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乙女ゲーム六周目、オートモードが切れました。 作者:空谷玲奈

第一章

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第十四話 手品?いいえ、魔法です。

 私が開き直って……覚悟を決めて幾日。

 グレイ先生は変わらず私の家庭教師を続けている。私が『辞めないで』と言ってグレイ先生が『はい』と言ったのだから当たり前だけど。


 そしてその一因である『魔法学』だが、学ぶ事になりました。



「魔法とは六つの属性に別れています。四大属性と言われる火、水、地、風。そこに聖と闇がプラスされ、六つ」


 今、私の前で教鞭を執っているのは、グレイ先生では無い。


「極々稀に強化にのみ特化した『強化魔法』の使い手がおりますが……これは稀中の稀ですので説明は省きます」


 そしてここは、いつもの私の部屋ではない。


 ここは私御用達の憩いの空間、皆さんご存じの『薔薇園』だ。

 植物を模して作られた丸いテーブルには、本来甘く華やかな菓子だったり鮮やかな色味のティーセットだったりが相応しかろう。

 しかし今テーブルの上に乗っているのは、二人分の勉強道具。


 そう、二人分。


 今私の目の前で教鞭を執っているのは、オルセーヌさん。

 そして今、私と共に授業を受けているのが……グレイ先生。


 何故こうなったのか。勿論私のせいでは無い、断じて無い。


 発端は、グレイ先生がお父様と話した事らしかった。

 魔法学を学びたがった私の望みが自分のせいで潰えては、と考えたグレイ先生はお父様と話し……私の抵抗も加味した結果、オルセーヌさんが仕事の合間を使って私……とグレイ先生に魔法を教えてくれる事となった。


 まさか過ぎる展開に正直ついていけてない。

 まず、何でグレイ先生が隣で授業を受けているのか……お父様がグレイ先生の今後の仕事の為にって気を回したからです。

 就職に資格と専門技能は大切ですもんね!出来れば私の預かり知らぬ所でやってほしかった!


「ここまでで質問はありますか?」


「いえ、私は……」


「私もです。オルセーヌ様はとても説明が分かりやすいですね」


「ふふ、ありがとうございます。ここまでは中等部に入ってすぐに学ぶ事ですから、大した事ではないんですよ」


 何でもない事のように言っているが、オルセーヌさんの説明は本当に分かりやすかった。

 お父様に次いで忙しい……下手したらお父様よりも忙しい身であるためまだ授業を受けるのは三回目だが、オルセーヌさんは秘書を廃業しても家庭教師でがっぽり稼げると思う。

 オルセーヌさんにいなくなられたら我が家はしっちゃかめっちゃかになるのでそんな未来は断固拒否させてもらうけど。


「では今日はここまでで、次は……三日後、お昼終わりに致しましょう」


「はい、ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 今日は大体三十分って所で、授業は終了した。

 オルセーヌさんを基準に組み立てているスケジュールなので時間は区々だし日付も確定していない。

 元々私の家庭教師の合間、と言う話しでもあるので優先されるのは私の家庭教師だ。

 正直、魔法学の方が面白いんだけど……最近やっと一つ上の学年の授業をするようになったが、それでも『さんすう』『こくご』平仮名である事は変わり無い。

 その点魔法学は全く知らなかった知識だし、何より楽しい。学んでいてとても面白い。私としては早く中等部に上がりたい、それほど魔法学は好きな教科となっていた。


 だから次の授業も楽しみだなーなんて、呑気に構えていたのだ。

 知らぬ間に突っ込んでいた片足にも、気付かぬまま。



× × × ×



 事が起こったのは、オルセーヌさんに魔法を教えてもらうようになってから幾月を跨ぎ、グレイ先生が私の家庭教師になってから一年に近付く頃だった。


「──今日で魔法学の基礎、中等部一年で学ぶ事のあらすじは終了です。勿論中等部では私が掘り下げなかった『強化魔法』についてもやりますし、各々の属性についてももっと詳しく教わる事になりますが」


「はい、ありがとうございました」


「お忙しい中、沢山時間を割いていただいて、本当に感謝します」


 深々と頭を下げるグレイ先生に、何だか自分の感謝の言葉が物凄く軽いものに感じてしまう。オルセーヌさんもグレイ先生の態度に微笑ましいのか苦笑いなのか分からない表情を浮かべている。

 でもまぁ、気持ちは分からないでもない。

 元々学ぶ権利を持っている私と違って、グレイ先生はお父様から機会を与えられた。お父様も私も、勿論オルセーヌさんもグレイ先生に教える事を『施し』等と思ってはいないが……本人がどう思うかはまた別だからね。


 とは言えどっちにしろ、オルセーヌさんに教えてもらえるのは今日までなんだけど。


「これ以上の事は私ではなくきちんと教える立場を持った人材でなければいけません。実技であればある程度は出来ますが……」


 この世界の人間は、生まれた時は誰もが無属性の魔力を持っている。

 その魔力が魔法学校で学ぶ事により何らかの属性に染まっていく。アヴァントール学園ではこれを中等部と高等部で分け、中等部で魔法を学び、高等部の入学で見極めそれによって属性を決定し専門的な魔法を教えていく。

 つまり、今の私達は『無属性』の状態だ。

 魔法の封入された道具『魔法道具』であれば無属性の魔力で発動が可能だが……私達、子供だし。

 無属性云々ではなく幼いから危ない、と言う事なのだろう。


 出来る事ならオルセーヌさんに教えてもらえている間に『魔法』を体感してみたかったなぁ……。

 このまま魔法の勉強が終わるにしろ、新しい人を雇うにしろ、オルセーヌさんより融通がきくとは思えない。

 あまりに自然であるため違和感を感じないが、本来ならグレイ先生がここで一緒に授業を受けているのもあり得ない事なのだ。


 思わず場所を忘れてしょんぼりしていると、オルセーヌさんは『閃いた!』とばかりに手を叩いた。


「では最後に一度『魔法』を使ってみましょうか」


「……はい?」


 あ、今のは肯定のはいじゃなくて『なに言ってんだこいつ』のはい?だからね。

 え、魔法つかえんの?今の私の説明意味無いじゃん。


「勿論属性魔法は無理ですし魔法道具もお二人にはまだ早いです。でも模擬杖(モデル)を使えば安全に魔法を体感して頂けるかと」


 モデル?細くて綺麗で、ランウェイと言う名の勝ち組街道を歩くリア充の事ですか?


「確か昔私とキルア様が使っていた物があったはずですから、持ってこさせましょう」


 私の疑問はどうやらオルセーヌさんには伝わらなかったらしく、一番近くにいたメイドを手拍子で呼ぶと一言二言耳打ちして下がらせた。

 気になったのはその事よりも下がったはずのメイドが一分もしない内に戻って来た事だけどね。我が家のメイドは忍者の訓練でも受けてんのか。


「これが模擬杖になります。どうぞ」


 私達に差し出されたそれは、真っ黒な棒。

 勿論ただの棒じゃなくて、先に向けて段々細くなっていくそれはどちらが持ち手でどちらが先端か一目で分かった。持ち手の先にはビー玉の様な球体がくっついている。

 モデルとはファッション系の物ではなく、模擬の杖の事だったらしい。紛らわしい名前してるな。


「これは実際に中等部で使う模擬の杖です。属性が不安定でも安全に使える様に制約魔法がかけられているのでお二人が使っても大丈夫ですよ」


「へー……」


 気の抜けた返事だが、内心は結構興奮してます。

 ただあまりにあっさり魔法を体験出来る事になって拍子抜けしているだけで。


「では、構えてください。あぁ、屋敷や人に向けては駄目ですよ」


 花火か。

 しかし初心者は言う通りにしないと確実に失敗する。説明って大事。


「腕を真っ直ぐ伸ばして……はい、模擬杖(モデル)はしっかり握って下さい。振った時に抜けてしまわない様に」


 言われた通り、杖を突き出す形でしっかり握りしめる。

 なんかデッサンしてる人みたいな格好。もしくはホームラン宣言。


「では、グレイさんから。力一杯杖を上から下へ振ってみて下さい」


「は、はい……」


 急に説明がアバウトになった。

 グレイ先生も不安気な表情で、でも逆らえずに、おずおずと杖を振り上げ、深く息を吸ってから力一杯振り下ろした。


「ッ……!!?」


 振り下ろ切る前、丁度真ん中辺り。

 杖の先から、光が吹き出した。

 一瞬マジで花火だったのかと思ってしまったくらい、勢い良く。水芸改め光芸、そんな感じ。

 花火の様に音も無く、匂いも無く、光りの降り注いだ場所が焦げ付く事も無く。驚いて固まったグレイ先生が我に返るより先にそれは小さくなっていって、最後は杖の先に吸い込まれる様にして跡形も無く消えた。


「…………」


「……す、ご」


 呆然と構えたまま動かなくなってしまったグレイ先生。私も絞り出す様な声しか出なかった。

 素を出してしまったがオルセーヌさんはニコニコ笑っていたので聞こえていなかったか、想像の範囲内だったのか。どっちにしろつっこんで来る気配がないのは喜ばしい。

 今、驚きと感動で猫を被れる自信無いです。



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