2015/08/11
「"富士山"が勤務地です!」。登山者の安全と快適のために、日本最高峰へ電波を届ける
日本一高い山である富士山は、登山対象としても人気が高い。登山シーズンとなる7月から8月にかけて、毎年30万人前後の登山者が山頂を目指す。KDDIは、登山者が安全に登山を楽しめるよう、スマートフォンや携帯電話の利用が多く見込まれるこの時期に合わせて、登山道や山頂におけるエリアの拡充を毎年行っている。
富士山に限ったことではないが、登山時における携帯電話やスマートフォンは、いざというときに連絡をとるための、いわばライフラインだ。同時に、登山中や登頂時には、その模様をSNSに投稿したり、メールを送ったり、喜びや感動を分かち合うためのツールでもある。
日本で最も高い山である富士山の山頂は、電気・ガス・水道といったライフラインが整備されているわけでもなく、自然環境も厳しい。そのような特殊な場所において、携帯電話やスマートフォンがつながるために、どのような対策がなされているのか? それを確かめるべく、2015年7月上旬に行われた富士山頂のエリア対策に密着取材してきた。
登山者が連なる富士山頂付近。2013年に世界遺産に登録された影響か、外国人の姿も少なくない
取材初日、ブルドーザーで機材を山頂へ!
基地局の機材をブルドーザーに積み込む
取材初日は、朝6時半に集合場所の富士山須走口五合目駐車場へ。この地点の標高は1,970m。夏本番が近づきつつある平地と違って、空気がひんやりとしている。
ここでKDDIの富士山プロジェクトチームのメンバーたちと合流。人力では運べないアンテナやバッテリーといった機材をブルドーザーに積み、いざ山頂へと向かう。
専用の道を走るブルドーザー。五合目から山頂まで、約2時間の道のりだ
山頂到着後、ブルドーザーから荷物を降ろす
午前10時過ぎ、山頂に到着。取材班一同、この時点ですでに少々ぐったりしていたが、休む間もなく、ブルドーザーから荷物を下ろし、山頂の山小屋「山口屋」へと運んでいく。作業の時間は限られている。のんびりしているヒマはないのだ。
6月下旬に行われた、富士吉田ルートの山小屋のエリア調査と電波対策の様子(写真提供:KDDI)
実はここに至るまで、プロジェクトチームのメンバーはすでに何度も富士山に足を運び、数日間山小屋に泊まりこんだり、下山したりを繰り返しながら、山頂や登山道の山小屋に機材を運び込み、エリア化の準備を重ねてきた。関わってきたメンバーは延べ70〜80人にも及ぶ。今回の山頂での作業は、その"総仕上げ"となる。
山頂の山小屋の屋根にアンテナを設置
この日、行われた作業は、アンテナを山小屋の屋根に設置する作業や、バッテリーの取り付け、部品交換など。小雨が降りしきる中、スタッフは屋根の上に登り、下からブルドーザーで運んできたアンテナを慎重に取り付けていく。
今回のプロジェクトの中心人物は、KDDIエンジニアリング中部支社の松原健一と、KDDI名古屋エンジニアリングセンターの後藤昂博。松原は数年前からこのプロジェクトを率いてきた、富士山の電波対策のプロフェッショナル。一方の後藤は今回が初めての参加となる。
松原と後藤の役割は、このプロジェクト全体を取り仕切り、作業の工程を管理する、いわば「現場監督」だ。
「富士山の電波対策のことならまかせてください。知識と経験は誰にも負けない自信があります」(松原)
「高山病がちょっと心配ですが、全力を尽くしたいと思います!」(後藤)
左/KDDIエンジニアリング中部支社 松原健一、右/KDDI名古屋エンジニアリングセンター 後藤昂博
富士山で携帯電話やスマートフォンを使えるようにするために、携帯電話各社は、登山道や山頂に点在する山小屋に協力を仰いでいる。その理由は、アンテナや無線機を設置する場所の確保と、電波を発するための電力の確保の2つだ。富士山の山小屋に電気は通じていないが、7月と8月の営業期間中は発電機で電気を起こしている。
富士山の電波対策が行われるのは、山開きの前の6月下旬から7月上旬の、梅雨明け前で、天候が不安定な時期である。この日も小雨が降っていたが、日によっては暴風雨に見舞われ、作業が中止または延期になることもあるという。ゆえに、計画が立てづらいという難しさがあるようだ。
気温や気圧の低さも、スムーズな作業を阻害する要因となる。富士山頂は、夏でも真冬のように寒く、朝晩は氷点下まで冷え込むこともある。気圧は平地の約6割、酸素濃度は平地の半分程度しかないため、頭痛や吐き気といった高山病の症状に悩まされるメンバーも少なくないという。
実は、アンテナは登山シーズンに合わせて設置し、シーズン終了とともに撤去しなければならない。なぜなら富士山頂の自然環境は厳しく、特に冬は降雪や吹雪があるため、アンテナは強度の問題で耐えることができないからだそうだ。
奥に見えるのが無線機。閉山期間中は落としていた電源を立ち上げ、部品の交換や設定の調整などを行う
ひと通り作業を済ませ、この日の仕事は終了。夕飯をとり、早目に就寝して、翌日に向けて英気を養う。山の夜は早く、まだ日が完全に暮れきっていない18時半には消灯となる。
富士山頂で、LTEがつながった!
そして2日目。初日とは打って変わって、天気は快晴。早起きして山小屋の外に出ると、美しいご来光を拝むことができた。
山小屋のスタッフによると、梅雨明け前のこの時期にこれほど美しいご来光が見られることは珍しいという
2日目の作業は、前日に設置したアンテナの角度や無線機の設定を調整し、実際に電波を飛ばせる状態にまで持っていくこと。「順調にいけば今日中に、高速のLTE通信が利用可能になりますよ」(松原)
ここであらためて、富士山で携帯電話やスマートフォンを使える仕組みを解説しよう。まずは富士山頂に電波が届く仕組みについて。山頂の山小屋には、2種類のアンテナが設置されている。一つは麓の基地局から発せられた電波をキャッチするアンテナで、受信した電波は、携帯電話やスマートフォンと通信するもう一つのアンテナへケーブルを伝って送られ、そこから電波が出て携帯電話やスマートフォンに届けられる。まるでたすきリレーのような仕組みだ。
次に、登山道に電波が届く仕組みについて。登山道は、麓にある基地局が電波を提供している。しかし山小屋など場所によっては電波が弱い場合があり、その場合は山小屋に「レピータ」という屋外の電波を増幅させる機器を設置し、電波状況の改善を行う。そのように、富士山のあらゆるところで電波がつながるための工夫がなされており、その構成は毎年同じではなく、よりつながりやすくなるよう、機器の交換や設定の調整など、毎年改良を加えているという。
山頂付近に設置されたアンテナ
松原らが山小屋内で無線機の調整作業をしている間、後藤は外に出て、山頂の火口対岸に向けて歩き始める。そしてところどころで足を止め、スマートフォンを取り出し、電波状況を計測している。
「富士山頂付近における電波の品質調査は、今回の私のミッションのひとつ。計測したデータは、来年以降の品質改善に役立てていきます」(後藤)
山頂の火口を歩く後藤。体力には自信があるものの、平地と同じというわけにはいかず、少しつらそうな表情だ
実質上の日本最高地点(3,776m)である剣ヶ峰にて。もちろんスマートフォンをいじって遊んでいるわけではない。電波状況を計測中だ
計測用のスマートフォンは複数台用意。水濡れ対策のジッパー付きバッグや、山小屋では電気を使えないのでモバイルバッテリーも必須
今回の取材では、タフさが売りのスマートフォン「トルク」をテスト。富士山のような厳しい環境でも安心して使うことができた
後藤とともに火口をぐるりと一周して、『山口屋』に戻ってくると、松原から「LTEがつながった」との報せが。自分のスマートフォンを確認すると、確かに「4G」と表示されている! 早速ネットを開いてみたところ、平地と変わらない快適さで閲覧することができた。SNSもサクサク使える。日頃何気なく使っているスマートフォン。auの人口カバー率は99%を超えているが、ここは富士山頂という特殊な環境であり、「えっ、こんなところでもLTEの高速通信が使えるの?」という驚きがあった。
山頂の『山口屋』のほか、LTEがつながる山小屋にはステッカーが貼ってあるので、登山予定のある人はぜひ確認してみてほしい
そして3日目、最終日。松原と後藤は「下山しながら、その途中にある山小屋の電波状況を確認していきます」と笑顔で語り、下山道へ歩いていった。登山者が安心して登山を楽しめるように、そして登山中に快適に携帯電話やスマートフォンを使えるように、時間の許す限り、やるだけのことはやる。まさにゲンバダマシイである。
「富士山の登山道や山頂で、お客さまが『お、auつながるぞ!』と言ってくれているのを聞くと、本当にうれしいんですよ」(松原)
「今回初めて富士山に来て、現場に来てみないと分からないことは多いなと、あらためて思いました。いい経験をさせてもらったし、とても勉強になりました」(後藤)
8月中旬のお盆の時期は、富士登山の最盛期。読者の中にも登る予定のある人は少なくないだろう。無事に登頂することができたら、そして美しいご来光を拝むことができたら、その感動をSNSなどで家族や仲間と分かち合いたいと、きっと思うはず。登山道でも山頂でもLTEがつながるauなら、それが可能だ。
文:榎本一生 撮影:松尾 修
※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。