琵琶湖ヨット転覆事故
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捜索に全国から仲間
 湖上に浮べる目印のブイを持ち、捜索に向かうボランティア(9月18日、滋賀県志賀町北浜・志賀ヨットクラブ)

 ヨット転覆事故の発生から2日後の9月17日朝。バス釣り用のボート8隻が琵琶湖上で一列に並んだ。昼すぎ。魚群探知機が影をとらえた。数人が鉛のルアーを湖底に垂らす。「コン」という、それまでとは違う手応えがあった。水深46メートルの湖底に「固いものがある」。滋賀県志賀町北浜沖約1・2キロ。沈没ヨット発見の瞬間だった。

 バスボートを出した県フィッシングボート協同組合の村上教真副理事長は「1隻あたり1日約2万円の燃料費がかかる。でも同じ琵琶湖の仲間として協力したかった。自分たちのレスキューのあり方を考えるうえでも教訓になる」と話す。

資金カンパも

 今回のヨット事故では警察や消防の捜索に、多くのヨットやボート仲間が進んで加わった。18日には、民間ヨットが中主町沖で長岡京市、米澤匠ちゃん(2つ)の遺体を発見するなど、ボランティアは捜索活動に大きく貢献した。

 協力の輪はインターネットを通じても広がった。日本セーリング連盟がホームページで協力を呼びかける。専用の掲示板には翌日の捜索予定や活動の分担が書き込まれた。呼応した仲間が全国から集まり、20日の土曜日は50隻を超えるヨットやボートが湖上を行き交った。

 資金カンパにも2日までに全国から約300万円が寄せられた。一部は行方不明者発見のための底引き網の費用として、家族に寄付された。

 「ヨットやボートの団体、地元の漁連がこれほど一致団結したのは初めて。ホームページを見て、ヨットに関係ない人も湖岸を捜してくれた。延べ1000人以上が参加している」。ボランティア連絡役の交野市の公務員西井大介さん(43)は胸を熱くする。

 遺体を湖底46メートルから収容する活動も、民間のダイバーが担当した。県警のダイバーにそこまでの技術はない。関係者からは「警察や消防はなぜもっと機材をそろえ、ダイバーの技術を向上させないのか」という声も聞かれた。

 もちろん、県警や消防も夜を徹して懸命の捜索を続けた。さまざまなハイテク機器も投入。なかでも威力を発揮したのが、水質調査に使われる県の水中ロボットカメラだった。18日にはヨットと遺体を確認し、その後も相次いで遺体を発見した。

 ただ、最新の水中カメラも、広い琵琶湖を、いわば「点」でしか探せない。だからこそ、ボランティアのパワーがいきる。京都市左京区の会社員谷口恵子さん(26)は依然、行方がわからない。県警地域課は「捜索は広範囲にわたっており、民間の協力はとてもありがたい」と喜ぶ。

公的装備に限界

 日本水難救済会理事の谷川久成蹊大名誉教授(海商法)は「公的機関がどんな事故にも対応できる機材や装備をそろえるのは予算的に難しい。海では互いに助け合うのが万国共通。湖と海との違いはあっても、今回の事故はその精神が発揮された」と評価する。

 4日。ボランティアたちはマネキンを湖底に沈め、魚群探知機への反応をテストした。きょう5日、ヨットやボート数10隻を出し、あらためて琵琶湖を捜索する。

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