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乙女ゲーム六周目、オートモードが切れました。 作者:空谷玲奈

第一章

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第二話 いきなり崖っぷち

 マリアベル・テンペストです。三歳になりました。

 展開が早い?赤ん坊の日常なんて語る所がない……いや、むしろ語りたくない事が満載過ぎるので割愛させて貰いましたが何か?

 二日で全自動の頃が恋しくなるくらいに辛かった。人は羞恥心で死ねないのだと痛感させられた。羞恥心に殺傷能力が有ったなら私は間違い無く息絶えていただろう。むしろそうなりたかった、八割本気。

 中身は高校二年生を五回経験している、年齢をトータルすればお婆さんだ。活動期間は一周一年だからトータルしても五年だけど。精神年齢は自立しているので、まさに某小学生探偵と同じ境遇。嬉しくは無い。

 と、諸々の事情を考慮しての割愛。異論は認めません。今まで自己主張が一切合切出来なかったせいか、私のスルースキルは完璧ですからね!嬉しくは無い。


 話を戻そう。三歳になった私がまずした事は、覚えている限りの情報を書き出す作業。

 オートモードが機能しない今、迂闊に動くと破滅(デッド)(デッド)(アライブ)が無いとかどんなクソゲー、今すぐ売却してやりたい。


 タイトルは『LinaLia』。花言葉とかけて婚約者の居る相手との恋愛を楽しむ乙女ゲームで攻略対象は五人。

 ゲームの舞台、アヴァントール魔法学園のあるクレーネ王国第二王子『ルーナ・ビィ・レオーノヴァ』

 世界一の火炎魔導師を祖父に持つサラブレッド『サーシア・ドロシー』

 国王の宰相であるミリアンダ侯爵の子息『ツバル・ミリアンダ』

 外交を生業とするジュリアーノ伯爵の末子『ネリエル・ジュリアーノ』

 四人をクリアする事でロックが解除される隠しキャラ、学園教員『グレイアス・ファニー・サンドリア』

 勿論全員イケメン美形のオンパレード。立ってるだけで金が稼げそうな、ヒエラルキーのトップ集団。直視したら目が潰れそう。

 ヒロイン『カレン・フロウ』については平民である事と強化魔法の使い手である事くらいしか情報が無い。過去五周を思い出してもそれ以上何も出てこないって、どんだけヒロイン嫌いなんだよマリアベル。


 そして『LinaLia』のメイン悪役。ヒロイン、攻略対象に並んでキャラクター紹介に載れるくらいには重要な役割を担う、私、マリアベル・テンペスト。

 クレーネ王国の公爵家に生まれた一人娘。母に関しての情報は一切語られていないが、マリアベルが五歳の頃に離婚し、親権は父方が持つ事になったとか。一人娘に加え母がいない、寂しい思いをさせまいと父はマリアベルを甘やかしに甘やかして溺愛した。目に入れても痛くないってこれか、ってくらいに。内心私は引いてました。

 そんな、マリアベルの為なら例え火の中水の中地獄の底奈落の底、な父に育てられたマリアベルがまともな性格に育つ訳が無く。

 『平民だから気に入らない』とヒロインを犯罪スレスレ……ではなく、犯罪?揉み消しますが何か?の精神で苛め倒す。『好きな人が出来た』と父の金と人脈と権力を惜しみ無く使って婚約者になる。我儘自己中最低令嬢の完成だ。破滅(デッド)(デッド)も自業自得のクズっぷり。全自動の頃なら腹を抱えてざまぁみろと大笑いが出来たのに。


 今の私にとっては死活問題だ。いじめ、ダメ絶対。愛の無い婚約、結婚も反対。


 今ならば私が気を付けることが出来る。平民だからっていじめたしりない。好きだからって無理矢理に漕ぎ着けたりしない。

 でも、もし全自動に戻ってしまったら?

 今自由に動ける話せるからって、これからもそうである保証は無い。現に過去五周は全自動だったのだから。


 また甘やかされて、調子にのって、我儘放題しはじめたら?その先に待つのは破滅(デッド)(デッド)(アライブ)無しのクソゲーまっしぐら。


 そして……もし、最悪の瞬間に全自動が切れてしまったら?


 つらつらとノートに書き記して、私は気が付いた。

 私がまず初めにすべき事。それはフラグを折る事でも、破滅後の生活準備でも無く。


「……家庭と生活の環境を変えなければ!」


 例え全自動になろうとも破滅に向かわないよう、マリアベルが歪まず、ヒロイン同様……とまでは行かずとも普通の価値観を身につけられる環境を作る。


 マリアベル・テンペストが我儘自己中最低令嬢になる芽を摘む。

 それこそが、やっと自己主張の場を得た私が一番にすべき事なのだと。



× × × × 



 環境改善の為、私が真っ先に考えたのは両親の事だ。

 マリアベルが我儘になったのは父親が甘やかしたせいで、その理由は両親の離婚なのだが、私には一つの疑問があった。


 何故、二人は離婚したのだろうか?


 過去の五周で、私は離婚の理由は母親にあるのだと思っていた。

 何故なら、父は母をとても愛している。

 父が名付けたと言う『マリアベル』の名も『聖母マリア』と母『ベールデリア』からとった物だ。

 マリアベルを過度に甘やかすのは離婚などの理由がある。しかし元々父は自分と同じ顔をしながら母親と同じパステルパープルの瞳を持つ娘を溺愛していた。自分と、愛する人との特徴を併せ持つ娘が可愛くてしかたがなかったらしい。

 もしかしたら離婚で寂しい思いをしている娘を甘やかしながら、自分の寂しさも補っていたのかもしれない。 

 そんな父が自ら離婚を申し出るはずがない。


 だから離婚を申し出たのは母の方なのだろうと勝手に思っていたのだけど。


「……あの、お母様は」

「奥様はお疲れなんですよ」


「……そうですか」


 メイドはそっけなく答えた。

 かれこれ一週間毎日同じ返答ですけど。私のお母様は随分多忙なんですね。因みにご当主であるはずのお父様は毎日おはようを言いに来てくれますけど。大黒柱より忙しい奥さんって何だそれ。

 家の事も私の世話も全部メイドがやってるのに……お母様、多趣味なの?そんな馬鹿な。


「どうしたもんかなぁ……」


 母親に会うのってこんな大変な事だっけ?最後に話したのいつだろう……ってくらい関わりが少ないんですけど!

 私の食事が離乳食になったのをきっかけに、私の世話は母ではなくメイドがするようになった。そこからお母様との関わりは著しく減少し、今では顔を合わせても会話がない。顔を会わせるのすら週に一回あるかないか……あれ、これって親子?

 せっかくある程度自由に出歩けるようになったのに……。

 二人が離婚する五歳までに、離婚の原因を探り、それを取り除くなんて出来るのだろうか。

 何たって私はただ今三歳の幼児。離婚しないでー!と騒げば何とかなるかもしれないけど、その兆しも分からないままに行動して、笑って流されたらそれこそ詰む。


「これは思った以上に状況が悪いな……」


 過去五周の記憶もあるし、何とかなるだろうなんて楽観視したのがダメだったのか。あぁもう全自動が恋しい……。


 

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