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【社説】

医師の働き方 過労死防ぐ手だてを

 病院などの勤務医の過重労働を是正する残業時間の規制案がまとまった。五年後から適用されるが、規制とは名ばかりになりかねない内容だ。過労死を防ぎ医療の質を保つ手だてを考えたい。

 激務から医師の過労死や過労自殺は後を絶たない。この規制案では「本当の改革とはいえない」との遺族の会の批判はうなずける。

 一般労働者の残業時間の上限規制は四月から始まった。医師の規制は業務の特殊性から五年先送りされ、規制案が検討されていた。

 案では一般の勤務医は、過労死の労災認定の目安となる年九百六十時間を上限とした。

 さらに問題なのは地域医療を支える病院と、集中して技能向上が必要な研修医に限定しながらも、一部の医師に年千八百六十時間まで認める特例を設けることだ。

 地域医療を崩壊させない観点は必要だ。専門性の高い業務である、研さんも重要だろう。

 だが、そのために過重労働を放置させるとしたら見過ごせない。健康確保のため連続勤務時間を二十八時間以下にしたり、終業から次の勤務まで九時間の休息を確保することも義務付ける。

 研修医には本人が希望しなければ適用しないが、半ば強制的に適用されないよう配慮も要る。

 看護師など医師以外の人材への業務分担も進めたい。医療機関にはこうした労務管理の重い責任を負うことを自覚してもらいたい。

 特例は二〇三五年度までの暫定措置だという。ならば、期限まで措置を続けるのではなく、過労死を防ぐためにも、もっと早期に撤廃できるよう努力すべきだ。

 医師不足の背景にも目を向ける必要がある。政府は医師数を増やしてきた。今約三十二万人いる。近い将来、人口減で余りだすと推計されている。大きな課題は、地域と診療科の偏在である。

 医師は地方より豊富な経験を積める都市部に集まりやすい。激務の外科などの診療科を避ける傾向もある。地域偏在について厚生労働省は、医師の多い地域と少ない地域を指定し、少ない地域での医師養成を重視する。

 医療機関の役割分担や集約化も合わせ医療提供体制の見直しを進めるしかない。

 同時に、子育てや介護など充実した生活と両立できる働き方が、どの地域でもどの診療科でも可能となる就労環境を整えるべきだ。

 勤務医も労働者だということを忘れてほしくない。

 

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