Akaike Information Criterion(AIC)を提唱し、統計学でのデータの世界とモデルの世界を結びつける新しいパラダイムを打ち立て、情報・統計科学への多大な貢献を行った。
赤池博士は、蚕糸過程の解析、セメントキルンの制御、火力発電所の制御などの実地研究を通して、情報数理の基礎概念に基づいてAICを導出し、モデル選択という知的情報処理に共通の重要な問題に対して画期的な解答を与えた。AICは、モデルのデータに対する適合度とシンプルさという相反する二つの要請を同時に満たすモデル選択を可能にする。このような性質をもつAICは、現在、数学・統計学の分野以外にも、医学・疫学、生物学、制御工学、経済学、環境学、地球物理学、社会科学などの広範な分野においてモデル選択の指針として広く実用に供されている。
赤池博士は、種々の工業プラントの統計的制御の実用化、多変量時系列解析における時間領域でのモデリング手法の開発、時系列解析ソフトウェアTIMSACの開発・普及等多くの業績を挙げている。さらに、赤池博士は、1980年代初頭にいち早くベイズモデルの重要性を見抜き、その情報・統計科学の立場からの実用化に貢献した。現在の知的情報処理諸分野でのベイズモデルの隆盛を観る時、その慧眼には驚きを禁じ得ない。
情報処理技術の飛躍的な発展により、現在、我々は過去とは比較にならない大量のデータを入手し処理することができる。したがってそこから知識と情報を抽出し、あるいは我々を脅かすリスクを予測し、制御することは、人類社会の生存・発展にとって非常に重要になっている。このような時代認識に立つ時、赤池博士の提唱したAIC、それに基づくモデリングの方法論は、人類の財産として、今後益々重要な役割を果たし続けることは間違いなく、博士の業績は高く評価されるものである。
以上の理由によって、赤池弘次博士に基礎科学部門における第22回(2006)京都賞を贈呈する。
記念講演 記念講演要旨 物の動きを読む数理―情報量規準AIC導入の歴史― 1.はじめに 幼児期からの性格的な特徴として、動く道具や玩具をひっくり返して仕組みを見ることを好みました。結局物の動きの理解に直結する統計数理の研究に進み、ここでも既存の方法をひっくり返して見ることを続けて来ました。
2.予測の数理 結果の分からない状況で問題に対処するには、結果を予測して打つ手を決めます。この場合の期待の数理的表現が確率です。観測データを確率的な見方で解釈すると、予測に有効な情報が得られます。この手順を数理的に組織化すれば観測データの統計的処理法が得られます。
3.実際問題への適用 戦後の復興期に、我が国固有の問題に根ざす研究を目指しました。時間的に変動する現象の解析と制御に関心を集中し、関係分野の研究者と共に、生糸の繰糸行程の統計的管理、自動車の不規則振動や船舶の動揺の解析、不規則な変動を示すセメント焼成炉の自動運転のためのモデル化手法の実用化などに成功し、必要なソフトウエアを開発しました。これで当時の国外の研究者の常識を超える成果が得られました。
4.尤もらしさの解明 ここで利用したモデルは、当面の観測値を生み出す確率的な仕組みを表現し、調節可能なパラメータ(変数)を含んでいます。観測データを用い、尤もらしさ(尤度)が最大になるようにパラメータを調節してモデルを決めます。パラメータの数を増せば見かけ上観測データへの適合の度合いは上がりますが、余計な変数を加えると逆に予測上の誤差が増大する見込みが高まります。
5.情報量規準 情報量規準AICでは、尤度による評価値をパラメータの数の2倍だけ引き下げます。必要以外のものは持ち込むなという論理学上の教えの具体化です。定義式は簡単で応用も容易です。情報量規準は仮想的な「真理」(真の構造)への近さを測る尺度と解釈でき、これで異なる構造のモデルの比較が可能になります。この特性がモデル開発の動きを促進し、利用分野が広がり続けることとなりました。
ワークショップ ワークショップ 日時 2006年11月12日(日)13:00~17:20 場所 国立京都国際会館 企画 室田 一雄 [(専門委員会 委員) 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授] 土谷 隆 [(専門委員会 委員) 統計数理研究所 教授] 司会 室田 一雄 主催 財団法人 稲盛財団 後援 京都府 京都市 NHK 協賛 計測自動制御学会 システム制御情報学会 情報処理学会 電気学会 電子情報通信学会 日本機械学会 日本数学会 日本統計学会 日本応用数理学会 日本オペレーションズリサーチ学会 応用統計学会 プログラム 13:00 開会挨拶 広中 平祐 [(専門委員会 委員長) 京都大学 名誉教授] 受賞者紹介 土谷 隆 受賞者講演 赤池 弘次 [基礎科学部門 受賞者] 「統計的推論とモデリング」 休憩 講演 甘利 俊一 [(京都賞委員会 委員長) 理化学研究所 脳科学総合研究センター センター長] 「赤池情報量規準 AIC ― その思想と新展開」 講演 北川 源四郎 [統計数理研究所 所長] 「情報量規準と統計的モデリング」 休憩 講演 樺島 祥介 [東京工業大学 大学院総合理工学研究科 教授] 「情報学における“More is different”」 講演 下平 英寿 [東京工業大学 大学院情報理工学研究科 助教授] 「モデル選択とブートストラップ」
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