この素晴らしいダンジョンに祝福を! 作:ルコ
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ダクネス可愛い。
イリヤとクロくらい可愛い。
ツンデレ娘にチンチロを
夜空に浮かぶ星が凛々とざわめきだす。
まさに星空凛。
ロキ・ファミリアホームの中央広場において、その光を一身に受ける1人の少女。
その金糸をなびかせながらに、羽のように軽い身体から繰り出される剣戟は、ただの訓練とは思えない程の迫真さで空気を切り裂いた。
型を身体に染み込ませる。
日々の訓練からアイズの剣筋には迷いが無く、まるで目の前にモンスターが居るのではないのかと疑ってしまう程。
時刻は深夜。
もう、ホーム内に起きている者は居ないであろう。
アイズと。
俺を除いては。
「…ふっ…、はっ…。…?カズマ…」
「よ。こんな遅くまで鍛錬か?」
「…うん。いつも、やってるから。カズマも、鍛錬?」
「へ?お、おう、そんなところだ」
賢者モードでセンチメンタルになったから、なんとなく外に出てきました。とは言えない。
「…それじゃあ、私が、見てあげる」
「は?」
突然の申し出に俺はアイズから目を逸らせなかった。
曇りなき眼で見つめ続けられ、邪な理由で遅くまで起きていた自分が非常に情けない。
「…カズマは、レベルの割に…、なんか弱いから…」
「おう言ってくれるなコミュ障剣姫。その済ました顔を歪ませてやる」
「……ふ。カスマさんじゃ、私に、勝てないのに…。ぷぷ」
え?カスマさん?
クズマさんじゃなかったの?
最近じゃリヴェリアにグズマさんとも呼ばれるし…。
なんで俺の二つ名だけは二つだけじゃないんだろ…。
「ほうほう、良い度胸じゃないか。それじゃあ何か賭けるか?」
「賭け…?」
「おう。俺が勝ったら深層に行くのを付き合ってくれ。もちろんフィン達には内緒でな」
俺がそう言うと、アイズは意外そうに顔を傾けた。
と言うのも、深層で取れる最上質のアダマンタイトが欲しいのだが、流石に俺一人で入手することが出来ず。
何度か37層へ行ってみたものの、その度にリザードマン・エリートなどの人型モンスターに追い払われてしまうのだ。
「…深層は、フィンか、リヴェリアに、許可を貰わないと…」
「あの頭でっかち供に言ったら行かせてくれないだろ?」
当の件をフィンとリヴェリアに相談した所、死にたがりなのか?と頭にゲンコツを貰ってしまった。
だからこの極秘ミッションは秘密に遂行しなければ…。
と、俺が下衆な笑みを浮かべていると、アイズは何かを思い出したかのように口を開いた。
「…確かに。それじゃぁ、私が、勝ったら…」
「ん?」
「…カズマの事を、教えて」
は?
俺の事?
佐藤カズマ、16歳、元高校生(ニート)。
趣味はネトゲで、基本的には太陽の光に弱いです。はい。
「む。まぁ、別にこんな事をしなくても教えてやるが…、そんなんで良いのか?」
「良いよ。じゃあ、始めよ?」
アイズは意気揚々と剣先を俺に向ける。
相変わらず、剣を構えたときだけは立派に剣士の顔をしやがって。
「まぁ、待てよ」
「…?」
「ほれ」
「…なに?」
俺は素知らぬ顔をして手を差し出す。
手のひらにはアメちゃんが。
「これやるよ。甘いお菓子だから害は無い。おまえ痩せ細ってるし、糖分くらいは適度に摂取した方がいい」
「…うん。ありがと」
アイズは少しだけ頬を赤めてアメちゃんに手を伸ばす。
ガシっ!
「…ん?」
「ドレインターーーッチ!!」
「!?」
「くーっはっはっはー!!おまえも俺の魔法の餌食にしてやるぜ!」
「ぅぅ、な、なに…、これ…っ、は、離して…」
おぉ、力がみなぎってくる。
モンスターばかりに試していたが、やっぱり同種の力は身体に馴染むな。
「…ぁぅ、う、…っ、ふん!」
「痛っ!お、おま、頭突きって…、痛い、痛い!やめ、お、女の子が頭突きなんてしちゃいけません!」
「ふん。…ふん!」
「くっ、くそ…、お、おらー!フェミニスト舐めんなよクソアマ!」
「うっ、痛いっ…、スネを…、蹴るなんて…。さすがカスマさん」
魔力の吸引とスネへの打撃…、さ、最強のコンボじゃないか。
「おらおらおら!そろそろ泣いて詫びるか全裸で土下座するか選べ!」
「ぅぅ…、ま、負けな…、い…」
一方的な戦況にも挫けないアイズは、必死の形相で俺の手から逃れようと力を振り絞る。
ただ、俺のドレインタッチの方が一枚上手らしく、アイズの身体からは次第に力が抜けていった。
魔力の枯渇、それはすなわち精神疲弊なわけだが…、アイズめ、なかなか倒れん…。
「そろそろ負けを認めろ!」
「い…や…」
「な、なんて頑固なヤツ!」
だが、アイズの膝は既に震えており、立っているのが精一杯と言わんばかりだ。
俺も気力を振り絞り、魔力を吸う手に力を込める。
「俺に勝とうなんて笑止っ!!ドレインターーーッチ!!!」
「っ、ぅ、あ…」
パタリ。
と、アイズはまるで紐の切れたマリオネットのように倒れた。
は、ははははっーー!!
俺に逆らうから悪いんだ…っ!
このバカ女めっ!
「ふわぁーっはっはっはー!!ひれ伏させてやったわ!この思い上がった雌ガキを!!!」
「……カズマ、おまえこんな遅くになにやっとんねん?…ん?あ、アイズ!?…ぐ、ぐぉらってめぇボケっゴラぁぁ!アイズたんに何してくれとんねんこらぁーーー!!」
夜空の下にある光景は喧騒を起こしつつも眩しく揺れる。
白目を向いて倒れるアイズと。
下衆な高笑いでそれを見下ろす俺に。
怒り狂った顔で俺に殺意を向けるロキ。
これぞファミリアって感じだな!
ーーーーーーーーーーー
佐藤 カズマ
力 【I】 0
耐久 【I】 8
器用 【C 】 712
敏捷 【I】 0
魔力 【I】 0
スキル
魔法
ドレインタッチ
ーーーーーーーーーーー
……
…
.
「は?深層のアダマンタイトぉ?カズマ、おまえそんなん使うて何を作る気やねん?」
夜更けに近い時間。
相変わらず白目を剥く剣姫を膝に乗せ、ロキは怪訝な視線を俺に向けた。
「遠距離系の武器だよ。まぁ、何を作るにしてもアダマンタイトは利用できるし」
「ほぉ。それでここ最近、深層でうろちょろしとったんか」
「おう」
「…はぁ。フィンやリヴェリアにも言われたと思うが、あんま無茶したらあかん。特例で飛び級したといえ、カズマは冒険者歴1ヶ月の新米なんやから」
「ゲンコツ付きで言われたよ。だからアイズにも付いてきてもらうことにしたんだ」
「それがこの馬鹿騒ぎの原因かい。…ほんま、アイズを気絶させたなんて他の団員に知れたら…」
呆れたように深い溜息を吐きながら、悪戯好きな神には似合わぬ神妙な面持ちで額に手を置く。
確かにロキの言う通り、アイズを気絶させたなんて言ったらリヴェリアあたりが騒ぎ散らすかもしれないな…。
うちの娘に何をやってくれたんだ貴様っ!
みたいな…。
「…ほんまに苦労かけさすなや。カスマさんみたいなもんでも、ウチは子供に死なれたら悲しくなるんやから」
「俺みたいなもんで悪かったな…」
そもそもの話、第二級冒険者と呼ばれるレベル3の俺が、1人で深層に行く事自体が自殺行為らしい。
その事は鬼の形相で叱ってきたリヴェリアに重々教わった。
その一方で、フィンは不思議そうな顔と面白そうな顔を2で割った顔をしながら「よくも無事で帰ってきたものだね」と呟いていた。
「なぁ、カズマ」
「あ?」
ロキは優しくアイズの頭を撫でながら、偶にしか聞くことのない真剣な口調で喋り出す。
「深層に行くならウチが許可出したろか?」
「え?いいの?まじで?」
「ん。その代わりーーーーー」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「ロキ、カズマ達に深層への探検許可を出したらしいね」
昼下がりの神室にノックもせず現れた勇者は、含みのある笑みを浮かべながらにウチの瞳を覗き見る。
どうやら、昨夜の出来事にも関わらず、この勇者様には全て筒抜けだったらしい。
「すまんな勝手に。それにしても情報が早すぎひん?」
「ははは。2人がこれ見よがしにスキップしてダンジョンへ向かって行ったからね」
「…アホなんか?アイツら…」
スキップって…。
いまどきガキでもせえへんやろ。
「まぁ、あの子達なら大丈夫だろう」
「あの子
「そうかい?前例のないレベル3への飛び級と、ハイキング感覚で深層へ向かう行動力。それに滅多なことじゃ死なないであろう悪運まで持ち合わせているんだ。僕じゃなくたって彼の事は買うさ」
…そらそうか。
さすがにウチやって、カズマがレベル3へ飛び級した時は驚いたし。
ましてや見た事の無いスキルや魔法の発現…。
「でも、ステータスは器用を除いて0のまま。ほんまおかしな奴やで」
「部屋ではこそこそとカラクリの類いを自作してる。レフィーヤの話だと、詠唱無しで階層主を葬る程の火力を持った疑似魔法も使ったらしい」
「…疑似魔法」
フィンの問い掛けにウチは眉を寄せる。
正直、神だからと言って何でも分かるわけではないのだが、カズマに関しては分からないことが大半なのだ。
アクシズ教団とは関わりたくないが、少し探りを入れるべきか?
「まぁ何にせよ、僕は彼らの帰りを待ちながら、リヴェリア母さんの心労でも労ってくるよ」
「ぷはっ!リヴェリアも手の掛かる子供が増えて大変やな」
「本当にね。それじゃ」
そう言うと、フィンは神室を後にした。
おそらく、フィンはフィンなりにカズマの事を気に掛け、探っている。
探ると言うと聞こえが悪いかもしれないが、それだけカズマは特殊な存在なのだ。
レフィーヤの言う疑似魔法に、これからアダマンタイトで作ろうとしている何か、アイズを無力化したドレインタッチもそうだ。
カズマは厄介過ぎる。
敵に回したくないと、第一級冒険者のフィンが思う程に。
「…ウチらにこれだけ考えさせといて、当の本人はスキップしながらダンジョン探索か…。…帰ってきたらぶん殴ったろ」
………
……
…
.
「ぶえっくしっ!」
「…カズマ、風邪?」
突然の悪寒。
俺は鼻水を啜りつつ、アイズの問い掛けに首を振る。
「誰かが噂してるなぁ?…ギルドの娘達か?」
「…絶対に、違う。間違いなく、違う」
「おまえ、よくもそんなつぶらな瞳で俺の事を傷つけられるね」
ダンジョン内だと言うのに気の抜けた会話。
この場にリヴェリアでも居たら、油断をするな、と怒られていた所だ。
「それにしても、やっぱ本職の冒険者が前衛に居ると進みが早いな」
アイズが倒し、俺が魔法石をさり気なく拾う。
これを繰り返して居るうちに、気付けば俺たちは18層を目前としていた。
普段ならモンスターの居ない道を歩くために遠回りをするのだが、剣をアホみたいに振り回すヤツが1人居るだけで最短のルートを進むことが出来る…。
「…カズマは、全然戦わないね」
「戦ってるよ。眠気と疲れと」
「……」
「おい!俺を置いて行こうとするなよ!」
俺は歩みを早めるアイズの背中にピタリとくっ付く。
別に男が女を守る筋合いもない。
強い方が弱い方を守る。これ鉄則。
「…ルーム。カズマ、この前みたいな事が起きないように、私から離れないで」
「そう言う割に早足じゃないですかね?俺をココに置いていこうとしてませんかね?」
流石にどれだけ俺の悪運が強かろうが、この大空間にゴライアスが再び出現することはないだろう。
とは、思いつつも、しっかりとアイズの背中に抱きついておく…。
「…歩きにくい」
「そんなことないだろ。ほら、早く18層へ行くぞ」
「……」
間の主人が居ない空間を縦断し、次層へと繋がる階段を下る。
下った先で、頭上から降り注ぐ暖かな光を感じるまで、俺はアイズの背中から離れることはなかった。
✳︎✳︎✳︎✳︎
「ふぅ…、気持ち良い」
ダンジョンに存在する安全地帯の18層で、
そこは水浴びに打って付けの場所だが、そのためだけにわざわざダンジョンを下ってくる冒険者はほとんど居ないだろう。
だが、私は違う。
普段から露出の多い私たちの種族だが、その分、身体のケアには念を入れているのだ。
「…ちょっと冷たいけど、団長に不潔な女だと思われるよりはマシよね」
小柄ながらも精悍な面持ちでモンスターを狩る姿を思い浮かべながら、私は熱くなった顔に水をかける。
やっぱり女は強い男に惹かれるモノなのだ。
それにも関わらず、最近のティオナったら、あの貧弱なヒューマンに興味を示している。
「変なの。あんなヤツのどこが良いんだろ」
弱いし、変態だし、引きこもりだし。
特例でレベル3に飛び級したのも絶対に裏がある。
ズルをしたに違いない。
アイズも、レフィーヤも、ティオナも、あいつに騙されてるだけだ。
「…むかつく。団長も、なんだか最近構ってくれないし…」
下を向けば、水面に写る寂しげな顔。
モンスターでも狩って気を紛らわせようか、と思った矢先に、ほとりを囲む木々からガサっ、と物音が鳴る。
ちょうど良い。
ストレス発散に……
「…出て来い…、すり潰してやる」
ガサガサ。
と、音は鳴り止むことなくこちらへと近づいた。
私は近場に置いておいた湾短刀を持つ。
「…」
息を吐き、敵の接近にのみ神経を向ける。
一歩、また一歩…、あと五歩もこちらへ近づけば私の攻撃範囲内だ。
一、二……。
「死ね…」
すっと、湾短刀を横に振るう。
それと同時に、周囲の木々がうねりを上げて真っ二つに折れた。
ガサっ!
「…っ!?」
私の斬撃は足音の主諸共、真っ二つにしてやったはずなのに。
なぜだかソイツの身体は正常に、いくばくかの驚きだけを残して私の前に現れた。
「危なっ!急に木が倒れやがった!」
「へ?…か、カズマ」
佐藤カズマ。
私の団長に生意気な態度を取るクソヒューマン。
軟弱で下品な男のレッテルをこれでもかと貼り付けるこの男が、突然に私の前へ現れたのだ。
「あれ、ティオナ?おまえ、いつのまにおっぱい大きくなったんだよ。そうならそうと早く言えよなぁ?」
「私はティオネよ!ちょ、あ、あんた!なんで服を脱ごうとしているの!?」
「なんだ、ティオネかよ。紛らわしい姉妹だな。それよりアイズ見なかったか?」
私で悪かったな。
そう腐しながら、私は胸元を左手で隠し、右手で持った湾短刀の剣先をカズマに向ける。
「見てない。あと、それ以上近づいたら殺すから」
「まぁ落ち着けよ。淑女なら、剣よりも先に恥じらいを見せるべきだろ?」
「ち、近づくなって言ってんでしょ!ちょ、あんた!なんで少しづつこっちに来てんのよ!こ、殺す!!」
「断言するわ。おまえの身体、童貞には堪らん」
「ち、ち、近づくなって言ってんだろうがクソ短チン野郎がぁぁぁ!!」
……
…
.
「で?本当にアイズのこと見てない?」
「…しつこいわね。見てないって言ってんでしょ」
水浴びを止め、服に着替えた私は、髪をタオルで乾かしながらリヴィアを練り歩く。
カズマの視線は恥辱を感じにくいアマゾネスの私でさえも見られたくないと思ってしまうほどに下世話で下品でいやらしい。
ふと、私は侮蔑を込めた視線をカズマにむけて
「アイズも、アンタみたいな男と一緒に居るのが耐えられなかったんじゃない?」
「そんなことよりも、アマゾネスって皆んなお前らみたいにエロイ格好してるのか?」
「そんなことって…」
「イシュタル・ファミリアってのが歓楽街を牛耳ってると聞いてな…。おまえの知り合いとかそこで働いてないの?知り合い割引で安く行きたいんだけど」
「あんたには遠慮や羞恥ってのがないわけ?」
「懐に余裕ができたら行ってみるわ」
「さっきから話が噛み合ってないのよ!あんた!恥を晒すか、私の前から消えるか、私にすり潰されるか選びなさい!!」
と、冒険者なら誰もが慄く私の怒りすらどこ吹く風で、コイツは街中をキョロキョロと見渡しながら歩く。
うちのファミリアじゃなかったら速攻でアソコを斬り落としてやってるところだ。
「む?人集り?」
「…ほら、あそこに居るのアイズでしょ?それじゃ、私は帰るから…」
「おうこら愚民ども!バーサク女戦士のお通りだぞ!!殺されたくなけりゃ道を開けろ!!」
「…ちょ」
ぐいぐいと、カズマによって背中を押され前に出されると、アイズを中心に輪となっていた人集りは、私に道を譲るよう左右に割れた。
「…カズマ。ティオネ?」
人集りの中心で、サイコロ片手に首を傾げるアイズ。
アイズとその対面に座る中年のヒューマンは、木で作られた簡易的な机を挟み座っている。
すると、中年のヒューマンは私に恐れる事なく
「お嬢ちゃん。勝負事に顔を突っ込むような無粋な真似はしちゃだめだよ。ほら、アイズちゃんが親だ、サイコロを振りな」
「…わかってる。…カズマ、見てて。この一振りで、全部、ひっくり返す。…っ、チンチロリーン…」
カランコロンカランと、アイズは机に置かれた木製のボールに3つのサイコロを投げた。
ざわざわ…
1…、1…。
2つのサイコロが1の面を空へ向けた。
「…くる。ぬるりと…」
最後のサイコロ。
その出目は1。
圧倒的なまでに…1…っ!!
「っ!通るか…っ!こんな無法がっ!!」
「…通る」
「ぐっ、ぬっ、うっ…」
「ふふ、狂気の、沙汰ほど…、面白い…」
……え、何これ。
サイコロを振っただけなのに、なんでこんなに盛り上がってるの?
アイズもなんかキャラ違うし…。
と、私が訳もわからずその光景を眺めて居ると、何やら満足気な顔をしていたカズマに街を収める強面の男、ボールスが話しかけていることに気がつく。
「カズマの考案したチンチロリン。とんでもなく大盛況だ。ありがとな」
「賭け事に狂った冒険者は騙しやすい。ボールス、細工はバレない程度にしろよ?」
「おう」
「ふふ」
ぐっ、と。親指を立てる2人。
なんなの?こいつら。
「おいティオネ。アイズはあの調子じゃもうチンチロから離れないだろう。代わりにおまえが付き合ってくれ」
「はぁ!?」
「37層行くから。ほら、準備しろって。早く!早く!!」
「ふ、ふざけんじゃないわよ!それにあんた、37層って…」
ぐいぐいと、またもや背中を強く押されながら、私達はチンチロリンとやらに集まる群衆の輪から出る。
「深層に行くなんてだめに決まってるでしょ。私はともかくあんたじゃ直ぐに死ぬわよ」
「バカかよおまえ!そのためにおまえら戦闘狂を連れてくんだろ!察しろよな!?」
「っ、ご、ごめん…?」
「目的は深層で取れる超上質なアダマンタイトだ。行くぞ」
「……なんだって私が」