この素晴らしい世界で2周目を! 作:ぴこ
<< 前の話 次の話 >>
「「かんぱーい!」」
二周目の初クエストも終わり、俺とアクアは祝杯を挙げていた。
カエル五匹の討伐報酬、占めて二万五千エリス。
報酬の割に楽なクエストだが、こんなクエストをちまちまやっていたのでは、金はあまり溜まらないだろう。
これからベルディア戦にデストロイヤー戦と、金が掛かりそうな戦いが控えている。
相も変わらず上手いカエルの唐揚げに舌鼓を打ちつつ、俺はアクアに提案した。
「なあアクア。明日は仲間集めに専念しないか?」
「なによカズマさん。カエルなら私たちだけでも楽勝でしょ?」
「確かにカエルは楽勝だけど、そのうち必要になってくるんだよ」
こいつ、カエルが楽に倒せると分かって味を占めたな?
前回どんな感じだったか教えてやりたくなってきた。
「仲間はいいけど、どうやって募集かけるのよ? こんな駆け出しのパーティーになんて誰も入りたがらないんじゃないかしら?」
「安心しろ。ちゃんと秘策があるから」
首を傾げるアクアに、俺はドヤ顔でそう言った。
『パーティーメンバー募集! 私たちは魔王討伐のため強力な仲間を求めています。爆裂魔法を使えるアークウィザード、敵の攻撃を一心に引き受けてくれるクルセイダーなんかだと尚良し』
「カズマってば馬鹿なの? アークウィザードやクルセイダーがこんな駆け出しの街にいるわけないじゃない。募集をかけるだけ無駄よ無駄!」
「まあまあ。いいから黙って座っとけ」
なんだか昨日から立場が逆転したみたいになっているが、こいつ本当にアクアなのだろうか?
俺がパーティーの募集項目に記述したのは、明らかに特定の二人を狙った文言。
あいつらは足を引っ張ることも多いが、なんだかんだ幹部級の敵と戦うには、いなくてはならない存在だ。
朝から粘って二時間後、狙いの人物の一人目が、エサに釣られてまんまとやってきた。
「爆裂魔法を使えるアークウィザードを求めているのはあなた達ですか?」
「そうだけど、君は?」
分かり切ったことだけど、一応初対面のため聞いておく。
すると、目の前のロリっ子――めぐみんは、バサッとマントを翻して言った。
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者! あなた達の魔王討伐の旅、この私が力を貸そうではないか!」
「アークウィザード……! しかも、爆裂魔法ですって……!? ちょっとカズマさん、とんでもない大物が来たんですけど!」
「落ち着けアクア。お前だって女神でアークプリーストだろ? 引けは取らないさ」
「そういえばそうでした!」
アクアの尊敬の眼差しに、得意げな顔のめぐみん。
相変わらずちょろいけど、ここはその性格を利用させてもらおう。
「めぐみんって言ったか? 今の言葉が本当なら、是非とも力を貸してくれないか?」
「いいでしょう! 我が爆裂魔法の凄さ、ご覧に見せましょう! ……と言った手前申し訳ないのですが、なにか食べさせてもらえませんか……? ……ここ数日、何も食べていなくて……」
「はいはい。ほら、なんか頼めよ」
今にも干乾びそうなめぐみんに、俺はメニューを手渡した。
「今更なのですが、カズマは私の名前を聞いても笑ったりしないんですね」
めぐみんの実力を測るという名目で、俺たちはまたカエル狩りへとやってきていた。
その道中、めぐみんがそんなことを聞いてきた。
俺は紅魔族の名前にはもう慣れたけど、アクセルの街に来たばかりの頃は余程馬鹿にされたのだろうか。
「まあ、確かに珍しい名前ではあると思うけど。笑ったりなんかしないさ」
「……なるほど。やはりカズマは普通の人とは違いますね。思った通りです!」
こいつもこいつで苦労してたんだな。
「お前は魔王を倒すパーティーの一員になったんだ。名前を笑ったやつらには、これから見返してやればいいさ」
「……はい!」
嬉しそうに言う返事をするめぐみん。
この純粋な視線も、いつまで続くことやら……。
そうこうしているうちにカエルが出てきた。
三体同時に。
「めぐみんっ! あいつらを俺が引き付けるから、爆裂魔法の詠唱をしておいてくれ!」
「分っかりましたっ!」
詠唱を始めるめぐみんを尻目に、俺は三体のカエルの、丁度中央あたりへと向かった。
十分にアクアたちと距離を取ったところで、俺はスキルを使った。
「『デコイ』っ!」
クルセイダーの十八番スキル『デコイ』を唱えてカエルをおびき寄せる。
アクアたちの方に向かっていたカエルも含めて、全てが俺の方に寄ってきた。
やべっ、ちょっと怖い。
いくらジャイアント・トードといっても、地響きを鳴らしながら三体同時に襲い掛かられると、凄い怖い。
ギリギリまで引き付けようかとも思ったが、めぐみんの爆裂魔法なら大丈夫だろう。
「『テレポート』っ!」
テレポートの転送先が一つ残っていた俺は、先ほどアクアたちの真後ろを一先ず設定しておいたのだ。
テレポートが完了した俺は、めぐみんに向かって叫んだ。
「めぐみん、やれっ!」
「『エクスプロージョン』っ!」
撃ち込まれた爆裂魔法。カエルは、文字通り跡形もなく消え去っていた。
「やるな、めぐみん! 流石の威力だ」
「ふふふ、我が爆裂魔法の威力は絶大。それゆえに消費魔力も絶大で、撃った後は動けなくなるのですが……」
「ああ、気にすんな。後は俺たちでやるから。アクア、俺はカエルを後二体探してくるから、めぐみんをよろしく頼む」
「まっかせなさい!」
その後、俺は『敵感知』スキルと『狙撃』スキルを駆使して、二度目のカエル討伐を無事に終えた。
「ここまで順調だと、ぶり返しがきそうで怖い」
「なーに言ってるのよ、カズマ。順調なのはいいことじゃない。この調子なら、直ぐに魔王も倒せそうね!」
こいつはまた、直ぐに調子に乗って。
いつか痛い目に遭っても知らんぞ。
「それにしても、カズマはクルセイダーのスキルである『デコイ』や『テレポート』まで使えるなんて……。一体何者なのですか?」
「俺か? 俺はただの冒険者だよ」
「冒険者? 仕事としての冒険者ではなく?」
「そうだよ。……幻滅したか?」
アクアがアークプリーストだから俺のことも上級職だと思ったのだろう。
めぐみんの目から驚きが見て取れた。
背負われたままのめぐみんは、ぷるぷると震えながら呟いた。
「……かっこいい」
「は?」
「最弱職が魔王を倒す! まさしく物語の主人公のようです! いいでしょう! この最強のアークウィザードである私が! 力を貸そうではありませんか!」
「お、おう……。よろしくな」
何かがめぐみんの琴線に触れたのだろうか、かなり興奮気味だ。
まあでも、好意的に受け取ってくれたみたいなので良しとする。
「っと、俺は換金してくるから」
「じゃあ、私たちはお風呂でも行きましょうか」
夕飯までの短い時間、自由行動することにして、俺たちは別れた。
「……今日は、めぐみんさんも一緒だったんですよね? 問題なく終わりましたか?」
「まあ……。なんでですか?」
「いえ、その……。めぐみんさんはなんといいますか、色々とトラブルを引き起こしやすい方ですから。それもあって、長い間、パーティーに入れずにいたのです」
まあ、めぐみんの暴走を御することが出来る人は少ないだろう。
「それはそいつらに見る目がないんですよ。まあ、めぐみんは俺たちと一緒のパーティーを組むことになりましたから、ご心配なく」
「それなら安心です。サトウさんのパーティーは、期待の新人として注目されてますから」
この受付のお姉さんの対応も、以前とは大違いだ。
名前忘れちゃったけど。
報酬を受け取った俺は、ギルドの酒場スペースであいつらを待っていると、懐かしい顔に声を掛けられた。
「ちょっといいだろうか。貴方のパーティーはまだ、メンバーを募集しているだろうか?」
愛すべきド変態クルセイダーが、俺たちのパーティーにやってきた。