アインズがバハルス帝国と同盟を結んで一か月。
数年に亘り行われている王国と帝国との戦争が今年は例年とは違う様相となっていた。
帝国が王国に向けた宣言書の内容。
『エ・ランテル周辺は元々アインズ・ウール・ゴウンが所有していた地であり、王国は不当に占拠している』
王国側からすれば何をトチ狂ったことを言っているのだ。という思いであろう。
特にボウロロープ侯の怒りは激しいものだった。ナザリック地下大墳墓へと送り出した使者。アルチェル等を選出したのは彼であった。
使者がナザリックへと馬車で向かってから数日後。国王の元に突如として壺が現れた。傍に控えていた戦士長が不審な壺を検めたところ、中にはアルチェルと護衛の騎士の首が入っていた。ガゼフは使者が王国を発つのを見ており、この首が彼らだというのは間違いがなかった。首の素性をしっかり認識した時、不可思議な青い炎が生首を包みあっという間に消失。首ごと炎は何事も無かったかのように消え去っていた。
これはアインズ・ウール・ゴウンからの交渉決裂の証。そう宣言してきたのだろう。
この出来事は一部の上層部にのみ伝えられる。
ガゼフは沈痛な面持ちであった。
貴族共が言う『一国の使者を殺すなど蛮族の証』。
ガゼフもそれには同意見だ。しかし、アインズは決して蛮族などではない。礼を持って接した自分に対して、彼も礼を持って返してくれる。そんな常識ある人物。このような事をするような彼では決してない。
だが事実残酷な仕打ちが行われた。それは何故か────。
決まっている。使者の方が無礼を働いたのだ。
アルテェルは貴族派閥に所属しており、欲にかられた金目の物に目がない性格をしている。レエブン侯から聞いた彼の評価だ。
アインズ・ウール・ゴウンは王国と友好関係を築こうとしていた。しかい、それは愚かな貴族により御破算となってしまった。
今回の帝国からの宣言文は、帝国がアインズ・ウール・ゴウンを認め、かの皇帝がアインズ・ウール・ゴウンと友好関係を構築するためだろう。
また、スレイン法国からも『かつてアインズ・ウール・ゴウンがこの地を所有していたという記述はないが、もし事実であれば法国はこれを認める』という内容の文書が送られた。
1500万人を擁する最大国家が一介の
貴族たちは────お気楽な様子だった。
王国と帝国が戦争準備を進めている中。ナザリックでも同様に戦争の準備が進められていた。とは言ってもナザリックでは優秀な者たちのお陰で、既にほぼ全てが終わっている。後は開戦を待つのみとなっていた。
ナザリック地下大墳墓 第六階層。
鬱蒼と生い茂る森と草原の境目。草木の生えた地べたに座り込んでいる女が一人居た。
「……お花キレイ」
傍に咲いている一輪の名も知らぬ花を見てそんな言葉を漏れ出している。その表情は穢れを知らない純真無垢な乙女のように見えた。彼女は休憩時間をもらって休んでいる。
「時間が空いたから様子を見に来たんだが、またかクレマンティーヌ」
「へっ……ア、アインズ様!?」
この地の絶対支配者の訪れに呆けていた意識を戻し、即座に片膝を着いた臣下を礼をとる。そして、目線を下げたまま御方の周囲の気配を探る。
「そんなに警戒しなくても共は連れていないぞ。今は私一人だけだ」
その言葉で顔を上げるも、再度辺りを探ってみる。
別に御方の言葉を疑っている訳ではない。本能が自然にそうさせたみたいなものだ。
「なぁんだ、それなら安心だね。アインズ様も人が悪いなぁ。来るなら来るって先に言ってくれたらいいのにぃ」
アインズが一人だと分かった途端にケラケラと笑い出す。先ほどの純真無垢な乙女はどこかへと行ってしまったようだ。
「それはすまなかったな。私も休憩中なのだが、ここに来たのは偶々だ。ところで…
「あぁ、ここで気を抜くとなっちゃうんですよねぇ。私も別に意識してやってる訳じゃないんですけどねぇ」
頭をガシガシと掻きながら困ったように言う。
クレマンティーヌはナザリックで暮らすようになって自分が如何に小さな世界しか知らなかったのだと再度見せつけられた。
目の前に居る御方だけではない。玉座の間で見た悪魔だけでもない。ナザリックには世界すら滅ぼせる存在が数多くいる。しかもそれらは何らかの地位に就いているわけでもない。それどころか召使いか下男といった立場なのだ。それが石を投げれば当たるほど居る。
それを認識してからクレマンティーヌは時々、ボ~っとしている時や気を抜いて休んでいる時にあんな感じになってしまうようになった。俗に言う『キレイなクレマンティーヌ』である。
「今は良いが、誰か他の者が居る時は……」
「分かってますよ~。『てぃぴーおー』でしたっけ?ちゃ~んと場を弁えますよ~」
「それなら良いが」とアインズは軽く「ふっ」っと鼻をならす。
クレマンティーヌのこの馴れ馴れしい言葉遣いはアインズ自身が許可したものだ。
怯えたように畏まるクレマンティーヌに「そう固くならなくても良い、もっと砕けた感じで構わない」と言ったらここまで砕けてしまったのはアインズとしても驚きだった。だが、これぐらい軽い方がアインズとしても気を張らずに済み、話しやすいのもあって周りの目がない時は特に咎めたりはしない事にしたのだった。
例えアインズが気にしなくても、他のシモベが彼女の言葉遣いを耳にすればどうなるか。きっと碌な目に合わないだろう。彼女だけが。
守護者達も彼女のように、とまではいかずとも少しは見習って欲しいと思わなくもない。
「それで元の強さは取り戻せたのか?」
「戻りましたよぉ。まさかこんなに早く以前の強さを取り戻せるとは思ってなかったから驚きですよぉ。『れべりんぐ』っていうのはすごいもんですね」
クレマンティーヌには蘇生によるレベルダウンを回復させるためレベリングを集中的に行ってもらっていた。
ナザリック内にレベル30まで無限POPするアンデッド狩り。
クレマンティーヌのレベルは下がったとはいえ現地では英雄級なのもあり低位のアンデッドではたいした経験値は得られない。そのためPOP上限の30レベル辺りのアンデッドと戦闘させた結果、短時間でレベルを回復させることが出来た。
使用している武器は彼女が元々使っていたスティレット。ユグドラシルには無い技術が使われており、解析は既に終わっているのでそのまま返した物だ。
防具は────。
「……その恰好寒くは……と言うより恥ずかしくないのか?」
アインズはクレマンティーヌが装備している防具に目をやり、なんとも言えない表情になる。
「これ?いや~ん、やっぱアインズ様ってえっち~」
胸元を隠しながら満更でもない表情でお道化てみせる。
「……んふ、冗談は置いといてコレはシャルティア様から頂いた物ですよ。お話する機会があった時に意気投合する話題がありまして、「ご褒美」って渡されました」
クレマンティーヌが自慢げに見せつけてきたのは体を隠す面積が異様に少ない鎧。通称<ビキニアーマー>だった。
冒険者プレートを張り付けていたかつての軽装鎧を思えばさして変わらない露出度なのだが、素肌の部分は防護膜のようなものが存在していて、ちゃんと防御性能が有るというのだから魔法防具というのは驚きだ。寒さに対してはなんの対策効果もないが、彼女にとっては慣れたものらしい。
実際彼女には良く似合っていた。シャルティアと意気投合した話題については考えないことにする。
「ま、体も本調子に戻ったようだし。ハムスケやリザードマン達に武技の伝授。新たな武技の開発は引き続き頼んだぞ」
「はぁい。分かってますよ~。……あっ、そういえば」
「んっ?」
「もうすぐ王国と帝国の戦争に介入するんですよね?一つお願いがありましてぇ」
前かがみになり、両腕で胸を中央に寄せて
「ダメだ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「どうせ戦争に参加したいとか言うんだろう。法国に追われているのを忘れたのか?戦争中は法国からの監視も当然あるだろうから却下だ」
「ぶうぅ」
ほっぺをふくらませて「アインズ様のケチンボ」とか言っているが本気で怒っている様子はない。
「そうむくれるな。その内お前にも外で活動してもらう時が来るだろう。それまではここで大人しく訓練を積んでおけ」
「ホントに!」
喜ぶクレマンティーヌに「暴れさせるためではないぞ」と釘を刺しておく。
無邪気な笑顔を見せるクレマンティーヌに以前のような嗜虐的な笑顔はもう見られない。
(コイツも随分変わったな。……それは俺も同じか。ふっ)
アンデッドの時であればナザリックの利益の為になるのならいくらでも残酷なことが出来ただろう。この地の人間が蟻などの昆虫のように感じていたアインズから想像すれば、クレマンティーヌを捕えた場合、五大最悪などに放り込んでいた可能性はそれなりに高い。
人間『鈴木悟』の心を大きく取り戻した今、それらをせずにこうしてこちらに従順な姿勢を見せるクレマンティーヌを見ていると希少なアイテムを使ってまでこの姿に戻った甲斐があったと思わせてくれる。
「……少し待っていろ、すぐに戻る」
頭にクエスチョンマークを浮かべたクレマンティーヌを置いて、アインズは転移で消える。
数分後に戻ってきたアインズの手には奇妙な物体があった。
それは四角形のブヨブヨした形でスライムに似ている。
一辺30センチほどの正方形。灰色の透明色、中心部には小さな丸い緑の塊があった。
「アインズ様。それは?」
「これは『グリーンコア』というモンスターでな。これを倒せばお前はまた一つ強くなれるだろう」
「
そして、戦闘と言う名の追い駆けっこが始まる。
「だああぁぁぁもう!全然追い付けないじゃない!なんなのよあれ!」
「はっはっはっ。ほら、立ち止まって油断してて良いのか」
「ぶべっ!」
走り回り過ぎでバテて休んでいたクレマンティーヌの顔面にグリーンコアの体当たりが直撃する。
ダメージ自体は大したことはない。たとえ何十発受けたとしてもクレマンティーヌが倒される可能性は皆無だ。
グリーンコアはそもそも戦闘用のモンスターではない。
RPGに良くある経験値を多く持つボーナスモンスターの一種だ。
ユグドラシルでも当然実装されており、よくやってくれているクレマンティーヌへの褒美としてアインズが召喚してきたものだ。
同レベル帯のモンスターと比較して消費金貨が圧倒的に高いため拠点配置にはほぼ使われることはない。せいぜいボーナスモンスターで侵入者をおびき寄せて罠に誘うぐらいだろうが、引っ掛かるプレイヤーが居る訳もない。ギルド拠点に攻め込むようなプレイヤーはレベルがカンストしているのが当たり前。態々拠点に配置するギルドなど居なかったオマケのような存在。
意思を持たない無機物の傭兵モンスター。
HPは少なく、防御力は高いが今のクレマンティーヌなら二撃も与えれば倒せるだろう。中心部のコアを直撃すればクリティカルヒットで一撃。攻撃力は殆どない。
魔法防御力も高目だが効かないことはないレベル。だが、<
そして一番の特徴が何をおいても素早さだろう。
俊敏さに自信のあるクレマンティーヌが中々捉えきれていない。
グリーンコアには同種の上位モンスターもあり、上になるほどステータスは上がってくるし、時々魔法を使って攻撃してくるのもいる。中には弱点のコアがないのもいるが取得経験値は討伐難度に応じて多くなる。
かなりのレアモンスターのため、コア系を狙ってレベルアップを図ろうとしても効率が悪すぎてユグドラシルでは『遭遇したらラッキー』ぐらいの感覚であった。
アインズのポケットマネーを使った褒美が本当の意味で与えられるまでの一時間。クレマンティーヌは武技を乱発し続けたせいでしばらく起き上がることが出来ないでいた。
レベルが一つ上がった実感を感じる余裕もなく地面に大の字になる。第六階層の綺麗な青空を呼吸を荒げながら見上げる。
(これホントに褒美なの?)
◆
「量に問題は……なし。よしっと」
カルネ村の村長エンリ・エモットは食料が保管されている備蓄倉庫で現在の量を確認していた。
アンデッド農奴とドルイドの魔法を使った農業は改良されながらすすみ、蓄えられた量は村の消費量を遥か超過している。
取引で約束されたバルド商会への納品はすでに終わり、ここにある分だけで来年もお腹を空かせて暮らす心配が皆無なほどだ。
「商人に卸す以外にも大量に必要になる」アインズに言われた言葉だが、意味を問いかけても「さてな」と、明確な答えは得られなかった。意味などなくても構わない。アインズがそれを望むのなら従うのみなのだから。
因みにアインズ自身も、何故食料がそんなに必要になるのかは分かっていない。デミウルゴスからの弁なのだから本当に必要になるのだろう。
倉庫を出ると太陽の光が全身を照らす。手をかざして空を見れば今日も気持ちの良い天気だ。
「おはようございます。エンリ村長」
声を掛けられた方を向くと青年がこちらに手を挙げて挨拶してくる。
「おはようございます。ヘッケランさん」
彼の近くにはハーフエルフのイミーナ。神官のロバーデイク。
彼らは帝国でワーカーを生業としていた四人チームの”フォーサイト”。カルネ村に移住してきた人たち。
人口の減った村の人口が増えるのは大歓迎。何故態々帝国から?の問いの説明を聞いた時は嬉しくなったものだ。あの御方は本当にこの村のことを気にかけて下さっている。
彼らフォーサイトは冒険者で言えばミスリル級の強さらしい。ジュゲム達が全員でかかっても勝算は薄いと言ったのをよく覚えている。そんな頼もしい彼らは自警団に入ることになった。
アンデッド農奴の姿を見た神官のロバーデイクがかなり狼狽していたが、それも最初の内だけ。「アインズ様の支配下にあるアンデッドは無害なんです」とエンリたちの説得と、彼らの恩人の好意を無下にする訳にはいかないと前向きに捉えてくれたお陰で今ではすっかり落ち着いたものだった。
エンリが見回りをしていると、子供の元気なはしゃぎ声が聞こえてくる。
その中にも新たな住人の姿があった。
アルシェの双子の妹、クーデリカとウレイリカの二人が孤児の子供たちと一緒に遊んでいた。二人はこの村の最年少で、ネムがお姉ちゃんとして昼間はよく遊び相手をしてあげている。
勿論遊んでばかりではない。子供でも出来る仕事はある。一通り遊んだ後はそれぞれ仕事に取り掛かるだろう。
ネムが自分より幼い友達が出来たことでシッカリしてきたのは嬉しくもあり、少し寂しいと感じてしまう。この感情は前にも感じた事があった気がする。
エンリが次に向かったのはドライアードのピニスンが管理している畑だった。
そこでは”フォーサイト”と共に来た三人のエルフが額に汗を滲ませて畑仕事を手伝っていた。
彼女たちの名は茶髪のレンジャーがアイナリンド。青髪の神官がエアルウェン。金髪のドルイドがララノアという。
「おはよう御座いますエンリさん」
一番近くで作業をしていたアイナリンドが笑顔で挨拶してくる。それに対してエンリも笑顔で挨拶を交わす。
今でこそ、こんなにも明るい表情でいるが、村に来た当初はどことなく無理に笑っている感じがしていた。
彼女たちが帝国を離れた事情をルプスレギナからある程度聞いてだいたい察しがついた。
彼女たちはまだ人間が信用し切れていないのだろうと。
だが、それもこの村で過ごしていく内に少しずつ解れてきているのをエンリは感づいていた。
ここには人間だけではなく、亜人や異形の者も協力し合って生きている。アインズが目指す種族を超えた共存がここでは成立しているのだ。
彼女たちが前向きに過ごしているのはそれだけではなかった。
一番の変化をもたらしたのは、土に栄養を与える魔法をかける為にやってくるマーレとその姉アウラに会ってからだとエンリは思っている。
ダークエルフの双子を見たエルフ三人は驚き、即座に跪いて何故か平服していた。
何事かと驚いたのはエンリだけではなく、アウラとマーレもどういうことか困惑している様子だった。
用事が済んだからと二人のダークエルフが村を去った後。エンリはエルフに理由を尋ねてみたが「いえ、あの……」と要領を得ない答えしか返ってこなかった。なんとなく怖がっているようにも見えた。
何か深い事情があるのかも知れない。
そう思ったエンリはそれ以上追及することはなかったが、一応これだけは言っておいた方が良いかもしれないと一言忠告した。
あのダークエルフのお二人もアインズ・ウール・ゴウン様に忠誠を尽くす方たちなのだと。
あの時の彼女たちの驚きようは凄かった。
それ以後、彼女たちは、自分たちを実質的に救ったモモンだけでなく、まだ一度も会っていない村の大恩人アインズ・ウール・ゴウンにも敬意を払うようになっていた。
畑の方に目を向けるとそろそろ収穫出来そうな育ち具合だ。
明日には何人か人手を集めた方が良いかな。そう思い、ジュゲムと相談しようと歩き出す。
新たな住人も迎え入れ、かつてよりも活気が増えてきた生まれ故郷。
村長という大役を背負うことになったが、皆が自分を支えてくれる。こんなに嬉しいことはない。
アーグやオーガたちが自分のことを村長ではなく族長と呼んでくるのに思うところはあるが、些細なことだろう。
そういえば、新たな移住者の中で、今日はまだ会っていない人がいる。
「えっと、ティラさんは……」
「呼んだ?」
ビクッと体を震わせて後ろを振り向くと正にその人がすぐ傍に居た。いつ後ろに来たのか。この人はルプスレギナと同じように突然現れてよく驚かせてくる。
「はぁ、ビックリした。そうやって驚かすのは止めて下さいよ」
「忍びとは忍ぶ者だから仕方がない……っと言うのは半分嘘。村長が驚かしがいがあるから仕方がない」
(ルプスレギナさんと同じようなことを言うのね)
彼女は以前、カルネ村に行商人に偽装して情報収集しに来た、言わばスパイみたいなことをしに来た人。
私たちが何も気づかずにそのまま帰してしまったのを、アインズが捕えたそうだ。
依頼で村を探っていただけで、特に敵意も無かったのと。彼女はアインズに忠誠を誓ったらしく、害はないそうなのでカルネ村に住むようになったのだ。
「それで、今からレンジャーの特訓ですか?」
「うん。赤毛の子はまだまだだけどハーフエルフの子は種族的特徴から耳が良くて筋が良い」
ティラはミスリル級に匹敵するイミーナより遥かに優れた能力を持っているらしい。
プライドが高いイミーナは最初はかなり悔しがっていたが、ティラの洗練された動きを目の当たりにする内に教えを乞うようになっていた。
そのおかげか、最近隠密能力が上達したと言っていた。「これで森での狩りも上手くなる」とか。
事実、”フォーサイト”の加入により、森から獲れる獲物は増えている。新鮮な肉が毎日────とまではいかないが、割と頻繁に肉料理が食卓に並ぶようになった。
ティラもカルネ村のために力を貸してくれている。
そのことに感謝もしているし、ずっと村に居てくれても構わない。
だが、エンリには彼女に対して少しばかり思うところがあった。
苦手な訳ではない。
嫌いな訳でもない。
あれはアインズからティラを紹介してもらった時のこと。
「────と言うわけでティラをしばらくカルネ村で預かってみてくれないか? 彼女の部下たちは身辺整理に時間が掛かるらしく、カルサナス都市国家連合に一時帰還するとのことだ」
「アインズ様がそう仰るなら……はい。大丈夫です」
アインズに頼まれたことを拒む理由などはない。
彼女に対して一番信用出来たのは、何よりもアインズの配下に入ったということだろう。
エンリとティラの自己紹介が終わった後。
ティラがアインズに向かって発した言葉。
「それで夜伽は今夜……する?」
ブフゥと吹いてしまったエンリは悪くないはずだ。
その後も「影分身を使った……」だの「房中術」だのエンリにはよく分からないことを言い、驚くほどの猛烈なアピールをしていた。
しかし、対するアインズは華麗にスルーする。それはそれは冷たい対応だった。
(ちょっと可哀そうだな。もうちょっと、こう、少しは応えてあげても良いんじゃないかなぁ)
好きな人とは結ばれたい。一人の女であるエンリにはそう思うのが普通だと考える。たとえ相手が雲の上の人であったとしても。
一種の同情の気持ちが湧いてきたエンリがティラを見ると。
ティラは俯き、体がブルブルと震えている。
泣いてしまったのだろうか。
何か慰めの言葉をかけようと近づく────。
息はハァハァと荒く、顔を紅潮させ、震える体を両手で抱きしめて身悶えしていた。
伸ばしかけていた手を止める。
(これは……もしかしてヤバイ人?)
「では私はそろそろ行く。何か問題を感じたならすぐにルプスレギナに言うと良い」
「あ、はい」
「ではな」
最後にため息をつきながら何時もの漆黒の空間へと消えていく御方を見送った。
「あぁ、どうせなら口汚く罵ってくれても」
ティラの呟きを、私は何も聞こえてません、というように耳を塞ぐ。
(やっぱりヤバイ人だ。ネムが変な影響を受けないといいけど)
少し前を思い出して、目の前のティラを見る。
「……?何?顔に何か付いてる?」
「ううん。なんでも」
今は普通だ。口数が少ないぐらいで見た目も綺麗な女性だ。これがアインズの前だと色々ヤバイ状態になってしまう。
御方の魅力が自然と変わった人を引き付けるのだろうか。
エンリは自分が変人だとは思っていないが、もしかしたら自分も────。
変なことを考えているエンリの意識を現実に戻す事態が迫る。
「ここに居ましたかエンリの姐さん!……非常事態です!?」
血相を変えて走ってきたジュゲムから、カルネ村へと迫る集団の存在を知ることとなる。
ボーナスモンスはエ〇トポ〇スから出張してもらいました。今後も出番があるかは検討中です。
エルフ三人娘は思うところがあって名前を付けてみました。多分原作ではもう出番はなさそうですし、名前の発表もないと思う。もし、発表されたら修正します。
ティラは蒼の薔薇と同じように、ヤバイ人なのは間違いない(確信)。で、こんなんなっちゃいました。