追跡 アフリカゾウ密猟とテロ
アフリカゾウ 密猟最前線
大規模な密猟が行われているケニア南西部、タンザニアとの国境に広がるマサイ・マラ国立保護区です。
アフリカゾウの群れです。
一昨年(2012年)、この保護区だけで139頭が密猟されました。
密猟の目的はこの大きなゾウの牙、象牙。
海外の闇市場で、1本当たり400万円もの値段がつくと言います。
保護区を管理するマラ・コンサーバンシーの本部です。
70人のレンジャーが駐留し、野生動物を密猟者から守る活動を行っています。
毎日6時間かけて行われるパトロール。
密猟者との銃撃戦に備え全員がライフルで武装をしています。
パトロールを始めて3時間。
レンジャー
「見つかったか?」
レンジャー
「ここか?」
アフリカゾウの骨が見つかりました。
これは象牙が切り取られた頭の骨です。
レンジャー
「象牙は、ここの部分にあるはずです。
密猟者は鼻を切ってから、2本ある象牙を切り出します。」
手がかりは少なく、犯人は見つかっていません。
レンジャーの一員として活動している日本人女性がいます。
滝田明日香さんです。
マサイ族の獣医として働いていましたが、8年前、この組織に加わりました。
滝田さんがパトロール中に記録した映像が残っています。
密猟から10日後の生々しい現場の様子です。
滝田明日香さん
「(密猟者は)簡単に野生動物を殺してとることができる。
前はやりと弓で、足で追跡してやっていたものが、今はオートバイ使って、機関銃使って、携帯電話使ってやっていたら、ゾウなんか太刀打ちできないですよ。」
アフリカゾウ 密猟と犯罪組織
密猟象牙を取り引きするのは、一体どんな組織なのか。
ナイロビ郊外の刑務所へと向かいました。
象牙を国外に持ち出そうとして逮捕された人物に会えることになったのです。
現れたのは31歳の中国人の女性。
8か月前、ナイロビの国際空港で象牙7キロを持ち出そうとしていました。
中国人女性
「ある人から、かばんを1つ渡されたのよ。
かばんの中を見たら一番上にマカダミアンナッツが入っていた。
下に象牙が入っているなんて、知らなかったのよ。」
知り合いの男性にかばんを渡され、香港まで運んでほしいと依頼されたと言います。
そして、今年(2014年)1月。
現地のニュース
「ナイロビのアパートで密輸の容疑者が逮捕されました。」
女性に象牙を渡した中国生まれの男が逮捕されました。
20の偽造パスポートを所有していたこの男は、中国の犯罪組織の一員だと見られています。
中国では野生動物の骨は魔よけの効果があると信じられています。
急速な経済成長を遂げた今、密猟された象牙の多くが中国市場に流れていると見られています。
アフリカゾウ 乱獲の引き金
乱獲の歴史は1970年代にさかのぼります。
日本での象牙の大量消費が要因の1つでした。
高度経済成長期、人々はこぞって象牙の印鑑などを買うようになります。
アフリカゾウの象牙の3分の2を日本人が消費していたと言います。
1989年、ワシントン条約により象牙の国際取り引きは禁止され、乱獲に歯止めがかかります。
ところが、9年後、事態は一変しました。
きっかけは合法象牙の取り引きが制限付きで認められたことでした。
死んだゾウの象牙を市場に出すことは輸出国と消費国、お互いの利益にかなうと考えられたのです。
これまで2回にわたり取り引きが許可されています。
輸入を求めた日本と中国が許可を受けました。
しかし、このことが密猟による象牙ビジネスを刺激しました。
象牙市場が再び活性化し、価格が高騰したからです。
日本でも違法な象牙が摘発される事件が相次ぎました。
8年前の大阪の象牙密輸事件。
押収された象牙は2.8トン。
アフリカゾウ130頭分にも上ります。
印鑑用に加工された象牙も大量に見つかりました。
こうした違法な象牙が流通しないように日本政府は、ワシントン条約以前の象牙と合法象牙に登録を求める制度を設けています。
しかし、登録証を悪用して象牙を売買するなどの事件も起きていて、密猟象牙が出回っている可能性も指摘されています。
追跡 密猟とテロ
中国の犯罪組織だけではなく、さまざまな組織が密猟に関わっているという情報を得てナイロビで取材を続けました。
私たちが接触したのは2人の男。
象牙の仲買人です。
「どれぐらいの量の象牙を持っていますか?」
仲買人
「ここにはないが1トンくらいある。」
「見せてもらうことは可能ですか?」
仲買人
「見せろって言っているんだろ?
ダメだ。
絶対にダメだね。」
「象牙はどこに流れているんですか?」
仲買人
「象牙で取り引きした金は、ある人々に流れている。
アッシャバーブだ。
テロの資金になっている。」
アッシャバーブはイスラム過激派組織です。
去年(2013年)9月、ナイロビのショッピングモールで起きたテロ。
67人が亡くなったこの事件の犯行声明を出した組織です。
アッシャバーブは、内戦状態にある隣の国ソマリアの南部地域で勢力を拡大しています。
象牙は、次々テロを起こしているこの組織の活動資金になっていたのです。
アッシャバーブは、どのような手口で地元の人々を密猟に巻き込んでいるのか。
ナイロビから北へ80キロ。
密猟が頻発する現場を訪ねました。
300人ほどが暮らすツルカナ族の貧しい村。
牛やヤギなどの家畜で生計を立てています。
出会ったのは3人の元密猟者です。
密猟を始めたのは10年前のことでした。
元密猟者
「ある日、ソマリアから男がやってきた。
ゾウは肉は食えないが、金になると教えてくれた。
象牙だ、ゾウを殺して象牙を取ってくれば金になると。」
元密猟者
「仲買人は機関銃と自動小銃を持ってきた。
『いいか、これを使ってゾウを殺すんだ』って銃弾も与えてくれた。
『だけど、この銃と銃弾は俺のだから後で買い取れ』って言われたよ。
とにかく、それで俺たちはこの道に入った。」
アッシャバーブは、紛争の続くソマリアからこの村に銃を持ち込み、貧しい村人に密猟をさせ象牙を手に入れていたのです。
こうした手口を使って活動資金の40%を、密猟象牙の取り引きで賄っていると見られています。
こうした事態に世界は敏感に反応しました。
元アメリカ国務長官 ヒラリー・クリントン
「テロリストたちは活動資金を象牙の密輸で得ている。
アメリカの人々の安全を脅かしている。
密猟の犯罪者に対し、私たちは行動を起こします。」
アメリカは、今年2月、国内での象牙の商業取り引きを全面的に禁止しました。
フランスはパリの中心部で違法象牙を粉砕。
取り締りの強化を宣言しました。
アッシャバーブに利用されることになった元密猟者の3人。
密猟で得たお金は、家畜を買うために使ったと言います。
しかし、その家畜は干ばつでほとんど死んでしまいました。
そして再び、密猟に手を染めることになっていきました。
元密猟者
「密猟したのは、家族が腹をすかせていたからだ。
ゾウは飯を食うためのものだった。
生きるために必死だった。」
密猟は命懸け。
取り締まる側との銃撃戦で命を落とした仲間も多いと言います。
密猟で生活が楽になることもなく、ケニア人どうしが憎み合い殺し合うという負の連鎖。
3人が密猟をやめたのは2年前のことです。
決断を後押ししてくれたのは、同じツルカナ族のジョセフィン・エキリさん。
若者たちに密猟をやめさせる活動を行っている女性です。
ジョセフィンさんは、アフリカゾウ密猟を巡って社会が荒廃していく状況をなんとか変えたいと考えていました。
ゾウは生きていれば観光資源になり、私たちの未来につながる。
そう考え、密猟者を説得しています。
ジョセフィン・エキリさん
「私はゾウだけでなく、若者の命も助けたいのです。
これまで銃撃戦で多くの若者が亡くなっていきました。
同じ部族の仲間たちを助けたいのです。」
ジョセフィンさんが密猟をやめさせた若者は19人。
しかし、仕事が見つからず、再び密猟に走ってしまう若者もいると言います。
ジョセフィン・エキリさん
「日本や中国など、象牙消費国にメッセージがあります。
どうか密猟象牙を消費するのをやめてください。」
アフリカゾウ 密猟の最前線は
●密猟で命を落とすゾウ ゾウの群れに起きることは?
まず密猟で狙われるのは象牙ですので、この象牙が大きい個体が、まず初めに狙われます。
そうすると、まず必然的に雄の個体が狙われることになるんですが、まずゾウは雌の群れがあって、そしてゾウは、単独で移動している動物なんですけれども。
(雄が?)
はい、雄が。
雌の群れに遭遇することが非常に低くなるんです。
ただでさえ数少ない雄ですから、それがだんだん密猟で命を失っていくと、繁殖自体、群れの繁殖自体にも問題が出てきます。
そして、あと雌のゾウですけれども、雌の群れは、年がいっている雌が、群れ全体の知恵の責任なんですね、責任がある個体なんですね。
なので、年取った彼女たちがいなくなることによって、今度、若いゾウたちが、未熟な人生経験でこの群れを導くので、畑に入ってしまうとか、あと乾季の時に水場にありつけないとか、いろいろな問題が出てきて、そして、生息地もすごい小さくなって、毎年毎年、人間の人口が増えるたびに狭くなっている、そして人間との衝突が起きているという現状が起こっていますので、種全体の生存の率がかなり低くなってしまってます。
●ここに来て密猟が加速 なぜこういうことになったのか?
合法の取り引きをしたことで、現地で象牙はまた売れるものだという勘違いが、まず引き起こったのが、まず1つの原因ですし、その同時期に、いろいろなテロリストの活動をしている組織がアフリカでどんどん増えていって、いろいろな爆破事件などをぼっ発している。
VTRで見ていただいたアッシャバーブ以外にも今、ナイジェリアでニュースになっているボコ・ハラム。
(少女たちを誘拐した?)
そうですね、誘拐事件のボコ・ハラムですとか、スーダンの騎馬隊のジャンジャウィード、ほかにも神の抵抗軍など、いろいろな組織が、この現金収入の1つの方法として象牙を使っているという状況が今、起きています。
ゾウ自体は天敵がいない動物なんですね。
生まれてから大きくなるまで、人間以外にほとんど天敵がいない、そして自然界では長いこと生きていける動物なので、そっとしておければ、また人口は復活することは可能なんです。
●生活のために密猟 現金収入は大きな魅力なのか?
そうですね。
今、現地の密猟者に支払われている値段が、キロが150ドルの値段ですが、これ150ドルというと、レンジャーの例えば給料の1か月分。
平均すると大体、残っている個体が13.5キロぐらいの象牙が取れるのですが、その13.5と言いますと、やっぱり年収をはるかに超えたキャッシュが、現金収入が一瞬にして手に入るということで、人をすごい迷わす道なんですが、そういうことが問題で、さらに高い値段で闇で取り引きされているので、それがほかに悪用されて、組織などに使われていることが多いです。
●ゾウの密猟をなくすために地元でやるべきことは?
地元で一番大切なのが、ゾウとこれからどうやって共存していくかというのが問題でありまして、そして共存するのにとても難しい大きな動物ですので、ゾウが生息する、例えば森からなんらかの現金収入などが入れば、一生懸命、ゾウと一緒に共存していくという現地の人のこの心変わりとかが見れると思います。
そして、そのようなプロジェクトを今度、蜂蜜を通して、森から採れる蜂蜜を通してスタートしようとしています。
●象牙を消費している先進国に求められることは?
まず最初に情報が入ってこない、アジアに入ってこない。
実際、アフリカのゾウの象牙がどのようなアフリカ人の生活に対して、そして安全に対して影響しているのかという、状況が入ってこないのがまず問題なので、それをまず知ったうえで、象牙の消費国として、これから象牙にどうやって関わっていくかということを考えていただければと思って、今日はお話させていただきました。