提督の憂鬱   作:sognathus
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最初に呼ばれたのは朝雲と野分。
性格的に少し対照的に見えるこの二人。
さて、提督と何を話し、どういう風に親睦を深めるのでしょうか。


第51話 「交流⑤」

コンコン

 

「朝雲です!」

 

「野分です。参りました」

 

『入れ』

 

ガチャ

 

「失礼します」

 

「お邪魔しまーす」

 

「ん、来たな。ま、楽にしろ」コト

 

提督はそう言って二人の前に紅茶と菓子を出した。

 

「わ、お菓子。もしかして大佐が?」

 

「まぁな」

 

「……いいのですか?」

 

「何を遠慮しているんだ。先ずはこれは親睦を深めるのが目的なんだぞ? 遠慮するな」

 

「そうですか、なら……」

 

「ありがとう! いっただきまーす♪」

 

パクッ

 

「美味しい―♪」

 

「……おいし」

 

「そうか、良かった。茶も飲め。金剛の影響で紅茶だが、その菓子には合っていると思う」

 

「そうなの? どれどれー?」

 

「頂きます……」

 

ズズ……

 

「んっ、いいわね。確かに合ってるわ」

 

「……は……ふ……」

 

「野分? どうした? お前には合わなかったか?」

 

「あ、いえそんなことは。ただこのお菓子といいお茶といい、美味しい上に待遇が良すぎて心地が……。すいませんちょっと上の空になっていました」

 

「はは、そう畏まらなくていい。この場では楽にしてくれて構わない」

 

(朝潮や不知火と同じ真面目なタイプだな。まだ着任したばかりだから若干固くなっている感じか)

 

「そうだよ野分! 大佐凄くいい人じゃない! ここは厚意に甘えるのも礼ってやつよ」

 

(こいつは秋雲と陽炎を足した感じか。賑やかで場の雰囲気を引っ張る元気な奴だ)

 

「そうだな。ま、朝雲ほど遠慮がないのも時には考え物だだが、ここはこいつの言う通り寛いでくれ」

 

「ちょっと、大佐それってないんじゃない!?」

 

「やかましい。俺はもうお前には遠慮しないと決めたんだ」

 

「ええっ、何それー」

 

「食べながら喋るんじゃない。ほら、口にカスが」

 

「……っ!」バッ

 

「これを使え」スッ

 

提督はそう言ってポケットからハンカチを取り出すと朝雲に差し出した。

 

「まだ一度も使っていないから綺麗だ。ほら」

 

「……」チラ

 

朝雲はそのハンカチを前にして手で口を押えながら恥ずかしさで赤くなった顔で、提督に本当にそれを借りていいのかと目で訊いてきた。

 

「遠慮するなと言ったろ? いいから、ほら」

 

「……ん……」ゴシゴシ

 

「大佐、優しいんですね」

 

そんな様子を横で見ていたお蔭か、野分もすっかりリラックスした様子で柔らかく笑い掛ける。

 

「甘い、の間違いじゃないか?」

 

「いえ、これは大佐の優しさです。私はそう思います。だから居心地が良い……」

 

「そうか。まあ少しは気に入ってもらえたようなら何よりだ」

 

「はい。私は今とても楽しんでいます」ニコ

 

「んっ、ありがと! 大佐、それは私もよ! こんなに良くしてもらえるなんて思ってもみなかったわ」

 

「あまり逆上せ上るなよ? いざ演習や出撃の時になって腑抜けになってもらっては困るからな」

 

「それは大丈夫よ。これでも艦娘だもの。良い提督、良い上司には相応の活躍で応えてみせるわ!」

 

「同じく、私も大佐の事が気に入り……失礼しました。その……こ、好ましい方だと思いました。だから、私も朝雲と同じくあなたの期待には全力で応えようと思います」

 

二人の頼もしくも初々しい反応に、提督も久しぶりに新しい風の様を受けた時の様な心地良さを感じ、笑顔で応える。

 

「そうか。その言葉しっかりと胸に刻ませてもらおう。朝雲、野分、これで何度目かになるが、よろしくな」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

「こちらこそ!」

 

「ふむ、それでは後は二人で寛ぐといい。俺は次の奴らが来るまで執務でもしていよう」

 

「えー、大佐もいてよ」

 

「朝雲、大佐のお邪魔をしてはダメよ」

 

「う……で、でも一応これ親睦会みたいなものでしょ? だからできたら大佐にも、さ」

 

「大佐、気にしないで下さい。二人でも会話は楽しめます」

 

「……いや、偶には俺もゆっくりさせてもらおう」ドカッ

 

提督はそう言って再び朝雲達の前のソファーに座り直すと、残っていた茶菓子を摘まむと口に含んだ。

 

「ん……うん、美味いな」モグモグ

 

「大佐、いいんですか?」

 

「ああ。執務と言っても今日は作戦の指揮が殆ど仕事みたいなものだったからな。実は事務の方はそう多くない」

 

「じゃ、最後まで話し相手になってくれるのね?」

 

「お前達の時間が終わるまではな」

 

「やったぁ♪」

 

「恐縮です」ペコ

 

「いいんだ。それで、話すと言ってもな。俺に何か質問でもあるのか?」

 

「あ、それいいわね!」

 

「質問……大佐にですか……」

 

「こんな繋げ方で悪いな。どっちかというと受け答えの方が性にあっているんだ」

 

「じゃあさじゃあさ、わたしが訊いてもいい?」

 

朝雲が一人しかいない回答者に向かって元気よく手を挙げながら訊いてきた。

 

「ああ、いいぞ」

 

「大佐って彼女いるの?」

 

「っ……けほ、あ、朝雲!?」

 

「彼女?」

 

「そう、付き合っている人とか」

 

「……一応仲間の中には何人かケッコンしている奴がいるな」

 

「そうなの? それって誰?」

 

「戦艦では武蔵、長門、陸奥、金剛、霧島、マリア。正規空母では赤城、と加賀の合わせて八人だ」

 

「マリア?」

 

「ビスマルクの事だ。ここではあいつはそれで通っている」

 

「へぇ……」

 

「戦艦と空母しかいないのね……。ね、駆逐艦とはケッコンする気はないの?」

 

「ないとは……言わないが、何分こちらの育成方針の関係上、どうしても戦艦と空母以外は練度が上がり難くてな。まぁそれでもケッコンできる練度に達して、かつそいつに俺と一緒になる意思があればするのも吝かではない」

 

「そっか、じゃあ私達でも脈有りなのね!」

 

「ごふっ……、わ、私達!? ねぇ、それって私も入ってるの?」カァ

 

野分は再び朝雲の不意を突く発言に、飲みかけの紅茶にむせながら顔を真っ赤にする。

 

「何照れてるのよー? 野分だって結構大佐の事気に入ってたみたいじゃん?」ニマニマ

 

「そ、それは……」

 

「……いつも思うがお前達の好意というのは本当に突拍子もない嵐のようなものだな。そんなに簡単に判断していいのか?」

 

「いいの! 私は大佐が気に入った、だから好き! だからケッコンしたい!」

 

「あ、あまりにも単純で性急過ぎない!?」

 

「……同感だ」

 

朝雲の息つく間もない思考の展開に目を白黒させる野分に、提督は呆れた顔で頷いた。




「フューリー」来週だった……ま、代わりに「インターステラ―」を観てきましたが、これも面白かったので良しとします。

野分、見た目のちょっとワイルドな感じに対して意外にも真面目な性格が好印象でした。
朝雲はちょっとさわやかな秋雲?(ナンダソレ
ま、これはこれで良かったと思います。

あ、まだ帰国の時の話の意見は受け付けていますので、興味がある方はどうぞ。
*第五部第46話「災難」のあとがき参照。


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