琵琶湖ヨット転覆事故
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救命胴衣着用で明暗
 捜索活動を見守るため、救命胴衣を着けて出港する行方不明者の家族ら(滋賀県志賀町北浜)

 滋賀県志賀町沖約1・2キロ。12人は横転したヨット「ファルコン」から、夕暮れの琵琶湖に投げ出された。救命胴衣装着の有無が12人の明暗を分けた。

 一命をとりとめた草津市の自営業山田善嗣さん(42)、東大阪市の会社員日●正治さん(42)と長男和輝君(9つ)の少なくとも3人は、救命胴衣を着用していたことが確認されている。日●さんの妻みゆきさん(39)、二男夏輝君(7つ)=いずれも救出=と京都市左京区の会社員谷口恵子さん(26)=行方不明=は転覆直後、3人で一つの救命胴衣にしがみついていた。遺体で見つかった残る6人は救命胴衣を着けていなかった。

浮力奪う淡水

 「琵琶湖は一見波風が穏やかだが(志賀町沖を含む)北湖は突風が吹き危ない。淡水は海水よりも浮力がなく、泳ぎが得意な人でも服が水を吸えばすぐに沈んでしまう」。捜索に加わった大津署員は指摘する。

 2000年7月、兵庫県明石沖で男児(8つ)がボートから転落し、助けようと海に飛び込んだ夫婦が亡くなる事故があった。3人とも救命胴衣を着けていなかった。

 その事故を受け、国土交通省は翌年9月、救命胴衣の着用義務を検討するための小委員会を設置。海上保安庁と警察庁、日本セーリング連盟などが3回に渡って議論した。

 「デッキ(甲板)では着用義務を」と主張した海上保安庁などに対し、ヨットやボートの愛好家は「一律に義務化すると、レジャーが規制でがんじがらめになる」と反論した。委員会は結局「判断能力が不十分な子どもは着用義務が必要。大人は船長の判断で着用に努める」という報告書を国交省に提出した。

 報告書は今年6月施行の「船舶職員および小型船舶操縦者法」に反映された。救命胴衣の着用義務は12歳未満の子どもと、水上バイク、1人乗りの漁船に限定。違反すると、操縦者に違反点数が2点(死亡時は5点)加算される。8点で免許停止の対象になる。

義務化に反発も

 国交省海技資格課は「これまで水上は自己責任の世界で規制がなかった。救命胴衣の義務化にはヨットやボート愛好家の反発が大きかった」と振り返る。

 一方、日本セーリング連盟の富田稔常務理事(61)は「水面の状況で安全対策は異なり、着用を義務化しても安全ではない。ヨットをレジャーで楽しむ人が増えた半面、判断力の甘さを感じる。安全意識を含め免許取得者のレベルアップで対応したい」と話す。

 県内のマリーナ経営者(55)は「レースで救命胴衣を着ても、レジャーでは暑いとか格好悪いという理由で着ない人が多い。法律があるから着用するのではなく、安全のため何が必要か、ヨット所有者でルールを作るべきだ」と強調した。

 県警は今回の事故を受け、乗員全員の救命胴衣着用義務化に向けて条例改正の検討に入った。

 秋口の琵琶湖。救命胴衣を着けないボートやヨットが走る。水上のレジャーは、危険への無自覚が最悪の事態につながる。

 (注)●は上が「立」、下が「サ」

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