「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか

関空の中国人避難問題、一連の事実を検証

関西国際空港のバスターミナル。9月5日にはここから多くの利用者が避難した(写真は8日に編集部撮影)

9月19日に「東洋経済オンライン」に掲載した筆者の記事「大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか」では、台風21号によって一時閉鎖された関西国際空港での対応を巡り台湾で議論が巻き起こり、大阪に駐在していた台湾の外交官の自殺にまで至ってしまったことを伝えた。

この発端となったのが、「中国の領事館が関空にバスを派遣して中国人を救出し、優先的に中国人を避難させた」というSNSでの発信や大手台湾メディアでの報道だった。それが台湾で「なぜ駐日代表処(大使館に相当)は動かないのか」との議論に発展した。記事中ではこの発端となった情報をフェイクニュースとして扱った。

実際、記事を配信した19日には、東京にある台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表(大使に相当)が記者会見を開き、フェイクニュースを見極めるように呼びかけている。一方で、同日に中国の駐大阪総領事館は中国人旅行者の避難に協力したとして、バス会社など協力した会社や団体を表彰した。

いったい真相はどうだったのか。経緯を振り返りながら、改めて検証してみたい。なお、一連の事実は関西エアポートやバス会社などへの取材に基づくもの。中国総領事館は「新華社通信」の報道が公式見解であるとして、取材には直接回答しなかった。新華社通信は「領事館が救出活動に協力した」と報じているが、その詳細に触れた記事は確認できなかった。

約700名の中国人旅行者が残された

9月4日、関空では台風21号の影響で大規模浸水被害が発生し、数千人の旅行者が空港内に取り残された。取り残された旅行者には中国人や台湾人など外国人旅行者も含まれていた。関空を運営する関西エアポートは約700名の中国人旅行者がいたとしている。

そこで中国領事館は関西エアポートに対して、関空にバスを派遣して中国人を救出したいと要請した。関西エアポートによると、自国民の救出を申し出たのは中国だけではなかったようだ。ただし、破損した連絡橋の通行を制限していることやさらなる混乱を招く恐れがあるとして、同社はこれらの申し出を辞退した。

とはいえ、外国人旅行者のなかで中国人の人数は最多。団体客も多く、言語疎通に問題が生じたケースもあり、中国領事館のサポート提案の受け入れを検討した。そして、関西エアポートと航空各社、中国領事館の3者間で旅客を避難させる際は中国人旅行者をまとめて島外に出すよう調整が行われた。

次ページ「中国人だけが優遇」の誤解が生まれた背景
政治・経済の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 競馬好きエコノミストの市場深読み劇場
  • ワインの常識10
  • 御社のオタクを紹介してください
  • ブックス・レビュー
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

  • NO NAME436a4b5f7994
     丁寧な追跡調査で事実関係がよくわかった。
     昔から誤報はよくあって、自殺に追い込まれる事例もあったし、ネット社会のフェイクニュースだけの問題ではないだろうが、他国が出来ていることをなぜやらないといった「不作為の罪」を責められると反論しにくいから辛い。
     自分の行為を非難された場合には、事実なら反省し、デマなら笑い飛ばすことで精神衛生上は問題解消できるが、やってないことを、不作為の罪だとか仕事が遅いとか、責めないで欲しいものだ。
    up59
    down14
    2018/9/21 17:36
  • NO NAME38cf3fbdb2db
    そもそも中国共産党機関紙"環球時報"による報道が発端では?
    さも中国側が乗り入れて中国人を救ったみたいな論調だったはずだが...
    台湾世論を混乱ささえる目的ともいえなくもない
    up44
    down12
    2018/9/21 21:21
  • NO NAMEb815633cd176
    台湾と中国の情報戦ですよ。
    中国政府は、こんなに頼りになる、台湾として頑張るより、一つの中国になった方が世界の国々から優遇され、大事にされる、という宣伝に世界が乗せられた。
    up36
    down12
    2018/9/21 19:15
  • すべてのコメントを読む
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
「ナルシスト」全開の仕掛け人<br>ひと烈風録 若新雄純

ロン毛茶髪にカジュアルな服装を貫き、「プロデューサー」を自称する。慶応大学 特任准教授、地方創生プロデューサー、会社代表、コメンテーター……。どの肩書を見ても仕事内容はつかみどころがない。若新雄純とは何者か、その働き方とは。

  • 新刊
  • ランキング