2018年08月26日

トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?-1


◇捕鯨票買ODA最新記事

■捕鯨推進は日本の外交プライオリティ№1!? (6)セントビンセント・グレナディーンのケース
http://www.kkneko.com/oda6.htm

 ホームページに最新の情報を加えた解説記事を掲載しましたのでぜひご一読くださいm(_ _)m

◇究極の生物音痴・トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?(その1)
 夏になると増えるものといえば、蚊、熱中症患者、ビールの消費量、後は……そうそう、平和について考えさせられる季節だけあって(?)歴史修正主義者/陰謀論者も挙げられるでしょうか。数が増えてるというより、声がでかくなるというのが正解でしょうけど・・。
 過去記事でも何度か取り上げてきましたが、よその国の謀略のせいにしたり、過去を正視せず事実をねじ曲げ美化したり、都合のいい相対主義を持ち込んで自己正当化するのは歴史修正主義者と反反捕鯨論者の共通属性。だからこそ、この2つの層はもろにカブッているわけですが。
 そんな夏という季節にふさわしい(?)捕鯨問題の解説記事が登場。

■海に親しむこの季節に考えるクジラ・そしてマリンデブリのこと (8/10, 日本気象協会)
https://tenki.jp/suppl/kous4/2018/08/10/28351.html

 論者はホラー漫画家ホシナコウヤ(小川幸辰)氏。掲載されたのは、気象情報サービスを手がける一般財団法人・日本気象協会のウェブサイト。同協会は気象庁を外局に持つ国交省所管の元公益法人ですが、捕鯨サークルと特に関係があるようにも思えません。お天気関連のコラムなんていくらでも作れるでしょうにね・・。
 残念ながら、このオピニオン記事には非常に多くの誤謬が含まれています。まあ、主なソースが水産庁の『捕鯨問題の真実』なので、仕方ないっちゃ仕方ないのですが・・。
 権威ある国の機関であるハズの水産庁の広報資料『捕鯨問題の真実』ですが、前南極海調査捕鯨(JARPAⅡ)が国際司法裁判所(ICJ)に国際法違反、「〝美味い刺身〟の安定供給目的の違法な商業捕鯨」と認定されるに製作・公表されただけあって、まあデタラメばっかりの代物。真実ならぬ〝ポストトゥルース〟です。
 以下、ホシナ氏が付け加えた尾鰭の部分も含め、ざっと問題点を指摘しておきましょう。

室町末期から江戸時代初期にかけて、船団による捕鯨が徐々に形成され始め、17世紀末には紀州(和歌山県)の太地で投網による狩猟と本格的な捕鯨船団の組織が発足し、近世~近代捕鯨が幕開けします。船団捕鯨は、長崎、土佐、東海、関東など各地に広がっていきます。引用)
ペリーの日米通商条約も、捕鯨のための補給という理由のためでした。日本の古式捕鯨が適正な漁獲量であったことは、日本の近海にクジラが多く居たことからもわかります。(引用)

 組織的な古式捕鯨(突取式)の発祥地は太地ではなく尾張。太地等紀州や関東には尾張から技術が伝えられ、各地で乱獲のため瞬く間に捕獲が激減、鯨組間の競合や途絶が起こります。そんな状況を打開してターゲットをザトウクジラにまで拡大すべく開発されたのが網取式で、太地発というのが有力仮説。沖合での外国捕鯨船操業の影響も一部にはあるものの、特にコククジラ、セミクジラ、ザトウクジラに関しては、日本自身の捕鯨による乱獲が枯渇の主因であるのは史料からも明らかです。

■哀しき虚飾の町・太地~〝影〟の部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html
■民話が語る古式捕鯨の真実
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html

 ちなみに、ペリー来航の真の動機については興味深い説も。まあ、たかが一産業にすぎない捕鯨のためってのは、国が外交で動くには弱すぎますものね・・。

■黒船来航の真意を知らない人に教えたい本質
https://toyokeizai.net/articles/-/222796

日本は一貫して捕鯨については欧米の後追いをする控えめな後進国だったのです。(引用)
 
 〝真っ赤な嘘〟です。が、先に以下の記述の問題点から。

こんな乱獲をして、問題が出てこないわけがありません。第二次大戦後、世界的な乱獲によるクジラ頭数の減少枯渇が問題となって、適切な捕鯨環境を整備する目的で、1948年、IWC=国際捕鯨委員会(International Whaling Commission)が発足します。(引用)

 ここはソースにない、ホシナ氏が勝手に付け加えてしまった部分ですが、間違いです。IWCは戦前のジュネーブ捕鯨条約/国際捕鯨協定を継承・発展する形で定められた国際捕鯨取締条約(ICRW)のもと設立した機関で、当初捕鯨産業を国際ルール下に置くという以上の意味合いはありませんでした。IWCのもとでも科学的管理はなされず、乱獲は手遅れになってモラトリアムが叫ばれるまでずっと続きました。なお、セミクジラやコククジラは戦前の段階で捕獲禁止。日本は抵抗して戦前の協定には加わりませんでしたが。

■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史
http://www.kkneko.com/aa1.htm

かつて、IWCが発足する以前の20世紀前半には、過当競争が頂点に達し、各国がクジラの捕獲頭数を競ったために「捕鯨オリンピック」などと言う言葉も使われていたそうです。最盛期の1930年にはなんとシロナガスクジラが3万頭も捕獲され、以降シロナガスクジラは激減すると、今度はナガスクジラを乱獲し始めるという残酷さ。特にノルウェーとイギリスのナガスクジラ類の乱獲は、1960年代まで続きました。ナガスクジラが激減し、捕獲が禁止されると、今度はロシア(当時はソ連)がザトウクジラの乱獲を始めます。1950年代から70年初頭にかけて、多い年には一年で15000頭ものザトウクジラが乱獲されました。それほどの資源量が、人類にとって本当に必要だったのでしょうか。(引用)

 総枠だけ決めて後は〝早い者勝ち〟のオリンピック方式は後進的な日本の漁業の問題点としてしばしば指摘されるところですが、IWCのもとでも典型的なオリンピック方式が1950年代まで続き(科学的根拠がなく乱獲に拍車をかけたシロナガス換算:BWU制はその後も継続)、国別捕獲枠が設定された後は日本の捕鯨会社同士で他国の枠を買い取り、熾烈な競争が繰り広げられるに至ります。
 近代捕鯨のピークは第二次世界大戦を挟んで2つあるといえます。シロナガスクジラ中心だった戦前の捕鯨オリンピック前半は、確かに日本は規制に参加しない後発国で、ノルウェーから首位の座を奪ったのはやっと1941年のことでしたが、戦後の最盛期では日本が捕鯨オリンピックの主役でした。シロナガスのピークはごく短期でしたが、ナガスクジラの捕獲数は1950年代後半から1960年代初めにかけて3万頭台が続き、60年以降の捕獲数トップはすべて日本が占めます。要するに、クジラたちを最後まで追い詰め、引導を渡したのが捕鯨ニッポンの役割だったわけです。
 トータルの捕獲数では、日本はノルウェーに次ぐ2位、つまり乱獲五輪で〝銀メダル〟を獲ったわけですが、最終的に日本が南極海乱獲捕鯨の〝覇者〟に立ったといえるでしょう。現場の砲手など捕鯨関係者自身が南極海の明らかな荒廃を肌で感じながら、なおも手を緩めることが出来なかったという事実がそれを裏付けています。

■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html

 捕鯨オリンピックの三強はノルウェー・日本・ロシア(旧ソ連)でした。3国とも現捕鯨国(ロシアは現在は先住民生存捕鯨のみ)。
 なぜホシナ氏は「一貫して捕鯨については欧米の後追いをする控えめな後進国だった」という完全に誤った情報を発信してしまったのでしょうか?
 犯人は水産庁
 近代捕鯨史を学んでいる方であれば、ホシナ氏の記述のおかしな点に気づかれるでしょう。そう、「ノルウェー・イギリスのナガスクジラ乱獲の後、ロシアがザトウクジラの乱獲を始める」という部分。
 水産庁史料『捕鯨の真実』のp19、世界の捕鯨の解説図に国別捕獲頭数の推移を示したグラフが掲載されていますが、どういうわけか、シロナガスクジラとザトウクジラの2種しかありません。日本がノルウェーと並んで戦後の乱獲の主犯となったナガスクジラがないのです。その事実は、反反捕鯨が代替わりして歴史修正主義が蔓延する以前は、捕鯨賛成派の間でも一定の理解があったはずなんですがねえ・・。
 さらに、非常に奇妙なことに、ザトウクジラのグラフの方には、国別頭数といいながら、主要な捕鯨国であるノルウェーが見当たらないのです。
 ザトウクジラは1900年代後半から1910年代前半にかけ年間数千頭捕獲され、1910年からの4年間は1万頭を越えていました。捕獲数トップがノルウェー。捕鯨問題ウォッチャーなら知ってのとおり、ザトウクジラは近代捕鯨初期にターゲットとされた種。それ故、捕獲が禁止されるのも1963年(南極海以外は1966年)とシロナガスクジラと同じタイミングで、ナガスクジラより先なのです。つまり、〝合法的な〟乱獲のピークは戦前
 すなわち、シロナガス、ザトウとも、1960年代後半から1970年代の捕獲はただの乱獲ではなく、旧ソ連による〝違法な密漁〟なのです。1947年から1972年にかけて、旧ソ連が実際に捕獲したザトウクジラの数は48,651頭。しかし、公式に報告されたのは2,820頭で、その6%にも満たない数字でした。事実が発覚したのは1990年代に入ってからですが、おかげでロシアはトータルの捕獲数で英国を抜いて3位に。「ドーピングで獲った銅メダル」みたいなもの。
 水産庁がナガスクジラのグラフ、ザトウクジラ捕獲数のノルウェー分、捕獲統計の修正を余儀なくしたロシアの違法捕鯨についての説明を完全に省いたため、ホシナ氏の誤解を生んだのでしょう。近代捕鯨史についてきちんと勉強していれば避けられた誤解とはいえ。
 実は、NOAAのレポートで悪質な規制違反を行った国としてロシアとともに名指しされたのが日本でした。捕鯨オリンピックのドーピング2大国。水産庁がだんまりを決め込むのも当然かもしれません。決して褒められた話じゃありませんが。
 戦前の協定未加盟、戦後の監督官ぐるみ違反、大手捕鯨会社がバックに絡んだ海賊捕鯨船シエラ号事件、その後も続く密漁・密輸と、連綿と続く違法・脱法体質で日本はまさに〝一貫して〟いたとはいえます。
 『捕鯨の真実』の編纂に携わった捕鯨セクションの担当水産官僚が、ナガスクジラの捕獲数グラフや規制違反の情報を伏せ、国民の目から隠そうとしたことに対しては、たとえ日本捕鯨業界や自民党捕鯨議員連盟等に忠誠を示し奉仕する意図があったとしても、〝卑劣にして狡猾〟との謗りは免かれません。

調査によるとたとえばナガスクジラは12000頭(引用)

 この数字(南半球)は日本政府が勝手に主張しているだけで、IWC科学委員会での合意は得られていません。同種は1920年には南半球に30万頭以上はいたと推測されており、わずか4%にすぎません。捕獲禁止から40年以上の年月が経つにもかかわらず、回復は遅々として進んでいないのが事実なのです。増えているという日本の主張は、最高級鯨肉部位の1つとされる〝ナガスの尾の身〟好きの永田町の食通のために年間数頭捕獲してきた調査捕鯨のデータに基づいています(目視含む)。『捕鯨問題の真実』のp9にグラフが載っていますが、2つの海区を2年置に調査したデータのうち、Ⅲ・Ⅳ区側では2005/06年から2007/08年にかけて大幅に減少しているのに無理やり指数近似を当てはめています。
 いずれにしても、ナガスクジラはIUCNの定義上疑いを差し挟む余地のない絶滅危惧種であり(EN:絶滅危惧ⅠB)、絶滅危惧に追いやった主犯が日本の捕鯨業界といっていいのですが、その日本はあろうことにもワシントン条約(CITES)で同種を留保しているのです。

■Balaenoptera physalus|IUCNレッドリスト
http://www.iucnredlist.org/details/2478/0

ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラのこの頭数を維持した場合に、そのうちの4%ほどを毎年漁獲した場合、それらのクジラが食料とするイワシ、サバ、カツオなどの漁獲量が増加する、というシミュレーションも出ています。(引用)

 内外の研究者も含めて強い批判のあるトンデモ鯨食害論の中でも最悪の主張。筆者は該当論文を存じ上げないのですが、確かに『捕鯨問題の真実』p14には出典がまったく明記されていない当該グラフが載っていますね・・。生態系モデルを使わないと出てき得ない数字ですが、少しパラメータをいじるだけでまったく異なる結果が出力されるのが生態系モデルの〝都合のいい〟ところ。日本の捕鯨御用学者が掲げる生態系モデルに対しては、種数が少なすぎ、しかもほとんど商業漁業対象種で占められる、肝心のシャチが考慮されていない、海鳥・鰭脚類等より代謝・繁殖率の高い競合種が考慮されていない(クジラを間引く結果もっと魚が減る)、クジラがいるおかげで栄養塩類の水平・鉛直分布が変化し漁業生産を増加させる効果が考慮されていない、気候変動・海洋酸性化・有機塩素/重金属/プラスチック汚染が鯨類の再生産に与える影響も考慮さていないなど、問題を数え挙げればきりがありません。クジラを獲ればビンナガが増えるに至っては、相当ろくでもないパラメータ調整を行ったことが火を見るより明らかで、ろくでもないシミュレーションを提供した人物は研究者の風上にも置けない輩です。
 トンデモな食害論が仮に事実であれば、日本周辺では魚がガンガン増えまくっていいはずですが、現実には近海の主要漁業対象種の半数が資源枯渇状態で、FAOの将来予測においても唯一漁業生産が大幅に減少している有様。一方、鯨類を手厚く保護しているので魚が激減していて然るべき米国・オーストラリア・ニュージーランド等の反捕鯨国は、水産資源の持続的管理に関して日本よりずっと先行しているのです。乱獲と水産行政の無策無能をクジラの所為にして憚らないのは、水産庁の許しがたい欺瞞です。
 なお、トンデモ食害論・生態系アプローチの問題点については以下を参照。
oomachigai.png
■持続的利用原理主義すらデタラメだった!
http://www.kkneko.com/sus.htm
https://yarchive.emmanuelc.dix.asia/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa_1/board47126.html
■びっくり仰天、都合の悪い事実に蓋をする非科学的な水産庁広報資料
http://kkneko.sblo.jp/article/176346053.html
■捕鯨に関する資料集|3500-13-12-2-1
http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-152.html
■クジラを捕らないと魚はいなくなるのか?|トゥゲッター
https://togetter.com/li/13920
■「クジラが魚食べて漁獲減」説を政府が撤回|JANJANニュース(魚拓)
http://megalodon.jp/2009-0713-2240-37/www.news.janjan.jp/living/0906/0906290018/1.php

そして家畜を飼育して食べるよりも、野生生物を適切な量を守り狩猟するほうがエネルギーコストや食料分配の上からも正しいことは言うまでもありません。(引用)

 これも物事を単純化しすぎた誤った主張です。言うまでもなく・・と言いたいところですが。
 少なくとも莫大な燃料を消費する遠洋漁業・遠洋捕鯨には当てはまりません。狩猟では現在の地球人口のごく一部しか養えず、食料分配の観点からはむしろ問題大ありです。菜食・昆虫食の方がはるかに現実的。再生産率の高い魚種を対象にした沿岸漁業ならまだ貢献できるでしょうが。

■鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?
http://kkneko.sblo.jp/article/174477580.html
■捕鯨は牛肉生産のオルタナティブになり得ない
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 ──とまあ、さんざんにこき下ろしてきましたが、その後に来る文章はなかなかの卓見です。ホシナ氏は最低限のバランス感覚はお持ちのようですね。誰かさんと違って・・。

しかし、「クジラ食は日本の文化だ」と言うには、現代日本の現実と食い違う点が多くあります。和牛の肥育のために高カロリーの飼料を与え霜降りの高級肉を作り、普段から牛肉や豚肉、鶏肉を常食にしている日本人が、クジラを食文化だ、と果たして胸を張って言えるのでしょうか。
また、クジラなどの海洋動物の多くが苦しんでいるマリンデブリ、すなわち海に投棄された人工ゴミの問題があります。プラスチックやビニールなどの石油生成品は、自然で溶解せず、クジラが大量にそれらを飲み込んで健康を害し死にいたる、ということが起きています。既に世界60カ国以上の国でプラスチック販売への規制法が行われ、EUでは使い捨てプラスチックの販売禁止法案が策定されました。今年6月のG7サミットでは「海洋プラスチック憲章(Ocean Plastics Charter)」が発議されました。これは、世界的環境問題となっているプラスチックごみによる海洋汚染にG7として対策に乗り出すことを宣言するものでしたが、日本とアメリカは国内産業への影響を理由に拒否しました。
本当に海洋資源を守ることをうたうのならば、マリンデブリ問題も日本が主導するべきでしょう。そうなってはじめて、日本の捕鯨への立場は、正当なものであると証明できるのではないでしょうか。(引用)

 ついでに、ホシナ氏と同意見の一般の方のツイートもご紹介。これこそが正常な反応というものでしょう。

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1010190323128008704
えーっ…海洋プラスチックゴミには目をつぶる一方で、これは引くわ(引用)

 そして、以下は同オピニオン記事で紹介されている報道へのリンク。他のリンクソースはバリバリ捕鯨サークル当事者のものですが、こちらは論者本人がきちんと海洋環境の問題にアンテナを張り巡らし、このニュースに触れて、捕鯨サークルの主張に対し違和感を感じられたということでしょう。誰かさんと違って・・。こちらのオンライン記事からも一部引用しておきます。

■「G7マイナス2」 海のプラごみ対策、日米はG7文書に署名せず (2018/6/12, ニュースフィア)
https://newsphere.jp/politics/20180612-2/

しかし、環境保護団体グリーンピースなどは、拘束力のない任意の合意で問題解決は難しく、青写真が描かれたことは評価するものの、計画自体は生ぬるいと述べている(ドイチェ・ヴェレ)。(引用)
UNEPによれば、すでに世界60ヶ国以上で使い捨てプラスチック製品の使用禁止や課税が行なわれているというが、ドイツのメルケル首相は、欧州だけや各国レベルでの取り組みでは十分ではないと述べている(ドイチェ・ヴェレ)。(引用)

 では、なぜこのような動きが起こったのでしょう? それは、反捕鯨団体として悪名(?)高いグリーンピース(GP)やクジラ・イルカ保護協会(WDC)が精力的に啓発キャンペーンを展開して一般市民に情報を提供し、スタッフ・ボランティア会員・賛同する著名人が自ら先頭に立ってビーチクリーンアップ等の活動に参加し、さらに各国のマスコミ・政治家・政府職員に強力かつ粘り強く働きかけたからこそ、課税や禁止法制定等の具体的政策やG7での憲章制定という形で結実したのです。
 最近では、これらの団体のツイッターやフェイスブックでも、捕鯨問題(日本以外を含む)以上に気候変動や海洋汚染に関する問題提起が多くなっています。捕鯨に触れるツイートはたぶん10回に1回もないでしょう。
 こちらはWDCの制作した、プラスチック海洋汚染問題についての啓発サイト。子供にもわかりやすく問題を伝えられるよう動画等を駆使した、大変素晴らしいコンテンツですね。センスの高さにもうならされます。

■NOT WHALE FOOD
https://notwhalefood.com/

 同じくこちらはGP日本支部のサイト。ロビイングとその成果としての各国政府・企業の声明も具体的に示されています。

■プラスチック・フリーの暮らしをつくろう!
http://plasticfreelife.jp/about-us/
あなたのような一人ひとりからの支持を得て、 韓国と台湾の政府にマイクロプラスチック製品を禁止させることに成功しました。これは大きな勝利です! また、エスティローダー、アムウェイ、LG、コーセーなどの国際的な化粧品ブランドが、 マイクロビーズ製品を段階的に廃止すると発表しました。香港の小売り流通業A.S.ワトソンズと759ストアも、マイクロビーズ製品を段階的に廃止することを約束しています。 (引用)

 日本政府、コーセー以外の日本の企業の名がないのは残念なことです。ホシナ氏の指摘するとおり、これでは日本の捕鯨への立場が正当なものだとは到底言えませんね。
 プラスチックごみ規制に向けた国際的な動きは、もちろん一朝一夕に始まったものではありません。マイクロプラスチック汚染の実態が明らかになってきたのは近年のことですが、廃プラスチックが鯨類や海鳥・ウミガメを始めとする海洋生物に与える影響については前世紀から警鐘が鳴らされ続けてきました。昨年のG7環境相会合の場でも海洋プラスチックごみ問題はパリ協定とともに俎上に上りました。さらに、以下は昨年の国連広報センターのプレスリリース。

■国連海洋会議が開幕: 海洋環境破壊を食い止めるための自主的コミットメントが本格化
http://www.unic.or.jp/news_press/info/24623/
各国は「行動の呼びかけ」の採択により、ビニール袋や使い捨てプラスチック製品をはじめ、プラスチックとマイクロプラスチックの利用を減らすための長期的かつ本格的な戦略の実施に合意します。(引用)

 日本国内で初めて使い捨てプラスチック製ストロー廃止(2020年までに)を掲げたのが外食大手すかいらーく。海外とは逆に、〝廃止に批判的な〟声が挙がっているみたいですが・・。なお、「ヤフーニュース個人」については後述。

■すかいらーくなど、日本でプラスチック製ストロー廃止の動きと、アメリカや海外の取り組み (8/23, 安部かすみ|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/abekasumi/20180823-00094175/

 対する日本の取組はどうなっているでしょうか? G7に合わせる形で今年6月に改正海岸漂着物処理推進法が成立しましたが、中身は具体的な数値目標や罰則規定等が何もない単なる〝企業へのお願い〟に留まっており、実効性があるとは到底いえません。G7憲章署名拒否と合わせ、使い捨てプラスチック製品の製造・流通の段階的禁止にまで踏み込んでいるEU等に比べ、後ろ向きの姿勢ばかりが目立ちます。
 プラスチック汚染についての研究や海外の動向については、環境ジャーナリストの第一人者である共同通信の井田徹治記者が丁寧な記事を何本も書いてくださっています。日本にも事実を伝えようと尽力してくれるプロのジャーナリストがいてくれるのは、まだせめてもの慰めといえますが。

■プラごみ年3億トン発生、損害は1兆円超 OECD (8/6, 共同配信記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33836590W8A800C1CR0000/
■深海魚70%にプラスチック粒子 大西洋、水深600メートルまで (7/14, 共同通信)
https://this.kiji.is/390786503330612321?c=39546741839462401
■北極の海氷にプラ粒子 世界最悪レベルで蓄積  (5/21, 共同配信記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30748970R20C18A5CR0000/
■視点:署名拒否は責任放棄だ (6/22, 京都新聞)
https://twitter.com/TETSUJIDA/status/1010333956133158912/photo/1

 このように海洋プラスチック問題については、何周分も遅れた日本を除き、国際的な規制の動きが加速しつつあります。クジラたちはプラスチック汚染以外にも様々な海の環境破壊に直面していますが、GPやWDCといった環境保護団体は、やはりプラスチックごみ問題と同じく、市民の啓発や各国政府・国際機関へのロビイングに努めています。捕鯨問題以上に。
 こちらはWDC、GP同様国際的な反捕鯨運動を牽引してきた天然資源保護協議会(NRDC)及び国際動物福祉基金(IFAW)の協力のもとに制作されたドキュメンタリー映画『Sonic Sea(ソニック・シー)』。ディスカバリーチャンネル以外のカナダCBC等各国のTV局でも放映され(残念ながら日本のNHKはまだですが)、全米テレビ芸術科学アカデミー主催のニュース&ドキュメンタリー・エミー賞の2部門で受賞しています。映像としても大変見応えのあるクオリティの高い作品です。画質・音質に難のある誰かさんのトンデモプロパガンダ映画と違って・・。

■Sonic Sea
https://www.sonicsea.org/
■“Sonic Sea” Wins Two Emmy Awards | NRDC
https://www.nrdc.org/media/2017/171016-1

 『Sonic Sea』以外にも、海外では鯨類を取り巻く環境の悪化について取り上げ、一般市民に訴えるドキュメンタリー映画・TV番組が数多く製作されてきました。そのうちのほんの一部をご紹介。

■Blue Planet I | BBC
https://www.bbc.co.uk/programmes/b008044n
■Blue Planet II | BBC
https://www.bbc.co.uk/programmes/p04tjbtx
■How We Can Keep Plastics Out of Our Ocean | National Geographic
https://www.youtube.com/watch?v=HQTUWK7CM-Y
■Ocean Rescue | Sky
https://skyoceanrescue.com/
■A Plastic Ocean
https://plasticoceans.org/
■The Islands and The Whales
http://theislandsandthewhales.com/

 で、ここからがいよいよ本題・・。
 日本気象協会/ホシナコウヤ氏のオピニオン記事は、基本的に捕鯨推進サイドの発信する情報をもとに書かれた捕鯨ヨイショ記事には違いないのですが、海洋環境保護に後ろ向きな日本の姿勢についても忌憚のない意見を述べられている点は高く評価できます。
 こちらに比べれば百倍も千倍もマシに思えるほど……。

■クジラの情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(八木景子|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/keikoyagi/20180717-00089302/
■封じ込められてきた鯨の情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(同アーカイブ)
http://archive.is/xmAr2
 
 ICJ判決後に突然クジラに興味が沸き、日本捕鯨協会のコンサルタントとして世論操作戦略を練った水産ジャーナリスト・梅崎義人氏と新宿の鯨肉居酒屋で意気投合、水産庁には記者会見のサポートを受け、自民党本部で一般公開前に族議員向けの試写会の場が用意され、さらに外務省には海外上映のための予算まで付けてもらった(~水産紙報道)国策プロパガンダ映画、その名も『ビハインド・ザ・コーヴ』を制作したお馴染みトンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏の〝新ネタ〟。
 これは通常のヤフーニュース記事ではなく「Yahoo!ニュース個人」という動画クリエーター向け支援企画サイトの記事。取材費はヤフージャパンが負担とのこと。
 公開日に保存されたアーカイブとタイトルが変わっていますが、本文は修正されていない模様。見出しの余計な部分を切ったのは、1行タイトルで趣旨が伝わるようにしたいというヤフー担当の判断でしょう。ちなみに、アーカイブを取得したのは筆者ではありません。
 同企画コーナーには、八木氏の格上のライバル(?)佐々木芽生映画監督も太地での取材記事を2本寄稿しています。

https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakimegumi/
■アメリカと日本でクジラを追った日本人漁師「人生に悔いはなし」 (8/21, 佐々木芽生|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakimegumi/20180821-00093935/

 こちらのポータルトップページでも注目クリエーターの先頭に佐々木氏の名が(八木氏の名はなし)。


 先に佐々木氏の8月の記事の問題点に簡単に触れておきましょう。

「もったいないですよね」(中略)偉大なクジラがペットフードの材料だったことは、アメリカでも殆ど知られていない。「クジラを救え!」と声高に唱えている活動家たちがこのラベルを見たらどう思うだろうか。 (引用)

 事実を言えば、特にマッコウクジラ捕鯨に関しては日本もまったく同じです。大手捕鯨会社はサイドビジネスとして毛皮獣養殖を手がけたほか(つまり飼料用)、ペットフードとして海外に輸出したりもしていました。
 今日のノルウェーでも鯨肉はペットフードとして加工販売されており、2009年には4トンの鯨肉がペットフードメーカーの倉庫から見つかり、安全性への懸念が指摘されています。

■日本の鯨肉食の歴史的変遷

 「殆ど知られていない」とありますが、少なくともNGO関係者は欧米の捕鯨会社を含めた近代捕鯨史をきちんと理解しています。一方、佐々木氏が日本の捕鯨会社の行状について知らなかったことは記事からも明らかでしょう。「(〝偉大なクジラを〟イヌに食わせるのは)もったいないですよね」という佐々木氏・脊古氏の感覚と、高濃度の有機塩素で汚染されている可能性のある鯨肉を〝家族〟が口にすることを心配する欧米市民の感覚、双方の動物観・クジラ観(「欧米人は偉大だと思っているに違いない」という勝手な思い込みを含め)の差は拭いがたいものがありそうです。

脊古らが捕獲したのは、主にナガス、イワシ、マッコウクジラ。(引用)

 佐々木氏が故意に省略したのかは定かではありませんが、動画の中で脊古氏ははっきり「グレイホエール、コククジラ」とコメントしています。しかし、コククジラは戦前から国際条約上捕獲が禁止されていました。
 むむ・・もしかして、脊古氏は米国の捕鯨会社で密漁していた??? どうやらそうではなさそうです。
 実は、1965年から数年間、米国はコククジラを対象に数十頭規模の調査捕鯨を行っていたことがあります。おそらく、脊古氏の在籍していた捕鯨会社は、現在の日本の共同船舶と同じく位置づけで国の委託を受けたのでしょう。しかし、1969年にカリフォルニア沖で大規模な石油流出事故が発生、コククジラ数頭が死体となって海岸に打ち上げられたため、「海洋環境破壊にさらされているクジラを今更捕鯨とは何事か!」と環境保護団体から猛烈な反発が巻き起こります。この事件を契機に、米国政府は調査捕鯨の中止を決定、鯨類各種が種の保存法対象種にリストアップされるに至ったのです。
 詳細は環境外交・漁業外交のプロフェッショナル・早大客員准教授真田康弘氏の論文をご参照。

■科学的調査捕鯨の系譜--国際捕鯨取締条約第8条の起源と運用を巡って|真田康弘
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ceispapers/ceis22/0/ceis22_0_363/_article/-char/ja/

 今回の佐々木氏の記事には第三者の立場からの視点がなく、映画・書籍『おクジラさま』より中立性の点で後退しているように見受けられるのは残念です。表現もちょっぴり竜田揚げじみてますし・・。
 ただ、映像はまさしくプロの作り。
 一方、八木氏の撮影した動画の方は、冒頭の下関市内の様子を写したシーンでフレームのパン、ティルトの際の手振れが素人かと思うほどひどく、筆者は気になって仕方がありませんでした。
 だからこそ、八木氏より佐々木氏の方がある意味厄介だとも言えるのですが・・。

 さて、本家竜田揚げ記事に話を戻しましょう。
 脊古氏を物語の中心に据えた佐々木氏に対し、八木氏が主役に選んだのは石川創氏
 ただ、ドキュメンタリー監督・ライターとして影の役割に徹している佐々木氏とは対照的に、八木氏の記事は取材した鯨塾と下関市について書かれた最初の二段落以降、見出しと直接関係ないバリバリの主観に基づく八木氏自身の持論(石川氏のではなく)を全面に展開しています。主役・主演は八木氏本人。
 ちなみに、元鯨研で調査捕鯨船団長を務めたこともある下関鯨類研究室長の石川氏は、あの「いつ自動小銃が火を噴くんですか?」発言のお方・・。関係筋によれば、船団長当時の彼はSS憎しのあまり壊れてしまっていたとのことですが。
 実は石川氏自身は、八木氏が梅崎氏・米澤氏に刷り込まれて盲信しているベトナム戦争陰謀論について、以下のとおりかなりつれない態度を示しています。

■月とマッコウクジラ|下関鯨類研究室
http://whalelab.org/2017isana19.pdf
ベトナム戦争は1975年に終結しており、IWCにおけるアメリカの10年にわたるモラトリアム実現へ熱意までもが、ベトナム戦争と関連があったかという点については疑問が残るところだ(引用)

 もっとも、上掲エッセイ記事では代わりに同じくらいトンデモなアポロ陰謀論をご開陳。
 氷点下でも凍らない化学合成エンジンオイル「モービル1」はストックホルム会議のたった2年後、ベトナム戦争終結より〝前〟の1974年に市販されており、旧ソ連が仮に独自開発が進んでいなかったとしても容易に入手・解析できたはず。膨大な航宙技術のうちたった1素材で数年先行するためだけに、NASAと無関係なセクションのリソースまで注ぎ込んだとは何とも考えにくいことです。根拠のない我田引水の憶測という点で梅崎&米澤ベトナム戦争陰謀論と大差なし。
 米ロはトランプ・プーチンの蜜月よりずっと以前から、宇宙開発の分野では国際協調へと舵を切っています。国際社会に絶大な影響力を行使してきた大国アメリカが、宇宙開発というきわめて重要な分野で大胆な方針転換ができるのに、〝たかがクジラで〟基本的政策が一貫していることを「陰謀で始めたけど引っ込みがつかなくなった」との無茶な説明で済ませること自体、米国民に対して大変失礼な話というもの。外交・国際政治に無知無頓着な専門バカらしい発想なのかもしれませんが。
 まあ確かに、日本政府自身の〝ベトナムや沖縄に対する責任〟など眼中になく、陰謀論好きの共通属性で、八木氏とはウマが合いそうですけどね。
 最初の2段落にも突っ込みどころはありますが、また長くなるので(汗)、石川氏のぶっ飛び発言、下関市と国の捕鯨政策については過去記事をご参照。「ベトナム戦争と捕鯨」についても改めてリンクをご紹介。

■『正論』v.s.『諸君!』──保守系オピニオン誌の捕鯨関連記事
http://kkneko.sblo.jp/article/28972939.html
■調査捕鯨と下関利権
http://kkneko.sblo.jp/article/69075833.html
■復興予算を食い物にしようとした調査捕鯨城下町・下関市
http://kkneko.sblo.jp/article/56253779.html
■検証:クジラと陰謀
https://togetter.com/li/942852
■「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く~いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えた〝トンデモ竜田揚げプロパガンダ映画〟
https://togetter.com/li/941637
■「ベトナム戦争」と「核問題」に直結する〝本物の陰謀〟を暴き、かけがえのない日本の非核文化をサポートしてくれた「グリーンピースの研究者」と、竜田揚げブンカのために「広島長崎の虐殺」を掲げながら〝贋物の陰謀〟に引っかかったトンデモ映画監督
http://kkneko.sblo.jp/article/174248692.html

 今回はここまで。上掲記事の青字の部分をよーく覚えておいてくださいね。
 次回、いよいよ八木氏オリジナルのトンデモカラスサベツ論を徹底解析!
posted by カメクジラネコ at 19:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
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