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2019-05-10

糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの今日のダーリン

・そんなふうなタイトルの本だって、きっと、
 何冊も出ているにちがいないのだけれど、
 「芸術ってなんなんだろう?」という問題はおもしろい。
 異論反論あるかもしれないけれど、ぼくには、
 テレビ番組のなかで直接聞いた岡本太郎さんの答えが、
 いまになってもそれを考えるときの軸になっている。
「これはなんだ?」が芸術である、と。

 人のこころに「これはなんだ?」とさざ波を立てるもの。
 ぼくなりに理屈をくっつけるならば、
 「いままでの感じ方や考え方で処理しきれないので、
 これはなんだと、新たな疑問が湧いてきてしまう」
 というようなものごとが、芸術なんだということかな。
 ぼくは、その番組の司会者という立場だったので、
 「これはなんだと思うものは、なんでも芸術ですか?」
 と、常識的な人間としての質問を差し挟んだ。
 岡本さんは、「そうだ」と断言した。
 そのとき、直前に話題にしていたのは、
 御茶ノ水橋の側面に無数にペタペタ貼り付けられていた
 ガムの噛みカスのことだった。
 そのガムの噛みカスには、ひとつずつ、
 爪を押し付けたらしい「人の顔」が描かれていた。
 迷惑なゴミだし、しつこいいたずらでもあるが、
 目と口が弧になっているので、ガムは笑顔に見えた。
 見ようによっては、五百羅漢のようだった。
 つまり、これを岡本太郎画伯は、
 落書きやらいたずら行為であると言うのではなく、
 「これはなんだ?」、つまり芸術であると思ったのだ。

 社会の常識、法律や条例などでどういう意味を持つか
 …とは別に、これは「芸術」です、と言ったわけだ。
 それは「芸術であり、罪である」ということもあるさ、
 と、その意味をも含んでいたかもしれない。

 「これはなんだ?」は、あらゆる場所に出現する。
 音楽のなかにも、人のことばのなかにも、
 建物のなかにも、舞台の上にも、映画の闇のなかにも、
 ときには恋愛や犯罪のなかにも芸術が見つかるだろう。
 あのことばを聞いてから30年以上も経ったいま、
 ぼくは「これはなんだ?」に「わぁ」を足している。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
「わぁ、これはなんだ?」は、いくらでも生まれている。


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