提督の憂鬱 作:sognathus
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彼女は提督の姿を認めると満面の笑顔で走って行き、そして……。
「あー! たーいーさーぁ!!」
タタタッ
「なんだ阿賀野声が……ふく……っ」ドム
「えへへ、大佐みーっけ♪」スリスリ
「ど……ぁ……ぐぅ、し……ぜぇ……た? あ、阿賀野……」
「大佐を見つけたのが嬉しくてつい♪」
「そ……ぅか」ゼェゼェ
「? 大佐、どうしたの?」
阿賀野的には単純に甘えただけのつもりだったので、彼女は提督の調子が悪そうな様子にキョトンとした顔をしていた。
「お前に奇襲を受けたんだ」
「えっ!? あ、阿賀野大佐にそんな事絶対にしないもん!」
「……いいか? 阿賀野」
「え?」
「お前は女性である前に艦娘だな?」
「ううん! 阿賀野は大佐のものだもん!」
「……まぁ、なんでもいい。取り敢えずお前は艦m」
「だめ! 阿賀野は大佐のなの!」
「人の話を聞け」
ゴン
「きゃうっ」
「……いいか? お前は艦娘だな?」
「……」フイ
あくまで自分は大佐のものだという事を主張したいのだろう、阿賀野は拗ねたように横を向いて脹れっ面をする。
提督はそんな彼女に対して子供をしかる親の様に噛んで含めた言い方で改めてもう一度言った。
「か・ん・む・す・だ・な?」
「……」
「阿賀野」
「っ、うん……」シュン
「よし、いいか? 艦娘であるお前は普通の人間と比べていろいろ身体能力が優れているんだ。当然力もな?」
「だ、だから阿賀野は別に大佐に悪さなんか……!」
「加減抜きに抱き着かれたら俺とて苦しいんだ」
「え? あ……」
「さっき息も絶え絶えだったのはお前の特攻に俺の体力が削られたからだ」
「ご、ごめ……」グス
「まだ泣くな。取り敢えず聞け。いいか? 阿賀野。この基地ではな、全ての艦娘に俺とスキンシップを取る時は加減するように言ってある」
「うん……」
「力の加減が大事なのも勿論だが、さっきから言っているがお前達は俺の部下でもある。部下が上司に対してある程度敬意をもって接するのは普通だろ?」
「す、捨てないで……!」ブァッ
「話を飛躍させるな、誤解するな、曲解するな。そして落ち着け」
会話の流れから何を想像したのか、阿賀野は急に両目から涙を溢れさせて泣きじゃくりそうになる。
「……ぜったい、ぜったい阿賀野は大佐と離れたくない……! 大佐と離れるなんて絶対に嫌……!」
「……」
「……ぅ……ぐす……」プルプル
「……阿賀野」ポン
「……っ」ビクッ
「俺はお前を捨てたりはしない」
「ほ、ほんと!?」
「最初からそんなこと言ってなかったろ? 俺はただお前に他の奴らと同じように触れ合うときに加減をして欲しいだけだ」
「加減……うん、わかった!」
「……お前があっちでいろいろ辛い思いをしたのは知ってる。だがここでは必要以上に怖がるな。誰もお前を傷付けたり捨てたりしない。いいな?」
「うん。ありがと……。好き、大佐」
大佐の言葉に心から安堵したらしい阿賀野は再び甘えるような顔になると、また唐突に愛情を表現し始めた。
その顔を見て先程までのやり取りの繰り返しの可能性を恐れた提督は、そこで一度彼女を躾ける事にした。
「……あと、あんまりベタベタするな」
「え!?」
「ショックを受け過ぎだ。好意を寄せてくれるのは嫌ではないけどな、だがあまりにもこう過剰だとその、周りの奴らが、な?」
「だ、だって阿賀野大佐の事が本当に……!」
「俺は節度を守る奴が好きだ」
「阿賀野これからあんまり大佐にベタベタしません! 大佐を見つけても急に抱き付いたり思いっきり抱き締めたりしません!」
正に提督の事を本当に好いている者の反応と言えた。
阿賀野は提督の好みを瞬時に理解すると、即座にその好みに沿う選択肢を取った。
「よし、いいぞ」
「あ……えへへ♪」
「じゃぁ俺は仕事があるからちょっと外れてくれ。時間がある時はちゃんと相手をしてやるから」
「うん、分かった! 阿賀野いい子にするね!」
「ああ、頼んだぞ」
「任せといて! それじゃまたね。大佐っ」
バタン
「……」
「能代」
一人になった提督は誰もいない空間に不意に阿賀野の妹の名を呼んだ。
その声に机の下でガタッ、という音と共に誰かが反応する。
「!」ビクッ
「いつまで机の下にいるつもりだ」
「あ、もう阿賀野姉出ていきました? あ、あはは、ごめんなさい。ちょっと姉に気を付かちゃって」
机の下から遠慮しがちに出てきたのは阿賀野の妹の能代だった。
どうやら阿賀野が部屋に入る前にその気配を察して、咄嗟に机の下に隠れていたらしい。
「姉想いなのはいいけどな、でも机の下に隠れる事はないだろ? 俺の部屋に行っていればよかったじゃないか」
「ごめんなさい。ちょっと焦ってしまいまして」
「まぁいい。ふぅ……」
「お疲れ様、大佐」
「ん」
「阿賀野姉ったら本当に大佐にべったりですね」
「そうだな。だが流石に疲れる」
「ご、ごめんなさい……」
「お前が謝る事じゃないさ。まだ落ち着くまで時間がかかるだけだろう」
「うん……」
「やっぱり気になるか?」
「え? あ、そ、そうですね。ただ姉を出撃中に発見しただけだったらここまでは気になる事はなかったかもしれません。だけど流石にここに来た経緯がちょっと……アレだったので……」
「俺も偶然見つけただけだったからな。運が良かった」
阿賀野は提督が基地に居る時に発見されたのではなく、少し前に日本に帰った時に彼の目に留まり、とある事情からそのままその身柄を保護する形で此処に連れて来られたのだった。
「大佐……本当にありがとう……」グス
姉が初めてここに来た時の事を思い出したのか、能代は少し涙目になりながら提督にお礼を言い始めた。
「わたし、実際に姉と再会するまで自分の中で姉のイメージがなんとなく決まってたから、初めて会った時は本当にショックだったんです。あんな、あんなに小さくなって震えていたから……」
「……そうだな。ここに迎えてからまだそんなに日にちは経ってないが、それでも大分マシになったよな」
「大分どころじゃないわ。本当に元気になったと思います」
「ああ、そうだな」
「大佐、本当に感謝しているんですよ? もちろん矢矧も」
「俺は自分の気持ちに素直に従っただけだ。お前も俺と同じ立場だったらそうしていただろう?」
「勿論です」
「ならもう気にするな。これからは自然に接してやるのが阿賀野にとっては一番な筈だしな」
「うん、そうね……そうします」
「よし、じゃぁこの話はこれで終いだ。さて、仕事を……」
「ねぇ大佐」
「うん?」
「わたしも……わたしも好きですからね? 阿賀野姉と張り合うつもりないけど、この気持ちだけは負けてないつもりです」
能代は恥ずかしそうに眼を逸らしながら仄かに赤く染まった顔でそう言った。
「……そうか」
「うん……」
「ね」
「ん?」
「ぎゅっと、して欲しいな?」
「……したら仕事しろよ?」
「うん!」
実は少し前に古鷹の改二の為に5-4でレベリングをしてたら阿賀野をゲットしたりしていました。
彼女がここに来る前に経験していた辛い事については、提督が日本に行った時の話で触れるつもりです。
ま、ベタな展開なのでそういう意味では変に不快な気持ちになる事はないと思いますがw