提督の憂鬱 作:sognathus
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航空戦艦としては提督の基地の中では初の改二です。
二人はどこか誇らしげな顔で提督に報告に来ました。
「扶桑、山城、新たな改造を受けて参りました」
「大佐、これが改造後の参考数値になります」スッ
「ああ。ふむ……」
提督は山城から結果通知書を受け取り目を通す。
扶桑と山城は彼が書類に目を通すのを緊張した様子で見守っていた。
「……」ドキドキ(大佐喜んでくれるかしら……)
「……」ドキドキ(もう不幸じゃない不幸じゃない……)
「……凄いな、これは」
提督は一言そう言った。
「……!」パァッ
「本当ですか!?」
その言葉に扶桑は顔を輝かせ、山城は提督の机に身を乗り出してその感想が本当か確認してきた。
「本当も何もまさかここまでとはな」
提督は素直に心から感嘆していた。
扶桑達は、航空戦艦として戦術に富んだ戦いが可能なのが長所だったが、しかしそこには航空戦艦故の火力不足という、戦艦として一番と言ってもいい程の手痛い悩みが常に付きまとっていた。
しかしその悩みも、今回の改造で火力が一気に長門型に匹敵するほどに強力になったうえ、更に艦載機の搭載数まで得たのだ。
これは驚くべき成果であり、まごうことなき改良であった。
「姉様やりましたね!」
「ええ……ええ……こんな……こんな日が来るなんて……っ」
山城は扶桑と手を取り合って喜びはしゃぎ、そんな妹に対して姉はは感極まって言葉も出ない様子だった。
「そんなに凄いのか?」
秘書艦の長門が提督の後ろから改造結果の数値を覗こうとしながら言う。
「ああ、本当だ。ほら」ピラッ
提督から通知書を受け取った長門はその内容を実際に自らの目で確認すると、感心するような顔で言った。
「……ほう。そうだな、これは本当に……ふふ、負けてはられないな♪」
「嬉しそうだな長門」
「ん? まぁな。扶桑達の悩みは私も知るところだったし、理解もできたからな。同じ戦艦として悩みが解決して喜ぶ姿を見れたのは、やっぱり仲間として嬉しいものだよ」
「ああ、そうだな」
「長門……」ウル
「長門さん……」
「よかったな。二人とも」
「ええ♪」
「大佐、長門さん。これからの私達の活躍期待してくださいね!」
「ああ、そうさせてもらおう」
「良いやる気だな。だが、私も負けないからな?」
それから数分後、短い祝福と報告を終えて扶桑達は退出し、部屋は提督と長門の二人だけとなっていた。
「……」
長門は提督の隣で黙って執務の手伝いをしていたが、提督はそんな彼女の様子に僅かな違和感を感じていた。
「長門」
「ん?」
「どうかしたか?」
「え?」
「いや、気のせいならいいんだがな。何となく……いや、やっぱり気のせいか」
「……何が気になった?」
「黙って仕事を手伝ってくれているお前の様子が何か普段と違う気がしてな」
「どう?」
「はっきりと言うのは難しいが……こう、焦っているような……というか、な?」
「……」
長門は提督の答えを聞いて彼の目を真剣に見つめながら考えるように口に手を当てた。
「どうした?」
「……当たりだ。流石大佐、もとい提督と言ったところか」
「やっぱり扶桑達の改造のその効果か?」
「ああ。あの時にも言ったが、改めて本当に凄いと思っているよ。それこそ大佐が言うように焦る程に、な」
「……ふむ」
「私と陸奥は大和に次いでこの大佐を支える重要な火力だと、自惚れではないがまぁ自負みたいなものはあった。が、それが今、私達に匹敵する火力を得た上に航空能力まで強力になった扶桑達に脅かされている……。ふふ、情けない事だが本当にそう思ったよ」
「……」
「誤解はしないでくれよ? 例え能力で劣ることになろうが私は長門型だ。そのくらいの差、これまで培ってきた経験による的確な行動で埋めるくらいの自信はある」
「ああ、それは俺も信頼している」
「ふふ、ありがとう。……だが、まぁ確かに今こうして抱えている嫉妬とも脅迫感ともつかないモヤモヤした気持ちは気分がいいものではないな」
「お前も新たな改造を受けられるようになるといいな」
「まぁそれに越した事はないが、だがそうなると……」
「なんだ?」
何か不敵な顔で答えを出し渋るような態度を取る長門に提督は訊いた。
「もしそんな改造を受けたとすると私達は大和達に匹敵する戦艦になるかもしれないな」
「その可能性は十分になるだろうな」
「ま、それも大和達が同じように新たな改造を受けてしまえば、差なんてまた開いてしまうだろうがな」
「自分でそれを言うか」
「十分に考え得る可能性だろ?」
「まぁな」
「なら、私はただ認めるだけだ。あり得ないなんて逃げないぞ」
「こんなとこまでお前は誇り高いんだな」
「いや、単に負けず嫌いなのを悟られまいと取り繕っているだけだ」ニッ
提督は何とも言えない顔で長門を見る。
すると彼女も同じ顔で見つめ返すが、やがて堪え切れない様に……。
「……ふっ」
「っ……く、はは……」
「ははははは」
「あははははっ」
「ははは。全く、お前という奴は……」
「良い女だろう?」
「異論の余地もない」
提督は、そんな風にわざと自惚れてみせる長門に改めて頼もしさを感じたのでった。
いや、本当に強くなりましたね扶桑姉妹。
ま、その分燃費も重くなりましたがそんな事は些細な問題です。
演習でバリバリ活躍するようになった彼女達は本当に頼もしいですね。
長門も焦るかもしれませんが、同じ航空戦艦である伊勢姉妹も他人事とは思ってないかも。
次はその話でも書こうかなぁ。
あ、提督が日本に帰る話は新しい部が始まってからにしようかなと思ってます。
それまでは、今の部が終わるまで毎度の小話で埋めるつもりです。