|
琵琶湖ヨット転覆事故 |
<3> |
移動困難、重心も高く | ||
「琵琶湖でヨットが沈没するはずがない。外洋で大型台風にあっても沈まないのに…」 沈没した「ファルコン」の出港した滋賀県志賀町北浜の志賀ヨットクラブ。オーナーの阪村安次さん(66)は焦燥した表情で「信じられない」を繰り返した。 ヨットは船底の重しが船全体の重さの約3分の1を占める。転覆してもすぐに復元する仕組みになっている。 県警や関係者の話を総合すると、操舵者の京都市上京区、自営業河嶋義忠さん(47)=死亡=がヨットを急激に方向転換させた際、突風に加えて、左側に寄っていた乗員の重みで船体が傾いた。乗員の多くがマストや帆にしがみついたことで一気に横転した。そして復元しないまま船内に水が入り込み沈没した、とみられる。 ファルコンの定員は10人。転覆当時は12人が乗っていたが、うち5人は子どもだった。12歳未満は2人で1人と数えられることから、乗船者数は「9・5人」となり、法律上は定員超過ではなかった。しかし「長さ21フィート(約7メートル)のファルコンでは6人でも超満員。船上を動ける状態にない。12人で乗るなどとは考えられない」とヨット経験者は口をそろえる。 「定員10人」を許可した日本小型船舶検査機構大津支部は「定員は所有者の希望に基づき、デッキ(甲板)の面積や復元力で算出する。人の船上での移動のしやすさまでは検査内容に含まない」と話す。 操船は全員で ヨットは風上側に乗員が移動して船のバランスを保つ。風向きや風力の変化に応じ、乗員が乗る位置を変える必要がある。「綱渡りと同じぐらい」(ヨット愛好家)微妙な重心移動が必要とされる。「ヨットにゲスト(客)はいない」といわれるゆえんだ。 加えて、琵琶湖では比良山系から強風が吹き下ろす。「比良おろし」だ。事故当時、湖上には強風注意報が発令されていた。 単独世界一周にも成功した世界的なヨットマン堀江謙一さん(65)の艇を手がけた設計士林賢之輔さん(63)=横須賀市=は「乗員が多いと重心が高くなり、ヨットは傾きやすくなる。山から吹き下ろす風は帆を水面へ押すので、海よりも条件が悪い」と指摘する。 船長除き素人 ファルコンに乗った12人は河嶋さんを除いて、ヨットの素人だった。2歳の子どもを抱いた父親もいた。県警捜査員は「ヨットは突風に対応できる状態ではなかった。琵琶湖を甘く見ていたとしか思えない」と言い切る。 河嶋さんの血液からは、道交法の酒気帯び運転の基準を超えるアルコール分が検出された。湖面の気象状況、乗員の多さ、幼児を含む11人への救命胴衣着用の指示…。船長として正常、正確な判断が下せたのか。河嶋さんに対し、業務上過失致死容疑で県警の捜査が進む。 | ||
1 2 3 4 5 | ||