この素晴らしい世界で2周目を! 作:ぴこ
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「俺たちのパーティーは新米ばかりの駆け出しだ。クルセイダーであるあんたには、相当負担をかけることになる。それでもいいんだな!?」
「おうとも! むしろバッチコイだ!」
「変態」
「んん……っ! 初対面でも容赦なく罵倒してくるとは……! なかなかレベルが高いな……!」
勝手に同類認定するな。
脅しをかけているにも関わらず、乗り気なドМクルセイダー。黙っていれば、引く手数多なのに、本当に残念な奴だ。
ダクネスの変わらなさっぷりに、呆れると同時に正直安心した。
やはりこいつらはどこまで行っても、そのままだったから。
その後、やってきたアクアとめぐみんにダクネスを紹介して、その日は解散となった。
次の日。
俺たちは掲示板の前で、無数のクエストとにらめっこしていた。
キャベツの時期まではまだ数日あるし、ベルディアが来ればしばらく金が稼げなくなるので、ここらでドカンと稼いでおきたいところである。
「うーん……。何か良いクエストはないか……ん?」
目に付いたのは、ゴブリンの討伐クエスト。
ゴブリンだけであれば楽に倒せるが、報酬もそこまで美味しくない。
しかし、ゴブリンにくっ付いてくるあの虎型のモンスターであれば、難易度的にも売った時の儲け的にも美味しいのではなかろうか。
「みんな、今日はゴブリンの討伐クエスト受けないか?」
「いいんじゃないかしら? ゴブリン位なら、私たちでも余裕でしょ」
「ゴブリンか……! それならば、もしかしたらあのモンスターも……! ふふふ……!」
アクアは当然の如く気付いていないが、ダクネスは当然のように例のモンスターについて知っているようだ。まあ、今回はダクネスとの初クエストでもあるため、大目に見よう。
狙いは、初心者殺しだ。
「いいか? 作戦はこうだ。俺たちは丘の頂上辺りで構えて、ダクネスが『デコイ』でゴブリンを引きつける。初心者殺しが来たら、俺がバインドするから後回しだ。いいな?」
「ちょっとカズマさん……。初心者殺しなんて聞いてないんですけど……。大丈夫なの? 死んだりしないかしら?」
「か、カズマ! その『バインド』スキル、後で私にも掛けてもらえないだろうか!?」
こいつら話し聞いてるんだろうか?
まあ最悪俺が全員連れてアクセルまでテレポートすればいいし、大丈夫か。
「めぐみんは、いつでも爆裂魔法が撃てるように準備をしておいてくれ」
「任せてください! 初心者殺しだろうがなんだろうが、灰燼と化して見せましょう!」
目的地に向かう前に、アクアに支援魔法をかけまくって貰う。
まあ、これならば余程のことがない限り負けないだろう。
「よし、じゃあやるか!」
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「『狙撃』っ! 『狙撃』っ! だあああああっ! 数多すぎるだろ!」
撃っても撃っても減らないゴブリンの群れ。
いつかのように、丘の上から『クリエイト・ウォーター』と『フリーズ』のコンボで凍らせてるから、ダクネスの攻撃でも当たっているというのに。
一向に数が減ったように感じないのは何故だろうか。
「めぐみん! 『敵感知』スキルに反応があった! 岩場にゴブリンが大量に隠れていやがる! やっちまえ!」
「穿て! 『エクスプロージョン』っ!!」
五十近くいたゴブリンの反応が一瞬で消える。
これでようやく終わりが見えて来た。
「よし! 後はここにいるやつらを倒せば終わりだ!」
「本当かしら? 初心者殺しが近くまで来てたりして……」
「ばっかお前、そういうフラグみたいなこというと……ほら来た! 本当に来た!」
当初は初心者殺しが目的であったが、ゴブリンの大量発生で満身創痍の俺たちにはきつい相手だ。
俺は大型モンスター用の強力なロープを取り出し、初心者殺しを待ち構えた。
「ダクネス、一旦下がれ! 初心者殺しが来る!」
「いいや、下がらん!初心者殺しは私が食い止める! 私ごと『バインド』して構わん! むしろお願いします!」
「おま、こんな時にど変態発揮してんじゃねええええええ!」
そうこうしているうちに、ダクネスが初心者殺しと接敵する。
だあああ、もう!
「どうなっても知らねえからな! 『バインド』っ!!」
「ああああああああ!」
初心者殺しと共にロープに巻きつかれたダクネスは、苦痛とも快感とも取れる声を上げる。
「ゴブリン片付けたら助けてやるから、ちょっと待ってろ! アクアっ、ダクネスに回復魔法かけ続けてやってくれ!」
「合点承知!」
残った数匹のゴブリンを『狙撃』スキルで撃破する。
慌ててダクネスの救出に向かうも、全然平気そうだった。俺の苦労を返してくれ。
「『パラライズ』」
バインドが解ける前に、初心者殺しを『パラライズ』で動きを封じる。トドメは、ダクネスに刺させるつもりだった。
「ほら。クルセイダーとして、こいつにトドメを刺してくれ」
「……良いのか? 私は、足を引っ張って……」
「何言ってんだ。初心者殺しの動きを封じてくれただろ? お前が身を呈して止めてくれなきゃ、ロープを避けられてたかもしれない。そしたらもう逃げるしかなかったからな」
「カズマ……」
本音を言えば、もう少し自重して欲しかったが、贅沢は言わない。
ダクネスは攻撃がほとんど当たらないから、こういうところで経験値を稼いで貰うしかない。
それに、助かったというのも事実だし。
「私は、素晴らしいパーティーに入れたようだな」
満面の笑みでそう言うダクネスがクルセイダーの務めを果たした後、俺たちは『テレポート』でアクセルの街へと帰った。
「ゴブリンの総討伐数八十九体に、初心者殺し一体の討伐ですか……。とても、つい最近結成したパーティーとは思えませんね」
受付のお姉さんの感嘆の声に得意げな表情の一同。
実際自分でもとんでもない活躍だと思う。
アクアを除いた面々はレベルも大幅に上がり、報酬もかなりのものとなるだろう。
「このゴブリンの数、恐らく巣をまるごと潰したんだと思いますけど……。普通なら緊急クエストとして、ギルド全体で当たる問題ですよ」
「ふっふっふ、私たちはいずれ魔王をも倒すパーティー! ゴブリン如き何匹来ようが敵ではありません!」
「いや、結構危なかっただろうが」
まあでも、めぐみんが調子に乗るのも無理はない。
ゴブリンの大半を倒しためぐみんは、大幅にレベルが上がり、俺たちの中でも頭一つ抜け出しているのだ。
「それでは、こちらが報酬の四百万エリスになります」
「「うおおおおおおおおお!?」」
俺たちは思わず、大声を上げてしまった。
大物賞金首の討伐以外で、こんなにも大金を手にしたのは初めてだ。
めぐみんなんて、今にも泡吹いて倒れそうな勢いだ。
「どどどどうしましょうカズマ! 四百万だなんて、みんなで山分けしても、一人頭百万よ!? 何に使おうかしら……!」
「アホ、今回の報酬は他に使い道があるんだから、勝手に使おうとするな!」
こんなときだけ計算の早いアクアに呆れつつ、俺は賞金を受け取る。
まだまだ足りないかもしれないが、これは屋敷を買う資金に充てるつもりだった。
前はとんだマッチポンプみたいになってしまったため、今回は悪霊騒ぎが起こる前に買い取ろうと思う。
「取り敢えず、俺たちのパーティー結成祝いも込めて、ちょっといい店に打ち上げにでも行かないか? 金は俺の取り分から出すからさ」
「おお、それはいいな! 実に冒険者らしいではないか!」
満場一致で打ち上げに行くことが決まり、どの店に行くか話し合いながら出口へと向かっていると、面倒臭い男が現れた。
「アクア様っ!? アクア様じゃないですか!? こんなところで、なにをしているんですか!?」
――二人の美少女を連れた、魔剣の勇者様が。